姫海棠はたては自宅にて苦悩していた。
無花果念報に使ういいネタがどうしても見つからない。
自分の程度の能力だけを使った取材をやめて実際に出歩く取材を始めてからは見るものも増えていったがここにきて限界が来たように彼女は思えた。
人里は何があった?特にこうといったことはなかった。紅魔館?メイド長が鼻血を出した。うん、いつも通り。博麗神社?今日もお賽銭がありませんでした。あ、守谷神社・・・だめだ。入信をお勧めしますって広告しかない。妖怪の山?・・・文の所のお兄さんがまたやらかしたことがあるけど天狗の信用度が落ちるだろうから報道したくない。させもしない。なによ、なにもないじゃない!!ああ、もういっそのこと文に頼み込んでネタを分けてもらうか・・・。
『はいるぞ』
ふすまの向こう側から声が聞こえる。こんな時に、と忌々しく思うがすぐにその感情を取り払う。
これから部屋に来る彼とは小さいころから傍らにおり、誰よりも付き合いが長いのだから。
「お茶と羊羹を持ってきたぞ」
ふすまを開けて入ってきたのはを鴉天狗。上はYシャツに赤いネクタイ。下は紺色のスラックスを着ていた。ぱっと見はどこかの会社で働いているサラリーマンそのものだった。黒い髪は長く背中まで届いており、中性な顔つきが彼を女性のように見せる。だがそれを否定するかのように体は引き締まっており見事な逆二等辺三角形であった。
ん、とだけ返事をされ彼女の近くにお盆を置いておき、正座をする。お盆の上には彼女の大好物である芋羊羹があるのだが、はたては歯牙にもかけようせず机と面を向かわせたままだった。
大方新聞が書けないことに苦労し、追い詰められているのだろうだろうと推測し、解してやろうと一発かましてやった。
「いかがしたホタテ。我が妹よ」
「はたてだよ!ボケないでよ兄貴!!」
姫海棠みつぎはいつも通りに妹が見られたことで安心た。ボケをかまされた妹は余裕がなくストレスがたまっていたためかなり怒っていたのだが。
「あー、もうどうすればいいのよ!!キーワードなんていいもの浮かび上がらないし自分の翼で行くにしてもどこにいけばいいっていうのよ!!」
頭をわしゃわしゃと搔きあさり、解けないパズルを見るような目で天井を見上げる。
「それはそれは。大変だな、片手よ」
「は・た・て!!自分の妹の名前をいじって楽しいの?!」
「いじるのは下半身の方だろう」
「なにさりげなく下ネタ出してくるんだこのバカ兄はぁぁあああああああ!!!」
「何を言っておるのだ、はたてよ」
いつになく真面目な表情になりこちらを見つめている。普段の彼とは違うので驚いたがすぐに聞き入れる態度をとる。すると彼は答えた。
「吾輩はカバではないぞ」
「バカっていってんのよ!!・・・はぁ」
一瞬自分の名前をちゃんと読んでくれたのだから何事か、と思ったが考えた私がばかだった。
ここまでくると怒ること自体が馬鹿馬鹿しくなり、体中の空気を出すつもりで嘆息した。
ふと視界に入ったのは芋羊羹とお茶。恨めしそうな視線を兄に送るが当の本人はどことなく吹く風。考えても出ないのだから一回休むことに決めて芋羊羹を口にし、お茶を飲む。二人分あったのだが全てはたてに食べられた。ちょっとした仕返しのつもりだったが、みつぎは特に何も感じてはいなかった。
ふむ、と机上にある未完成な原稿を見てみつぎは話しだした。
「はたてよ。前提として考えておかねばならないのはこの幻想郷において我らの報道は虚報・ねつ造が多いということだ」
「そりゃそうだけれども」
「であるのならば、信頼を得てみるのはどうだろうか。いかに些細なことでもよろし。事実を淡々と綴るのはどうだろうか・・・まぁ一番なのは天象予想なのだが」
「それは無理があるわよ。わかっているとは思うけれども河童の計測装置でもあたりはずれが五分五分なのよ?まぁ兄貴の知り合いが精巧なものを作っているとかだけれども」
「そうだとしても技術の産物を出そうとするのは他の天狗たちがよしとしないだろう。新聞ですら今の形になるのにどれほどの論争があったことか。三平はバカみたいな話だと言っていたが」
なんにせよ打開策は現状ないに等しい。大きなネタをはたてが欲しがっているということもありみつぎはどうしようかと考え込んでいた。
はっきりと言ってしまえば妹はわがままを言う子供だ。誕生日プレゼントに文句をつけるような。まったく、そんなのコレジャナイロボをもらってから言ってほしいものだ。
さらにいえば吾輩とはたての給与は悪くはない。バカをやらかす吾輩ではあるがやるときにはやるぞ。それ故別段新聞などしなくいい。とはいえ我が妹がやりたいと言い出し、やらせたのだ。あの時は大変だったなぁ。河童の三平に頭を下げてコネを作って・・・うむ。三平にはお礼をせんとな。
何とかしてやりたい。ではここで一肌脱ぐとしよう。
打ちひしがれているはたてを見据えてみつぎは言う。
「安心せよ、はたて。大船に乗ったつもりでいたまえ。吾輩にいい考えがある。なに、お前は見た事実を、映像を文章に変え紙面に書けばよろしいのだ」
そう言って親指をグっと上げるみつぎ。その表情は自信に満ち溢れてはいるのだが、はたては内心嫌な予感がしていた。このバカにやらせていいのだろうかと思ってはいた。しかし現状他にネタを手に入れるいい方法がなく兄に任せることにした。
そして後日、無花果念報は無事に発行することができた。以降その一部を抜粋する。
《新種の妖怪?!サルの面をかぶり松明を手にした奴は誰だ》
《注意せよ!虹色の太った妄想猫妖怪による悪行の数々》
《街頭にて号泣演説!この世の中を・・・うわぁーん!!》
《オンドゥル語教室、始まる》
《大流行!エイサイハラマスコイ踊り》
速い話、掲載内容その全てみつぎが正体をバレないように起こした犯行をはたてがまとめたもの。サルの面をかぶった奴も猫妖怪も号泣演説をしたのもオンドゥル語教室を始めたのもエイサイハラマスコイ踊りを流行らせたのも全てが彼によるものだった。
印刷所に発行させたときに立派な自作自演だと気付くはたて本人だったのだが後の祭り。事は進みみつぎの策略は見事に功を成した。発行部数は以前よりも多くなり、売り上げも伸びていた。また新規で購読したいという者が人妖問わず増えた。計算してみたところ購買者・発行部数・売り上げ、それら全てが文々。新聞を上回ることができた。これを機に自分も新聞を作ってみようとする鴉天狗が増えたのだがそれはまた別の話となる。
だがこんな成功を喜ばしいといえるようなものがどこにいるのだろう。というかどうして自分は身内が匿名で起こした事件を取り上げてしまっているのだろう。
「成功したな、歌い手よ」
「もういやこの兄貴」
誇らしげに語る兄と机に顔を伏せて兄に頼んだことを後悔する妹。今後は面白くなかろうと何かを埋めておこう、絶対に。誰にも知られず決心をはたてはした。
・・・今日も妖怪の山は平和です。
・姫海棠みつぎ
姫海棠はたての実兄にして射命丸章の友人。さらりとした黒い長髪が特徴で中性な顔つきをしているが、見事な逆三角形の肉体から男性であることがわかる。真面目そうに見えながらも行動は正反対のことをしでかすため問題視されている。胃薬・・・倍プッシュだ!!
しかし棒術で妖怪の山においては無敗を誇る。
兄妹によるボケと突っ込みはもはや見物。