Fate/staynight [Midnight Walker]【本編完結】   作:秋塚翔

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話数表現をfate側に修正しました。この一話毎のペースで「章」と掲げるのはどうかなと……結果、fateと深夜廻の複合サブタイになった感じなので個人的には良しとします。

今回はちょっとイマイチな出来。やはり説明パートが入ると弱い。それもはしょり過ぎて短いかどうか不安ですしね。
ニュアンスは分かると思いますので、どうぞご覧あれ!


#3 宵闇

「率直に言うとね、衛宮君はマスターに選ばれたの」

 

 

 出されたお茶を一口啜り凛は語り出す、士郎の今置かれた状況と聖杯戦争が何たるかを。

 矛を納め、一時休戦として士郎の屋敷に上がり込んだ凛。アーチャーには屋敷の外で見張りをさせ、意図せずセイバーのマスターになったばかりで何も知らない士郎に説明を行う。

 

 

「──まぁ、こんなところかしら。あと私が教えられるのは貴方がもう戦うしかなくて、サーヴァントを上手く使えって事だけよ」

 

 

「…………」

 

 

 一通りの説明を聞いた士郎は、言葉が出ず押し黙る。今は亡き魔術師の養父を持ち、魔術の基礎を習っている彼だが基本は魔術世界と関わりの無い一般人と変わりない。魔術師によるサーヴァントを使う殺し合いを、そう簡単には受け入れられなかった。

 その心情を知ってか否か、凛は話を進める。

 

 

「さて、理解くらいはできたわよね? それなら次の話題に移らせてもらうけど」

 

 

「次の……?」

 

 

 そう切り出し、士郎の疑問に答えるように凛は視線を隣に動かす。そこにはオレンジジュースを行儀良く飲む隻腕の少女、ウォーカーの姿があった。

 たまたま巻き込まれ、なし崩し的に連れてこられたイレギュラーの少女に凛は瞳をギラリと光らせる。

 

 

「今度は貴女の番よ。さぁ、洗いざらい正体を明かしてもらいましょうか?」

 

 

「え、あの……うぅ……」

 

 

「おい遠坂、相手は子供だぞ。そんな威圧的に詰め寄るな」

 

 

 『隠し事したら分かってるでしょうね?』と言わんばかりの問い掛けに萎縮したウォーカーを見、士郎が凛を嗜める。凛も、サーヴァントとは言っても見た目は小さな女の子を怯えさせたのに流石に罪悪感を覚えたか、ウッとバツが悪そうにした。

 それから士郎が宥めつつ改めて聞き直すと、ウォーカーはおずおずと語り始める。自分はウォーカークラスのサーヴァントである事、マスターは最初から居ない事、自らも願いがあって聖杯を求めている事を子供らしい口振りで明かす。

 士郎は、そんなウォーカーの説明に質問を投げ掛ける。

 

 

「マスターが居ないって、それ大丈夫なのか? 確かマスターから魔力を与えられないとサーヴァントは消えるんじゃ……」

 

 

「ウォーカーのサーヴァントには『散策』ってスキルがあるの。それで夜の間だけ私は魔力が尽きないんだ」

 

 

「ちょっ、それって反則じゃない!?」

 

 

 と、思わず凛が机に身を乗り出す。驚くのも無理は無い。魔力が尽きない、と言う表現に語弊が無ければ単独で現界し続けられるだけに留まらず宝具を使いたい放題と言う事だ。

 宝具──サーヴァントにとっての切り札。武具や伝承、在り方から生まれるその力は、時に軍隊や兵器に例えられる。そんな代物が使い放題なら、この上無い脅威だろう。

 しかし、そうした凛の愕然にウォーカーは首を横に振った。

 

 

「代わりに私には戦う力が無いんだ……宝具は何回も使えるものじゃないし、昼間は魔力が減るから霊体化してなきゃいけない。こんな私じゃ、聖杯戦争は生き残れないかな……?」

 

 

 そう呟いて俯くウォーカーには、寂しさと哀しみが窺える。

 サーヴァントはマスター同様願いがあってこそ、万能の願望器を懸けた聖杯戦争に召喚される。ウォーカーもまた然りだ。

 たった一人戦う力も無く聖杯を求める少女、ウォーカー。その姿に士郎は何とも言えない気持ちを抱いた。まるで自分自身を見ているかのように──

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 ──聖杯戦争をもっと詳しく知りたいでしょう? それなら、監督役を務めてる奴に聞いた方が良いわ。

 

 話し合いが終わり、凛はそう提案して士郎とセイバーを隣町の教会まで案内した。そこに彼女がエセ神父と呼ぶ監督役が居るらしい。

 ウォーカーはそれに同行。理由は隣町に行った事が無いからだそうだ。凛と士郎が教会に行っている間、セイバーと共に門の前で彼らの帰りを待つ。

 そして数十分後。

 

 

「お待たせ。じゃ、行きましょうか」

 

 

 何事も無さそうに帰ってきた二人。士郎は覚悟を決めたか、セイバーのマスターとして聖杯戦争に参加する事をセイバーに伝え、握手を交わした。

 そうして一行は帰路に就く。空は街の灯りで多少明るいが暗く染まり、夜が領分であるウォーカーは懐中電灯を点けて先導する。

 すると不意に凛は立ち止まり、士郎と向き合った。

 

 

「ここでお別れね。義理は果たしたし、これ以上一緒にいると何かと面倒でしょ? きっぱり別れて、明日から敵同士よ」

 

 

 そう、凛はアーチャーのマスターで士郎はセイバーのマスター。本当なら最初から殺し合っている間柄だ。敵同士として、同じ聖杯戦争の参加者として、袂を分かとうとする凛の行動は真っ当である。

 

 

「貴女ともよ、ウォーカー。聖杯を狙ってるなら、次に会った時は遠慮無く倒させてもらうわ」

 

 

 ピッ、と指差し鋭い目付きでウォーカーにも言い放つ。それだけの覚悟があっての事だろう。自分より小さな女の子に対しても、真っ直ぐ敵として認識を改めていた。

 しかし、対する士郎は何を思うか嬉しそうに微笑んだ。

 『これ以上一緒にいると何かと面倒』……感情移入しては戦いにくくなると言う意味に取れる言葉。何も知らない自分にわざわざ教えてくれたのはあくまで公平に、ただ善意だけで肩入れしてくれたのだろう。それに気付いた士郎は直情的に口を開いた。

 

 

「……なんだ、遠坂は良い奴なんだな」

 

 

「は?何よいきなり。おだてたって手は抜かないわよ」

 

 

「知ってる。けど、できれば敵同士になりたくない。俺はお前みたいな奴が好きだ」

 

 

 深い意味は無い真っ直ぐな言葉。それを聞き届けた凛は「な……」と漏らして顔を赤らめる。士郎はそんな彼女の横を通り去って家路に就こうとした。

 

 

 直後、セイバーが何かを感じ取って士郎の前に飛び出し、ウォーカーもまた懐中電灯を遥か正面に向けて後ずさった。

 

 

 

 

「──ねぇ、お話は終わり?」

 

 

 

 

 囁くように、しかし良く響き渡る幼くも妖艶な声が発せられる。

 士郎と凛が声の方に振り向くと、道の先に月光を背にして佇む黒い巨人と白い少女の姿が映った。

 普通の人間を遥かに越えた背丈の黒い巨人と目視した士郎は、悪寒を走らせた。アレは、何だ? と……

 

 

「こんにちはお兄ちゃん。こうして会うのは二度目ね」

 

 

 その巨人を引き連れる少女は士郎と面識あるような口振りで、ニッコリと笑い掛ける。続いて傍らの凛にも、こちらも存在だけは知ってるように恭しくお辞儀を行った。

 

 

「初めまして、リン。私はイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンよ」

 

 

「アインツベルン……それにあのサーヴァント、バーサーカー……!?」

 

 

 最大の仇敵と、その傍らに立つサーヴァントに驚きながら凛は相手の能力値を読み取る。そこで更に驚愕する事となった。

 バーサーカーと呼ぶ巨人、それはクラス最優と名高いセイバーを単純な能力なら凌駕していた。

 ウォーカーもそんなバーサーカーを見て尻餅を着く一方、凛は即座に霊体化しているアーチャーに指示。応戦の構えを取るとバーサーカーを従える少女──イリヤはあっさりと告げる。

 

 

「じゃあ殺すね。やっちゃえ、バーサーカー」

 

 

「■■■■■■■■■■ーーーッ!!」

 

 

 命令を受け、空気を震わせるほどの雄叫びを上げたバーサーカーは力強く踏み込む。地面が容易く割れ、その勢いで巨体を空高く跳躍させると、武骨な剣で以て士郎達を猛襲した。

 「下がって!」──相対するセイバーが士郎達にそう叫ぶと不可視の剣を構える。すると襲い掛からんとしたバーサーカーに無数の矢が降り注いだ。位置に着いたアーチャーからの援護射撃だ。

 

 

「■■■ッ!」

 

 

「っ……!」

 

 

 が、盛大な爆発を巻き起こした射撃にバーサーカーは揺るがない。むしろダメージが無い様子でセイバーと激突。その膂力でセイバーを弾き飛ばした。

 

 

「ッハアァ!」

 

 

 広場に着地したセイバーは戦意損なわず、追撃してくるバーサーカーの剣を捌く。巨体のバーサーカーに細身のセイバー。だが、そんな体格差はサーヴァントに関係無く、戦士と剣士として持ちうる力で互いは拮抗する。

 しかしアーチャーの援護あっても、バーサーカーは恐ろしいまでに動じない。生前は高名かつ偉大な英雄だったのだろう。傷一つ無く猛然と眼前の敵(セイバー)に攻め入る。

 

 

「セイバー……!」

 

 

「なんて化け物よ……あんなの流石のセイバーでも……」

 

 

「あ、あのっ!」

 

 

 戦慄する士郎達。と、そこへ声が掛けられる。ウォーカーだ。

 

 

「私の宝具を使っても大丈夫、ですか?」

 

 

「……それであの化け物みたいな奴に敵うって言うの?」

 

 

 突然の進言に凛は半信半疑で聞き返す。ウォーカーは戦う力が無いと言っていた。そんな彼女が、あんな見た目からして恐ろしい、セイバーとアーチャーの攻撃もものともしないサーヴァントに敵う力があるように思えない。

 凛の問いにウォーカーは「うん」と小さく頷く。が、ただしとばかりに付け加えた。

 

 

「ただ、気を付けて。貴方達も死んじゃうかもしれないから」

 

 

「「え?」」

 

 

 そう言い残し、ウォーカーは駆け出す。セイバーとバーサーカーが激しくぶつかり合う場へと。

 その口が紡ぐのは自身の切り札、宝具を解放する一言。自らの歩き廻った記憶から生まれた()()()()

 

 

「あなたをさらいに夜がくる──『怪異蔓延る深夜の街(しんよまわり)』!」

 

 

瞬間、白い光に包まれて"現実"は『彼女の世界』へと一変した──




ウォーカーの宝具発動!果たしてバーサーカーに敵うと断言?した力の程はいかに。

ストーリーはしょり過ぎた感じですが、いかがだったでしょう。今作はあくまで中心人物のウォーカー視点主体で進めていくので聖杯戦争の説明や教会での下りは省略しました。神父の出番ねぇから!(ライフ感)
ウォーカーがマスター無しに現界し続けられるのはクラススキルによるものでした。fate的にはアリな性能か微妙なところ。調べてから書いてはいるんですが、いかんせん望んだ答えが見付かりませんからね……とりあえずご理解いただけない場合、エクストラクラスって規格外の存在だからって事で一つ(苦笑)

次回はウォーカーの宝具内での戦い。士郎達は生き延びられるか。
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