Fate/staynight [Midnight Walker]【本編完結】 作:秋塚翔
大変長らくお待たせしました。はい、FGOのイベントやらポケモン(しかも今更BW)やら新作小説のアイデアにばかり熱を上げていた怠惰な作者です。
気付けばもう年末。以前に更新したのが7月と言う体たらくから、怠けが過ぎたと自覚しております。お待ちくださった方、本当に申し訳ない。
何とか停滞から脱し、何とか形にした久々の更新。クリスマスには少し間に合いませんでしたが、クリスマスプレゼントになればと思います。
ボイテラの体験版に多大な期待を込めて……それではどうぞ!
糸を切っていた慎二とイリヤ。そこに分かれて行動していた凛とハルが合流する。
「イリヤ、慎二さん!」
「お互い無事で何よりね。こっちは片付いたわよ」
「僕らももうすぐさ。大した事は無かったね!」
「物音がする度に面白いくらい怖がってた癖に、良く言うわ」
「う、うるさいな! さっき助けてやったのにその言い種は無いだろ!?」
「知らなーい」
どうやら何かを経て距離が縮まったらしい慎二とイリヤ。そのやり取りが雰囲気を少し和ませる。
と、切り替えたイリヤが「丁度良かった」と切り出す。
「最後の一本なんだけど、あの崖の上にあるの。リンなら届かないかしら」
「あれね、問題無いわ。これで後はセイバーに任せれば全ておしまいね」
小高い絶壁を見て快諾した凛は、脚部に魔力を通す。凛の魔術ならあの程度の高さなど軽く飛び越せるだろう。
その時。闇夜の向こう側から声が投げ掛けられた。
「探しましたよ、お嬢様」
「イリヤ、見付けた」
「! ……セラ、リズ……?」
聞き覚えのある声、次いで現した姿にイリヤが呆気に取られる。
夜の暗さに映える白い装束を全身に纏った一組の女性。それをイリヤが見間違えるはずもなく、まごうことなく彼女の侍女であるセラとリーゼリットの姿がそこにはあった。
有り得ない邂逅、あるはずのない再会──イリヤは一瞬駆け寄りたくなったものの、すぐ思い止まる。何故……何故、
直後、セラとリーゼリットの背後からまた複数人が湧くように現れた。その者達もまた、アインツベルンの侍女である事を示す白い装束に身を包んでいる。
「もう良いのよ」
「貴女の役目はおしまい」
「優しい子、もう苦しまなくていいの」
「帰りましょう、お嬢様」
「行こう、イリヤ」
──ずっトいッショに──
口を揃えて言葉が歪んだ瞬間、一斉に彼女達は変貌した。
両目から黒い涙を流し、それが顔を覆い尽くすと目が歪に膨らむ。頭のフードが外れ、白く透き通る髪がドス黒く染まって放射状に揺らめく。手足が影になってほどけ、人の形を留めないものもいた。
過去、一族の守護のため戦死したアインツベルンのホムンクルス達──そのおぞましく変わり果てた姿に、一同は戦慄する。
「そんな……セラ、リズ、みんな……!?」
「っ……!」
特に反応を示したのはイリヤと、ハル。
イリヤは自分を、一族を守って死んだ従者達が、今度は異形となって殺意を向けてくる状況に理解が追い付かない。
ハルはかつて見た、大切な友達が壊される様の再現とも言える光景に、心臓を鷲掴みにされるような苦しみを覚える。
──オジョウサマ、イッしょニ、マイリまショう
視線の定まらない胡乱な目で呟く侍女達は、不意に歪んだ顔を更に歪ませると、狼狽するイリヤの足元に赤黒い光が灯った。禍々しい殺意の光。しかしイリヤは足がすくんで動けない。
そこへハルがその手を握り、引っ張り出す。瞬間、シュバッ! と命を奪う光がイリヤのいた場所で噴き上がる。
「イリヤ、ハル!」
「お、おい! お前らコイツの使用人だろ!? だったら主人の邪魔しないで、とっとと大人しく成仏して──うひぃっ!?」
いきり立つ慎二が怒鳴るも、それはすぐ悲鳴に変わってしまう。理由は、侍女達の前に湧いて出たまた新しい影、その見知った姿が目に映ったから。
ライダー・メデューサ、バーサーカー・ヘラクレス──その皮を被った怪異、怪異サーヴァント。
凛の使い魔からの映像では、山の神から産まれ出てきていたはず。それもセイバー達が押し止めているのに何故ここに……まさか、少ない数なら離れた場所に出せるくらい増長してきてると言うのか?
何にせよ、戦闘に不向きな別動隊の前に現れた、怪異と怪異サーヴァント。それらが最後の糸を守るように立ち塞がる。
「もう少しなのにッ……!」
憤りを隠せない凛。セイバー達が死力を尽くして戦っている以上、作戦を早く遂行しなければいけない焦りもある。しかしそれと同じく、それを阻む尖兵が自分達の近しかった人物を利用している事に憤った。今にも山の神の嘲笑う下卑た声が聞こえてきそうだ。
──ズゥンッ!
「……!」
怪異のバーサーカーが、イリヤとハルに迫る。
彼女らを見る、全身に開いた目は狂化とは異なる感情が窺えた。悪意、敵意、殺意。どれもイリヤにとってバーサーカーから向けられたくない感情。
侍女達も逃がさんばかりに取り囲む。自分の振る舞いに何度もお小言を言ってきたセラ、純粋に自分を守ってくれたリーゼリット、地下に廃棄されていた皆……誰も彼も、見る影は無い。信じていたものに殺されようとしている恐怖。
凛と慎二はライダーに狙われている。ハルも
「助けて、バーサーカー……」
それは口をついて出た言葉。
我ながら意味の無い懇願だと、イリヤは思った。今目の前で殺しに来るものに助けを求める行為。現実かは目を背けたいが故の、頼りだったサーヴァントにすがる祈り。
しかして奇跡は起こった。
ふと剣斧を振り上げたバーサーカーが、取り囲む侍女達を一息に薙ぎ払ったのだ。
「え……?」
目を疑うイリヤ、ハル。何度見ても、バーサーカーは怪異のままだ。有り得ない行動──だが、事実バーサーカーはイリヤ達を助けた。
その証拠に、ライダーが不穏な同胞に攻撃を仕掛ける。が、見事なほど返り討たれてしまう。
「バーサーカー……また、私を助けてくれるの……?」
「──■■■■■ッ……」
バーサーカーは怪異の姿のまま、けれどイリヤを狼から救った時のような目で彼女を見詰め返す。
大英雄。果たしてそれは真に何を意味するか……それは例えどんなに歪もうと、変えられる事の無い英雄の中の英雄の意。
今、十二の偉業を越えてイリヤのサーヴァント、ヘラクレスが立ち上がる。
「そっか。そうなんだね。やっぱり貴方は、私の最強のサーヴァント……なら、令呪じゃないけど、最後のお願いを聞いて──
やっちゃえ、バーサーカー!」
「■■■■■■■■■■───ッ!」
マスターだった少女の声を聞き届け、バーサーカーは地面を蹴る。
向かうは山の神にとって自分と土地とを繋ぎ止める、赤い糸。山の神を神として、獣として成り立たせる偽りの縁。
途中、侍女達がそれを阻もうとするが、令呪無くとも凄まじい勢いで駆けるバーサーカーを止められはしない。
すると慎二が徐に、手に握るハサミを思い切り投擲。それを視界に入れたバーサーカーは直感的に掴み取り、勢いそのままに糸へ叩き付けた。
糸は細やかな抵抗を見せるも、縁切りの裁ちバサミの力とバーサーカーの力にあえなく千切れる。直後、侍女もバーサーカーも先の蜘蛛のように溶けて消滅してしまった。
「……ありがとう、バーサーカー……」
イリヤはその目に涙を浮かばせ、死してなお助けてくれた自身のサーヴァントに感謝を呟いた──
~~~~~~~~~~
──あ
──あああ
──あああああアアアアアアアアアアアアアアア
突如、山の神が苦しみの声を上げた。
まるでこれまでに浪費してきた魔力のフィードバックが返ってきたかのような絶叫が空気を震わせ、湖の一帯に響き渡る。
それと同期するように、怪異サーヴァントがその形状を保てず崩れていった。地獄が崩壊していく。
「どうなってんだ?」
「もしや、ハル達が……!」
「間違いなさそうね。魔力供給の維持ができなくて、手下達が自己消滅してるわ」
聖杯と土地──二つの力を受けた山の神は、たとえ冠位指定の英霊ですら傷付けられないほどの加護を宿していた。しかしハル達別動隊が山の神と土地とを繋ぐ糸を断ち切る事で、その恩恵を縁と共に文字通り断ち切ったのだ。
今ここにいる山の神は冬木の土地神に相当する訳でも、ましてや獣に相応している訳でもない。壊れた聖杯にすがり付く壊れた神……呪いにまみれた汚れのようなものだった。
「セイバー! 騎士王様の腕の見せどころだ。頼んだぜ」
「ああ、これで最期だ」
応じたセイバーが、その手に握る不可視の剣に魔力を注ぎ込む。すると剣を覆い隠す風が霧散し、一振りの聖剣が姿を現した。セイバーの真名をその輝きだけで知らしめてしまう、星の聖剣。
刀身から溢れる、聖杯を破壊するに足る光。それを見た山の神は本能的に危機を覚えたのか、させまいと節だった蜘蛛の腕をセイバーめがけて振り下ろす。
「させるかよ──!」
刹那、山の神の視界に朱い閃光が映り込んだ。
前線で本物と性能的な大差の無い怪異サーヴァントらと戦い、満身創痍のランサーが最後の一撃を構えていた。
狙いは必中、一撃必死の朱槍が道を拓くべく巨大な牙として繰り出される。
「『
渾身の力で突き出された朱き槍が、強烈な波涛を帯びて山の神の片腕を吹き飛ばす。
だが、それに怯む山の神ではなかった。合理的な考えからか、すぐにもう片方の腕を振り上げて脅威たるセイバーを排除せんと執着する。
──そこへ立ちはだかるは、物干し竿を手にする侍。
「切り甲斐の無い的に飽きていたところだ。これにて私の役目を果たそう──」
飛燕を切るべく練り上げられた、驚愕の剣技。次元屈折の太刀が好敵手の助太刀をするために振るわれる。
「秘剣『燕返し』!!」
一度に三太刀。尋常ならざる斬撃が山の神のもう片腕を切り落としてしまう。
それでもなお諦めの悪い山の神、今度は残り少ない怪異サーヴァントを操りセイバーを襲わせる。スキルや宝具を出鱈目に使い、玉砕覚悟の勢いで怪異サーヴァントが飛び掛かる。
が、それらは上空よりの熱線に纏めて焼き払われた。
「これで打ち止め……行きなさい、セイバー」
キャスターの声に答えるように、聖剣の光が一際強く輝く。
放たれるは勝利を冠する剣、王を選定する岩の剣の二振り目──その魔力の光たる究極の斬撃。星に鍛えられた神造兵器が、人の手で歪み果てた神を終わらせるべく息吹を発する。
「『
──ドンッッッ!!!
湖面を割り、山の神めがけて光が伸びる。いかに聖杯の力を借りたとて凌げない高熱の波に、山の神は悲痛な声を轟かせた。今まで
どうして、どウシて、ドウシテ──真意の分からない声が響き、
──アアあアアアア阿アアアアアアアアアあぁア───ッ!!
聖杯もろとも、山の神は光の帯に両断されて肉体を塵も残さず消失させた。
後に残されるのは戦いの傷跡と、勝者のみ。
「……あー、流石に疲れたぜ」
「全く、とんだ聖杯戦争だわ……策を弄して、結果的に聖杯を壊す事になるなんて」
「楽をして勝とうとした罸が当たったのだろうよ。慣れぬ事をするからだ、残念だったなキャスター」
勝者達は勝ち名乗りを上げず、ただ疲労した体の緊張を解く。
そして程なく、勝利の余韻も程々に彼らの体から光の粒子が散り始めた。
「仲良く霊基の限界か。ま、イレギュラーだらけだったが最後はちっと楽しかったな。こう言う事は二度と無いだろうよ」
「分からんぞ? 此度ですら奇異な事ばかりだ。いつかの世でまた肩を並べる事もあるやもしれん」
「ハ、その時もランサーとして呼ばれたいもんだね……おいキャスター、時間も無いんだから愛の言葉は手短にした方が良いぞ」
「不粋な狗ねッ……それではマスター、いえ宗一郎様。またいつかお会いできれば。それまでご自愛くださいませ」
「ああ、願いを叶えられん不甲斐なマスターですまなかったな、キャスター」
「いいえ……私の願いは、もう叶いましたわ」
別れを済ませ、粒子が徐々にランサー達の霊基を薄れさせていく。
まずはランサーが満足気に、アサシンが涼しげに、キャスターが名残惜しそうに座へと還る。そしてセイバーは空を見上げながら、ここにはいない士郎達に言葉を送る。
「願わくば貴方達の行く末を見守りたかったですが……きっと大丈夫でしょう。貴方達の進む道が、悔いのないものである事を祈っています」
届かぬ声でも祈りを届け、セイバーも毅然と去っていく。それらを見送った唯一の人間である葛木は何を思うか、ただ静寂に包まれた湖を見ていた──
山の神ビースト撃破!やっとアンチキショウに痛い目を見させられた(満足)
怪異となったアインツベルンのホムンクルス。実は#9に少しだけ出ていました。本来は山の神降臨のところで使う予定が、尺的な都合で後回しにして今話にて初出に。イリヤにとっては決意を揺るがせる尖兵でしょう。
しかし、山の神ビーストの誤算。畳み掛けるように出したバーサーカーが寝返り、糸を切ってしまいました。やはりイリヤとバーサーカーの絆は、神程度に好き勝手弄れるものではないと。
惜しむらくは、いざ書き出すと力足らずな描写になってしまったのが心残り。お見苦しい文章で申し訳ない……
そして強みを失った山の神に、エクスカリバーの天誅。宝具に関しては少し理解できてなくて引用臭い感じになりましたが、個人的に納得行く決着です。しかし山の神の執念深さは生半可ではなく……?
次回、本当の決着。
宜しければコメントや評価をしてくださると、私が喜んで執筆速度が上がるかもしれません。更新が早まる、とはもう言えない……(汗)