魔法少女リリカルなのはStrikerS-2nd strikE- 作:88813
ああ^〜書き溜める時間とアイデアがうかばないんじゃ^〜
明け方、機動六課宿舎のとある一室から呻き声が聞こえる。それはまさに地獄に堕ちた怨霊のそれと言っても過言では無く、聞く者を地獄へと誘おうとしているようであった。
その個室には、二匹のマーライオンが力無く項垂れていた。
「うぇっぷ……やべぇ……久々にキたわ……。」
「大正義ウコン……おえっ……マジ無理……うぼぉ。」
そのまま響く水音。彼等はそれから二時間程、便器と熱い愛を語らう羽目になった。
「……で、結局テオとなのはは仲直りしたのか?」
その後、食堂でリオがゼノアに話し掛ける。それに対し、ゼノアは軽く溜息をつきながら返した。
「まぁ簡単に事が運べば良かったんですが……。」
「あー、言わなくていい。恐らく博隆がテオの許容量を越える酒を呑ませてそれどころじゃなくなったってところか。」
そうリオが言った後で、二人は大きな溜息をついた。そして頭の中には、虚ろな眼をした博隆が廃人の如くぼーっとしている姿が浮かんでいた。
渦中の二人……博隆とテオは二日酔いで完全にグロッキーとなっており、現在も医務室で治療を受けていた。あえてもう一度述べさせて貰うが、このミッドチルダでは16歳以上から成人と扱われる為、未成年飲酒では無い事を強調しておく。
ここで時間は少し巻き戻る。教導の後、医務室に運び込まれたティアナの見舞いへと向かっていたスバルとゼノアは、心配そうな面持ちで彼女のベッドの側に座っていた。
「強くなるっていけない事なのかな……。」
スバルがぽつりと呟いた。
「悪い事じゃねぇよ、別にな。」
「なら何故、私はこんな目に遭ってるんでしょうね……。」
不意にベッドから声が飛ぶ。ティアナが眼を覚ましたのだ。それに対し、ゼノアは少し悪戯っぽい笑みを浮かべながら答えた。
「そりゃあお前が一番わかってるだろ?」
「私は一番確実な方法を採っただけよ。」
「その『確実』な方法は、素手で止められた挙句撃墜されるまで含めてだろ?」
「ゼノ!」
スバルがゼノアを諌める。だが、彼は続ける。
「大体だ、あんな馬鹿みたいな方法で一撃取れるんなら、どんだけ戦技教導ってヌルいんだよって話だ。」
「アンタみたいな才能溢れる秘蔵っ子には、私みたいな凡人の考えなんて分からないでしょうね。」
「わかりたくもねぇよ、ンなもん。つーか、俺は本当に失望したよ! 折角スバルに最高なパートナーが出来て! 俺達みたいなヒヨッコをまとめ上げる事が出来るすげぇ立派で! すげぇ頼もしいリーダーで! それなのに驕らずに事故研鑽も重ねて! ふざけんなよ……何が凡人だよ、何が秘蔵っ子だよ……そんなつまらねぇ言葉遊びで自分の限界みたいなものを作ってんじゃねぇよ!」
噛み付くティアナに対し、ゼノアは激昂した。ティアナもスバルも、その剣幕に圧倒されていた。
「……今回の件は、なのはさんも怒ってたがヴィータ副隊長やテオさん、そして俺だって怒ってんだ。そうだよな。練習で調子良くハイハイ良いながらやってた事をガン無視してやりたい放題やってくれてんだ。そりゃあ義理もへったくれも無いもんだぜ。そんでコレと来たもんだから俺の怒りも有頂天よ。」
ゼノアは二人を睨みつける。心なしか、彼の両手は少しだけ震えていた。睨みつけられた二人は、ただ申し訳無さそうに俯いたままだった。
「そこまでよ、ゼノア君。」
その時、女性の声が聞こえた。医務室の主、シャマルがお盆にココアを人数分載せ、三人の元へと歩いて来る。
差し出されたココアに、ありがとうございますと三人は会釈をした。
「ゼノア君の気持ちもよくわかるけど……二人とも反省してるわよ? 女の子を二人とも怖がらせるんじゃ、まだまだねぇ。」
シャマルが優しくゼノアを諌める。それに対し、彼は少しばつの悪そうにすいませんと首を垂れた。そのまま彼女はティアナに簡単な問診を行うと、もう大丈夫みたいよと微笑みながら医務室を後にした。
「……あー、その……だ。すまんな、頭に血が昇ってたみたいだわ。」
「別に気にしてないからいいよ。」
「私も。あと……さっきはごめんなさいね。」
「おあいこだ。」
先程までの重い空気が一転、いつもの和やかな空気へと変わる。そのまま三人で他愛も無い話をしながら、隊舎へと向かって行った。元々教導でもゼノアだけ空戦技能持ちという事もあり、四人とは別に同じ空戦技能とポジションを持つテオと訓練をする事が多かった為、新人とゼノアがここまでよく話す機会というのはありそうで無かった事であった。
「今回の教導で、大変ご迷惑をおかけして、まことに申し訳ありませんでした。」
隊舎に到着し、まずティアナとスバルは一番最初になのはの元へ向かい、謝罪した。それを聞いた彼女は、少しの間を開け別室へと二人を連れて行く。別室へ向かう三人を、フェイトとリオは少しだけ心配そうに視線を向けていた。
別室に案内されると、なのはは静かに口を開いた。
「少しだけ、昔のお話をしていいかな?」
それは、数年前に自分が重傷を負った日の事だった。あの時、AMFになす術を持たず、また二度と空を飛ぶ事が出来なくなるかもしれない程のダメージを負ってしまった事。その事で、周りの皆に迷惑を掛け、また自分のやるべき事を見つけた事。皆無事に帰って来る事を第一にメニューを汲んでいた為、二人にとって焦れったい思いをさせてしまったかもしれない事……。その話を黙って聞いていた二人は、最終的に大粒の涙を流しながら、すいませんと改めて謝罪をした。
これにて周囲を騒がせた一件も収まったかに思えたが、一つだけ解決していない事があった。そして話は冒頭に戻る。
「……で、結局どうなったんです?」
夕方の喫煙所でゼノアが呆れながらテオに問い掛ける。彼は煙草に火をつけようとしたが、一瞬だけ動きを止める。しかしそのまま着火し、紫煙を胸一杯に吸い込んだ。
「ああ、まだ何もやってねぇよ。」
「何もやってないって……それで大丈夫なんですか?」
「仮に……だ。ゼノ公、お前が先日気不味い雰囲気になった奴から詫びを入れられるとしよう。相手は凄く気が重いが、それでも詫びを入れないといけない。その場合だ。相手が酒とゲロの匂いを漂わせながら来たらどうだ?」
「レバーにワンパンかましてそいつをマーライオンに転職させますね。」
「つまりそういう事だ。ああそうさ、俺はここぞという時にヘタレた鶏野郎さ。酒の力を借りた結果マーライオンに転職して、そんで機会を失った大馬鹿野郎だ。」
テオは自虐気味に零した。それをゼノアはジト目で見ていた。
「ま、予測はしてました。博隆さんがフォローに回った時点で、確実にこうなる事は目に見えてました。じゃあどうしますか? 鶏のテオさん。あなたがすべき事は今此処で煙草を吸う事では無いでしょ。今すぐ口の中を洗って、オーデコロンでアルコールの香りを誤魔化して、なのはさんの所へ白馬の王子様の如く駆けつけて、一言魔法の言葉を言うんじゃないんですか?」
「……そうだよな。俺は虎だ。ヤングタイガーだ。決して鶏なんかじゃねぇよな。」
そう静かに呟くと、テオは喫煙所を後にした。その姿をゼノアが見送っていると、入れ違いに戦犯である博隆が喫煙所に姿を現した。
「よーゼノ、元気にしてたか?」
「ええ、今博隆さんの姿を見たら元気が一瞬で無くなりました。つーか一体何やってんですか博隆さんは。」
ゼノアは博隆に詰め寄る。博隆は面倒臭そうに煙草を咥え、火をつけた。そのまま紫煙を吸い込み、吐き出す。丁度日が落ち切りそうな時間帯であるせいか、博隆の表情は読めなかった。
「良いかゼノ……テオは割と真っ直ぐで純情で、俺みたいな捻くれ者と親友である事が不思議な位な奴だ。だが奴は真っ直ぐなんだが、案外色々な事を溜め込む性格でもある。だから俺は今回、ガス抜きも兼ねてフォローに回っただけだ。溜まってるものはすべて吐き出させたんだが、それまでに大量のアルコールを摂取させなくてはいけなくてな、結果的に別のものまで吐き出す結果になった訳よ。」
「それって呑ませすぎた言い訳にしかならない気がするんですがそれは……。」
ゼノアの冷静な指摘に、博隆はうんざりしながら灰を落とした。
「どう取るかはソイツ次第だ。奴は俺に対して恨み節の一つでも零したか? 零してないはずだろ。俺が奴と逆の立場でも、絶対に恨み節は零さねぇし、んな事考えもしねぇよ。ただ俺と奴には大きな違いがある。『俺は酒とゲロの匂いを漂わせていたとしてもすぐに謝りに行く』という大きな違いがあるんだよ。」
「……聞いてたんスね、さっきの。」
「ああ、良い啖呵だったよ。」
そう言うと、博隆は満足げに吸殻を捨て、喫煙所を後にする。ゼノアはその後ろ姿を見ながら、やっぱりあの人には勝てないとゆっくりと首を左右に振るのであった。
喫煙所を後にした博隆は、そのまま隊舎から少し離れ、埠頭へ足を運ぶ。辺りには人の気配は無く、またライトも殆ど無い様な寂しい埠頭だ。その寂しさを強調するかの様に、潮風は吹き荒ぶ。
その潮風に吹かれながら、辺りに人がいない事を確認した博隆は、再度胸ポケットから煙草を取り出しジッポの火が消えない様にしながら点火する。少ししか着火しなかったが、それをゆっくりと吸い込み、火種の領域を増やす。お手の物であった。紫煙を吸い込んで吐き出す。その動作を数回繰り返してから、プライベートの通信コンソールを開いた。
「ようドク。今大丈夫かい?」
「ああ、僕も連絡したかったところだよ。」
「そうか、それならちょうど良かった。」
「そうだね。僕の方なら準備は整ったよ。」
「此方も万端だ。後はまぁ、ウチの誰かが彼女を見つけてくれれば良いだけだ。」
そう言うと、博隆は人の悪い笑みを浮かべる。
「これで老人達の脚本の上で踊る準備は出来た。さてドク、奴らの無力化は出来そうか?」
「ああ、それらも含めて一週間……いや、五日あれば出来るさ。」
「そうかい。どれ、それじゃあ此処からは脚本通りに進めよう。」
「そうだね。この僕、ジェイル・スカリエッティが表舞台に姿を現し……。」
「六課はそれを追い掛ける……ちゃんと狼煙は上げたんだろうな?」
「ああ、それなんだけどね……。」
ここで、ドク--スカリエッティが言葉を止める。博隆は感づいたのかそのまま固まってしまった。
「まさか、俺があの時に偶々ホームランしたあのガジェットちゃんが狼煙……だったのか?」
「……そうだよ。僕の計算ではアレは鹵獲されて、その際のデータ等の吸出しの際に僕の犯行声明が現れる手筈だったんだけどね。」
案の定な回答に、博隆は完全にフリーズした。夜風は吹き荒び、彼の髪を靡かせる。目が点になったまま静止していたが、手に持っていた煙草のフィルターに火が移り、咄嗟にその手を払うまで彼はフリーズしていた。
そのまま何事も無かったかの様にまた新たな煙草を取り出し、火を灯すと、改めて煙を吐き出した。
「来週には改めて挨拶する事にはあるからね。『くれぐれも』ガジェットを打ち返さない様にしてくれたまえ。」
「すまんな。」
「ええんやで。」
素晴らしきは猛虎の精神である。すまんなという謝罪の心。ええんやでという許容の心。この二つの精神世界を覆う事こそが、万物の平穏へと繋がるのだ。
そのまま通信コンソールを閉じると、博隆はゆっくりと煙草を揉み消し、隊舎へと戻って行く。舞台の上でどのように役者を演じるか、そしてどのタイミングで舞台の主導権を握るかを、頭の中で計算していた。
隊舎にある自分の部屋に戻ると、時刻は11時を廻っていた。博隆はゆっくりと目を閉じると、今まであったことが頭の中を覆い尽くした。
掘り起こされる過去の記憶
再び紡がれるA'sの欠片
この舞台へと繋がる経緯を
あなた達は何も知らない
と、ちょっとシリアス目な次回予告でした。次回から当分A's編を挟んで、StS後半戦へと向かって行くのです……。