俺は推理を警官と犯人にぶつけることにした。
だが待て。警官と犯人に同時に聞かせれば問題ないが犯人にだけ言うとどうなるんだ。
万が一、犯人が逆上した場合、真相を暴いた俺が犠牲になってしまう場合もある。
だが犯人に聞かせず警官のみに聞いた場合、あの警官は俺を疑ったままらしいから事実を確かめてもらえないかもしれない。
つまり俺はどうやってでもいつもの警官と犯人に同時に推理を聞かせなければならないのか……。
ふむ……。とりあえず交番に行って警官だけでも捕まえておいて警官と犯人を会わせるか。
そう決めた俺はもう事件の推理も完了していてそろそろ家に帰りたかった。宿題をしないといけない。
夏休みももう終盤だ。
そして……この事件も終盤、短かったが世話になったこの町にはもう別れを告げよう。
俺は荷物をまとめて家を出た。暫く続いていた朝の交番通いも今日が最後だ。
交番にはいつもの警官はおろか誰もいなかった。これ交番の意味があるのか?
仕方がないので俺は久々に定食屋に行った。
主人は家出していたはずだったがいつの間にか帰ってきていた。女将の話では主人は結局、土下座して泣き付いてきたらしい。そんな主人は現在、家から出ることは許されないそうだ。
主人も帰ってきてタダ飯……という訳にはいかなかったが定価で召し上がることができた。こちらの浮気事件は俺が介入することなく解決したわけだった。
さ、仕切り直しだ。
殺人事件の解決をするため俺はもう一度、交番に行った。
交番の奥から都合良く警官とローズ刑事が出てきた。
警官は俺を見ると
「今度は何かね……今、刑事と事件について話していたんだが……」
ほう。それは面白い。言われてみれば事件に対する警察の見解を一度も聞いたことが無かったな。俺は自分の推理をぶつける前に警察の見解を聞くことにした。
「事件は不倫に愛想を尽かせた妻が夫を刺した後、自殺した……ということだ。」
「え?なんかそれって矛盾点がやたらあるんじゃ……」
俺が問うと警官は刑事には聞こえないくらいの声にして
「実は本官も違和感を感じている……だが刑事には逆らえないよ」
と漏らした。仕方無い。俺の完璧な推理を聞かせてやるか。このままでは事実は闇の中だからな。
「いや……俺は事件の真相を言いに来たんだが……」
「何!?本当かね?刑事!!ちょっと来てください!」
交番内にいるのにそんな大声で呼ばなくても……。
するとトイレに行っていたらしいローズ刑事が現れた。
「そんなに大声で呼ばなくても聞こえてるわよ。あ、鈴木ちゃん?事件の捜査してくれるのはありがたいんだけどあんまり詮索し過ぎない方が良いわよ。犯人が逆上して命を落としたりするかもしれないから・ネ」
何を今さら白々しいことを……。
「俺……。分かっちゃったんです……。犯人が」
食い付いてきたのは警官だった。
「何!?本当かね!?で、誰なんだ!?」
こいつには犯人扱いや安過ぎる慰謝料、若いくせに高圧的な態度に腹が立っていたからな。ちょっとからかってやろう。
「犯人は……俺だ。」
「何!?やっぱりか……最初から怪しいと思っていたんだよ。そもそも現場で本官が身柄を確保したときから……」
刑事を前に手柄が欲しいのか警官は言い訳する小学生のようにウダウダ言ってやがる。
「なーんてな。ヘッ。嘘だぜ。」
「……!本官を侮辱しているのか!?実際に犯人は誰やねん!ワレそれもパチやったら公務執行妨害でパクったるさかい覚悟せぇよ!」
見栄はるからそうなるんだよ。ってか、こいつ感情が高ぶると訛るのか……。
「順を追って説明してやる。」
俺は事件の流れを説明してやることにした。「事件は夜起きた。だがその数日前から……いや正確には数年前から計画は進行していたのだろう。犯人は被害者夫の不倫相手を夫と引き離し不倫相手に事件のことを知られないようにした。そして別れる話し合いで夫は帰宅が遅くなり玄関先で夫婦喧嘩が起きるように仕向けた。そして別れたその日に現場のホームレスといつも追い払いに来る大家さんを来ないようにして準備完了。犯行を誰にも見られずに行いそのままアパート前の双電交通バスに乗り第二の凶器であるアイスピックを誰も触らない非常口操作器の蓋を開けその中に凶器を隠した。その翌日以降、友達へ借金を肩代わりして返済したりして事件の余計な詮索をさせず、事件の詳しいことを時が経てば忘れるようにした。これが事件の全貌だ。」
犯人は表向きでは平静で聞いているが内心ではびくびくしてるだろうな。
警官はまだ俺を疑っているのか俺に聞いてきた。
「確かに筋は通っているが……結局、犯人は誰なのかね?」
それはやはり気になるよな。
「それは……ローズ刑事……いや、そこにいる金田真一です。」
場の空気が凍りついた。まぁ当然だよな。
その北極のような空気の中で最初に動いたのは犯人、金田真一だった。
「あら、やだ。また冗談かしら?もーっ。あたしたちも忙しいのよ。からかうんだったら帰ってちょーだい」
「残念でしたね。生憎だが冗談では無いんですよ。それはロー……いや金田真一……あんたが一番詳しく知ってるはずだ」
「もーっ。さっきから金田金田金田金田ってその名前で呼ばないで!だいたい何を根拠に言ってるのよ!」
「やれやれ……それも俺が説明してやらなきゃならんのか……」
「本官も詳しく話を聞かせてほしい。」
「仕方無いな……。以前、夏祭りの公園で起きた警官が刺された事件……。すべての発端はこれだ。ここで刺された警官は金田真司さんという。」
「……え?それってもしかしてローズ刑事の……」
本人はまだ言うつもりは無いのかうつむいている。
「あぁ、おそらくな。で、刺したのが今回の事件の被害者夫だ。」
「……え……怨恨……?」
「そうなるな。だが昔の事件では被害者夫は精神病と診断され法で裁かれることは無かった。」
俺はだいたいの推理をぶちまけてやった。
するとローズ刑事は何かを思い付いたかのように言い出した。
「……!どこに証拠があるのよ!全部、憶測に過ぎないわ!証拠をだして見なさいよ!」
やれやれ、ここまで事実を認めないとはな。
俺はとっさにスーパーの袋に入れて置いた血塗られたアイスピックを取り出した。
「……っ!これは!?なんで黙っていたんだ!?」
「いや……犯人の手にみすみす渡すわけにも行かないでしょ。事件当日、バスに乗った時には手袋は外していた。つまりこのアイスピックには犯人の指紋……そして被害者の血のDNAがあるはずだ!さぁそろそろ認めたらどうだ?」
するとローズ刑事だった殺人犯は敗けを認めたのか長い金髪を引っ張った。すると金髪が山のようにづり落ちた。ウィッグだったのか……
「フフっ……。その通り……。殺ったのは俺さ。すべて話すよ。」
意外にイケメンだな……というか何でオカマをやめたんだ?
「あんたの言う通り。あの事件で俺は父親を失った。当時幼かった俺は母親から父は浮気して駆け落ちしたと聞いた。男は最低だと思ったさ。そうして俺は高校生になるまで父は浮気して駆け落ちしたと思い込みながら生きてきた。その頃には男であることが恥ずかしいくらいにな。高校を出たらニューハーフになろうと思ってたくらいだ。」
なるほど……だからオカマだったのか。
「だがな高3の夏……。志望校も決め友達と勉強のために図書館に行った日のことだった……。友達に事情を言うとそいつは図書館に保存されている新聞を探し出して俺に見せてくれた。その夜、母親に聞いて俺は初めて事実を知った。父をずっと恨んできた俺が間違いだったことも犯人が罪を償わずのうのうと生きてることをな。俺はその時、警察官になって復讐してやろうと考えた。それから警察官になるために日々猛烈に努力し晴れて警察官になった。警察官になってから仕返しした後を考えて刑事に昇進するよう頑張りカモフラージュのために普段の勤務はオカマのふりをすることにした……。まさかこんなに早くバレるとはな。」
その時だった
どこからか足音が聞こえてきた。
「やれやれ……そんなことなら私を殺せば良かったのに……」
何者!?
「やれやれ……そんなことなら私を殺せば良かったのに……」
何者!?
振り返ると眼鏡をかけた白衣のオジサンが立っていた。
事件も大詰め。空気を読まないタイミングだな。警官もそう思っていたらしく
「……あんた誰ですか?今、取り込み中なんですが。」
と怒り気味だ。今回だけは警官に味方してやってもいい。
「あ、申し遅れました。私は精神科医師会『流盛会』会計監査課副課長補佐兼『流盛会』労働組合組合員の村山総合医院精神科の医師、水野です。」
えらく長い肩書きだな。長いだけでそんなに大したことはないような気がする。それは置いといて……
俺はさっきの発言の意味を聞き直すことにした。
「今の『私を殺せば良い』とはなんだ?」
「まぁそろそろ年貢の納め時だと思いましてね。自白だけでは証拠にはならないということで言いに来たのですよ。」
「水野先生と言ったか?どういう意味だ?」
「過去のあの事件。当時、医師になりたてホヤホヤの私が容疑者の診断書を書いたのさ。だが実際には容疑者の妻から賄賂を受け取っていたんだなこれが。本当は精神病なんかじゃなくて責任能力もあったんだよ」
笑いながら堂々の犯罪宣言。頭大丈夫なのか?この医師を精神科に連れていくべきじゃないのか?
まぁ疑問はぶつけることにしておこう。
「なぜ?なぜこのタイミングなんだ?なぜ今頃になって言いに来たんだ?」
「いやぁ、言ったところで証拠も無いし証人も亡くなったからね。でも隠し通すのは苦手だから言いに来たんですよ。まっ、刑事さんも復讐が成功して良かったじゃないですか。私もあなたのお陰様で過去の件で咎められることもありませんしね。」
笑いながら余裕綽々で水野医師は言う。
何かがキレた音がした。俺と警官はそんな気がした。
―バンッ―
一発の銃声が鳴り響いた。
あっけらかんとしてしばらく(実際には数秒)固まっていた俺たちだったがやがて金田刑事が
「……お望み通りにしてやったよ……」
とボソリ……。銃声の発信源は刑事の拳銃らしい。
水野医師が頭から血を流し倒れていた。
警官が
「……!金田真一!現行犯で逮捕だ!」
と叫び取り押さえにかかる。
俺は一応、救急を呼んだが水野医師は即死だったらしい。
その場で刑事は警官に取り押さえられていた。刑事は抵抗する様子もなかった。
もう何もかも諦めたという感じだ。
俺もこんな形で終わるとは思わなかったぜ。
そのあとどうなったかを話しておこう。
逮捕された刑事は即懲戒免職になった。
俺はその日は本来の家に帰ることができた。久々だが安心するものだ。
数日後に警察から呼び出しがあり水野医師銃殺の証人としてまたあの町に行った。今回は交通費も警察持ちだったから楽だな。
最初の夫婦殺人に関しても俺の推理を基に警察は捜査することになり金田元刑事は殺人の容疑で再逮捕され3人を殺害したとして裁判の結果、無期懲役となった。
俺はというと事件の捜査に協力したとして感謝状と金一封が贈られた。金一封の中身は数ヶ月で「ヤバイ棒」という御菓子になって消えたんだが。
結局のところ金田元刑事の復讐劇は本来の目的と言えば成功したが事実、人が亡くなっているのだ。
自分の片親を失ったからと言って許されるわけではない。金田元刑事には罪を償ってほしいと思う。
俺は事件から帰ってしばらくは恐怖で手が震えて宿題も手につかなかった。文化祭の一件で免疫は付いたつもりだったが目の前でやられては多感な高校生には辛いぜ。
ちょうど1年ほど前には色々と俺は推理がしたくて事件を探し回っていたが本物の事件の後、感想を述べるとしたら、「あの頃の俺、事件は一回で十分だぞ」と言ってやりたい。