Fate/staynight [Midnight Walker]【本編完結】 作:秋塚翔
イラスト練習にハマり、目指せ等身大ハルちゃん!と努力なう。執筆以上の難しさに、イラストレーターさんを尊敬し直しました。
言い訳はこれまでに、それではどうぞ!
山の神が
円蔵山──キャスター陣営が拠点としていた柳洞寺のある山の上。"山の神"と言う性質上、他二つの霊地よりも馴染み易いため、この場所に根付く事を決めたのだ。
寺にいる人間はあえて摘まみ食いせず、軽く心を操って麓に捨て置くと、湖──本当は洞窟が良かったのだが、『あれ』をも取り込むには少し手間なので後回し──に陣取り、まだまだ幼体に過ぎない結縁の獣は本格的な"羽化"を始める。
聖杯が目覚め、頭上に開いた孔から泥……受肉した呪いが止めどなく溢れ出ると、それを浴びた山の神は肉体を得、尚も有り余る力はその身を膨張させていった。よりおぞましい、人体を寄せ集めたような蜘蛛じみた姿。
更に、その頭部からズルリと、二本の大きな指が生えてくる。まさに獣の証したる一対の角──けれど、弄ぶように蠢くそれは、獣である事を主張しながら偽っているような、バカにした印象を与えていた。
それでも。容姿も、権能も、まさしく獣に足りうる山の神は、この時を以て羽化を果たす。人類がすべからく求める繋がりを手繰り、縁を繋ぎ、引き合わせる人類悪に。そこに決して、
──オイデ、オイデ、オイデ
羽化を遂げた無銘の獣は、誰かを呼び寄せるかのように語り掛ける。苦しむ者を、救われたい者を……そして何より、二度も逃した少女を。
その顔は、まるで人間の悪性を表すかの如く醜悪に歪んでいた──
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夜も一層深まった衛宮邸には、ランサーのマスターを除く現存のマスターとサーヴァントが、教会から場所を移して一堂に会していた。
過去四度の聖杯戦争において、二つ三つの陣営が一時的な同盟を組む事はあったろうが、全ての陣営がこうして話し合いの場に集まった前例は無いだろう。ましてや遠坂、間桐、アインツベルンの三家が揃うなど幾年月ぶりか。
「それじゃあ状況を整理するわ──人類悪が現れた。そいつはイリヤスフィールから聖杯を奪い取って、今まさにとんでもない化け物になろうとしている。人類全てを自殺させかねない、とんでもない化け物にね」
凜が司会を務め、利害の一致で手を組んだ一同は人類悪対策の席を囲む。本来、マスター権を失っている慎二やイリヤも同席している。
「キャスター、柳洞寺の様子はどう?」
「もう覚醒自体は済ませて、今は湖に居座っているわ。特に大きな動きは見られないわね」
「恐らく柳洞寺を自らの社にするつもりだろう。土地神の類いは、信仰される土地があってこそ力を発揮する。そのため、無理矢理にでも根付こうとしているのだ……故に、そう容易く場所は移せず、身を隠される心配は無いと見て良い」
遠隔透視でかつての拠点を覗き見るキャスターの情報に、凜の背後に控えたアーチャーが補足した。因みに、凜とアーチャーは契約を結び直している。士郎とセイバーも同様だ。
「では、早速これからにでも討伐に……」
「それは悪手よ、セイバー。貴女が知らないのは無理も無いけど、私と衛宮君……それにハルは知ってる。あれがどんなにとんでもない奴か」
「……」
その言葉に、士郎は思い出す。山の神の声によって、自然と"死"に向かった自分を。
あの時、『導かれた』と言う認識は無く、あたかも自分の意思で死ぬ事を選んだような意識があった。もちろん今でこそ『違う』と分かるが、不完全であの力を人類悪と化して振るわれたら、いかにセイバーのようなサーヴァントとてどうなるか……想像もできない。
同じ事を思い浮かべたか、眉を潜める凜は視線をセイバーの隣、隻腕の少女に向けた。
「そこで、ハル。できる限りで良いから話してくれないかしら?あれがどんな存在で……貴女はあれにどう立ち向かったのかを」
「えっ?」
直後、集まる注目にハルは言葉を失って戸惑う。けれど、当然の流れだ。あの山の神と対峙した事があるのは、英雄多しと言えど彼女だけ。情報は、どんなものでも多いほど良い。
やがて、自分を落ち着かせたハルはコクリと頷き、話し始める。ただの少女が英雄の一騎に数えられた、報われなき後悔の夜を──
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話し合いを終えた一同は、討伐作戦を決行する夜明け前まで各々待機している事となった。凜が何かを決心した様子で士郎を呼び出し、それまで時間を潰す流れとなっている。
「…………」
そんな中、ハルは部屋として宛がわれた離れで膝を抱えて蹲っていた──怖さで。
ハルは自分を英雄だとは思っていない。ただ大切なもののため突き進み、真実に行き着いた末で英雄とされただけだ。これから始まる戦いに怖がるのは当然で、ましてやそれがあの《
先も士郎達に話した、ユイを連れて帰るため、"声"に抗い辿り着いた洞窟で対峙したナニか。神か、お化けか、そんな事は関係無しにハルはそのものに怒りと恐怖を覚えた。死んだ人を弄び、言葉とは裏腹に悪辣を行う存在。そんな二度と会いたくない相手が、今まさにまたハルの前に立ち塞がろうとしていたのだ。今や、『恐怖』だけが彼女を襲う。
もう、この部屋から出たくない。足が動かず、顔すら上げられる勇気も無い。怖い。怖い。怖い──『山の残響』は本物が現れたせいか発動しないが、それでも……だからこそ、ハルの足をすくませるに足る恐怖が苛んでいた。
そうしてハルは意思は、もう立ち直れないほどに折れようとした
その時。
──カサッ
「……?」
誰もいないはずの部屋で、不意に聞こえた軽い音にハルは思わず顔を上げる。その目の先には、小さな紙切れが落ちていた。
たまに紙飛行機こそ飛んでくるが、見覚えのない事象。あれは『
感じたまま、恐る恐る開いたメモには、見慣れた字で知らない文章が書かれていた。
『だいじょうぶだよ
あなたがしんじたみちをすすんで
どんなよるも、そのさきにひかりはあるから
だから、きっとだいじょうぶ』
「……!」
それを見た瞬間、ハルの中に驚きと情動が沸いた。
まるで、自分の様子を見ていたかのような言葉。気休めのようで、信じられる言葉。ふと、さっきまでの恐怖が薄らぐ感覚があった。
ハルは、このメモを書いた人物に覚えがある。隣町で出会った、赤いリボンの少女……彼女がどうやってこのメモを書いたのか? 分からないが、その少女を思い出すとハルは右手にある物を実体化させる。
──あかいリボン
ユイが残した、思い出のリボン。勇気を貰えそうな、その真っ赤なリボンにハルはそっと微笑む。
「……ユイ、私に勇気をちょうだい」
呟いて、ハルは自らの結った髪を青いリボンごとほどく。そして再び結び直す──ユイと同じ、ポニーテールに。
続いて赤いリボンは、その手首に巻き付ける。すぐ目につく位置。まだ怖いは怖いが、不思議とすくんでいた足は動き、立ち上がって歩ける自信が沸いてきた。
「うん。行こう、チャコ。今度は一緒に」
「アンッ!」
そう言ったハルの笑顔に応え、チャコは力強く一鳴き。もう怯えるだけの少女は、ここにはいない。二人の少女に支えられ、因縁を断つために立ち上がったポニーテールの少女は、愛犬を連れて部屋を出る。
「ハル」
「士郎さん」
すると、丁度ハルを呼びに来たのか、士郎がやって来るところだった。少し前まで顔を会わせていた士郎は、何故か凜と似た魔力を宿している。
互いに頷いた士郎とハルは、揃って玄関を出た。そこには既にセイバー、凜とアーチャー、キャスターと葛木、ランサー、慎二、イリヤが待っており、みな準備は整っているようだ。凜と慎二、イリヤも『切り札』を手にしている。
時刻は朝の近い深夜。最後の決戦が始まる──
ハルちゃん霊基再臨!これがやりたかった。
メイン中→ゲームクリア後→今回と言う感じで、第三霊基に当たる設定です。最初はユイのリボンを付けさせようとしましたが、FGO的な理由で区別化しようと。ハルちゃんが片手だけだから、サーヴァントの便利さでしか髪を結えなかったのが残念点。
まさかのゲスト、幼女先輩文字だけ登場。ノベル版読むと、先輩も英霊化してておかしくないですからね。多分、☆5ウォーカー。魔眼持ちかもしれません。
羽化した山の神ビースト。角はこれでしょう。騙ってる感じでも、その外道っぷりは原作以上なので、ヘイトを溜めながら次回お楽しみに。
遂に始まる決戦!『切り札』とは何か?泣く泣く切って隠す形になってしまったのですが、ご期待あれ。
宜しければコメントや評価をくださると、信用度低い執筆速度がきよひーの脅迫のもと早まるかもしれません。僕、嘘吐かない!(大汗)