Fate/staynight [Midnight Walker]【本編完結】   作:秋塚翔

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これがやりたかった。アニメの最終回後の特別回か、ED後のCパートの感覚でお読みください。

地味に24話で本編が終わったのは、1日24時間が過ぎて新しい一日が始まる、と言う解釈ができる気がしないでもない。そしてこの話が24.5話……つまり、その新たな一日が始まった後の話、って解釈と言えるのではないでしょうか?……俺だけ?


#24.5 或る夜の話

 暗い暗い、洞穴の奥深く。その最奥にある穴から二人の少女が歩み出てきた。

 

「大丈夫……大丈夫だよ……」

 

 意識を失っている様子の青いリボンの女の子を、赤いリボンの女の子が支えている。そのもう片方の腕には、衰弱しているらしき黒い子犬が抱えられていた。

 赤いリボンの女の子は、傷だらけでボロボロの体を引き摺るようにして出口を目指して歩く。ここまで辿り着くのに夜の町中を巡り巡った疲労が、少女に重くのし掛かっていた。加えて、脱力する大切な友達と負傷し、息も絶え絶えな子犬への不安が、少女の心を弱らせる。

 助け出した友達に掛ける励ましの言葉も、まるで自分に言い聞かせるように口から零れていた。

 

 ──モドっておいで。オイデ。オイデ。

 

 そんな格好の獲物を"それ"が見逃すはずはない。

 声と共に、天井から組んだ白い手が幾つも降ってくる。それらは蟲の足が生え、大きな蜘蛛となって少女達へと迫り来た。赤いリボンの女の子は慌てて走り出そうとするが、疲れ切った足が悪路に取られ、転んでしまう。

 蜘蛛達は無い口で笑った、ような気がした。少女は堪えていた涙が溢れそうになった。せめて、この子達だけでも──そうした懇願を踏みにじるため、蜘蛛らは獲物の少女に躍りかかる。

 

 瞬間、蜘蛛らに飛矢の如く剣が突き刺さった。

 

「え……?」

 

 的確に的を射抜いた剣が、蜘蛛を悉く消滅させる。再び静寂音に包まれた洞穴の中で、突然の光景で呆然とする赤いリボンの女の子の元に、出口の方から足音を伴って一人の男が歩み寄ってきた。

 

「大丈夫か?」

「っ? うん……あっ、はい……」

 

 優しく問い掛けてきた男を、少女は見上げる。

 奇妙な格好の男だ。何故か顔を隠すように砂色の外套を被っている。日本人に見えるが、髪が白かった。前にテレビで見た、砂漠地帯の国にいる外国人みたい──と思った少女。怪しい風体であるも、不思議と怖く感じない。

 男は倒れた少女を抱き起こすと、傍らの未だ深く眠るもう一人の少女を慈しむように見やり、そして赤いリボンの女の子の腕で衰弱している子犬を見て、懐から巻物らしきものを取り出し開いた。

 開かれた巻物は独りでに少女達を囲い、光を発する。すると少女の傷は癒え、子犬も苦しげな息遣いから安らかな寝息に落ち着く。

 

「治癒の巻子本(スクロール)。もしもの時のために遠坂から貰っておいて良かった。もう大丈夫だ。一応戻ったら安静にさせてやれ」

「ぁ……あ、ありがとうございます!」

「歩けるか? 早く友達を連れて、ここから離れるんだ。後は任せてくれ」

「う、うんっ!」

 

 助けてくれた恩人の言葉を素直に聞き入れ、少女は子犬と青いリボンの女の子を抱えて出口を目指す。さっきまでの痛みや疲れはすっかり無くなり、不安も消えれば自然と力が湧いた。言われた通り早く、振り返らないでこの場から離れるべく歩き出した。

 

「──ハルを、頼む」

 

 そんな聞こえない程度の声を背に、少女は男が見送る内から立ち去った。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 洞穴の奥深く。その最奥に"それ"は鎮座していた。

 指の折れ曲がった白い手を組み、その至る所から目を生やす《蜘蛛のようなもの》。蜘蛛の巣が張り巡らされた湿っぽい洞穴の中、醜悪な姿のそれは野太い息を漏らしている。

 そこへ立ち入る、一人の男の姿があった。

 

「久し振り……って言っても、お前は俺をまだ知らないよな。この後で、過去に遇うはずだったんだろう」

 

 男の言葉を、《蜘蛛のようなもの》は意味を解せない。そもそも解す気すらない。ただ愚かに近付いてきた獲物を捕らえ、弄ぶべく渇いた歓喜の息を吐く。

 

 ──カワイソウ、カワイソウ、カワイソウ

 

「ああ、自覚はしてる。理想を抱いて辿り着いた先が、理想に裏切られる現実だからな。過去の自分を殺して、同じ過ちを繰り返させないアイツの考えも間違ってなかったのかもしれない」

 

 感情の無い見せ掛けの同情に、しかし男はわざと真に受けて自嘲する。多を救うために小を切り捨てる選択、誰かを救うと言う事は誰かを救わないと言う真理、果てしなき地獄の道行き──多くを救いながら、男は自身の無力感を実感した。

 

「だけど、後悔は無い」

 

 それが自分の選んだ、憧れからなる紛れもない自分の道だから。人から受け継いだ夢が間違いであるはずがなく、たとえこの先にどんな地獄があろうとも、前に進む事を決めた。()()()()()()()()

 

「だからここまで来た。全てを救えなくても、せめて大切な誰かは、救うべきものくらいは救うために。それを教えてくれたあの子を、今度は俺が助けるために、俺はお前との縁を切る──

 

投影(トレース)開始(オン)』」

 

 式句を告げた男に魔力が走る。その光が、薄暗い洞穴内を淡く照らした。

 男の周囲に、何かが精製されていく。それを見た《蜘蛛のようなもの》は本能的に察した。あれは、自分にとっていけないものだ、と。

 

 ──ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ

 

 それは、真っ赤な裁ちバサミ。真っ赤な悪縁を切るにはこの上ない、縁切りの神様の依代の模倣。それが無数の切っ先として《蜘蛛のようなもの》に差し向けられる。

 覚悟を抱いた男は、全てを精算すべく真っ直ぐに歪んだ神へと言い放つ。

 

「ここが縁の切れ目だ。覚悟は良いか、山の神」




●ある少女の日記

夏が来た。
あの時と同じ、五度目の夏が。

あれから、お母さんはようやく昔のお母さんに戻ってきた。
お父さんが見付かって、出ていった本当の理由を知ってしばらくショックだったみたいだけど、最近は一緒にご飯を食べるようになったし、お仕事も変えて早く帰ってくるようになった。お父さんがいた、あの頃みたいに。

あれから五度目の夏。
今年は、ハルがこっちに遊びに来る。遠くにいるけど、私の一番大切な、一生の友達。
たくさん、話したい事がある。中学生になって、一緒のクラスになった隣町の子と仲良くなった事、最近チャコとクロが元気すぎて大変な事、町の大人の人達が何か話し合って、周辺の取り壊す予定だった神社を残す事にした事、他にもたくさん。いっぱい話したい。ハルもあっちでどんな事があったか、いっぱい聞きたい。
それに、あの時助けてくれたヒーローさんも。
あれからいくら探しても見付からないけど、ハルが来たら一緒にまた探しに行こう。もしかしたらもうこの町にはいなくて、どこかで誰かを助けてるのかもしれないけど……もう一度、お礼を言いたい。助けてくれて、ありがとうって。

私は今日も元気に生きてる。大好きな友達と、大切な家族と、これからも生き続けています。





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ハルは未来の英霊。なら、士郎がその近い未来に恩返ししに来る事もできるなと。これを以てして、MWは真の完結を迎えたと思います。

因みにここで士郎がハルを救ったとしても、英霊としてのハルは消えません。数ある事象の一つとして含まれるか剪定されるだけで、形は違うけど英霊エミヤと同じで英霊の座には『英霊ハル』が在り続けます。
でも、せめて一つくらい、神の理不尽に翻弄されなかった可能性の世界があっても良いよね?と、言うのがこの話の主旨。

fateサイド、夜廻サイド両者をとことんグッドエンドにできたので、これで心置きなくFGO編に挑めると言うものです。番外編共々ご期待あれ!
あと、活動報告にてFGO編のストーリーについてご報告があるので、興味があれば是非お読みください。
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