「あ、君。」
警官が誰かを呼んでる。
「君だよ君。」
俺のことのようだ。
「ちょっと奥まで来てくれ。」
俺は言われるがままに交番の奥に行った。
「話というのはだね」
警官は言い出した。
「実は大家さんの都合であすなろ荘を開けてほしいんだ。」
これは弱った。事件を解決するためにしばらくあすなろ荘に住もうと思っていたのに追い出されてしまうのか?
そういうわけにはいかない。適当な嘘をついて残らなければ。
「ふざけるな!両親は海外旅行に行ってるんだぞ!金のない俺はホテルに泊まることも出来ないんだぞ!俺にホームレスになれとでも言うのか!」
犯人扱いに対する慰謝料もスルーこそしたが気に入らない。俺はここぞとばかりに声をあげた。
「君にはすまないと思ってる。代わりの住居を用意した。しばらくならそこに住んでも構わない。あすなろ荘は明日の朝までに空けてくれ。」
そういうと警官は俺に鍵と住所の書かれたメモを渡した。
俺は1日動きっぱなしで疲れていたので定食屋に行くことにした。ちょうど夕食にいい時間だ。
前は定食屋も鍵を閉めて俺を入店拒否していたが噂の回るのは早いらしく店に入ることができた。
定食屋の飯はうまかったのだがどうも女将の顔が浮いていない。昨今の不景気で財政難なのだろうか?話しかけてみると
「最近、うちのダンナがどうも元気なんだ。それになんだか香水の臭いもするんだがねぇ」
と言っていた。定食屋の主人は浮気でもしてるのか?
まぁ俺には関係無いがな。
そして俺はあすなろ荘に帰り長い1日を終えた。明日には引っ越しだがな。
狭い部屋とはいえ交番で寝るのとは違うな。
久々にゆっくり寝た俺だったが起きたら引っ越しだ。
まぁリュックサックが一つだけだからな。いつもと変わらないんだが。
俺はさっさと荷物をまとめて新しい住処に向かった。
紙を見たときに引っかかってはいたんだが、まさかだな。
それは例の事件が起きたアパートだった。
「メゾン壱剋」
むだにかっこいい名前だ。住む部屋は例の事件の隣の部屋。偶然だと信じたい。
一旦、荷物を部屋に置くため入る。
部屋はあすなろ荘より広い。生きていくに不自由はしないだろう。
ま、事件を解決するまでしかこの町に残るつもりは無いがな。
とは言え事件の全貌はまったく分からない。ただの物取りなのか?
俺は事件の様子を詳しく聞くために交番に行こうとした。
ドアを開けて一歩、外へ出ると聞いたことある声が聞こえてきた。
「みくる~。俺はお前に夢中だ。もう駆け落ちしたいくらいだ。」
そこにいたのは男女二人だった。定食屋の主人と見知らぬ女だった。俺は定食屋の主人の不倫現場を見てしまった。
「………!?お……お前は昨日の……!?」
客だぞ。お前呼ばわりか……。揺すってみるか。
「ははーん。オカミが言ってたのはこの事か……。」
「たっ、頼む!この事は黙っていてくれ!」
「えー。どうしようかなぁ―。」
「うちのメニューは全部タダにしてやるよ。それなら文句はねぇだろ?」
「まぁ……な。」
「じゃあ頼むべ!」
これから食費の心配は無いな。
さて、俺は交番に行くとしよう
交番にはいつもの警官しかいない。
「何か被害者のことを教えてくれないか?俺も事件の捜索に協力したい。」
「そういうことなら仕方ないな。」
俺は被害者の情報を聞いた。警官も俺を疑ったことを悪いとは思っているようだ。
警官からの情報をまとめると
・50代の夫婦
・毎日、夫婦喧嘩が絶えず公園で喧嘩して通報されたことも
・夫は逮捕歴あり
ということだ。夫婦喧嘩ならまぁどちらかがどちらかを殺してから自殺という可能性もあるな。
近隣住民に迷惑がかかっていたということは近隣住民が殺った可能性もなくはない。
可能性は広がったな。というか何故夫婦喧嘩が絶えなかったんだ?夫の稼ぎが悪かったのか?逮捕歴と関係してるのか?
うん、なるほど、分からん。とりあえず腹ごしらえだ。警官としゃべってるうちに時間はいい感じにお昼時だ。
定食屋に入ると主人が暖かく迎えてくれた。
「へいらっしゃい!おぉあんたか!特別メニューだ!」
主人はそういうと値段が書かれていない特別なメニューの紙を渡した。
ん?このメニューに定食が何一つない。全部安いサイドメニューだ。俺はこの程度では誤魔化されない。オカミの元へ行った。
「なんでアンタは全部無料なのかね?最近、主人の様子がおかしいよ。アンタ、なんか知ってるんじゃないかい?」
「オカミ……実はですねぇ……」
すると主人は
「あ゛!!!メニュー少ないから怒ってるんだろ?すまねぇ」
と通常メニューの値段がすべて書かれていないバージョンを渡してきた。
全メニューが無料となればウハウハだ。俺は一番高くて普段は絶対に頼めない「うな重定食」を頼んだ。
定食屋から出た俺はもう一度、手がかりを探すためアパートに戻った。いわゆる聴き込み調査だ。