みなさん、お久しぶりです!
ではでは、どうぞ。
「けほっ、けほっ」
頭が痛む。
喉が痛む。
ーー辛い。
完全に風邪を引いたわね、私。さすがの私でも風邪には勝てなかったみたいで、今日は学校を休むことになりそう。いえ、これは私が風邪に負けたわけではないわ。周りの人に菌をうつしてはいけないから、だから私は学校を休むのよ。ええ、決して風邪で体が動かなくなってるとかではないわ。断じてないわ、そんなこと。
とりあえず、学校に連絡ね。今学期、3年の一学期もあと一月ほどで終わるというのに、まさかこんな、風邪のシーズンの終わった時期に、受験勉強の時期に、風邪を引くだなんて。油断なんてしていないのに。
別にクラスの人たちに会えないことはあまり気にしてはいない。私にしてみれば、やはりその他大勢の中の数十人程度、という認識になってしまう。
けれども、やはり奉仕部のことは気になってしまう。いつも引っ付いてきて暑苦しいけれど、それも嫌いじゃないし、生徒会を抜け出してくつろぎにくるのを見るのも、かわいく思えてしまうし、目の濁りは……救いようもないわね。
「はい、雪ノ下雪乃、けほっ、です。今日、けほっ、風邪を引いてしまっ、けほっけほっ、たので休みます、けほっ、はい、失礼します」
………恥ずかしい。
咳が出ることは仕方ないとはいえ、恥ずかしい。
今日は寝るとしましょう。たっぷりと。薬を飲んで、寝ましょう。
由比ヶ浜さんには連絡しておいた方がいいかしら。
『風邪を引きました。学校を休みます。』
………なにか違うかしら。いえ、必要なことは書いてあるのだし、これ以上のことは必要ないはず。
けれどこの間彼女に「もっと絵文字とかいろいろと使ってよ〜」と言われたのよね。そういうのがないと怖いみたい。
少し、彼女のためにやってみようかしら。ええと、こんな感じかしら?
『風邪を引きました^o^
学校を休みます( ・∇・)』
………なにかしら、これは。
どうしてこうも頭の悪そうな文章を彼女は、一般の女性たちは、好むのかしら。私にはとてもじゃないけれど、理解できないわ。
それからいろいろと試してみたのだけれど、どれもだめだったから結局一番最初の、なにも加えていないものを送ることにした。なんだったのかしら、さっきまでの無駄な時間は………。
それと、比企谷君にも、その、送っておいた方がいいのかしら。いえ、別に私が彼に心配してほしいとかそういうことを思っているわけではなくて、ただ純粋に部員に部長の休みというその一報を入れておかなくてもいいものかしらというだけで、別に私個人の感情が入っているわけではないの。そういうものなの。
送って、おこう、かしら。
どんな文章がいいかしら。いえ、別に由比ヶ浜さんと同じ文章でいいはずだわ。特にこれといって飾ることなんてしなくていいはず。そんな必要はないはず。けれど、けれども、由比ヶ浜さんや一色さんのメールは、こう、いろいろとやってるみたいだから、私もそれに習ったほうがいいのかもしれないというただその可能性について考えているというだけで、別にそれ以外の理由があるわけではないわ。
ーーよし、こうやって送ろう。
私は頭の中であれやこれやといろいろと考えた末、どう書くかを決めた。
けれど、私は連絡先を見ているうちに気づいた。
「比企谷君に、けほっ、番号、聞くの忘れてた」
いつもいつも、彼女たちと彼がそういう話になったときに、私が入っていかないものだから、機会をいつも逃していてしまっていた。
そんなことも、どうやら風邪のせいでわからなくなっていたらしい。風邪とは恐ろしいものなのね。
その後、私の部屋には渇いた1人の咳だけがあった。
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「ーーちゃん!」
………んっ、なにかしら。
「ーー雪乃ちゃん!」
………なにか、耳障りな声が。
「ひゃっはろー雪乃ちゃん!」
………なにか、目障りな姉がいるような気が。
「起きないといたずらしちゃうぞー?」
………はぁ。
「………なにかしら、姉さん。というか、けほっ、なぜここにいるのかしら。ここは私の部屋のはずよ」
合鍵を持っていても不思議ではないけれど、なぜ風邪を引いた今日に限ってここにいるかが問題なのだ。
すると、姉さんはけろっとした表情でこう言った。
「いやー雪乃ちゃんの部屋に仕掛けたカメラで、雪乃ちゃん風邪引いて寝てるの見ちゃったからさ。心配でお見舞いに来たんだ」
そ、そう。心配してくれたのね。その、姉さんにして、は?
え、ちょっと待って。前半に聞き流せないことがあったのだけれど。
「カメラってなにかしら」
「え?雪乃ちゃんがここに住みだしたときから仕掛けてあるよ?気づかなかったの?」
「………どこに、かしら」
そして、姉さんに連れられて、私の部屋の至るところを見回ってカメラを見つけた。ここに住み始めて2年が終わろうというのにも気づかなかった私に落ち度があるのかもしれないけれど、普通はあんなところ気づかない。ていうか、私の知らない引き出しとか穴だとか、押したら開くところだとか、いろいろと隠してあったのだけれど。
「ま、全部取っ払ってもまた仕掛けるから意味ないんだけどねー」
この姉は………。
「そんなことせずに、けほっ、早く帰って姉さん。いら、けほっ、ない」
「んもーつれないなー雪乃ちゃんは。………私だってさ、心配になるんだよ」
いつもの口調だったのに、それが急に変わった。それは、いつもの、日常の、自由奔放な姉とは似つかないものだった。
ーーそして、それは、私の、私だけの知ってる、姉の顔。
他の誰も、葉山君でさえ知り得ない、ただ普通の、一般的な、姉。ほんの少し、重たい気がするけれど、それでも、私にとって、大切な姉。
完璧で、私と違って、本当になんでもこなす姉。そんな姉に嫉妬するし、そういうことができるから尊敬もする。けれど、それだけじゃなくて、私に対してだけ見せる、優しい姿。たまに度が過ぎるのがマイナスなのだけれど、ね。
そんな私の考えを知ってか知らずか、いつもの調子に戻って、いつもの通り、私をからかう。
こういうところをもっと少なくしてくれさえすれば、多少なりとも姉に引っ付けるというのに。
「比企谷君を連れ込んで変なことしてないかとかねー?」
………はぁ、この姉さんは、まったく。
そんなからかいや挑発に私が乗るわけもないじゃない。私だってもう子どもじゃないのだから。だから、私はちゃんと反論をしよう。
「そんなことするわけないでしょう別に彼とはただ部活が同じというだけの関係、部長と部員という、ただそれだけの関係よ。それ以上になることもないし、ましてや姉さんの言っているようなことにはならないわ」
少し焦って早口になってしまったけれど、ちゃんと返した。
相変わらず、姉は私をからかい、そして私を笑う。
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いつもいつも、小さいときからずっと私についてきていた、私の妹は、成長をした。
強く、そして弱く。
私の持たない強さと弱さをもった妹は、とてもおもしろく、そしてなにより、羨ましかった。
そんな妹と一緒についてきた、弟のような存在は、私と同じようになっていった。ただ一点、私の唯一欲したものを持って。負けたくない相手、を。
私にはいなかった。雪乃ちゃんになってほしいと思っていたときもあったけれど、雪乃ちゃんはそうはならなかった。なれなかった。なにもかもがだめだった。彼女では私には勝てない。ありとあらゆることで、私の後ろにしかいなかった。そしてなにより、追い抜こうとはしなかったから。
ーーだからつまらない。
でも、もう違う。
追い抜く意志はなくとも、雪乃ちゃんは、私を追い抜いていた。
隼人は、私と違う道も取った。
ーー結局、変わらなかったのは、私だけ。
小さいころから、やることは変わらず、成長がなかった。知識をどれほどつけても、関係をどれほど広げても、なにも変わらなかった。
けれど、もうなにもできなかった。私にはなにもなかった。なにかをするためのものさえ、なかった。
心を許せる友人も、競う友人も。
私の後ろを追ってきていた2つの影は、もうない。
ーー2人の目に、私は映らない。
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「ふぅ、じゃあそろそろ私は帰ろっかな」
夕方、学校の時間を考えれば授業が終わってから少し経ったあたり、姉さんは言った。
「………そう」
私は今どんな顔で、どんな声で、この言葉をだしたのだろうか。
ひどく、ひどく弱々しかったように聞こえてしまった。そう思ってしまった。
もちろん、姉がそれに気づかないわけもなく、それをからかう。いつものように。
「んー?なになにどしたの?お姉ちゃんが帰っちゃうから寂しくなっちゃうの?」
「そんなわけ、けほっ、ないじゃない。早く帰って」
「はいはーい。じゃあねっ、雪乃ちゃん!」
そう言って姉さんはばたばたと家から出ていく。
夕陽も赤々と輝き、もうじき訪れる日の入りを思わせるような光が部屋に入り込む。姉さんのいなくなったスペースを埋めるように、私の部屋を照らしている。
けれど、
「けほっ、けほっ」
部屋の中には、1人の渇いた咳しかない。
「………ふぅ」
静かな部屋には、そんな小さなため息すらよく響く。この部屋に、今は私しか音を立てる人がいない。そんな当たり前のことでさえ、意識してしまう。意識が、いってしまう。
そうしていると、インターホンが鳴る。宅配は頼んでいないはずだけれど。
「はい、どなたでしょうか」
『あ、ゆきのん!あたしあたし!お見舞いに来たんだけど、大丈夫?』
画面の先には、元気に振る舞う由比ヶ浜さんの姿。一方的に見える状態でよかった。今の私はきっと、頰が緩んでいる。
それから、彼女ならきっと、答えてくれる。私の聞きたいことをしっかり考えて、そして結論を出してくれる。教えてくれる。
これは、ひどい、押し付けた信頼なのかもしれないけれど、彼女ならきっと受け入れてくれる。そんな、いろいろなことを押し付けてしまうほど、私は彼女に。
「ええ、ありがとう、由比ヶ浜さん。今、開けるわね」
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「ーー姉さん、明日、うちに来て」
そんなことを昨日、妹に言われた。
だからまぁ私は行くわけだが、目的はなんだろう。
うーん、あんまり会いたくないんだけどなぁ。雪乃ちゃんに会えるのは嬉しいはずなんだけど、やっぱり最近は気がすすまない。
とは思いつつ、せっかくのお呼ばれだし。
そうして、思っていたよりも早く、雪乃ちゃんの住むマンションに着く。
うーん、鍵は持ってるけど、こういうときはインターホン鳴らした方がいいよね?
「ひゃっはろー!お姉さんですよ!」
案外、元気に声が出た。
私の気持ちに関係なく、こういうことはできてしまうようになっている。みんなという有象無象のために。
『………』
返事はなく、ただ扉が開いただけだった。
さすがにちょっと不満。むー………。
これは文句の1つでも言わないといけないようだね。
もういいや。
今雪乃ちゃんの部屋のドアの前にいるんだけど、わざわざ鳴らすのももういやだ。いらないいらない。
私は勝手に入る!鍵使って勝手に入るもんね!
「雪乃ちゃーー」
ぱん!ぱん!
2つの大きな音が、部屋に入ろうとしていた私の足を止める。
………えーっと。
「姉さん、少し早いけれど、誕生日おめでとう」
「陽乃さん、おめでとう」
………えー、えーっと。
戸惑う私に答えるように、雪乃ちゃんが言う。
「どうせ姉さんのことだから、誕生日はもう空いてないと思って、私と葉山君の2人で、今日祝うことになったのよ。比企谷君たちも呼ぼうか迷ったのだけれど、その、やっぱりこの3人でやりたかった、から………」
途中から恥ずかしくなっていったのか、雪乃ちゃんの声はだんだんと弱くなり、目をそらしていった。
「ま、そういうこと。陽乃さんも驚いてくれたようだし、成功したね」
「ええ、そうね」
むむむ、なんだろう、この悔しさは。
「私が鳴らさなかったのはーー」
「どうせ姉さんのことだから、1回目は律儀に鳴らして、でもそのときに返事がこなかったからもういいやと思い勝手に入る。そのくらいわかるものよ?」
「それに則ってこっちも動けば陽乃さんもとても驚くだろうしね」
………なーんだ、私の考え、読まれちゃったのか。
声には出していないが、どうやらそのことが顔に出ていたらしい。
「何年姉さんと一緒にいたと思っているのよ。姉さんが私を知っているように、私も姉さんを知っているのよ。そのくらいわかるわ」
………ちゃんと、ちゃんと、見られていたんだ。
なんか、なんか、なんかー!あー!もう!
いろんな人が私を見て、期待して、それに満足以上に答えてきた。
なら、ならばこれからは、……そうだね。
………特別な人に、答えていこう。
差し当たってはこの2人。
2人の頭をこつんと叩いて、
「2人とも、生意気だぞっ」
その私の声に対して、間をおいて、
「ふふっ」
「ははっ」
笑う声が2つ、続く。
いかがでしたか?
こんなほのぼのとした世界、いいと思います!
てか、あれ。自分の話でもしかして葉山君初登場?以前に出した記憶がない。
やっぱり、はるのんが変わるんなら、この2人の力によってかなーって。
もちろん、八幡が影響を与えるというのも思い浮かびますが、それは別の話で描いたので、今回はこんな感じにしました。
こったはこっちでしっくりしますけど、どうですかね?
という感じで、今回は終わりたいと思います。
定期投稿のストーリーの方に描くのは力入れてるので、こっちの話はこんな感じに全然出せないと思いますけれど、まぁ、その、また読んでくれると嬉しいです。
ではでは、さよなら!