風来坊で准ルート【本編完結】   作:しんみり子

21 / 37
《旅ガラスのうた》I

 ――ジャジメントスーパー、支店長室。

 

 平日の昼下がり。下の階では従業員たちが毎日の糧のために精一杯働いている中、支店長である太田洋将もまた孤独な戦いに挑んでいた。

 普段はふんぞりかえっているデスクから立ち上がり、受話器を相手にひたすら平謝りし続けるという、中間管理職の戦いを。

 

「それでは、ブギウギ商店街の土地はまだ集め切っておらんのだな?」

「はい……」

「もっといい報告を聞きたいものだね、オオタマネージャー」

「は、はい、申し訳ありません。……ただ、なにぶん資金が足りませんので」

「必要なら、日本支社に協力させよう。ともかく、今年中にメドをつけるのだ」

 

 ぷつり。むなしく通信切れの音が鳴り続ける受話器を、太田は力なく本機に戻した。

 思わず、ため息が漏れる。何故こうも上手くいかないのか。

 ニコニココアラーズは、椿が姿を消したあの試合以降痛恨の四連敗。

 

 どれだけあの男の居る居ないが大きかったのか。

 それを痛感させる試合内容に太田は頭を抱えるほかなかった。

 チーム全体にも、椿さえ居ればなどという雰囲気が広がってしまっており、その椿は音信不通。いや、元々連絡先など知らない男ではあったが、本当にどこかへ消えてしまったのだ。

 

 ……しかし今太田が考えている計画を実行するにはどうしても椿の力が必要だ。一人で試合をひっくり返す、そういう単独での強さが。

 彼はどこへ行ってしまったのだろうか――

 

「で、あの土地には何があるんだ?」

「うわっ、椿!?」

 

 突然の声に、太田は竦み上がった。思わず振り返れば、デスクテーブルの上に足を組んで座った死ぬほど無礼な男が一人。またしても太田のコーヒーを勝手に飲みながら、太田を見やっていた。

 

 一瞬目を輝かせてしまったが、太田はぶんぶんと首を振ると椿を睨む。

 

「待てよ、なぜここにいる。お前は小波に負けて逃げ出したんじゃなかったのか?」

「ははは、逃げてきたんじゃねえよ」

 

 よっと。

 テーブルから飛び降りると、青帽子を取ってくるくると手で回す。

 相変わらずもったいぶるのが得意なようで、太田は急かすように椿を睨んだ。

 

「ちょっと野暮用を片づけてたのさ。数匹、珍しい鼠が居たもんでね」

 

 いったい、何の話なのか。

 ただの鼠退治に丸二か月もかかるはずもない。なら暗喩の意味での鼠だろう。しかし、ただの風来坊の男が鼠を狩る必要などない。……こいつ、ひょっとして。

 

「お前はいったい、誰の手の者なんだ?」

「そいつはお前さんが気にすることじゃねえ。肝心なのはこっちだ」

「気にするも何も――」

 

 お前がどこかと繋がっていれば、私は――と怒鳴ろうとしたところで、気づいた。

 今、この部屋に誰が居るのかを。椿と太田以外に、まだ三人。

 

「勝つために頭数を揃えてきたのさ。紹介するぜ、ザ・トリオだ!」

「ソルジャーと呼べ」

「……番長だ」

「……ロボ」

 

 なんだ、こいつらは。

 目を瞬かせる太田に、椿は軽く笑って答える。 

 

「ちょいと昔の知り合いでね。今度こそ、深紅の野郎は潰すさ」

「……ビクトリーズのエースか。……そういえば、お前はやたらとあの男に固執しているように思えるんだが、どういう関係なんだ?」

「お前に話すようなことじゃねえが……ぶっちゃけただの趣味だよ。あいつがどこへ行こうが、その先々でぷちっと潰して遊んでるんだ」

「なんて趣味の悪い」

「それ、お前が言うのか?」

 

 鼻であしらうように椿は続けた。そして、帽子を深くかぶり直して小さく呟く。

 

「ま、完全に潰しきったことは未だかつて無いんだがな」

「何か言ったか?」

「いや? さて、それでさっきの話だが」

 

 気を取り直して、太田を見やる椿。

 太田の背後にはいつの間にか番長とソルジャーが構えており、部屋の入口にはロボが仁王立ちしていた。まるで逃がす気のない布陣に、太田の頬を汗が奔る。

 

「ん? なんのことかな?」

「商店街の土地には、なにがあるんだ?」

 

 にこやかに椿が問いかける。

 

「フン、なぜきみらに話さねばならんのだ?」

「ああ、そうかい? おい、ロボ。ちょっと下の売り場で暴れてこい」

「こっ、こら、ちょっと待て!」

 

 慌てて太田が押しとどめると、椿は今度こそ笑う。完全に脅迫の手口だった。

 言わねば分かっているな、という椿の表情に、太田はがっくりとうなだれる。

 

「本当のことを言うと、私も会長から何も知らされていないのだ」

「本当か?」

「……あそこに何か埋まってるらしい。私が知っているのはそれだけだ」

 

 しばし太田の瞳をじっと眺めていた椿は、興味を失ったように目を逸らした。

 信じて貰えたようで、太田は膝から崩れ落ちる。その太田を、ソルジャーと番長が支えてくれた。礼を言うより先にソファに投げられた。

 

 番長はその特徴的な学生帽を弄りながら椿を見やる。

 

「おい、椿……」

「世界的なスーパーグループの経営者が興味を持つお宝ねえ……殿様の埋蔵金とかじゃないだろうな。古代の超兵器ってのもなさそうだ。……何だろうな」

「……面白そうだ。呼ばれて来た分、暴れさせて貰うぞ、椿」

「おう、楽しもうぜ」

 

 明確に、性質の悪い不良グループの雰囲気だった。

 いや、雰囲気というか、そのままだろう。このままでは何をしでかすか分からないこの面々に、太田は必死で抗弁する。

 

「とにかく、他言無用だぞ! 商店街に関しては、もう作戦がある。お前たちにも協力して貰うからな!」

「おーけー分かった。ご機嫌じゃねえか。んじゃ、またな」

「いいか、絶対に他言無用だぞ! 絶対にだ!」

 

 吼える太田にひらひらと手を振って、ロボの開いた扉から三人が出て行く。

 その姿を見送って、太田は盛大にため息を吐いたのだった。

 

 

「ああもしもしオレだ。椿だ。楽しいことになってきやがったぜ。ジャジメントの会長が狙ってんのは、どうも商店街に埋まってるなにかしららしい。……これだけ絞れれば十分か? 流石だなおい。期待してるぜ」

 

 

 そんな太田との約束が、果たされるはずもなく。

 

 

 

 

 

 

《旅ガラスのうた》I――不穏の影――

 

 

 

 

 

 

 

「商店街の総テナント化計画?」

「ああ、ジャジメントスーパーからの提案が会長のところに来たらしいんだ」

「ふうん」

 

 スプーンでカレーを掬っていただく昼下がり。

 今日も午前中に試合を終えて、権田にカレーを奢って貰っていた。

 奈津姫さんと、武美がバイトで入っているこの時間帯。しかしながら、意外にも客が他に一人もいなかった。……この時点でおかしいと思うべきだったんだろうが、哀しいかな俺はその時、この町での俺の立ち位置を真の意味で理解することが出来ていなかったらしい。

 

「で、断ったのか?」

「当たり前です! そんな話を飲んでしまったら、この商店街は本当に無くなってしまうんですよ。それに、テナント料だって信じて良いものなのかどうか」

「……なるほど」

 

 権田が答えるより先に、カウンター越しに奈津姫さんがキレた。

 よほどおかんむりだったと見えるが、話を聞く限りそんなに悪い条件でもなさそうだった。……問題があるとすれば、ここまでいやがらせを続けてきたジャジメントスーパーが突然すり寄ってきたことに対する疑念、だろうか。

 

「それにしても、なんでこの話を俺に? しかも、わざわざ裏口から入って」

「ん? ああ、ちょっとな」

「別に言いにくいことがあるならそれでもいいが」

 

 最近、試合の帰りを権田と共にすることが殆ど無くなっていた。

 俺がキャプテンに就任して以来、雑務が増えたのも事実だが。権田は権田で商店街の古参メンバーとあれこれ話をしながら帰るようになっていたし、俺は俺でカニとかピエロと帰ることが多くなっていた。

 

 今日も、そうして商店街まで戻ってきた後に、まるで犯罪後のようなこそこそした様相で権田が俺を呼びつけて、カシミールにも裏口から入ったのだ。

 

 何のゲームだよ。

 

「それで小波、最近の助っ人たちはどうだ?」

「どう……いや、普段と変わらないが。強いて言うならピエロに好きな人が居るとかなんとかで少し盛り上がってるくらいかな。相手が分からないが、どうもこの町の人らしい。一目惚れしてサーカス辞めたらしいぜ。凄いよな」

「あー……平和そうで何よりだ」

「まあ、寺門は少し荒れてるけどな。監督がどうにか抑えてる」

「そうか」

 

 しばし、権田は瞑目した。

 

「寺門に、もう少し実力主義を改めさせることは出来ないもんか?」

「あいつの場合、実力主義どうのというよりも、少し言動をどうにかしてほしいとは言ってるよ。……新戦力っていうのは勝手に出てくるもんじゃないんだ。みんなで互いを育てなきゃ、チームは強くなれない」

「至言だな。エースでキャプテンのお前が言うと重みが違う」

「色んな意味でな」

 

 思わず自嘲する。かといって、俺のこの煩悶とした感情が権田に伝わるわけもない。

 とはいえ、権田は夏頃からこうして、俺から助っ人の話を聞くようになった。

 殆ど分裂しているに近い現状を、権田もどうにかしたいと思ってくれているとすれば俺も嬉しい。俺も出来れば権田たち――ないしは古参メンバーに歩み寄りたいと思っているんだが、こう、もう突き放されているようなもんなんだよな。

 

 それを権田も分かっているから、こうしてとりなしてくれているんだろうが……。

 

 と、そこで入り口のベルが鳴る。

 

「いらっしゃいませー」

「一人なんですけど……空いてますか?」

「ええ、どうぞ」

 

 カウンターに案内されたのは、白い髪の女性だった。

 奈津姫さんが笑顔で応対している。しかし……あの女……。

 

「おい、closeにしてたんじゃないのか?」

「ごめん、そのはずだったんだけど……」

 

 おい武美、権田。なんだそれは。この店、今日閉店してたのか?

 なのに俺は平然とカレーを頼んでたのか? なんかすごい無礼なヤツみたいじゃないか。

 

「……あ、野球やってるんですね」

「え、あ、ほんとだ。優勝のハイライトかしら」

 

 女性の声に、天井近くに設置されたテレビを見上げる。

 日本シリーズ出場を決めた大神ホッパーズの、リーグ優勝時のハイライトが放映されていた。……ちょうど、先週のことだ。

 俺も准の家でテレビを見せて貰って、あいつの応援をしていた。

 そう。ペナントレースは最後の最後まで0.5ゲーム差の熾烈な戦いを演じており、その幕引きとなる最終試合の先発投手こそ――

 

『ストライクアウト!! ホッパーズ、今期リーグ優勝を決めました!! マウンド上の安藤小波、勝利の雄叫び!! プロ野球史上38年ぶりとなる30勝越えの最多勝利!! 36年ぶりの奪三振記録300オーバー!! ホッパーズ、下馬評を大きく覆すペナント優勝ーーーーー!!』

 

 ――安藤、小波。

 

「冷静に考えてとんでもない化けモノだよな、安藤小波」

「去年までとは気迫が違ったというか……流石だよね。ね、深紅さん」

「吹っ切れたのだとしたら。野球に専念出来たんだとしたら、感無量だよ」

 

 二人に笑いかけて、最後の一口を掬った。

 

 CCRの存在は、おそらく完全に隠蔽された。胴上げするチームメイトと共に笑いあうあいつの姿を見て、心底ほっとしたんだ、俺は。

 野球を好きになったと言っていたあいつが、好きなものに熱中できる環境に身を置けたこと。それがたまらなく嬉しかった。俺のしたことは無駄じゃなかったんだって。

 

「……ありがとうございました。ごちそうさま」

「あ、はい。ありがとうございましたー」

 

 白髪の女性は、そっと目を閉じると立ち上がった。

 会計を済ませて、最後にテレビの映像で吼える小波の姿を一瞥して、帰っていく。

 

「……」

「深紅さん。今の人、知り合い?」

「どこかで見たことがある気がする。……たぶん、あの人は少なくとも何人か殺してるな」

「えっ」

 

 

 

 

 店の外に出た彼女は、小さく伸びをすると。

 持っていた端末から番号をコールし、……少ししてため息交じりに呟いた。

 

「ええ、発見しました。遠前町に……はい。了解しました」

 

 

 

 

 

(そして・・・)

 

 

 

 

 

 今日は喫茶店に来い、という趣旨の伝達を朝のうちに受けていた俺は、カシミールをあとにするとその足でいつもの店に向かっていた。

 

 うん、まあ、たぶん間違いないだろう。

 

『今日の試合の後は何をなされますか、ご主人様♡ コーヒーをお飲みになりますか? メイドを愛でられますか? それとも血祭りにあげられますか?』

『入店orDIE!?』

 

 ……たぶん、間違いないだろう。

 

 ということで、聞きなれたベルの音を感じながらいつものように入店。軽くマスターの瀬納さんに会釈しつつ、テーブルに着こうとすると――

 

「いらっしゃいませ!オス♡」

 

 嬉々としてヤツがやってきた。

 

「メイド服でなんで体育会系の挨拶なんだ?」

「先輩、今日は体育の日です! というわけで、今日のノリはこっちで行こうと思ってるんすよ! オス♡」

 

 そうか……。

 拳を突き出す動作は可愛らしいが、いちいち的確に俺の鳩尾を狙うのは大変やめていただきたい。

 

「……体育会系でも文科系でもどっちでもいいや。いつもの」

「熱い男達の汁コーヒーですね!」

「なんだそのむさそうなコーヒー名は。普通のコーヒーで頼む」

「吹き出す塩の結晶コーヒーですね!」

「しょっぱいわ! 普通のコーヒーをよこせ!」

「先輩が白いものを黒と言ったら、それは黒になります!」

「俺がおかしいみたいじゃないか!」

 

 などとごちゃごちゃツッコミを入れていると、周りの年配の客から和やかな目で見られていることに最近気が付いた。なんか、凄い、名物にされてる……。

 

「せ、先輩、す、すぐにお持ちしますね!」

「最後にはオレが使い走りさせたみたいになってるし」

 

 なんで初手からこんなに疲れるんだ。まさか、今日来いって言ってたのは体育の日だからか……? また無駄に手のこんだネタを。

 

 と、隣のテーブルのおばあちゃんが皺の刻まれた笑顔で会釈してきた。

 ああ、なんだそのふれあい広場の動物でも眺めるような瞳は。

 

「元気やねえ……。准ちゃん、彼氏さんが来るといつも楽しそうで」

「え?」

 

 か、彼氏?

 

「准ちゃんがいつも言っとうよ。彼氏さんが商店街の野球チームでエースでかっこええって」

「あ、ああ……」

 

 そういえば、半年前に彼氏役やらされてたな。

 あれ、まだ有効だったのか。

 

「最近、お友達もあんまり来ないから、いつも笑顔でもちょっと寂しそうでなあ。准ちゃんの楽しそうな声が聴けるのは、あんたが居る時だけでなあ。頑張ってや、彼氏さん」

「そうですか。まあ、あいつが楽しそうなのは俺も嬉しいですし……死なない程度に善処します」

「そうかえそうかえ。彼氏さんも、准ちゃんのこと好きなんやねえ」

 

 それだけ言うとおばあちゃんは手元の本に目を落とした。ああ、友達ってもしかして維織さんか。言われてみると、本当に全然見ないよな、あの人。最近何してるんだろう。

 

「お待たせしました、オス♡」

「まだやってるのか?」

 

 手元に置かれたコーヒーでふと我に返ると、目の前には准(体育会系)がいつの間にか。

 

「お前ちょっと顔赤いぞ」

「ぇ? えっと……走ってきました、オス♡」

「店の中!! そしてそのせいかちょっと冷めてるじゃないか!」

「え、ほ、本当ですか。三分で買ってこい、ですか?」

「焼きそばパンみたいなノリになってるから……。いや、普段よりちょっと冷めてるだろ」

「す、すみません先輩!」

 

 ぺこぺこと頭を下げた准(体育会系)は、そのままそっとカップを手に取ると……勝手に飲んだ。

 

「お、おい!」

「そんなに冷めてませんよ、オス♡」

「オス、じゃねえよ! 何してんの!?」

「せ、先輩のために毒見を」

「もうそれ体育会系じゃなくてヤのつく自営業じゃないか……」

 

 と、そこで入店を告げるベルの音が鳴り、彼女は「じゃあごゆっくりどうぞ、ご主人様♡」といきなりメイドに戻ってウィンクして去っていった。

 

 まあいいか。とコーヒーを傾けかけて……あいつ、カップのどっちに口付けて飲んだ?

 

 右手で持っていた? 左手だったっけ。

 何故かこういう時記憶力というのは宛にならない。どっちでもあったかのように脳内で再生されてしまうのだ。あれ、どっちだ? これ、失敗するとアレだぞ。

 

 ……いや、まあ、相手は准だし? 向こうは完全に俺のこと男として見てねえし? なら……いやいやいやいやダメだろ。無理だよ。なんてことしやがる。

 

 ええ……どっちで飲んだ……?

 

「あの」

「へ? ……あれ、さっきの」

 

 俺が一人で頭を抱えていると、ふと差した影。

 見上げれば、ばらついた白髪が特徴的な女性がそこに居た。

 先ほど、カシミールで会ったばかりの相手である。

 

「どうも。ホッパーズ、リーグ優勝出来て良かったですね」

「ああ、そうですね」

「……相席、良いでしょうか」

「ええ、まあ、全然」

 

 どうぞ、と対面の椅子を勧めると、彼女はゆっくりと腰を下ろし――ひっ!

 なんか、俺だけに見える角度から、真っ黒なオーラを出してこの席を見据えているメイドが居るうううう! 怖い怖い怖い怖い、なにあれ、なにあれ、なにあれ!

 

 ねえ、何作ってんのそれ。お冷のカップになんか変な草すりつぶして入れてるのは何で? 明らかに人の飲み物じゃない色のドリンクが仕上がりつつあるんだけど大丈夫?

 

「……安藤小波とはお知り合いだったんですか?」

「へっ?」

 

 視線を戻せば、腰かけた彼女はやけに真剣な瞳でそう口にした。

 安藤小波と知り合いかどうか。……普通に考えれば、イエスだ。隠すようなことでもない。ただ……。

 

「なにか?」

「いや、あんたがどういう立場から俺にものを聞いてるのか気になったんですよ」

「……ただの、一個人ですよ」

「そうですか。……知り合いですよ。俺の親友です」

「っ……」

 

 何やら、苦虫をかみつぶしたような顔。

 この隙の無いたたずまいと言い、完全にこの人は小波の関係者と見て間違いないな。

 問題は、どういう関係だったのか、だが。

 

「お知り合いだったんですか?」

「まあ、はい。安藤とは、そこそこ長い付き合いだったものですから」

「……なるほど」

 

 またどっちとも取れる言い方を。

 と、そこでそっとお冷が置かれた。

 

「いらっしゃいませ、お嬢様♡ ご注文をお伺いいたします♡」

「コーヒーを一つ」

「ありがとうございます♡ ところで」

 

 お盆に口元を隠しながら、柔らかく目じりを下げた営業スマイル。

 准は目の前の女性と目を合わせて、首を傾げた。

 

「私のダーリンとどういう関係で?」

「……ああ、そうだったの。それは無神経なことをしたかしら」

「いえいえ。どういうご関係でしょう?」

 

 ぐいぐい来るなこいつ。初対面の、しかも女性に対してわざわざ彼氏役の刷り込みをする必要はないんじゃないか!?

 

 流石に女性も驚いたのか、若干たじろぎながら、こぼすように答えた。

 

「さっきカレー屋さんで会っただけで、共通の友人が居たことで少し」

「共通の友人?」

「安藤小波だよ、准。この人、小波の同僚だったらしいんだ」

「元、だけどね」

 

 かまかけのつもりだったんだが……あっさり肯定か。ということはCCR。

 となると俺にわざわざ絡んできた理由は――なんだ? 灰原の復讐か? それとも安藤からの伝聞か? 或いは……まだ彼女がそちら側の人間だというのなら、新たな組織での任務。

 

「それで、小波のことで何か聞きたいんですか?」

 

 コーヒーを一口飲んで、彼女を見やる。

 

「ええ。なんだか一年ほど前からちょっと様子がおかしかったので、何か知ってる人が居ないかとね。そうしたら、安藤が貴方の話をしていたのを思い出して」

「……同名の友達が出来た、とでも?」

「ええ。なので、来ました」

 

 それからしばらく、表面上は和やかに話を進めて。

 彼女は満足したのか、帰っていった。

 

 

「……嘘だな」

「え、何が?」

「俺に小波という苗字が出来たのはあの町を出てからの話だ。あいつが俺を、同名の友達が出来たなんて言うはずがない。となれば……」

 

 コーヒーを飲み切って、ふと考える。

 俺の予想が合って居れば、CCRひいては大神の関係者だ。しかし、単なる口封じであればエージェントを派遣して俺を殺せばいいだけの話。

 そうせず、彼女が俺に接触してきた理由はなんだ? 情報収集か?

 

「分からないな」

「私も分からないよ」

「え、何が?」

「ご主人様ったら、そのコーヒーを顔色一つ変えずに飲むんですもの。やだ、ダ・イ・タ・ン♡」

「あっ。……いやまて、俺が口を付けたのはこっち側だ!! お、お前は向こう側だったからセーフだ!!」

「ご主人様……私、お盆を右手に持ってるんですから、左手で掴むに決まってるじゃないですか」

「え、あ。う、うわあああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

「あ、逃げた」

 

「ああもう、楽しいなあ。……ほんと、准ちゃんは彼氏が来ると楽しいんだよ? 周りにバレちゃうくらいに」

 

「だから……不安にさせないでよ」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。