Fate/staynight [Midnight Walker]【本編完結】 作:秋塚翔
筆が乗ると投稿早くなる現金な俺氏。何だかんだでfateと深夜廻の相性が良いせいもあります。
自宅の屋敷に戻ってきた凛は、その勝ち気な気性に少し鳴りを潜めさせる。今夜は色んな事が起きすぎた。
何よりこの聖杯戦争で切り札となる父の形見、魔力の塊だったペンダントを失ったのは大きい。幾ら"あの子"が悲しむからと言え、良く見知った少年の命を助けるため使い果たしたのだ。私情で勝率を下げてしまった。
ランサーを見失い帰還したアーチャーが拾ってきた、ただの宝石と化したペンダントを手にして気持ちを切り換える凛。そんな殊勝なマスターにアーチャーは話題を持ち掛ける。
「ところで凛、先ほど遭遇したサーヴァントについてだが……」
「ええ、それは私も考えていたわ。ウォーカーと言ったかしら。あの英霊は一体何なの?」
聖杯戦争は、七人のマスターと七騎のサーヴァントで行われる殺し合いだ。サーヴァントにはそれぞれ七つのクラスに振り分けられ、凛の召喚したアーチャーや先で交戦したランサー、他にもセイバー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカーのクラスが存在する。
そこに現れたウォーカーと言う聞き慣れぬクラスのサーヴァント。名乗られた際、凛はその正体不明さから臨戦態勢を取ったが、
『私にマスターはいないよ。それに貴女と戦うつもりも無いから……』
本当にサーヴァントなのかと一瞬疑う、年相応な態度で制された。
その後、倒れた少年が顔見知りだった事から魔術で治療をし、危機を脱した事にこれまた年相応なあどけなさで安心したウォーカーのサーヴァントと名乗る女の子は、「それじゃあ私は行くね。ばいばい」と戦意の削がれる手振りで立ち去ってしまった。凛も少年の事は本人に任せ、帰路に就き今に至る。
「マスターが居ないなんて……そんな事が有り得るの?」
「虚偽でもなければ、確かにマスターを必要としないクラスもある。裁定者を冠するルーラーのサーヴァントは聖杯戦争の在り方を正すため聖杯が召喚するクラスゆえ、マスターは存在しないらしい」
「あのサーヴァントもそうだってこと?」
「さてな。しかし、ルーラーを含めた規格外──エクストラクラスと言うのは底が分からん。我々の常識を文字通り逸脱していても不思議でないだろう」
「ふーん……」
凛はソファで足を組み、思考を巡らせる。
常識を越えた存在、エクストラクラス。なるほど、それならあの女の子の在り方にも納得が行く。どうもあの子には敵意を抱けない……まぁ、見た目と魔術師ならではの冷たさを持てない性分である自分だからと言う話かもしれないが。
とにかく、正体の分からないあの子とは敵対しないで済むだろう。少年が死の危機から脱したのに安堵していたし……
「……あっ!? そうだわ!」
そこで気付いた凛。そう、少年が死にかけたのは戦いを見てしまったから。よってランサーに始末されたのだ。
ならば、そんな彼が生きているとすれば?死体が無い事に勘づいたランサーが取る行動は一つ。少年を再度狙いに行く事である──
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──ママ……ママ……
──アツイ、アツイ、アツイ
──オォォォ……
今から十年程前、冬木で大規模な火災があった。
多くの犠牲者を出した大災害。理不尽の内に命を奪われた人達の無念は、十年経った今も晴らされずこの地に留まっている。
何故こんな目に、■■に会いたい、この苦しみはどうすれば和らぐ……そうした生に執着した残留思念は時間と共に変じ、怪異としてさ迷う。
「──よい、しょ……」
それら無念の理由すら忘れた"お化け"が通り過ぎたのを見計らい、ウォーカーは立て看板の裏から姿を現す。
"あの街"ほどではないが、ここにも数多くのお化けが彷徨いている。中には自分の死を追体験した形なのか、タコの足を伸ばして襲ってくる子供のお化けもいた。
普通なら足がすくむような異界と化した夜の街。それでもウォーカーは、その暗く染まった冬木を巡り歩く。
「えっと、こう来たから次は……こっちかな?」
手製の地図と照らし合わせ、見知らぬ道を行くウォーカーは数日前、気が付けば冬木の夜道を歩いていた。
聖杯から与えられる知識で、そこは自分が生まれる約4、5年前の知らない街であり、自分はサーヴァントと言う事を知った。ただ何故マスターが居ないのかは分からない。
サーヴァント、聖杯、そしてそれらを使った聖杯戦争……サーヴァントでも子供でしかないウォーカーには良く分からないものである。一つ、その求められるもの──願いを叶える願望器、聖杯には大いに心を引かれた。
(……ユイ……)
繋いだ手を離してしまった、かけがえの無い親友。彼女をもう一度助けられるなら。英雄でも偉人でもないただの子供でしかない自分だが、その聖杯を手に入れたい。ユイの手を、今度こそ繋いで家に帰りたい。
そのためにウォーカーは今日も夜の街を出歩く。徘徊者故に。懐中電灯を照らし、夜闇に潜む"お化け"から逃げ隠れ、他のサーヴァントを見付け、自分に欠けた聖杯を共に手にする存在──マスターを求めて夜を廻る。
それが子供でしかない彼女、ウォーカーの聖杯戦争での戦い方だ。
──キィンッ
その時だ。通りがかった屋敷の塀の向こうから、鋭い金属音が響いてきたのは。
ガィンッ!ギンッ!──とても生活音とは思えない、明らかな戦闘音。それを聞き入れたウォーカーだが、様子を確認する事はできない。なにせ、他人の家だから……
彼女はサーヴァントであっても、その敏捷や筋力と言ったステータスは見た目通りの人間の子供程度にしかない。故に自分の何倍もあろう高さの塀を飛び越える真似はできず、加えて現代の人間なので他人の家──廃屋は例外──に忍び込むのは常識的に憚られた。
更に言えば、もし無理に関わって交戦するサーヴァントらから狙われたりしたら命取り。
と、幼い思考でそう判断したウォーカーはどうするか動きに迷う。そんな一方、屋敷から人影が飛び出し、両手に握る不可視の得物で正面より躍り出てきたもう一つの人影と衝突した。
「はあァッ!」
「フッ……!」
武器と武器がぶつかり合い、激しく火花を散らす。
目にも止まらぬ剣捌き。埒が明かないと悟ったか両者一旦距離を取る。すると、屋敷から来た騎士の雰囲気を持つ方がウォーカーに運悪く接近、存在に気付かれた。
「っ、もう一騎いたか!」
「……!」
新たに現れた敵を一撃の元に倒さんばかりの気迫で、騎士は向き直る。それにウォーカーは恐怖で尻餅を突く。
その年端も行かない容姿が、加減無く切り伏せようと構えられた騎士の剣を止めた。
「やめろセイバー!」
そこへ、屋敷の門から少年が現れて長剣使いに向け制止の言葉を投げ掛ける。驚いたように騎士──セイバーは振り向き、従うべき少年の言葉に物言う。
「何故止めるのです、シロウ。敵が二騎現れました。ここで仕留めておかなければ」
「待ってくれ。こっちはてんで分からないんだ。マスターなんて呼ぶんなら少しは説明してくれ!」
戦いの場において、何とも間の抜けた申し出。それでもマスターである少年の言葉にセイバーは優先事項を考える。戦う者として敵を排除するか、従う者として主の指示に従うか……
セイバーは、少し考えてから不可視の武器を霧散させ武装解除した。
「説得は済んだようね。こちらとしても有り難いわ」
「! ……お、お前、遠坂か!?」
「ええ、こんばんわ衛宮君」
短剣を持った方、アーチャーのマスターである凛の姿に少年──衛宮士郎は驚きの声を上げる。普段はミスパーフェクトと呼ばれる優等生である"だけ"の凛は、ニッコリと笑顔を浮かべて士郎に挨拶した。士郎は知られざる魔術師としての凛に驚くしかない。
そんな士郎の様子はさておき、凛は提案を述べる。
「とりあえず中で話をしましょう。突然の事態に驚くのも良いけど、素直に認めないと今みたいに命取りって時もあるからね──貴女もどうかしら、ウォーカーのサーヴァントさん?」
「え……?」
女神のような笑顔を向けられ、未だ尻餅を突くウォーカーはポカンと口を開くしかできなかった。
さっきは出会しただけだった剣と弓陣営が、巻き込んだ形でウォーカーと本格邂逅しました。
第5次聖杯戦争のある2004年はウォーカーにとって自分が生まれる前、つまりウォーカーは誰かさんと同じく未来から来た英霊になります。まだこの頃スマホ無いだろうしね。メリーさんがガラケーだった時代(笑)
エクストラクラスへの認識はあんなんで良かったかなと不安。ぶっちゃけクロスやっといて何ですが、どちらもにわかですからね。教えて知ってる人!
次回は上手く書ければバーサーカー戦になりそう。東方fgoの更新を優先したいですがね。コメントや評価をいただけると執筆速度が上がるかもなので、宜しくお願いしまぁーす!(見た事無いサマーウォーズ感)