Fate/staynight [Midnight Walker]【本編完結】   作:秋塚翔

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fgoのエイプリルフールって、機種が対応してないと石が貰えるだけの暇な日ですよね。俺も無限に石を投げて人理修復する遊びがしたかった……(泣)

少し手こずりましたが、何とか形にして書き上がった今回。どうぞ温かい目でご覧ください(保険感)


#6 暗夜

()()()のサーヴァントだと?」

 

 

 とある陣営のマスターとサーヴァントが会話を交わしている。

 但し彼らは同じ場所にいない。マスターは自らの拠点に、サーヴァントはそのマスターからの指示で市街地に赴き、樹木の枝に乗って幹に身を任せていた。念話による遠距離会話だ。

 サーヴァントはマスターの言葉に怪訝な顔を浮かべた。

 

 

「ソイツが一昨夜、俺を出し抜いた奴か。ありゃ見るからにガキだったぞ?」

 

 

 半信半疑のサーヴァントが空を仰ぐように言う。マスターはそんなサーヴァントに使い魔を放って知り得た情報を伝える。

 

 

「セイバーとアーチャーが、ソイツと手を組んだ? ……ハッ、そりゃあ困ったなマスター。お前さんにとっちゃ面白くないんじゃねえか?」

 

 

 意地悪く鼻で笑う──実際、そうするだけの印象をマスターに抱いている──サーヴァントに構わず、マスターは拠点から次なる指示を送る。令呪によるものではないが、確かな命令。しかもサーヴァントが断らずとも嫌な顔をする類いの、だ。

 

 

「……はいよ。そんじゃ、ちょっくら行ってきますかね。俺を出し抜いてくれた奴の顔を拝めるしな」

 

 

 聞き届けたサーヴァントは、割り切ったような態度で動き出す。一旦切った念話の先で、怪しい笑みを浮かべてるだろうマスターを呆れ気味に思い浮かべながら跳躍、標的を探して夜の街に飛び込んだ──

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

「今日はこっちだね。行こう、チャコ」

 

 

「ワン!」

 

 

 可愛らしいウサギのナップサックを背負い、愛用の懐中電灯を手にしたウォーカー──ハルは今夜もまた暗がりの街へと探索に出掛ける。

 仮契約を交わして昼間も動けるようになっても、こればかりは習慣だ。それに士郎(マスター)の負担が掛からないよう、魔力供給が不要な夜間に動いた方が良いと言うハルの気遣いもあった。

 

 

「士郎さん、何処にいるんだろう……?」

 

 

 そして今回の探索は、そのマスターである士郎を探す事も目的としていた。

 セイバーの制止を諭して登校した士郎は、あれから日が落ちた今もまだ家に帰ってきていない。何かあったのか……心配するハルは魔力温存で下手に動けないセイバーを家に待たせ、探索と捜索を兼ねている。何かを探す事はウォーカークラスのサーヴァントの分野だ。

 愛犬(チャコ)を引き連れて今日もそうして夜道を行くハル。懐中電灯と街灯の明かりを頼りに、お地蔵さんへお供え(セーブ)しながら学校をひとまずの目的地に歩いていく、のだが……

 

 

(……お化けが、いない……?)

 

 

 明らかな違和感にハルは首を傾げる。そう、家から暫く歩いたと言うのに、あれだけ少なからずさ迷っていたお化けが見当たらないのだ。

 いつもならハルを狙って追い掛け、脅かしてくるお化け達は気配こそしても出てくる様子は無い。本来なら有り得ない事態。生者にあらゆる思念で襲ってくるお化け達が隠れたまま何もしてこないのはハルからすればおかしかった。

 あるとすれば例外が一つ。教会へ出向いた時、セイバーやバーサーカーが居る前では現れなかったように、ハル以外の魔術師やサーヴァントが近くにいる時くらい──

 

 

 

 

「よう、探したぜ」

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 と、突如発せられた声に振り向こうとしたハルの目の前に、声の主である男が身軽に着地し姿を現した。いきなり現れた男の姿にハルは驚いて尻餅を着く。

 街灯に明るく照らされる青いタイツを身に纏い、手には青の装束に映える朱色の槍を提げ、整えられた顔立ちには獰猛さが窺えるその男は──サーヴァント・ランサー。一昨日、アーチャーと交戦し士郎を刺し殺したサーヴァントだ。

 いきなり敵サーヴァントが現れ、尻餅を着いたハルは遅れを取る。代わりに逃げられない主人(ハル)を守ろうとチャコが前に出てランサーを吠えたてた。

 

 

「おっと、悪い悪い。おどかすつもりは無かったんだわ。ひとまず犬を退かせてくんねえか?」

 

 

「……?」

 

 

 だが一方のランサーは、そんな一騎と一匹にそう言い放った。槍を肩に掛け、見るからに戦意や敵意は無い姿勢。それにハルは戸惑いながらも言われるままチャコを制する。

 チャコが「クゥン」と鳴いて大人しく引き下がると、立ち上がったハルは恐る恐るランサーに向き直った。

 

 

「……何の用、ですか?」

 

 

「なに、大したもんじゃねえさ。うちのマスターがイレギュラーなサーヴァント……つまりお前さんに接触してこいってんだよ。で、ソイツが聖杯戦争自体の危険分子になりえるなら始末して、利用価値があるなら連れてこいって命令だ。ったく、俺の雇い主は慎重だか臆病だかでいけねえ」

 

 

「!」

 

 

 やれやれと言わんランサーの言葉に、ハルは後ずさる。

 ランサーはセイバー、アーチャーに並ぶ三騎士と名高いクラスだ。その実力は戦いの中に身を置き、武勲を上げてきただけはある。そんな歴戦の英雄がマスターに生殺与奪の命令を受けて現れた……流石のハルとて危機感は覚えた。

 小石はある。一歩手前には草むらもある。何なら宝具やスキルで翻弄もできる。初見殺しでなければ、逃げ隠れなら手慣れたものだ。あとは敏捷の値が高いランサーをいかにまた出し抜くか……

 そう頭に過らせていたハルに、ランサーは「だが」と続けた。

 

 

「どうやら俺のマスターは、お前さんを怖がりすぎらしい。利用価値は知らんが、俺にはどうもお前さんをどうこうする気が起きねえ」

 

 

「え?」

 

 

「つまり俺は何も手出ししねえってこった。良かったな」

 

 

 言って、手に握られた槍を霧散化させ非武装になるランサー。すぐ武器を取り出せるサーヴァントに関しては、それはまだ油断ならないのだが、ランサーに騙そうと言う気は見られない。

 

 

「本当に……何もしてこない?」

 

 

「お前さんがそのつもりなら吝かじゃねえぞ? けど、そうしないなら話は別だ。俺はマスターの指示通りお前さんを実害は無いと判断して見逃してやらぁ」

 

 

 してやったり、と言う風にランサーは口角を吊り上げて笑う。どうやらこのサーヴァント、マスターとの折り合いは良くないらしい。と言うよりウマが合わないのだろうか?

 呆気に取られるハルにランサーは言う。

 

 

「とりあえず自己紹介と行くか。俺はランサーのサーヴァントだ。お前さんは?」

 

 

「あ、えっと……ウォーカー、ハル……」

 

 

「ハルか。良い名だ」

 

 

 流されるままの余り、つい真名も名乗ってしまう。しかしランサーは対して気にした様子は無く、純粋に名乗られて満足な様子だ。

 本当に敵じゃない……? そう考えてしまうハルだが、それは仕方のない事だろう。ハルはあくまで子供で、英雄と呼べるほど栄誉に満ちた経験を積んでいない。友好的に迫られれば、いかに「知らない人についていかない」と教えられてたとしても油断する。

 そうしたハルへランサーは近寄る。そして、不意に槍を再び具現化させるとその切っ先で……

 

 

 何処からともなく飛んできた矢を弾き飛ばした。

 

 

 ──ギィンッ!

 

 

「!」

 

 

『……やれやれ、野犬は油断がならなくて困る。貴様に子供を襲う趣味があるとは思わなかったがね、ランサー」

 

 

 矢を弾いたランサーが飛び退くと、ハルの前で声が響く。霊体化を解きながら現れたのは、赤い外套の男──アーチャーだった。

 ランサーはアーチャーの姿を確認すると、面倒そうに毒を吐く。

 

 

「バカ言え。そうほざくテメェもガキを尾ける趣味があんのか? 嫌に早いご到着じゃねえか、アーチャー」

 

 

「何の事は無い。マスターの同盟者を家まで護衛していて、犬臭い魔力を感知して来てみれば同盟者のサーヴァントが襲われているじゃないか。助太刀するのは当然だろう?」

 

 

 同盟者──ハルを背にしてアーチャーは返答。ランサーは一つ鼻で吐き捨てるように笑うと、臨戦態勢を解いて霊体化する。

 

 

「まぁ良い。俺の仕事は繰り上げだ。今回は俺の独断で見逃すが、次に会う時は敵として容赦できねえから覚悟しておけよ……()()

 

 

 そう言い残して完全に消え去る。退却したようだ。

 と、ランサーがいなくなったその場に新たな人物が駆け寄ってくる。士郎だ。

 

 

「ハル!? 無事か!」

 

 

「! 士郎さん……その腕、どうしたの?」

 

 

「あぁ、学校でライダーのサーヴァントに出会してな……さっきまで遠坂の家で手当てしてもらってたんだ。心配させて悪い」

 

 

 腕に包帯を巻いた士郎が申し訳なさそうにする。ハルはとりあえず士郎に大事無くて安堵した。

 

 

「さて、後の付き添いはウォーカー殿に任せるとしよう。私は戻らせてもらうぞ」

 

 

「……一応護衛してもらったし、礼は言っとく。ありがとうな、アーチャー」

 

 

「ふん」

 

 

 何やら少し険悪なムードの士郎とアーチャー。何かあったのだろうか?

 首を傾げるハルに、ふとアーチャーが視線を移して言う。

 

 

「これはお節介だが、君も聖杯戦争に参加するサーヴァントならもう少し警戒心を持った方が良い。他のマスターやサーヴァントは同じく聖杯を狙う敵同士。いっそ私やセイバーにも敵意を忘れない事だ。でなければ、寝首を掻かれる事になるだろうよ』

 

 

 忠告を述べながら、アーチャーもまた霊体化する。恐らく凛の下に戻るのだろう。

 残された士郎とハルは、それぞれアーチャーに言われた言葉を思い返しつつ、セイバーの待つ自宅に帰るのだった──




このランサー、なんとなくホロウや衛宮さんちの~のアニキ然なランサー感が否めない。ハルと関わらせるとなると、このくらい歩み寄らせないと人見知りのハルが警戒しっぱなしかなって。

分かると思いますが、補足として今回はUBWにおける「同盟を組まなかった凛が学校で襲ってきたところにライダーと遭遇し、学校にマスターがいる事が判明する」一方その頃な話です。
ただし今作……と言うかこのMWルートの凛は同盟を組んでるので、そこだけは相違点になります。ランサーがハルに接触してどうなるか。それは今後にて。

因みにランサーがまた槍を出して矢を弾いた場面、人によっては「ハルを騙し討とうとしたけど邪魔された」ように見えますが私の描写不足による語弊です。「ハルと世間話でもしようとしたら勘違いしたアーチャーが攻撃してきたから防御した」が正解。紛らわしいな、俺の書き方。

次回はvsキャスター前哨戦。ハルの隠されたスキルと宝具の新しい使い方が披露です。
宜しければ評価やコメントをください!お褒めの言葉があると執筆速度がAランクまで瞬間的に上がるかもしれません。

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