Fate/staynight [Midnight Walker]【本編完結】   作:秋塚翔

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まだまだSN編は終わらねぇ!とばかりに始まりました番外編シリーズ『零れ譚』。たまーに好み丸出しなネタでやったりしますが、生暖かい目で時に笑い、時に涙?の日常を繰り広げるハルちゃん達をお楽しみください。

今回はサブタイ通りの組み合わせ。誤字ではないです。ちょっとHFをイメージして書きました。


零れ譚 凛と張る

 その日、凜は士郎に用があって直接家を訪ねた。

 特に大した用件ではないのだが、どうせなら士郎の顔でも見に行こうと言う、理由になってない理由を引っ提げて勝手知ったる衛宮邸に上がり込む凜。しかし、そこには肝心の士郎の姿が無かった。

 

「士郎ー、いないのー?」

 

 声を投げ掛けても、返答はあらず。人気の無い玄関で凜の透き通った声が反響したのみだった。

 

「セイバーもいないって事は……買い物かしら?」

 

 全く、聖杯戦争の最中なのに暢気なんだから、と先輩風を内心で吹かせつつ、じきに帰ってくるだろうと踏んでそのまま居間に向かう。すると、士郎達の留守に代わるようにハルの姿がそこにあった。

 畳に突っ伏し、クレヨンを手にノートを広げたまま眠っている状態で。

 

「こっちも暢気……いや、あどけないもんね」

 

 呆れたようで、けれどその顔に微笑ましさが浮かぶ凜。全く起きない様子のハルに、ついトレードマークのリボンをつつき、その寝顔を眺めてしまう。

 そうして、サーヴァントだけど一応毛布でも掛けとこうかしら? と気を回そうとしたところで、ふとハルの手先にあるものが目に入った。

 

「これは、絵日記?」

 

 市販らしいノートにクレヨンで描かれた、子供っぽい絵と拙さが残る文字。どうやらハルは、絵日記を書きながら寝落ちてしまっていたようだ。

 それを見た凜は、好奇心からその内容を覗き込んでみる。

 日付と文章、絵の描写からどうやら今日あった出来事を記しているようだった。稚拙だが士郎やセイバー、大河や桜を実に特徴を良く捉えて描いている。文章も、ハルらしい感想で今日の出来事を述べていた。

 凜はちょっと憚られたものの、何となく気になって「ゴメンね?」と心中で謝りながら前のページを捲る。

 

「……フフっ」

 

 期待通り、昨日の日記には自分が描かれていた。

 昨日は士郎と桜指導の下、ハルと一緒に料理を習ったのだが、その時の事を可愛らしい感想と、これまた愛嬌ある絵で綴られている。楽しさ、難しさ、興味──なるほど、ハルの純粋な気持ちがそこに表されていた。

 その前の日も、そのまた前の日も……凜はついつい手が止まらず、ページを捲って振り返る。この日はこんな事があったんだ、そう言えばこの日ってそうだったわね、とアルバムを見てる気分が、凜の手を進めたのだろう。

 そして、あるページを開いた時、凜は息を呑んだ。

 

 黒──いや、それは塗り潰すように書き重ねられた「やだ」と言う拒絶の言葉と嘆きの叫び。

 その下にはちゃんとその日あった事が記されているのだろうが、読めないほどの叫びがページ一杯に埋め尽くしている。まるで、その事実を認めたくないかのように。

 けれど、そんな中で避けるように、それだけは消せなかったかのように残った一つの名前と「わたしのせいだ」が強く、見た者の心を締め付けさせる。

 後悔、悲哀、自責──幼い少女が抱えるにそぐわぬ慟哭の吐露が、そこにはあった。

 

「っ……!」

 

 凜は、好奇心での行為に後悔しつつ、その内容に心が縫い止められてしまう。

 これは「為せなかった者」に訪れる確実な結末だ。救いたいものがどうしようもない現実に拐われ、手の届かないところへ行ってしまった、無力な者の末路。つまりこれは、()()()()()()()()()()()()()()

 『あの子』を救えなかった自分自身の投影──それがこのハルの、彼女にとっては過去の、凜にとってはこれから英霊ではない頃の彼女に降りかかる未来の悲劇なのである。

 こんなあどけない寝顔を見せる少女が、一体どんな心の傷を背負って英霊に召し上げられたのか……それは分からない。けれど、凜にはハルの気持ちに遠からず歩み寄れた。彼女は──決断できた未来の自分だから。

 

「凜さん……?」

「! ハル、起こしちゃった?」

 

 と、傍にいる凜の存在に気付いたか、ハルは徐に目を覚ます。

 そうして暫く呆けたように辺りを見回すと、あるページが開かれた絵日記に目が止まり、それを凜が見ていた事をやっと把握できた。

 しかしそれを特に咎めるでなく、むしろ恥ずかしそうにはにかみながら、何か思わしげな凜の表情に姿勢を正して小さな口を開く。

 

「凜さんは……誰か助けたい人がいるの?」

「……まぁね。向こうからすれば、何を今更って話だろうけど」

 

 自分がハルと同じくらいの歳だった頃、手を離してしまった少女の姿を思い浮かべ、答える凜。そこには少しばかりの自嘲も混ざっていた。きっと本当に今更すぎる、漸く言葉にできた本音。

 それに、ハルは一旦考えながら言葉を紡いだ。

 

「──凜さんの助けたい人が、今助けに行って全部どうにかなるかは分からない。でも、それが怖くて何もできなくて、取り返しのつかない事になるくらいなら、行った方が良いと思う。自分のせいだって、後悔しないように」

 

 年相応な拙い言葉。けれども決して気休めではない力ある言葉に、凜はとても見た目だけなら年下に言われている気がせず、ハルの目を見て呆然とする。

 かつての決断──大切な友達が、死んでしまっていると言うどうしようもない事実を前に、それでもその手を掴むために光なき道を進んだハルの言葉は、家柄や立場に縛られた凛の心を真っ直ぐに打つ。

 気付くと、凛はハルの小さな体を抱き締めていた。

 

「ありがとう、ハル」

「凛さん……?」

「こんな簡単な事、どうして気が付けなかったのかしらね。貴女のお陰で、やっと分かった。遠坂の後継者でも冬木の地の管理者でもなく、"遠坂凛ならどうしたいか"って」

 

 素直な感謝を伝えるように、大事な事を教えてくれた恩人を抱き締める凛。そこにはもう、しがらみに囚われる少女はいない。一人の妹を救いたい、一人の姉の姿があった。

 その時だ。玄関から戸を開ける音と、「ただいまー」と言う見知った声が届けられる。どうやら士郎とセイバーが買い物から戻ってきたらしい。

 凜とハルは顔を見合わせると、笑い合ってそれを出迎えるべく立ち上がる。

 

 あの手を繋いで、また家に帰れるなら──どんな残酷な答えが待ち受けていようと、どんなに手遅れで取り返しが付かなかろうと、凜は臆さず前に進む事を決めた瞬間であった。




ハルと凛。同じ年頃に夜回りした経験を持つ者同士、手を繋ぎたい大切な存在がいる者同士の交流、短いながらいかがでしたでしょうか?
こんな感じで、特定のキャラとハルちゃんの絡みを繰り広げるのがこの零れ譚のコンセプトになります。

サブタイは最初、無難に『凛とハル』でしたが、何となく文字通り凛とハルの話を指しており、またハルの名前の由来から『凛と張る』──つまりは凛が決意を引き締める、と言う話だと示唆しているダブルミーニング感を出してみました。偶然の産物だけど、個人的に好き。

今後は現状ライダー、ギルガメッシュ、キャスター、桜辺りをルートや作品別に予定してます。もしリクエストやシチュエーションの要望があれば、是非ともコメントやメッセージでご応募してくださると、まだまだMWワールドは広がりますぜ!
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