Fate/staynight [Midnight Walker]【本編完結】   作:秋塚翔

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お久しぶりです。

停滞と諸事情により更新止まってて申し訳ありません。待っている方がいてくれたならマジでお待たせしました。
夜廻三発売からも結構経ってからの投稿。思い出の中の少女めっちゃ好みなんだが? 予想裏切って幸せになっても許してたのに日本一マジ日本一。その悲しみ背負ってここから書き進めていきたい所存です。


盾の少女と深夜の少女

 時折、不思議な夢を見る。

 そこでの私は行ったことのない日本で暮らしていて、ある大火災に巻き込まれ命を落としてしまうが、現実の私と同じように紆余曲折を経てサーヴァントとなり、見知った顔の英霊たちと聖杯戦争で戦うというものだ。

 映像は途切れ途切れで、結末も大抵分からずじまいで終わる、決して真っ当ではない運命。捨てられた子犬のようだったその私は、自身のマスターを殺し、大火災の中で一人だけ生き延びた少年のマスターに対して強い憎悪を抱いていたらしいことから、大目に見ても幸せではなかったのは明らかだろう。もしかしたら、あちらの私が同様にこちらの私を見ているならば、何故私ばかりがと妬まれているかもしれない。それほどに悲運な盾の少女、それが夢の中での私だった。

 だけど、それを理解している上で、我が儘にも言わせてもらうのなら。

 生きる権利を与えられながら生まれ落ち、自らの意思で立って終われるのなら。選択肢が限られる私からしてみれば、なんて羨ましい人生なのだろうか――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とあるレイシフト先にて。

 必要な資源(リソース)を回収した立香たちは、日が暮れてきたのもあって帰還は翌日に持ち越し、今夜はそこで探索の疲れを癒やすこととなった。

 安全を確保してキャンプを設営、同行サーヴァントはマスターである立香の魔力量を考慮し、交代で見張りをする。町や村があれば交渉して宿を取ることもできたろうが、そうした都合のいい状況はなかなか無いだろう。とにもかくにも、野営も慣れている立香一行は夜空の下で休むことにする。

 

「こちらは異常ありませんね……」

 

 見張り番をするサーヴァントの内の一人、マシュが念入りに周囲を見回っていく。

 デミ・サーヴァントである彼女は、もちろん最初は立香と同じく休息するよう言われたのだが、生真面目な性格もあってマスターを守るのはサーヴァントの役目ですと固持し、ならば一度だけ担当してから、ということで落ち着いた。

 夜の帳が落ち、すっかり暗闇に染まる風景の中、手元の灯りで照らして辺りの安全確認を行うマシュ。幸い敵性反応はなく物静かなもので、これなら問題なしと戻ることにした。

 すると、不意に喧騒――と言っても余りに些細な音が、彼女の耳に捉えられる。

 何事かとマシュが気になってそちらに足を運ぶと、

 

「フォウ! フォウフォーウッ!」

「わんわんっ! わうんっ!」

「ダ、ダメだよ。喧嘩しないで、チャコ」

 

 そこには牽制し吠え合う小動物二匹と、その状況下にオロオロしながら独りどうにか制止しようとしている青いリボンと明るい髪色、ウサギのナップサックが良く似合う少女──ハルがいた。

 事態を認めたマシュが、すぐさま駆け寄る。

 

「大丈夫ですかっ、ハルさん」

「! マシュさん」

「いけませんよフォウさん。プライベートでの私闘行為は、誰であろうと許可されていません」

「キュウ……」

 

 マシュに叱られたフォウ――また盾の格納スペースに潜んでついてきていたようだ――は大人しく引き下がり、ハルの愛犬であるチャコも、ハルに抱きかかえられて何とか収束する。

 ハルはマシュに向かってリボンを乗せている頭を下げた。

 

「ごめんなさい、マシュさん。チャコが全然やめてくれなくて」

「いえ、こちらこそフォウさんがご迷惑おかけしました。どうやらフォウさんは、チャコさんにマスコット的な意味で何やらライバル心を抱いているようで……」

 

 またトテトテ何処かに走り去ってしまったフォウに代わり、マシュが困り顔で謝罪を返す。前からフォウがチャコに対抗心を燃やしていたのは把握していたが、取っ組み合いまでは至っていなくともどう収めたら良いするのか悩ましいものである。

 ハルはスキル『散策』により魔力消費がないため、こうして散歩していたらしい。そこで同じように散歩していたフォウと出くわしたようだ。

 お詫びにマシュが飲み物を取ってきて、一緒の場所に腰掛ける。

 もらったそれに「ありがとう」と述べて口をつけるハル。立香がいつもハルのため用意していた甘い味に顔を綻ばせた。

 

「――――」

 

 その横顔を微笑ましく眺めつつ、マシュは徐に内心を曇らせる。

 

 ――マシュはハルのことが苦手だ。

 

 嫌い、という訳ではない。それは断言できる。サーヴァントの先輩として尊敬しているし、アルトリアやエミヤが親しくしていることから信頼に足る人柄なのも分かるだろう。だが、立香が間にいない時は積極的に交流していないのが現状だ。今も、こうしたきっかけがなければ会話なく終わっていた。

 マシュがハルを避けている理由は、初めて出会った特異点Fでの彼女の宝具が起因している。

 夜の世界を現実に映し出す宝具。ほんの一時、短い時間での展開であったが、その光景を一目見たマシュは()()()()()()()

 いつも見ている世界のすぐ傍にある"死"。それを体現したような怨念や悪意が潜んでいる世界を目の当たりにし、まだ(それ)を実感したばかりの少女は恐怖を芽生えさせる。同時に、その世界を携えるハルを怖いと思ってしまったのだ。

 ……間違った認識だと自覚している。"死"の世界を望んで携えてるなど、この愛らしい少女からはとてもそうは思えない。しかし一度根付いた恐怖心は自力で払拭できず、マシュはそのことに常日頃悩んでいた。仲間への不信とも言えてしまう、その感情に。

 夢で見た、ここではない世界線の自分が抱いた『死にたくない』という想い。それが、あの瓦礫と炎に囲まれる中で立香(先輩)が手を握ってくれて、『生きたい』と願った現実の自分の心にも影響しているのか、今ですら夜を背景にしたハルに暗い感情が湧いてしまう。

 どうにかしなければ――そう思いを巡らせるマシュの顔を、ハルはふと見やって口を開く。

 

「怖い?」

「えっ……」

「ごめんね。最初――あんなもの見せちゃったせいで」

 

 申し訳なさそうに言うハル。言葉から何のことを言っているかは明白。顔に出してないつもりだったが、分かりやすいほど思い詰めていたのだろうか? 取り繕うことはせず、慌ててマシュは頭を下げる。

 

「す、すみませんっ。あの時ハルさんは私たちのために奮闘してくださったのに、こんなこと……!」

「いいんだよ。当たり前だもん。あんなの、怖いよ」

 

 夜に落ちた景色を、あの街と重ねるようにハルは虚空を見つめる。

 ここは()()()()()()()がいない場所であるが、やはりこんな時間にこうしていると、いつお化けが出てくるかと怖くなる。こればかりは幾ら英霊でも慣れない。

 

「マシュさんのその気持ちは間違ってないよ。怖いものは怖い。それを忘れちゃったら、きっと人じゃなくなっちゃうんじゃないかって思う。だからいいの。あの夜を怖くても、マシュさんは正しいよ」

「でも、私は、ハルさんも……」

「それは凄く寂しいけど、いいんだ。マシュさんは、自分の命はどうでもいいって思ってそうだったから。夜を、私を怖がって変わってくれたらいいなって、そう思ったんだ」

 

 達観しているような物言い。けれど、そこには子供らしい想いが籠っていた。

 アーカイブで見た、英霊ハルのプロフィール。大切な友だちを死なせてしまった彼女は、自分にも死んでほしくないと思っているのだろう。人理修復という偉業の成就の前には、余りにも甘い考え。

 だが、それが『人間』なのだと、マシュはこの旅路で知っていた。先輩である立香がそうであるように、誰もが死にたくない、死んでほしくない。生きる価値をくれた世界を、マシュは諦観していた日々よりも愛おしく感じていた。

 そんな願いを向ける少女を前にして、マシュは不意に自らの頬を手で強く張る。パンパン! と、小気味いい音にハルが驚く。

 

「――いえ、いいえ! それではいけません! それでも……いえ、だからこそハルさんを避けるのはお門違いです!」

 

 何かのスイッチが入ったように、バッと力強くハルに顔を向かい合わせるマシュ。

 

「なのでハルさん、貴女のことをもっと良く知るために、これからもっと親交を深めましょう!」

「え? ……う、うん。よろしく?」

「ありがとうございます! 先輩の正式な契約サーヴァント同士、仲良く致しましょう!」

 

 突然の提案に戸惑うハルと固く握手を交わし、マシュは鼻息を一つ漏らす。そしてちょうど他のサーヴァントが心配して見に来たところで、ハルと別れて眠りに就くことにする。

 怖い、という感情がまだ吹っ切れた訳ではない。現に暗闇が怖くなる。目を瞑るのすら恐ろしくなる。しかれど『怖くていい』というハルの言葉、そんなハルをもっと知ろうと思った意思が芽生えたマシュは、未来を想起しながら夢に落ちていった。

 

 その日の夢、たまに見る違う運命を辿った自分の夢で、手を差し伸べてくれた青いリボンの少女がいたのだが、不思議とそれは朝目が覚めると忘れてしまっていた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日。カルデアにて。

 

「マシュ、おはよう」

 

「アルトリアさん! おはようございます! これから食堂ですか?」

 

「ええ。ところでマシュ、最近ハルと仲が良いようですが、何かありましたか?」

 

「ああ……ちょっと私が行き違っていただけで、それが解決しただけですよ。今日もこれから部屋のお泊り会を開催する予定です。よろしければ、アルトリアさんもどうですか?」

 

「それは魅力的な誘いですね。是非ご一緒させてください」

 

「はい! ハルちゃんにも伝えておきますね。後でいらしてください!」

 

 笑顔を見せて立ち去るマシュ。その顔はまるで年相応で、アルトリアはまた一つ無垢な心に色彩を表している少女の後姿を見送って温かく微笑むのだった――




フォウ「わし獣ぞ? めっさモフモフぞ? ぽっと出が出しゃばんなやゴラァ」

チャコ「こちとら守護獣やぞ。それにモフモフなら負けんわ。比較すんなやオォン?」

マスコットの覇権争いの図。

冒頭のマシュの夢は、SN没案のタチエちゃんより。ハルが関わっていたかどうか、ハルがいてどうなっていたかは元が未定でボツったので不明という形に。
割と執筆にブランクあるので見苦しいとこあるかもですが、今回はマシュとハルの交友回でした。夜を怖がるマシュの心理状況は、心霊番組見た後にお風呂入る時の恐怖感の最大級とでも解釈してもらえれば。分かってても怖いもんは怖い。
「ハルさん」から「ハルちゃん」呼びに変わっているのがポイント。良縁に恵まれるハルは良い文明。

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