Fate/staynight [Midnight Walker]【本編完結】 作:秋塚翔
このお話は「もし今作がUBWはなく、HFのルートに行っていたら?」と言うコンセプトを基にしたIFストーリーとなっております。
深夜廻原作の救われなさから、この作品に希望を求めて読んでいる方は覚悟してお読みください。
覚悟はよろしいですか?
>【はい】 【いいえ】
劇場版二章と夜廻のベストマッチ感は異常。
ドプンッ──と、薄暗い意識の海に落ちていく。
息苦しさなどは無かった。あるのは虚脱感と倦怠感、心の内をさらけ出してしまいそうな解脱感のみ。
どうしてこうなったのか──ハルはぼんやりと思い浮かべる。
聖杯戦争の最中に起きた、明らかに性質が異なった異常な要素。"影"と仮称するその現象に、アーチャーのマスターである遠坂凛と、ハルとセイバーのマスターである衛宮士郎が協定を結び、それぞれ調査に乗り出した。
そこで士郎は、間桐の初代頭主・間桐臓硯が死体として操っていた、キャスターのサーヴァントが根城としていた柳洞寺をまず調べようと提案したのだ。
それは良い。それまでは良かった。問題は、そこに間桐臓硯が自ら召喚したアサシンのサーヴァントを引き連れて待ち構えていたと言う事。ハルとセイバーは、士郎と分断されてアサシンと対峙する事となり、セイバーがアサシンの相手をし、ハルは何とか臓硯の相手をする士郎と合流すべく行動する。
──その時だ。嫌な動悸を感じたハルはセイバーの元に踵を返し、セイバーに迫る魔の手を、身を呈して防ぐ。
『!? ウォーカー!』
『あッ……!?』
セイバーの足元から飛び出してきた"影"がハルに標的を変えて巻き付く。
瞬間、霊基が侵食される。存在を、何かが呑み込もうとしている。余程の魔力による抵抗でなければ、抗いようのない埒外の汚染が押し寄せる。
セイバーが、手を伸ばして助けようとしてきた。だが、ハルは彼女の無事にのみ目を向け、弱々しく微笑むと視界が暗転する。セイバーからは、ハルが地面に沈むようにして消えたように見えただろう。
そして意識の海の中、ハルは何かの輝きを遥か頭上に感じながら、深い場所へと落ちていく。覚えのない自分に書き換えられる感覚と共に。
「──ユイ……」
霊基が、霊核が、心が、存在が黒く染め上げられながら絞り出した少女の声は、夜のように深い暗闇に沈んでいった──
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ウォーカーのサーヴァント──ハルを失ってから数日が経ち、士郎とセイバーはアインツベルンの城の敷地内に足を踏み入れていた。
数日前の一件で"影"の脅威を再認識した士郎達は、協力者を求めるべく唯一味方になってくれそうなバーサーカーのマスター、イリヤスフィールを訪ねる事にしたのだ。
こと聖杯戦争ではどうしようもなく敵同士だが、この事態である。説得すれば一時的にも共闘関係を結んでくれるかもしれない。そんな淡い希望を持ってバーサーカーの拠点へと向かったのだが……その道中、臓硯の操る郡蟲に出会し、急いで駆け付けるとイリヤスフィールと対峙する臓硯の姿があった。
「来たか、衛宮の小倅。運良くセイバーではなく、もう片方のサーヴァントを失っただけで済んで惜しい限りよ」
「ッ……臓硯!」
「そういきり立つな。想定とは少しズレはしたが、それならば現状に合わせるだけよ。アインツベルンのサーヴァントも厄介ゆえ、ここで消させてもらうぞ」
自身の調子を保ったまま言った臓硯は、蟲の姿に分散して消え去る。残るはアサシンのみだが、こちらは刃も殺意も向けず、静観の姿勢。
何をしてくるのか……それを本能的に悟り、行動したのはイリヤスフィールのサーヴァント、バーサーカーだった。
「バーサーカーっ!?」
マスターの声よりも優先する事を定め、勢い凄まじく飛び出すバーサーカー。狙うはアサシンでもなく、もちろんセイバーでもなく……夜の中に潜む、ナニか。
士郎もセイバーも、イリヤスフィールもそれを見た。
草むらに佇む、小さな影。全身を黒いフーデッドコートに包んでいるように見えるが、暗がりでもそれは布繊維のものではないと直感できる。暗がりの中でもっと暗い、"夜"を纏っていると本能から理解できた。
理性が失われているが故に敵を見定める力の長けたバーサーカーが、何よりも脅威と見たその影を排除すべく強襲する。無骨な剣斧を振り上げ、周囲の地面ごと消し去らんと仕掛けた。
が、それは地面のみを破砕するだけに終わる。空気を揺さぶる轟音を響かせた攻撃は、しかし標的の影が突然姿を消した事で無意味に。肝心の影は、バーサーカーの背後に立っていた。
「■■■■■──ッ!!」
すぐさま振り返り、同じ力加減で攻撃。けれど空すら切り裂くそれはまたも標的を捉えられない。
直後、真横に立っていた影が徐に右手を上げ、バーサーカーに突き出すと、その袖から白い頭巾を被ったような不気味に嗤う怪異を喚び出した。
夜から這い出てきた怪異は、手に握る巨大な鉈を振りかざし、バーサーカーの頭に叩き込む。途端、バーサーカーは余韻無く、鮮血を噴いて絶命する。
「──■■■■■ッ……!!」
一回死したバーサーカーは、宝具『
しかし対する影は、避けすらせずに再び怪異を召喚。奇形の犬が大きな口を開け、腕ごとバーサーカーに噛み付く。致命傷には至らない迎撃──だが、瞬間にバーサーカーの命はまた一つ失われる。
「くッ……!」
「待て、セイバー! 行くな!」
「しかし! あれは……」
堪らず臨戦態勢で飛び出そうとするセイバーを、士郎は引き留める。セイバーは、それに何故と問うよりも理由を語ろうとして、言葉を濁らす。
直感で、あの影が何なのかを察した。
「■■■……■■■■■ッ!!」
死から還ったバーサーカー、放り捨てられた剣斧を拾い上げると再度接近戦で挑む。だが今度は安易に力押ししない。触れただけで殺されるなら、触れない距離で仕掛ければ良いと判断。剣斧を振るい、衝撃で以て薙ぎ払おうとする。
その風圧に、自らの影へと溶けて距離を取った影だが、攻撃にはならない烈風の余波がコートをはためかせた。すると目深に被るフードが煽られ、遂にその素顔が晒される。
「っ」
士郎は、セイバーは、違うと信じたかった。あれは別の存在なんだと。けれどもその切実な希望は、脆く崩れ去られる。
「嘘──」
声に気付き、視線をそちらにやると、そこには凛とアーチャーの姿があった。どうやら士郎と同じ考えか、別の思惑あって来ていたのだろうが、今はそんな事を問題にできない。士郎達も凛達も、目の前の影の正体に釘付けとなる。
そもそも左腕だけ無いかのように揺れていたコート。一度見た事がある怪異。フードの下から現れたのは明るい髪色と青いリボン──が色褪せたような髪とリボン。そして表情を削ぎ落とした色白の幼い顔立ちに、顔の半分を毛細血管の如く侵食している赤黒い魔力。
変わり果ててはいるが、紛れもなくそれはウォーカーのサーヴァント、ハルだった。
「ハ、ル……!」
士郎は信じたくなかった、セイバーは認めざるを得なかった。自分と契約した、身を呈して影へと呑み込まれた少女との最悪な再会を。
凛とアーチャーは、目前の事実を受け止めた。何にせよ聖杯戦争の最中。歪み堕ちた英霊がどんな幼い少女だとしても事実を事実と受け止めなければいけない──とは裏腹に、思った以上のショックを受けている自分を自覚しながら。
「──」
影に呑まれ、変質したハルは向かい来るバーサーカーに対してはどこまでも無感動な様子だった。
純粋な戦闘能力なら暴力的なまでの存在に、ハルは全く動じていない。本来の彼女なら有り得ない反応。それはまるで『追われるもの』から『追うもの』に成り変わってしまったようだ。
二度殺されて怒髪天を衝くバーサーカーを迎え撃ち、ハルは固く閉じていた小さな口を開く。
『しんよまわり』──と、口の形がそう動くと、羽織られるコートが展開、蠢く夜となってバーサーカーを襲った。
「■■■ッ……■■■■■──ッ!!」
人類が本能的に恐れる夜が自らを包み込み、バーサーカーは咄嗟に退こうとした。が、それよりも早く夜が逃げようとする獲物を包み、呑み込む。質量も関係なく取り込んだ夜は、ハルのコートとして元に戻る。
この瞬間、命のストックがまだまだ残されていたであろうバーサーカーは、容赦なく殺し尽くされてしまった。
「そんな、バーサーカー……バーサーカーッ!」
イリヤスフィールは、すぐ眼前で起こった一部始終を信じられず、泣くように自らのサーヴァントの名を呼ぶ。しかれど返答は無い。代わりに自身に宿る令呪と魔力経路が消失する感覚のみがイリヤスフィール本人に伝わってきた。
「──」
バーサーカーを丸々呑み込んだハルは、そんなイリヤスフィールの叫びに目を向ける。情が湧いたとは到底思えない視線。
すると瞬く内に、ハルはイリヤスフィールの真正面に現れた。
「っ!」
イリヤスフィールより背は低いハル。けれどその不気味さは余りあり、その光彩の無い瞳で見詰められたイリヤスフィールが恐怖で息を詰まらせる。
そこへ駆け付け、イリヤスフィールとハルの間に割って入ったのは……士郎だった。
「やめろ、ハル! もうやめてくれっ!」
両手を広げ、遮るようにしながら士郎はハルに訴えかける。バーサーカーを難なく降し、イリヤスフィールをも手にかけようとしている変わり果てたハルを、士郎は見ていられなかった。
ハルは士郎を見上げる。そして、首を傾げて一言。
「──あなた、だぁれ?」
「ッ……!」
召喚されたサーヴァントの記憶は、新たに召喚された場所や時代に持ち越される事は無い。それは聞いていた士郎だが、これは違った。ハルが新たに召喚し直され、記憶がフラットに戻ったと言うなら納得しよう──だが、今この目の前にいるハルは違う。士郎と契約した彼女そのものが、士郎を見て「知らない」と言っているのが、分かってしまった。
残酷な一言と事実に心揺れ動く士郎に対し、ハルは何の感慨も無い動作で右腕を突き出す。二人もろとも、夜に呑み込もうとしたその時、歪んだ少女に歪な声が掛けられる。
それはこれまで傍観していた臓硯のサーヴァント、アサシンであった。
「やめておけ。覚えていないだろうが、お前とその者達は知己の間柄。ここで殺して、お前の霊基が暴走でもすれば厄介だ。今は夜に沈むが良い」
「ふぅん……?」
アサシンの言に、ハルは疑問雑じりの相槌を打って再度士郎達を見る。その目には『ハル』と言う自我が無く、幾つもの思念が混ざり合ってしまっているようだ。
「そっか。よくわからないけど、そうする。じゃあ、ばいばい」
舌足らずな子供っぽい態度で応えて、ハルは士郎達に手を振ると下りていたフードを被り直し、赤黒い影の触手に包まれて消えてしまった。
「真なる夜に、深き夜。これほど濃密な夜となれば、生者が逃れる術は無い、か。ならば、私も次の機会に貴公らの心臓を戴くとしよう──」
アサシンもまた、飛び退くと闇夜に消え入り、退却する。
残るは、失意に溺れる士郎とセイバー、そして凛とアーチャー、イリヤスフィールのみ……考えうる限り最悪の事態に、一堂は沈黙に浸る。
運命は流転する。黒よりも深い夜が訪れ、少年達は残酷な運命に翻弄される事となるのだった──
【クラス】ウォーカー
【真名】ハル(オルタ)
【性別】女
【身長】132cm
【体重】29Kg
【地域】日本
【属性】中立・悪
ステータス:筋力E 耐久E 敏捷EX 魔力B- 幸運E 宝具EX
散策(B+):クラススキル。歩いて事を成した者の特典。英霊となるに至った経緯に応じた一定の環境下において、魔力供給を必要とせず周りの環境を魔力に変換して補給する。ハルの場合、夕暮れから明け方にかけての夜間に適用。そのため、夜に近しい闇に染まった事でランクアップしている。
精神混濁(C+):本来の精神に別の精神が介入・混在し、本来の精神が異常を来している状態。『精神汚染』のマイナーチェンジであり、『狂化』のように理性が削がれているが、何らかの条件により本来の精神性が復帰される事がある。
夜の隠者(A):"夜"と言う環境の中で、気配感知系統の魔術や技能をシャットアウトするスキル。本来の形のスキルである『夜のかくれんぼ』とほぼ同一だが、追うものから身を隠すものではなく、あくまで夜に潜むものに寄った形に変えられている。
身代わり藁人形(C+):トイレの花子の藁人形。あらゆる攻撃から標的を移す効果を持つ。元が怪異からもたらされたものであるため、宝具『怪異蠢く深夜の衣』を通して変質前より使い勝手良く扱えるようになっている。
おまもりの加護(-):闇に染まったため使用不可。実質失われている。
山の残響(E):山の神の呪い。またはトラウマがスキルとして変質したもの。精神的に衰弱した際、呪いが『声』として表れ、あたかも故意の行動であるかのように死へと導かれる。ただし霊基変質に際し、在り方が夜の側に傾いたため、その効果は著しく薄い。
たとえその手を離そうとも(‐):最早自我は奥底に封じられているため、実質失われている。
宝具:『
ランク A
種別 対人宝具
『怪異蔓延る深夜の街』が変質化し、心象風景を自らの身に纏って夜の世界を自身の一部としている。常時発動型。
"自分が夜そのもの"と定義し、神出鬼没に現れてはフーデッドコートに形を変えた夜の世界から『ナニか』を喚び出す。この宝具に殺されたものもまた、夜の世界の住人とされてしまい、破壊不可能かつ無尽蔵に『ナニか』を増やして生者を追い詰めていく。
常に発動しているため魔力コストは高いが、スキル『散策』により自身が"夜"である限り魔力が消費した瞬間から回復される。
また、この宝具によりハルは常に心を蝕まれており、恐怖や不安などの負の感情をハルが募らせるほど、夜の世界は深まっていく。苦しんだだけ強くなってしまうと言う、痛みを伴う宝具である。
宝具:『
ランク-
種別 -
変質化により使用不可。
『
ランク-
種別 -
変質化により使用不可。
『
ランク-
種別 -
変質化により使用不可。
概要:
聖杯の泥によって変質したウォーカー──ハル。
オルタナティブ(別側面)と銘打っているのとは裏腹に、その在り方は最早『もしもハルが怪異となっていたら』と言うIF的なものであり、本来の形から大きく歪んでしまっている。
本質が『夜』であったため、聖杯の泥との相性は悪い意味で悪くなかったようで、心象風景をコートとして纏う形で現し、より宝具とスキルを自在に使いこなせるようになっている。
しかし、その歪んだ在り方から最早『英霊ハル』の意識は封印されており、意識と精神は非常に不安定。自らの身に纏う夜の世界に潜む無数の怪異の意識も織り混ぜられており、英霊と言うより歪んだ亡霊と言える。
怪異に近い形になった事で、英霊ハルとしての性質も大きく変化している。追われるものから追うものに、夜から逃げるものから夜そのものになり、介入・混在する怪異の意識から生者を優先的に狙う。そこには一切の躊躇も悲哀も感じられなくなってしまっている。
そんな彼女だが、性質が怪異に寄ったせいか夜は自由に動ける反面、太陽が昇り沈むまでの日中は活動できなくなっている。聖杯の魔力を用いれば可能ではあるが、彼女自身が日の光を嫌うため、基本的に夜の間しか動く事は無い。
また、そこから『散策』により魔力供給は不要なため、聖杯からの魔力は受け取っていない。仮に供給されていても、彼女の性能からして魔力を持て余すと推測される。
記憶を封じられている彼女は、本来の自分を知っている人物を嫌う。自分の知らない自分を見る目を向けられるのは、その『知らない自分』が霊核の奥でざわつくからである。
だから時折脳裏にちらつく赤いリボンの少女の、その哀しげな顔を見ると、何も分からないはずなのに堪えられなくなるらしい。
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まずは釈明を。
何故こんなものを書いたのか──最たる理由として、これがfateと夜廻のクロスオーバー作品だからです。
上げて落としてくるfateに、とことんプレイヤーの心理を突き幼女と犬に容赦ない夜廻。これ混ぜてしまったら、そりゃ絶望成分抽出せざるを得ないかと。多分これ思い付いた時、俺は山の神に操られてたんだと思う。おのれ山の神ィ!
で、生まれてしまったハルオルタ。セイバーの代わりに影に呑み込まれた場合のハルで、思い付きにしてはバーサーカー完封してて軽く震えてます。夜を纏うとか……これが高機動少女ハルちゃんか(混乱)
因みにイメージコンセプトは、デミヤとバーサーカー牛若丸と『処刑少女の生きる道』の万魔殿です。再臨すると痛々しくなるデミヤとは逆に、こちらは最初から歪なため何もかも怪異に染まった感じ。FGOなら再臨したくない鯖パート2ですね。
桜ルート未プレイなので、ここから原作のセイバーオルタにあたる黒ハルちゃんがどう動くのか分かりませんが、もし劇場版を観れる機会があったら続き書くかもしれません。良ければ、誰か書いてくれても有り難い。正直、ここから先書くのは辛すぎるし……