猫又さんの異世界旅 作:猫と竜が好き
プロローグ
ここはアルトアルネシア。一つの小島を六つの大陸が囲むように存在する世界。
六つの大陸の一つ『フィアラ』の森に、奇妙な猫が居た。ぽかんと人間のように口を開けた、二股の尻尾の猫。木の虚から出てきたこの猫は、出て来るなりこの体勢で固まってしまった。
濃紺のような黒の毛皮は木漏れ日を浴びてツヤツヤと輝き、緑と金の色違いの目元には紅が引かれたような模様がある。本来は凛々しいであろうその顔は今は間抜けに口を開けて固まっている。
猫又と呼ばれる、長生きした猫がなると言われる尾が二股に分かれた存在。
この猫又は、目を覚まして眠っていた場所から出てきたら、外がこうなっていた。猫又が眠ったのは決してこのような自然豊かな明るい場所では無く、目の前にビルの壁が見える狭く暗い路地の隙間だったのだ。
〜閑話休題〜
惚けていた顔をふるふると横に振って、猫又は面白そうに尻尾をくねくねと大きく動かす。表情が出にくいはずの顔にも"面白そうだ"と書かれていた。
風が草原を揺らす中、猫又は脚を踏み出していった。
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昔から私は他の猫とは見えているものが違うことがあった。ガラス瓶と呼ばれていたものの中に目玉が見えることもあれば、部屋の隅に黒いものが蹲っていたり、光の中に薄羽を持った小さな人のようなものを見かけることもあった。
最初の二つは見えている猫が時々いた。それらはこの世ならざるものだと言われた。
最後の一つは自分だけに見えていた。自分だけに見えていたものに関しては言わなかった。それが目の前でなにかをしていても明らかに他の猫や人間たちには見えていないようだったから。
そうやって生きていたら、気づいたら自分が"この世ならざるもの"になっていた。ある日尾が二股になっていたのだ。
突然のことに驚いたが、私はすぐに長年育ててもらった家から出ていくことにした。人間はこの世ならざるものを恐れるということは常々他の猫たちからも聞いていたから。
2度と戻ることもない家から離れた場所の暗がりでようやく一息ついた。自身の毛皮の色はよくわかっている。暗闇の中に溶け込める黒の毛皮。共暮らしをしていた人間にはよく暗闇の中で踏み潰されそうになった。だが、その毛皮も身を隠すということには重宝する。
そうやって身を隠しながら寝ても良さそうな場所を探していると、壁にヒビが入っていた。ひょいと立ってみると自分の頭が入るほどの大きさで、中も自分が入れそうなほどの広さがあった。ちょうどいいと思ってそこに入った。少し寝心地は悪かったが、気にせずに寝た。入り口からは、灰色の壁が見えた。
目を覚ますと、光が背中の方から差し込んでいた。私は出口の方を向いて寝たのだが、寝ている間に向きが変わってしまったのかと起き上がって外に出た。なぜか木の匂いがした。
そこには、灰色の壁ではなく辺り一面に広がる草があった。足元も硬い黒い石の床ではなく、柔らかい緑の草。思わず私は固まった。それはそうだ。寝る前とは違う場所にいるんだから。
灰色の壁も黒い石の床も酸っぱい匂いもない。あるのは青い空と辺り一面の緑と草の匂い。
不思議だ。不思議だが、面白い。
自分の尾が揺れるのがわかる。顔が歪むのもわかる。
行くあても考えてなかった私にはこの状況はちょうどいい。あの場所もそこまで知っていたわけではないが、鼻が辛かった。何より人と灰色の壁ばかりで酷くつまらなかった。黒い石の床は昼間は熱過ぎて上を歩けなかった。
それに比べてここならば風も気持ちが良いし、歩き回っていればいづれは何か面白いものが見つかるのかもしれない。
そうして、私はわくわくとする気持ちを抑えずに足を踏み出した。
灰色の壁=ビルやコンクリートの壁
黒い石の床=アスファルト
酸っぱい匂い=排気ガスetc…
はじめまして。作者です。初めてのオリジナル作品のため、非常に手探りで書いています。
ご都合主義等も間違いなくあると思いますが、細かく考えずにお読みください。