たーんぺーんしゅー   作:to110

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可能なのか不可能なのか。
したいことなのかしたくないことなのか。
やっていいのかよくないのか。

ではどうぞ。


一色いろは、発す

「送辞。在校生代表、一色いろは」

 

「はい」

 

自分の名前が呼ばれ、それに答える。練習はしたから大丈夫。練習通りに動いて、書いてあることを読めばいい。私はただの脇役。一つ上の卒業する先輩たちという主役をより輝かせるためだけの存在。

感情を出すな。それは今の私には必要ない。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「私が、送辞ですか」

 

2年生の11月、担任の先生に呼ばれて職員室に来たら、卒業式の役目をお願いされた。

 

「お前が適任ということで教師内の会議で決まった。お願いできるか?」

 

「はい。わかりましたっ」

 

去年は雪ノ下せんぱいがたしかやっていた。それを自分ができるというのはなんとも誇らしい。それに、せんぱいたちに、言いたいこともある。お礼を言いたい。3人のせんぱいに、言いたい。

 

「じゃあまた、連絡する」

 

「わかりました。失礼します」

 

よしっ、がんばろう!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

席をたち、通路へ出る。90度機械のようにきっちりと回り、進んでいく。あごを引き、手も程よく振り、まっすぐ進む。今の体育館には、私の歩く音だけが響く。そんな、無機質な音だけ。

 

みんなが私に今は注目している。

もちろん直接見られているわけではないが、雰囲気はまさしくそうなっている。これから私はきれいな言葉を言うんだ。そして、それを待っている。

 

舞台正面の一本道。

そこで私は回り、舞台真下のスタンドマイクのところへ行く。そして卒業生たちへ向く。

 

「生徒一同、礼」

 

一斉に下がる頭。もちろん私も下げている。

それが終わると、袋から言うことの書かれたものを出し、読み上げる。

 

「春の訪れをーー」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「どうしてこれじゃいけないんですか!」

 

私は送辞の文章を提出し、それについて呼び出しをくらった。

 

「主観が入りすぎだ。あくまで主役は卒業生だ」

 

「でも、私、は………」

 

「こっちで文章は作っておく。また取りに来てくれ」

 

「………わかりました」

 

やりたいこととやれることはこの世の中、必然イコールではない。どれだけやりたくても、やれないことはいくらでもある。今回はちょうどそれ。

 

3人へのお礼をメインに書いたら怒られてしまった。予想してなかったわけではないけど、さすがになぁ。まぁ私に求められているのは機械のようにただ単に仕事をすることだ。

 

なーにが、卒業式は今までお世話になった先輩への感謝をもって、ですかまったく。そんなことさせる気なんてまったくないじゃないですか。私はそのお世話になったせんぱいたちにお礼を言いたいのに。

 

………そんなこと言いませんけど。

あと1年私はこの学校にいる。先生たちに悪印象を植え付けたくない。私が、ならやりません、と言えばたぶん通る。私以外にやれる人は書記ちゃんくらいだけど、こういう舞台には明らかに向いてない。でも、先生に喧嘩を売るようなことは私はしない。仕方ないこと、だよね。

 

卒業式には、きちんと臨みたかったなぁ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ーー私はサッカー部に所属しマネージャーをしてました。そこでは先輩方がーー」

 

こんなこと言いたいわけじゃない。別にサッカー部の人たちにはお世話になってない。それでも、こういう発言が私に求められている。

私はそれに応じなきゃいけない。そういう立場だから。

 

「ーー以上で送辞とします。在校生代表、一色いろは」

 

紙をたたみ、袋へ入れる。

 

「一同、礼」

 

再び頭を下げる。

そして、180度転換。私はこの送辞の紙を舞台の上の台に置いて仕事完了だ。

舞台へは階段で登る。5段ある設置型のやつだ。

 

ーー1段ーー

 

 

 

 

 

『いらっしゃい、一色さん』

 

 

 

 

 

ーー2段ーー

 

 

 

 

 

『やっはろー、いろはちゃん』

 

 

 

 

 

ーー3段ーー

 

 

 

 

 

『また来たのか、一色』

 

 

 

 

 

ーー4段ーー

 

 

 

 

 

『すごいな、お前』

 

 

 

 

 

 

段が増えない。

 

だめだ、これは。

あの部屋の温かさを思い出してしまった。また感じてしまった。

 

だめだ、これは。

呼吸が苦しい。息ができない。胸が熱くなる。

 

だめだ、これは。

涙が、止まらない。

 

だめだ、これは。

止められない。

 

 

 

私は階段を飛んで降りていた。体育館にはダンという音が響き、それに続いてざわざわとしている。

そりゃそうだ。私は予定にはないことをしているのだから。

でも、でも、言わなきゃいけない。

 

………せんぱいのせいですよ?責任、とってくださいね?

 

 

倒れこむように勢いよくスタンドマイクを持って、叫ぶ。

私の手には送辞の紙はもうない。

 

「雪ノ下せんぱい!最初の方はずっと怖い人とか冷たい人とかそうやって思ってました。でも、ちがって。とても優しくて、いい人で。そんな雪ノ下せんぱいが私は大好きです!それから、紅茶、おいしかったです!また、飲ませてください。飲ませに、来て、ください」

 

雪ノ下先輩のことは入学して間もない頃から知っていた。文武両道、才色兼備、そんな感じに。誰とも話さない彼女は名前の通り、雪の下の人だと。

初めて奉仕部の部室で会ったときの印象も、それと同じだった。たしかにきれいだった。そして、冷たかった。まるで、そのときの部室みたいに。

でも、しばらく一緒にいて、わかった。雪ノ下せんぱいは、ただ怖いだけだ。人と関わるのが。人に近づくのが。しかも、人といる必要がないほど、能力がある。それがますます、人と関わらせなくしていった。

そんな雪ノ下せんぱいを、彼女を覆っている雪を、溶かすのがあの部活であり、そこのせんぱいたちだった。

彼女と2人きりになったのは本当に数える程度だった。でも、それでも、そのときでも、彼女は私に対して奉仕部のせんぱいたちと同じように接してくれた。私は、奉仕部の一員になれたんですか?

忘れたことはありません。あなたの、本当にかわいい、笑った顔を。女の私でも惚れるような、そんな笑顔。それが見れる数少ない人の1人に私がいることは、本当に誇らしい。

奉仕部に香る紅茶。あれが体に入ってくることが幸せでした。

 

『生徒会はいいの?』

『そんなわけないじゃない』

『え、ちょっと、やめなさい』

『にゃー、にゃー』

『た、助けて比企谷君』

『由比ヶ浜さん、は、離れて、くれない、かしら』

『一色さん、お疲れ様』

 

本当に、本当、に、

 

「ありがとうございました!」

 

さすがに式なだけあって、先生たちも止めに来る気配はない。と言っても、そんなことは私にとってはどうでもいいこと。

 

「結衣せんぱい!人当たりが良くて、優しい人だとずっと思ってました!でも、そんな言葉では言い表せないくらい、本当に優しくて。私は甘えてました、その優しさに。そんな結衣せんぱいが私は大好きです!また、いつ、でも、遊び、に、会いに、来て、ください」

 

結衣先輩のことも同じで入学して間もない頃から知っていた。しかも、噂とかではなく面識を持って。明るかった。ただそれだけの人だった。クラスの中心にいる葉山先輩たちのグループにいるからか、引っ込みがあった。大した女じゃないな、なんて思ってたっけなそのときは。それからもちょくちょく会うことはあった。

けれど、いつの間にかその引っ込みはなくなっていた。いつからだったかな。とても楽しそうに三浦先輩たちといたな。でも、私とは特に関わりはなかった。

そんなふうにして記憶の隅にいたわけだけど、奉仕部に初めて行ったときはほっとした。知り合いがいたっていうのは心強い。心強いはずなのに、そこにいたのは私の知らない人だった。雰囲気が全然違った。

結衣せんぱいは、優しい。奉仕部の他の2人と仲良くして、なおかつあの2人を近づけさせるなんて、優しい結衣せんぱいくらいにしかきっとできない。でも、その優しさは時には自分を切ってもいいような優しさ。それはせんぱいのような。

それでも甘えてしまった。甘えたかった。そうしたかった。彼女だって負担がかかり過ぎれば潰れてしまうし、いやなこともあっただろうけど。でも、そういうことを、きっと他の2人は取り除いていたんだと思う。いつでも明るい彼女、でも無責任で無遠慮な明るさじゃない。それは優しい彼女じゃないとできない明るさだ。私は結衣せんぱいにとってどんな存在ですか?

やっはろーは結衣せんぱいらしい挨拶でした。奉仕部の心地よさは間違いなく結衣せんぱいが作り出したものでした。

 

『また来てくれたんだー』

『ち、違うよ。なんでもないよ』

『それってあれだよね、うん、あれだよね』

『えへへ』

『ヒッキーのばーか』

『ゆきの〜ん』

『いろはちゃん、頑張ったね』

 

本当に、本当、に、

 

「ありがとうございました!」

 

とても大きな泣き声が聞こえてきました。ほんと、結衣せんぱいらしいです。

 

「せんぱい………!」

 

言葉が続かない。

2人に対してはきちんと言えたのに。自然と言葉にできたのに。

一番伝えたい人なのに。

 

『いやなんでいんのお前』

『まったく』

『まぁ、その、似合ってるな』

『やればできるなら始めからやれよ』

『もっと俺を労えよ』

『え、やだよめんどくさい』

『ちっ、わかったよ』

『なんだよ、やるんじゃないのか』

『あざといあざとい』

『わかったよ、見ててやる』

『引き受けた、会長』

『ほら、おごりだ』

『誕生日、おめでとう』

『捨ててくれていいぞ別に』

『恥ずかしいからやめろ』

『うぐっ』

『俺は一体なにをしているんだ』

『くそっ、はめられた』

『え、なにそれ怖い』

『人の話聞けよおい』

『またふられんのかよ』

『よく噛まずに言えるな毎回』

『いや知らん』

『へー』

『ほー』

『つってもなー』

『ん、わかった』

『あと少しだ頑張れよ』

『そんなことをねぇ』

『他のやつにやらせろ』

『なんで早く言わないんだよお前』

『そういうときは俺を頼れよ』

『それでも俺は、本物がほしい』

『おい雪ノ下、はきはきしすぎ』

『由比ヶ浜、一切触るな、いいな』

『一色、ーー』

 

だめだ、涙が多くなった。

でも、やっぱり、言葉は自然に出てきた。

 

「本物は、見つかりましたか?」

 

たった一言だった。でも、きっとせんぱいには、これでいい。

だって、せんぱいだもん。

 

 

 

いつの間にか拍手がいろんなところから聞こえ、体育館に響いていた。だから私の最後の声はかき消されているかもしれない。でも私は言った。届く思いかはわからないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せんぱい、大好きですよ」

 




卒業式ってどんな思い出ありますか?
人それぞれいろんな思いがあるんでしょうね。

途中の回想の言葉は持ってきたものじゃなければ勝手に作ったやつです。でも言ってそうですよね?

またよろしくお願いします。
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