ものすごく短いですが、それでもよければお願いします。
ではどうぞ。
「ねぇ比企谷君」
「んあ?どうした雪ノ下」
「今日の部活が終わるまで私を妹として扱いなさい」
「………はい?」
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最近、私は毎日同じことを考えている。比企谷君のこと。彼のことが頭から離れることがない。パンさんやネコさんの画像フォルダを見ていても、必ず彼が出てくる。彼と2人でランドへ行ったら、彼と2人でのんびりネコカフェに行ったら、といった感じに。
部活中は特にそれがひどい。由比ヶ浜さんや一色さんが彼の近くに行ったり話してたりすると、胸の中をぐるぐるとかき回されるような気持ちになる。
………はぁ。ここまでくると私も自覚を持つ。私、雪ノ下雪乃は、どうしようもないほど、比企谷八幡のことが好きなのだという、その事実を。
けれど、それは彼女たちも同じ。彼の魅力に引き寄せられた人たち。もっと言えば、きっと他にもいる。一度彼に惹かれてしまったらもう戻れない。そんな、ある種の中毒のように、好きになってしまうのだ、みんな。私がそうだった。
そして、私は彼女たちに負けたくない。誰にも彼を取られたくない。私の、私の彼氏、に、したい、の………。
なによりもこういうことを考えると恥ずかしさが勝ってしまうという自分の恋愛経験のなさが恨めしい。だから私は彼女たちよりも、もっと大きなことをしなければいけない。きっとこのまま奥手のままだと、誰かに取られてしまう。
私はなにをすればいいのだろうか。そんなことを自問自答して、そして見つけた。彼が最も近くに置きたくなり、考え、愛するような存在を。そう、小町さんを。だからやってみよう。まずは一歩でも、前に出よう。彼に振り向いてもらうために。
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そして昨日の考え通り私は今日実践を決めた。由比ヶ浜さんは三浦さんたちと遊びに行くから来ないし、一色さんは大事な会議があるから今日は来れないと言っていた。だから決行は今日。今日なの。
「悪い雪ノ下、もう一回言ってくれ」
「あら比企谷君、ついに耳すら腐ってしまったの?その眼と同様に腐っていってしまうのかしら?」
違う違う!私はこうやって彼を貶したいわけじゃないのに。それなのに、それしか言葉が出てこない。こういうことを言っているから、私は、彼女たちよりも………。
「………妹として、接してほしいわ」
「なぜに?お前正気か?」
正気なわけがない。恋愛とは、こうも苦しいものだから。正気でい続けるなんて不可能だ。気がやられていまう。
「やってくれたら教えるわ」
断られたくはないけれど、でも、それと同じくらい理由は言いたくないし言えない。
「はぁ、まぁわかった。で、どうすればいいんだ?」
「小町さんと同じ感じでお願い」
「んー、まずなにをすればいい」
小町さんと同じと言ってもよくわからないわね、いざしてもらうとなると。一つ一つ私のして欲しいことを言っていけばいいのかしら?
「頭、撫でてほしいわ。………お兄さん」
「………っ。そういう設定でいくのか。わかった雪乃、こっち来て座れ」
自分の名前を呼んでもらえることに、ここまで感動するとは思わなかったわ。さすがね比企谷君。というか今日の順応性はすごいわね。
顔、赤くなってないかしら。大丈夫かしら、大丈夫よね、そうよね、きっとそうよね。動揺なんてしていないのだし、大丈夫なはずよね。ええ、大丈夫よ、私は大丈夫。
そういうことで、私は彼の膝の上に座る。
………えっ?
「えーっと雪乃、椅子に座らないのか?」
………やってしまったわ。しかし、ここで引いてしまっては負けた気分になってしまう。恥ずかしくても、このまま押し切る。
「だめかしら?」
首を傾けて彼を見上げる。ほんのり頰が赤くなっているのが見れて嬉しい。
「………わかった」
そう言って右手を私の頭に乗せて撫で始める。
なにかしら、この高揚感。体の底から揺さぶられるような、興奮。なのに、それと同時に、いやそれ以上にある安心感。私のすべてを包むようなこの安心感は、初めての経験で。
目的は恋愛的に近づくことだったけれど、そのことは後回しにするわ。ただただ、今は彼に甘えたい。
「お兄さん、気持ちい、わ」
「そりゃよかった」
温かい。抜けられそうにないほど、彼は温かい。甘えたい、たくさん。今まで、できなかった分。
「小さいころから」
「ん?」
「小さいころから、こうやって一度甘えてみたかったの。両親や、姉さんには、とてもそういうことができるような環境じゃなかったから」
「身内以外にならいたんじゃないか?」
「いなかったわ。私はずっとおとなしかったから、そういうことをやってくれるような人はいなかったのよ。小さいころから大人びてるように見られていて、そういうのに縁がないように思われてて」
こう言っている間も彼は手を動かし続けて、撫でてくれてる。だから、今までたくさん溜めていたことが次から次へと、溢れてくる。いつも強かって、いつも抑えてきたもの。誰の目にも触れさせてこなかったこと。子供じみた憧れ。それらすべてを、彼は受け止めて、受け入れてくれてる気がして。
今の私はどうしようもなく彼に甘えている。
「だから、憧れていたのよ。こういうことをしてくれる兄に。だから、あと少し、付き合ってね。お兄さん」
「あぁ、わかった、雪乃。今まで、頑張ってきたもんな」
あぁ、本当に、私はーー
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私はいつのまにか寝ていた。それで起きたときに、下校時刻を知らせるチャイムが鳴った。彼の手はまだ頭の上にあり、撫でてくれている。
ずっとしてくれていたのだと思うと、なかなかに恥ずかしくなる。
彼は私のお願い通り兄として振舞ってくれたのだ。けれど、けれど私は。
「今日はありがとう、比企谷君」
「まぁ気にするな、雪ノ下」
戻ってきたいつも通りの日常。さっきまでの少しの時間は、どこか夢のようで、けれど現実で。
それでも、私は。
「それでは、帰りましょうか」
「そうだな」
もうさっきまでの関係にはならない。そう心に誓う。
だって、だって私は。
ドアに鍵をかけて、私は彼に近づき、私の唇を彼の頰につける。
「今日のお礼よ」
私がなりたいのは、あなたの妹ではなくって。
「い、いいい、いや、お、お前なにしてん、の」
あなたの彼女なのだから。
「キスよ?」
今はもう下校時刻、私の顔の紅さは、夕日が誤魔化してくれる。
ありがとうございました。
また、よろしくお願いします。