Fate/staynight [Midnight Walker]【本編完結】   作:秋塚翔

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道半ばで潰えた彼らのことを、たまには思い出してあげてください。


とある夜の一幕

 ある夜、立香はふとした拍子に眠りから目を覚ました。

 時刻を見ると、まだ起床には早い時間。しかしハッキリと覚醒してしまったせいで、しばらくそのままベッドで横たわっていても、いまいち眠気が訪れない。

 仕方なくベッドから降り、軽く散歩でもして気分転換しようと行動に移す。しっかり睡眠を取るのも大事だが、これではどうしようもなかった。

 

「んー……誰もいない、か」

 

 カルデアがある場所の環境上、外は朝か夜かも分からない真っ白な景色だが、時間帯的には夜であるためスタッフも交代で寝ており、この区画近辺に人気はない。それを少し残念に思いながら、立香は独り歩き出す。

 照明は落ち、非常灯のみが照らされる通路は、常日頃のそこにはない妖しさを醸している。カツ、カツ、カツと立香の足音だけが響き、また長くは鳴り響かず薄闇に溶けていった。

 そんな中を少し進んだところで、立香の耳に音が届く。これは──人の話し声だ。

 

「~~~で、~~~~~なんだろうな?」

「ああ、~~~~~。~~~です」

 

 どうやら交代で今作業している職員の声らしい。緩いカーブを過ぎると、案の定二人組の男性スタッフが資料片手に何か話し合っている。

 

「こんばんは」

「お、こんばんは」

「Good evening. おや? 確かまだ就寝の時間じゃなかったかい?」

「あはは、ちょっと目が冴えちゃって……」

 

 挨拶してみれば、人当たりの良さそうな笑顔で返されて安堵する。顔の知らない職員。コフィン管理など裏方の担当だろうか?

 すると片割れの男性が、思い付いたように立香へと申し訳なく頼み事を投げ掛ける。

 

「ちょうど良かった。予定がなければ、少し手伝ってもらえないかな? 次のレイシフトに向けて試しておきたいシークエンスがあってね」

「あ、はい。私にできる事があるなら」

「話が早くて助かるよ。さあ、こっちへ。案内しよう」

 

 不自然さのない、むしろ安心する口ぶりで手招きされ、立香は職員らに歩み寄る。あの爆破テロで多くのスタッフが亡くなり、外からの支援もない中で一人きりとなったマスターである自分のサポートをしてくれている人たちだ。頼まれれば、協力するのはやぶさかではない。

 そう思い、近付こうとした立香の腕を、小さな手が掴んで引き留めた。

 振り向く。するとそこには、ハルの姿があった。

 

「ハル姉? ……どうしたの?」

「ダメ」

「え?」

「そっちに行ったらダメだよ」

 

 真剣な視線が、立香を射抜く。悲しさと恐怖が入り交じる強い目は、冗談で言っていないことを立香に真っ直ぐ訴えていた。

 

「どうしたんだい。早く行こう」

「Hey. みんなも待ってる。遅れたら私達が叱られてしまうよ」

 

 正面からスタッフ達の声。待たせてるなら、早く行かないと。そう思うが、不思議と足が止まってしまって動かない。何故。それは自身の本能か、ハルへの信頼か。

ほどなくして、それに結果が追い付く。

 

「ほらほら、急ごう──ミンなマッてる」

「おイで。イッしょニ」

 

 彼らの言葉が、歪んだ。

 さっきまで人の良さそうな物腰だった二人は、一瞬目を離しただけでもう何処にもいなかった。いるのは、辛うじて人の形をした真っ黒い影。

 ゆらゆら揺れて、まるで陽炎のよう。目を凝らすと、彼らの肩の向こうの暗闇には、更に歪な影が手招きするように揺れていた。ブツブツと、暗い声を漏らして。

 

 ──ナゼだ。なぜ、ナぜだ

 

 ──熱い、アツいよオオオオオ

 

 ──タスケてくれー、シにタクないー

 

 ──どうしテお前はイキ、てる

 

 ──あはあはは、あはははははははははは

 

 困惑。痛み。助け。怒り。狂気。その他雑多な負の呟きが立香に向けられている。見ているだけ、聞いているだけでズシンと胸に響く言葉の数々。影たちは、立香の死を求めていた。

 先頭のスタッフだった影らが、怨嗟の声を通らせる。

 

「どうせ、人類は、おわりだ。イッショにシのう」

「死ね死ね死ね死ね死ね。どうしてAチームでなくオマエがイキている。死ね。死んで償え。はは、ははは、だからオレが死んだ。だから死ね」

 

「!」

 

 ああ、そうか──立香は理解する。

 彼らはあの爆破テロで死んでしまった職員達だ。生前は存命の職員達と同じく、人理を守るためカルデアに集った人たちだったのかもしれない。だが、理不尽に死んでしまった今となっては、もう人理などどうでもよくなるほど歪んでいた。一人でも多く、道連れを求めるほどに。

 影たちはこちらに手を伸ばす。

 

 ──こッチ に こい

 

 ──おまエラが、マダいきテルから、クルしイン、だ

 

 ──オイデオイデオイデオイデオイデ

 

 

 

「ダメだよ」

 

 

 

 その苦しみに満ちた誘いを遮ったのは、ハルだった。

 立香の前に立ち、僅かに怖さで震えながらも毅然とした立ち姿で影に向かい合う。

 

「マスターは行かせない。みんなも。みんな頑張ってるんだもの。邪魔しないであげて」

「ハル姉……」

 

 怨嗟まみれる影に、真っ向から言い放つ。それでも影は意味のない憂さ晴らしをするように、こちらへとゆっくりにじり寄ってくる。ハルはギュッと唇を結び、マスターである立香を全身で守る姿勢。

 その時──二人の背後から、風斬り音が過ぎ去る。

 二つの刃。黒と白の短剣が少女の左右を通り、迫り来る影らを回転しながら両断した。

 途端、影は微かな唸り声を上げて消える。

 

「──妙な気配を感じて来てみたが、危なかったな」

「! エミヤっ?」

 

 静寂が戻った通路の奥から白髪に褐色肌の弓兵、エミヤがやって来た。どうやら先ほどの短剣は、彼が放ったもののようだ。

 赤い外套を着ておらず、前髪も下ろした柔和な出で立ちのエミヤは、安堵した様子で立香とハルに声を掛ける。

 

「無事かね、マスター。それにウォ……ハル」

「アーチャーさ……じゃなくて、エミヤ、さん」

「フッ──お互い呼び名にはまだ慣れんな」

 

 苦笑するエミヤとハル。どうやら同じ聖杯戦争で召喚されたもの同士特有の、クラスでの呼称が抜け切らないらしい。特にエミヤは最近このカルデアに喚ばれたため、まだクー・フーリンやメディア、メデューサといった先に来ていた知り合いの英霊にも真名呼びに慣れていない。

 コホン、と誤魔化すように咳払いするエミヤ。

 

「それにしても、多くの職員が死んだとは話に聞いていたが、まさか化けて出てくるとはな。明日にでも死霊に詳しいキャスターに頼んで、魔除けを施してもらおう」

 

 エミヤのそうした提案に、ふと立香は口を開いた。

 

「……あの、エミヤ。できれば、その……あの人たちがもう苦しまないようにしてあげられる?」

 

 僅かばかりの懇願。

 面識なんてほとんどない、死んでしまった職員たち。変わり果て、生者に危害を加える存在となっていたが、それでも無下にはできなかった。せめてちゃんと供養できるまでは、安らかに眠らせたいと立香は思う。

 その考えを汲み、エミヤはフッと微笑む。

 

「了解した、マスター。そのオーダーも伝えておこう。だから今一度自室で体を休めるといい。少しでも回復するに越した事はなかろう」

「うん。ありがとう、エミヤ。それと、助けてくれてありがとう。ハル姉、エミヤ」

「えへへ」

 

 頼れるサーヴァントたちに感謝し、ふと立香は振り返る。もう何もない暗闇。しかし確かに潜む気配に、心から頭を下げた。

 ごめんなさいとありがとう。関わることもなかった職員たちに立香は謝罪と感謝を伝える。きっと、未来を取り戻してきます。その時まで待っててください、と。

 改めて決意を固め、次の戦いに向けて歩き出す。そんな夜の一幕であった──




前回、立香は「お姉ちゃん」でハルは「立香ちゃん」呼びでしたが、外では基本今回の通り呼び合ってます。
マイルームでは初っぱなから絆レベル5なんで、お姉ちゃん立香ちゃん呼びですがね。

ムニエルさんやダストンさん達のように、生き残ったからこそ結束を固めて未来へ進もうとするスタッフもいれば、訳も分からず殉職して立ち止まってしまったスタッフもいる。その上に人類最後のマスターは立って、人理の命運を背負ってるんですよね。たまには交流を深められた可能性もあったかもしれない、名前も知らぬ彼らを追悼したいと思ってもらえたら嬉しい。

もう幾つか日常的な回、またはメイン特異点ごとのシーン抜粋の単発回をやるなどしてからイベント的な続き物に着手したい。SN編の零れ話も予定。
今んとこそれまでのネタはノーアイデアなので、もしリクエストなどありましたら是非ともコメントで提案していただけたら助かります!(「ハルとこのサーヴァントとの絡みが見たい!」など)

評価、コメントもできることなら宜しくお頼申します!
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