Fate/staynight [Midnight Walker]【本編完結】 作:秋塚翔
でも楽しい。遂にお気に入り登録者数が看板作品の10倍を越えました。看板作品交代のお知らせ。
今回は力作。しかし力を込めすぎた感ありますが、楽しく読んでいただければ幸いです。
──ズバアァッ!!
キャスターが放った幾本もの光線が空を切り裂き、凄まじい熱量を持って降り注いだ。地面を溶かし、建物を半壊させる威力を有したそれらを、アーチャーは流れるような身のこなしで掻い潜っていく。
そこはもう、常識から逸脱した世界。人間が介入する余地の無い、人ならざる者同士の戦い。人知を越えた殺し合いが、そこで繰り広げられていた。
「……」
それを間近で目撃しながら、士郎は別の事に思考を巡らせていた。他でも無い、ハルの事だ。
今も共にアーチャーとキャスターの戦いを傍観しているこのサーヴァントは、見た目だけで言えばまだまだ幼い子供に違いないだろう。しかし士郎は、そんな彼女を内心何処かでセイバーやアーチャーらと"同じ"に捉えていた。
誰も成し得なかった偉業を為した末、英霊となったウォーカーのサーヴァント──ハル。それが士郎の印象だ。士郎は彼女をただの人間では辿り着けない英雄の一人だと思っていた。
けれど、違うのだ。それを今なお怯えた様子のハルを見やって気付く。やはりハルは見た目通りの子供であり、英雄になるべくしてなったのではなく、何か大切なもののために前へ突き進んだ結果、一人の英雄に数えられた何処にでもいる女の子に過ぎないのである。
果たしてこの小さな背中に、どれだけのものを背負ったのだろう。その幼い瞳は何を見てきてしまったのだろう。功績とは不釣り合いな心と体。今、ここで怖がっている彼女を誰が責められようか。
何かするつもりだ──士郎は感付く。中身はただの少女であるはずの彼女が、英雄然と行動する気配があった。その原動力は
何をするつもりだ?──それは、命が一つきりの人間には分からない。
「──」
同じ英霊でありながら、とても真似できない戦いを見上げるハルは、自身の無力さを実感していた。
結局、また守られてばかりだ。助けようとして、逆に助けられてしまっている。あの時みたいに。英霊になったところで私は何も変わっていない──またも精神が弱る、とまでは行かないが、戦いを見る事しかできない無力感に打ちひしがれるハル。ふと思い浮かべたのは、『廃電車の幽霊』の事だ。
女学生らしきその霊が血文字で訴えかけてきた寒さと助け、そして"いかないで"と言う懇願は未だ忘れられない。その訴えに傘を差してあげるくらいしかできなかった当時の自分も。あの時の気持ちと、今の気持ちは少し似ている。
もしも自分が本当に『英雄』だったなら。あの時に幽霊を助ける事ができただろうか?それを経た今も、どうにかできただろうか?……『英雄』と言うなら、ハルにとってはユイやチャコにこそ相応しい。何も救えなかった自分では、とてもそれを名乗れなかった。
ならばどうする?──決まっている。どんなに非力でも、英雄に足らなくても自分のやれる事をやる。暗い夜を一人で歩き廻ってきた時のように。何もしないで、何もかも失う方が遥かに怖い。
どうやって?──分からない。でも、後悔だけはしたくないから……!
「あ、おい! ハル!?」
臆病な心を奮い立たせたハルは、いきなり走り出す。士郎の声に脇目も振らず、一直線に戦場へと足を踏み入れる。
溶かされ、熱せられた地面のクレーターを避けながらハルは唱える。本来は真名を隠すための方法。それをハルなりのやり方で用いた。
「断片解放──『としょかん』!」
瞬間、世界は塗り変わる。
屋外から室内へ。薄暗い寺の境内から、ほの暗い密室に景色が染まっていく。
棚に並び、または無造作に積み上げられた本の山。中央に鎮座する大きな鏡。そして暗さとは別の異質感。キャスターの神殿は、一瞬にしてハルの世界へと移り変わった。
「しまった!?」
「ほう……」
その世界に飲み込まれたキャスター、アーチャーは戦いを中断してそれぞれ反応を示す。キャスターは失念と驚愕。アーチャーは感嘆。
特にキャスターは、その反応を隠せない。
そんなキャスターは、有り得ないものを見る。
──フフフッ……
「! 私、ですって……!?」
それはキャスター自身。正確に言えばキャスターの偽者だった。不気味に笑う偽者は、幻影を帯びながら本物のキャスターに迫る。
「くっ!」
シュバアッ!と、魔法陣から熱線を偽者に向けて撃ち出すキャスター。それに当たり偽者はフッと姿を消す。だが安心も束の間、暗がりから更に二体目、三体目、四体目と新手が現れた。
──フフフッ……
──フフフッ……
──フフフッ……
「このッ……紛い物風情が!」
襲い来る偽者にキャスターは苛立ち、迎撃する。この偽者の弱点が暗闇と分かれば魔術を駆使して一掃していただろうが、状況の対応だけに気付く余裕は無い。
だが、足りない。これでは手間を増やしただけ。キャスターの隙を突くには後一推し必要だ。
するとハル、何を思ったか駆け出す。室内に足音が響く。それをキャスターは目敏く発見、笑みを浮かべると魔法陣の一つをハルに差し向けた。
次の瞬間、放たれた光線がハルの小さな体を包み込んだ。
「ッ……! ハルーーーーーっ!!」
叫ぶ士郎。しかし名を呼ばれた少女は、今いた場所から消え去っていた。地面を焼き尽くす熱線の威力、この室内こそ傷一つ付かないが、ハルだけは簡単に消滅させてみせたのだ。士郎の視界に、塵一つ焼き尽くされたはずなのに血飛沫が飛び散る錯覚を見る。
その結果にキャスターはほくそ笑む。この宝具はハルが発動させたものだ。ならばハルを始末すれば、また自分の領域に戻れる。何故か出てきてくれて助かった。
……それが隙になるとは、さしものキャスターも気付かなかった。ハルと言う脅威の排除、厄介な偽者が消える安堵、そして同時に固有結界が崩れる大きな変化……その隙を突く者がいて初めて、キャスターは自分の失態を察する。
「──自己犠牲は感心せんが……上出来だ、ウォーカー」
それも一拍遅く、再び景色が戻った寺の境内で弓を引き絞ったアーチャーが、囮となったハルに対して称賛と怒りを向けつつ、キャスターめがけて螺旋状の弓を撃ち放った。
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「……う、うぅん……」
キャスターの一撃に"死んだ"ハルは、寺の裏手にある地蔵の前で目を覚ました。
宝具『
──ついでに、今回の死は明確にイメージしてなかったお陰で事故的なものと判定されたらしい。もしも想像できていたら
「士郎さん、大丈夫かな……?」
離れてしまったのもそうだが、何の相談も無く突然目の前で死ぬショッキングな光景を見せてしまった。それしか手が思い付かなかったとは言え、悪い事をしたと思う。後でちゃんと謝らないと。
ハルはちょっとの罪悪感と生き返った直後に残る死んだ時のダメージを抱きながら、状況の確認と士郎への謝罪、あとアーチャーにお礼を言うため境内に戻る。
そこでハルが見たのは、背後から士郎に斬りかかるアーチャーの姿だった──
今回のハルちゃん、死ぬほど頑張った。文字通り。
断片解放『としょかん』──これは宝具『怪異蔓延る深夜の街』のまさしく断片的な解放です。前々回の後書きで言った宝具の新しい使い方とはこれの事。fgoでアーチャー・インフェルノやアサシン・パライソを引き当てた方は馴染みあるもののはず。
知っての通り、ハルの街は広大。対象を特定の場所に誘い込むには、ハルの足では難しいでしょう。そこでこの断片解放を用いれば、強制的に指定の場所へと引き入れる事が可能と言う寸法。今回は図書館。影ハルをキャスターで再現しましたが、上手くできてたでしょうか。
『記録された道祖神の恩恵』、もう一つの能力──既にプロフィールでは明かしてますね。いわゆるデスルーラ。コレクション回収には必須のテクニックです。
どう殺されても霊核は破壊されず、最後にセーブした地蔵で復活できるチート性能。もちろん魔力の消費量は半端じゃありませんが、スキル『散策』の効果で夜の間ならその心配は無し。無限に生き返れます。まさにチート。
ただし一般人の攻撃でも死んでしまう紙耐久だし、同じ攻撃も当然効く上に、幾つか弱点もあるのでバーサーカーの宝具には一歩譲る形になりますね。今回もちょっと弱点を語ってます──ハルの左腕は何で死んでも元に戻らないのでしょう……?
次回はライダー戦開幕まで行けたら行幸。宜しければ評価やコメントをいただけると、執筆速度が中確率で上がります!(オーバーチャージで確率アップ)