Fate/staynight [Midnight Walker]【本編完結】   作:秋塚翔

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番外編第二話目にして冒険してみる暴挙。







零れ譚 ■■■・■■

 ハルは最初、そこが夢の中だと思っていた。

 だが、サーヴァントは夢を見ない──マスターからの記憶情報が逆流入してくる事こそあるだろうが、そこは記憶の共有現象と言うよりも、まるで誰かの人格を剥奪した後で()()()虚無を現しているようだ。

 

「…………」

 

 とりあえず歩いてみる。歩く者(ウォーカー)故に。

 歩く毎に、虚無の暗さからは有り得ない"色彩"がハルの目から脳裏に焼き付いてきた。

 それは時代も場所も異なった、悲劇の連鎖。悪がもたらす善があり、善がもたらす悪があり、理不尽なまでの合理があって、理屈の通った不条理があった。自然的な悲哀があれば、作為的な歓喜も存在する。巡り巡る人間の業──それは何処までも『人間』と言う生き物の悪性を常に映し出す。

 ある聖杯戦争では、己が欲望に突き動かされた人間達が苛烈な殺し合いを演じていた。またある聖杯戦争では、自らを喚んだ聖杯に呪いあれと叫んだ英霊がいた。それと同じ聖杯戦争では、自らの行いで町を火災に包んだ事が起因して死んでいった男がいた。そのまたある聖杯戦争では、それ以前の聖杯戦争では──

 少女に叩き付けられてくる悲惨な光景。ハルは、耳と目を塞ぎたくなる。それでも虚無は容赦無く少女に過去の焼け跡を見せてきた。人間の総ての一端が、一人の少女を理不尽に襲う──

 

「おー、見っけた見っけた。ダイジョウブかー? 慣れない事はするもんじゃないな、こりゃ」

 

 唐突に投げ掛けられたその声は、余りにも重みを感じない軽快なものだった。ハルが見上げると、虚無の暗闇の中に二つの目が自分を見下ろしているのが分かる。

 "目"は、人懐こそうに三日月の形となってハルに喋りかけてきた。

 

「ちょっと興味が湧いたから、どーにかこーにか心象世界的な場所設けて繋いでみたんだが、やっぱ下手したら相手方の精神ブッ壊しかねないなー。まっ! 同じ事をまたやれって言われても、何をどうやってこうなったのかサッパリなんだけどさ! ははっ!」

 

 笑って細めてしまうと、虚無の黒に見えなくなる"目"。それを見るハルが良く目を凝らすと、その"目"の周りの輪郭がぼんやり見えてきた。

 虚無と同じ"黒"、いや影のような人の形。それは少年めいた姿をしていて、何となく見覚えがある──その今や身近な名が、小さな口をついて出た。

 

「……士郎さん?」

「おっと、良く分かったな。いや、当たらずとも遠からずって奴なんだが……まぁ? 特別措置って事で? この見た目は大した意味無いんだわ。どうせこれが終われば元通り。だから気にしなくて良いぜー」

「?」

 

 理解が置いてけぼりの返答に、ハルは首を傾げる。しかし士郎に似た影の男は、そんな少女の反応を楽しむかのようにニヤけている様子。

 そして、その影の男は話題を切り替えて言葉を投げ掛ける。

 

「そいでな? 俺が何でお前さんに繋いだかっつーと……もうそろそろ良いんじゃないかなー、ってよ」

「? 何が、ですか?」

「だから──友達を助けるためにお前さんが命張るのなんてもうやめたらどうかと思ってよ」

 

 突拍子も無い、聞き捨てならない問い掛け。しかしハルが何か言うより先に、影の男は言葉を続ける。

 

「だってどんなに大切ったって、所詮は他人じゃん? 人間ってのはつまるところ自分のためにしか生きられない生き物なワケ。アンタもそのオトモダチを、自分のためだけに救おうとしてるんじゃないの?」

「それは……!」

「もちろんそれもリッパな願いですよ。でも、それで自分が傷付いて、果てには死んじゃったら意味無いんじゃない? 自分の得のために損してたら、そりゃ願いとして間違ってると思うんだ。アンタはまだ若い……ってか、この時代より未来で生きてる子供なんだから、我が身犠牲に戦うよか助けられた生を謳歌すべきなんじゃないのかねぇ」

 

 まるでハルを知っているかのような語りを展開する影の男。そしてそれは正論と言えるものだった。

 ハルは何も言い返せない。影の男の言葉に言い返せるような言い分は持ち合わせていなかった。救われておいて死へと向かう……それは果たして友達(ユイ)のためになるのだろうか?結局は自分のエゴではないのか? ならばいっそこのまま消えてしまって、救われたまま生きていった方が良いのではないか──

 顔を伏せた少女は、意を決して答えを紡ぐ。

 

 

 

「やだ」

 

 

 

 小さく、けれどハッキリと拒んだ。

 パチクリと、呆気に取られたらしい影の男に、ハルは沈黙から解き放たれて真っ直ぐ見詰め返す。

 

「だってこれは私の罪だから。私が気付いてあげられなかったから、ユイは死ぬ事になってしまった。だから今度こそ、私が助けるんだ。どんなに苦しくても、痛くても、それはユイの苦しみと比べたらずっと軽いから。ユイの手をまた掴めるなら、私はどんな事でも頑張れる」

「良いのか? そいつが、オトモダチが望んじゃいない自分勝手で無意味な願いだとしても、アンタは今のまま戦うって?」

「うん。それが、私──歩む者(ウォーカー)だから。立ち止まらないで、先に進むの。自分の信じた道を」

 

 幼い少女の瞳に強がりと、しっかりした意思の光が灯る。

 それを見た影の男は、顔に右手をやって覆う。『参った』と観念するように。

 

「ッかー! やめたやめた! あわよくばお前さんを退場させて、俺がそこに割り込んで状況引っ掻き回してやろうとか思ったけど、やっぱ糞雑魚の俺にそう言う企み向いてないわ!」

 

 即席の『殻』が悪かったのかねー、それともこの嬢ちゃんに魅せられちまったかぁ? などと独り言を漏らす影の男は、さっきまでとは少し雰囲気が変わっていた。良く分からないが、人間の別側面を肯定し出したような、友好的……とまでは行かないが、人間の在り方を賛美する態度へと切り替わったよう。

 

「ま、良いや。どうせダメ元でしたし? 今回の聖杯戦争に俺は縁が無かったって事で。諦めてノンビリ行く末を観察させてもらいますか!」

「?」

「ああ、気にしなくて良いぜ。この事だって、どうせ目が覚めれば全部忘れる。だから意味無いアドバイスさせてもらえば、せいぜい皆で頑張ってあの妙に親近感あるカミサマぶっ倒してみせな、ってこった。そんじゃま、サイナラ~」

 

 言うや否や、ハルの意識が遠退いていく。目の前で手を振る影の男は段々と小さくなり、やがて虚無に呑まれて声だけ響く。人間の悪も善も、全部引っ括めて肯定する悪の権化の声が。

 

「いつかどっかで会えたら、そん時は俺とも仲良くしてくれよなー。理不尽に遭ったモンのよしみでさ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──おっ。よう! そろそろ来る頃だと思ってたぜ?

 

 

 

 ──アンタには打ってつけの舞台だ。後は『泥』になった俺でも使って、したいようにすれば良いさ。俺はそれを高みから見学させてもらうぜ。

 

 

 

 ──……あのー、ハナシ聞いてる? もしもし? もしもーし! ……ダメか。縁も何もかも、とっくの昔に無くしちまってる俺には聞く耳持たないってかい? そりゃ、笑っちまうくらい悲しいねぇ。ヒヒッ!

 

 

 

──さーて、ここからの俺は遠くて近い席を取った単なる観客だ。壊れた理不尽なカミサマと、それに抗う人間達。出番の無い悪魔(オレ)は、その末路をじっくり眺めさせてもらうかね!

 

 

 




まさかのハル×アンリ。かなり冒険しました。
FGOくらいでしか知らない癖に、目指せ冬木鯖との絡みコンプリート!と調子に乗った末の暴挙です。アンリのキャラが合ってるかどうかが心配。

最後は、山で忘れ去られたもの同士の絡み。ここから本編の#15~決戦まで行く形です。
次回の投稿辺りで、FGO編を始められたらなと思う。
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