風来坊で准ルート【本編完結】 作:しんみり子
『CCRの情報が、どうやら俺から漏れているらしいんだ』
ある夜。とある公園で。頭を抱えたプロ野球選手の隣に、俺は居た。
プロ野球選手の口から"情報漏洩"なんて話が飛び出すあたり普通じゃないが、その通りこの男――安藤小波は普通じゃない。
プロ野球チームに入ってスパイ活動なんて、普通なら誰も想像しない。
その昔、普通普通と小うるさい奴もいたが……それはそれとして。
この安藤小波と俺は、数か月ほど行動を共にする仲だ。
俺は正義の味方を模索する中。こいつは、己の正義を全うする中。
悩ましい表情を隠そうともせず俺に相談する小波に、極めて軽く笑いを返す。
『……その割に、俺のことは全く疑わないんだな? 意外かもしれないが、俺は怪しい自覚があるぞ?』
『逆に怪しすぎるんだよお前は!! ……お前は、正義の味方だろ? 何度もサイボーグ相手に共闘したじゃないか。そんなヤツを今更疑うほど馬鹿じゃない』
かぶりを振った小波はひどく疲れているように見えた。
俺を買ってくれるのは嬉しいし、もちろんこいつの情報を敵組織に流すなどという悪をはたらいたことはない。だが――そうなると、こいつが疑いを向けている相手に、俺だって心当たりがあるわけで。
『……ってことは、お前』
『……』
『……そうか』
――見ていて、とても微笑ましい仲だった。
こんなごついナリをして、妙に初心なところのある小波と。それをからかいながらも、愛おしげに歩調を合わせる少女。
その光景が嘘だったなどと。俺は信じていない。
『……なあ。俺はどうしたら良いと思う?』
『隊長さんには何て言ったんだよ』
『俺に任せてくれと言った。……ただ、隊長のあの目は。たぶん、お前に相談することも見抜いているに違いない』
『そうか』
『……頼むよ。――深紅! 俺は、俺はどうしたらいい。教えてくれよ正義の味方!! 俺は正義にのっとって今まで頑張ってきた! それが、俺の幸せも全部持っていってしまうのなら!! 俺はどうしたらいい!!』
縋るように地面に両膝をつき、俺の膝を握って揺るがす真摯な瞳。
――ああ、友子。安心していいさ。
お前が好きになってしまったと言っていた"敵対組織のアンドロイド"は、やっぱり間違いなくお前を愛している。
『――お前ら、二人でどこかに行くといい』
『……深紅。ちょっと待て、それがどういうことか』
『友子は間違いなくお前を愛している。今、己の正義に揺らいでいる。たとえお前も不安定だったとして、二人寄り添えばきっと大丈夫さ』
『深紅! そうなったらCCRは! サイボーグ同盟は!』
『それを何とかするのが、正義の味方の仕事だろう?』
力を失った両手が、掴んでいた俺の膝からするりと落ちる。
今にも泣きだしそうなその瞳は、ごつい野郎とはあまりに似つかわしくなくて笑いがこみあげてしまうくらい純粋だった。
『……なに笑ってんだよ深紅。ふざけんなよ。お前ひとりに全部を任せて消えられるかよ。だいたい、お前は別に俺より強いってわけじゃないんだから』
『分かってるさ。本気でやり合えば、お前の方が俺より強い。けどそんなことは関係ない。俺はお前と友子に大切なものを貰った。今度は俺の番だよ』
《ワクワクなえぶりでいIV》――ロマンだねぇ――
「プロ野球のホッパーズ、今年頑張ってるね。……もう、解散するみたいだけど」
翌日、今日は練習日ではなかったので、せっかくだからと商店街をぶらついていた。
軽く木川と権田に挨拶して、それから助っ人で入った寺門という拳法家と軽く話をして。そろそろお昼かなといったところで、通りかかった漢方屋から出てきた少女とばったり。
この街の案内を買って出てくれた彼女に従いあれこれ店を教えて貰っていたのだが、ものの数分で飽きたらしく。雑談をしながら、どこかでお茶でもという話に落ち着いていた。
商店街の中の飲食店に関しては俺も殆ど詳しくない。しいて言うなら准と維織さんのいる喫茶店くらいのものだ。だって、お金ないし。
そんな俺の懐事情を分かってかどうかは知らないが、彼女――広川さんは会話交じりにきょろきょろと周囲を見渡していた。
話題は野球。俺が助っ人で入っていることを知っていて、何気にそこそこルールにも詳しい彼女は、プロ野球観戦もちょくちょくするとのことだった。
「そうは、ならないさ」
「なんで?」
「……俺の友達がいるからな」
今年が最後。小波と友子は、今年のシーズンが終わったらあの街を去ると決めていた。だから、小波は全力で優勝を取りに行くに違いない。
あいつの本気は、どんな奴にも負けはしない。
広川さんは俺の言葉に驚いたらしく目を丸くして、それから柔らかく微笑んだ。
「それは良いねぇ、ロマンだねえ。ちなみに誰なの?」
「安藤小波。この街に来る前は、そいつの世話になってた」
「うわー、去年の最多勝利投手じゃん! なんでなんで? 小波繋がり?」
「……むしろあいつの名前を――いや、この話はやめよう。面倒なだけだし」
「ふぅん? でも、いいねえ。友達の繋がり。信じる心。そして、応える投手……ロマンがあって好きだよ、あたしは」
俺の話で上機嫌になってくれるなら嬉しいものだ。
――広川武美。
赤いリボンが印象的な彼女の正体を、俺は知っている。
製造コード:モバイルレディ。サイボーグとして大神に作られたガイノイドであり、拷問すら生ぬるい実験場から逃げ出してきた被検体。――友子と、共に。
俺がその事実を知っていることを彼女は知らないし、明るく振る舞う様からは過去と決別出来たであろうことが伝わってくる。
けれど、この少女の苦難はきっとまだ終わっていない。
その苦難から、救ってくれと。
俺は、友子と小波に託されたのだ。
それが、俺がブギウギ商店街へ旅してきた理由。旅の目的をこの遠前町にした理由。
「……ところで小波さん――っていうと、ちょっとややこしいね。安藤小波選手の話し辛くなるし、深紅さんでいい?」
「ああ。で、どうした?」
「深紅さんってさ、なんでこの街に来たの?」
「ていうと?」
「この前話した時、意味ありげーな感じだったじゃん。ほら、なっちゃんに滞在するのかって聞かれたアレ」
「ああ……」
彼女の顔をちらりと見る。
きょとんと小首をかしげる彼女は、まさか自分のことだとは思っていないらしい。
そのあたりを、平和ボケしたとみるか、生を謳歌出来ていると取るかは人それぞれだが……俺はその在り方を美しいと思った。
彼女は本来、追われて殺されてもおかしくない存在だ。
そんな彼女が、今なにげない日常を楽しく過ごせている。こんな光景を作れたのが、彼女の平和を獲得できたのが、友子の力だとすれば……きっと、友子は俺なんかよりずっと正義の味方をやれている。
何気ない感傷に少々緩んだ口元を隠しつつ、少し考える。
この段階で、全てを明かすべきかどうかを。
彼女に言うことは、別にそう難しいことではない。隠せと言われているわけでもないし、デメリットが生じるわけでもないのだから。
けれど世の中、そういう損得の天秤だけでは上手くいかないことを俺は知った。
今、平和の中に居る広川さんが何を想い、どう暮らしているのかを知らないこのタイミングで、広川さんに現実を突きつける……いや、過去を無理やり振り向かせることが果たして正しいのかどうか。
「なあ、広川さん。今度少し話に付き合ってくれないか?」
「ん? 今じゃダメなの?」
「ダメなわけではないけど。もう少し、俺は広川さんのことを知りたい」
「おっとぉ~? なんだなんだ口説き文句か~?」
しらーっとした目で俺を見て、彼女は挑発するように拳でワンツーを放った。
ぽて、ぽて、と俺の腹部に当たる拳は痛くもかゆくもない。
「じゃあさ」
小さく指を立てて、広川さんは言う。
「あたしにも、深紅さんのことを教えてよ。風来坊の旅路、なんてロマンの塊はあたしにとっては大好物だからね! それと――」
「それと?」
「――口説き文句なら、せめてちゃんと呼び名を考えることだよ。広川さん、なんて他人行儀じゃダメダメ。武美と呼びなさい」
「……それは、いつでもどこでも?」
「当然」
ふんす、と胸を張ると、思ったより彼女のスタイルは官能的で思わず俺は目を逸らした。
何やってんだ俺……。
「分かった。宜しく、武美。ただ――」
口説いてるつもりはない、と続けようとして。
見知った人間が視界の端に入ってきて、俺は思わず口を閉ざした。
間違えようはずもないあの派手な髪型と、セットで相変わらず派手な服装。
ドリルメイドの貫禄ここにありといった風体の彼女が――ただ歩いているだけなら良かったが。
明らかに困り果てた表情で、しかもあんな走りづらそうな格好で息を切らせて駆けていたら流石に放ってはおけなかった。
「ちょっとすまん、武美。用事が出来た」
「ええ!? あ、うん、ばいばい?」
風来坊は自由だなあ、と呟きが背に聞こえた気がしたので、今度会ったら彼女に誠心誠意謝ることを誓う。それはそれとしてドリルメイドを追って走ると、もう一人走っている男の影が目に入った。
体格の良い……いまいち覚えのない見た目ではあるが。
おそらく准を追っているであろうことは把握した。
とりあえず脚力をフルに活用して先回り。直前に広川さん――武美に商店街の案内をして貰ったのが効いた。
「准!」
「きゃ!?」
声をかけると、びくっとして振り向いた――表情は若干青ざめており、やはりただ事ではなさそうだ。俺と見るや目に涙をためて頬を紅潮させて、
「こんな時に脅かさないでよ!」
「って言ってる場合ですらないんだろ」
彼女の肩を抱き込んで目の前にあった店――ブティックに入る。
いらっしゃいませ、と声が聞こえたところで軽く会釈して周囲を確認。通りに面した部分が全てガラス張りで、外から見つかりやすいので仕方ない。
「しばらくこれ被ってろ」
「ちょ、ちょっと小波さん!?」
「いいから」
付けていた外套とテンガロンハットを彼女に被せる。
メイド服も髪も目立つような女が逃げたところで、体力勝負に勝ちでもしない限り御用だろう。となれば、それを隠すのが最優先だ。
「……ありがと」
「事情はよく分からないが、准があんな顔するなんてよっぽどだろ」
「忘れてよ――ひぅっ!?」
もう一度店の扉が開いたことに気が付いた准が息をのむ。
彼女を隅に追いやり、俺は敢えて店の中に出た。ユニフォーム姿でブティックとか我ながら間抜けな気もするが、俺にはこれしか服がないのだから仕方がない。
「おい、お前!」
「ん?」
片眉を挙げて振り向けば、そこには汗だくの男が一人立っていた。
俺もそうだが、こいつもブティックには似つかわしくない格好だな。
「じゅ、准ちゃんをどこへやった!」
「知らないな。そもそも、なんで俺がその准を知ってるんだ」
「ごまかすなよ! お前、ダーリンとか呼ばれて、クソ……准ちゃんはおれのものだ!」
これひょっとして俺のせいか……?
いや、彼氏役をやらせた准か。まあ、何でもいい。
女に夢見すぎるとこうなってしまう良い見本だ。
「あいつは誰のものでもないだろ。ていうか、お前さん誰だよ」
「おれは毎日あの店に通ってるんだ! 准ちゃんに会うために! お前みたいに、ポッと出の、たまにしかこないヤツとは違う!」
ポっと出、か。確かに、言い得て妙というべきか。
俺は間違いなくポっと出の存在ではあるだろう。しがない風来坊だ。
だが、一緒に居た時間が必ず人を結ぶなら、世の中は決してこんな風にはなっていない。
一緒に居た人間を理解し合い、寄り添おうと思って初めて、人は一人じゃなくなるんだ。
「知らないな」
「だからなんだ! お前には関係ない!」
「知らないって言ったんだよ。俺は准のことを知ってるが、お前のことは知らない。准がお前のものだというのなら、准を知ってる俺がお前のことを知らないのはおかしいだろ」
なにを! と拳を構える男。なるほど、力に訴えようとできるだけの度胸はあるのか。……逆に言えば、そういうヤツだから准が逃げざるを得なかったのかもしれないが。
……どのみち、変わらない。
「あいつにはあいつの生活がある。あの店があいつの全てじゃない。お前が今ここに居るように、あいつにも店以外の行き場がある。実家もあるだろうし、お前の知らない友達だっているだろ。将来の夢だってあるかもしれない。違うかよ」
「そ、それでもおれをご主人様だと慕って、あんなに可愛い笑顔を、おれにだけは!」
「……そのあたり、あいつも反省するべきなんだろうなあ。――とにかくだ。お前みたいに、人の人生を私物化して干渉しようなんてヤツは、誰にも認めて貰えないよ」
「こ、この!! ふざけやがって!!」
振りかぶった拳。なるほど速い。人を殴ることへの忌避が感じられない拳だ。
横合いから掴んで絡めてねじって落とす。
……速いが、軽いんだよ。お前みたいな、安い人間の拳は。
「残念だが、俺に勝てるのは小波のヤツくらいのもんだ。……これで分かっただろ。金輪際、准に近づくな」
「そ、そんな……准ちゃん……! おれは……!」
「人を人として認めることが出来た頃に、プロポーズなりなんなりすればいい。人と人の愛情は、一方通行じゃ成り立たない。……両想いだったとしても、乗り越えなきゃいけないものがたくさんあったりするんだ。一から学んでこいよ」
手を放す。
つんのめったようにバランスを崩した男は、そのまま慌ててブティックを出ていった。
……しかし、これはお店に迷惑をかけたなあ。客が居なかったのは幸いだったけど。
「……小波さん」
「てい」
「あいた!」
とりあえず准に一発デコピンする。本気でやったら意識が飛びかねないので、軽く。
「……ああいうヤツも出てくるから、勘違いさせすぎるなよ」
「うん……」
俺の帽子を両手で持った彼女は、落ち込んだように二房の髪を垂れさせていた。
ああいう手合いは稀だとは思うが、それでも男っていうのは俺も含めて騙されやすいものであるわけで。
そのあたりの匙加減は、ミスすると大惨事を引き起こすはずだ。
「さてと。准はこのあと喫茶店か?」
「そうだけど。……小波さん、ありがと」
「その感謝は、是非とも俺を虐めないことで見せて欲しい」
頼むから。
俺の心中と、吐いた言葉に対する返事はなかった。
准はブティックの中をぐるりと見渡して、呟く。
「……私さ。デザイナーになりたいんだよ」
「そのためにバイトしてるのか?」
「そのためというか。でも、そうだよ。……小波さんがさっき言ってたこと、色々聞こえたんだけど。……なんというか、維織さんが貴方を気に入ったのも分かる気がする」
「お、おう。そんな風に准に言われるとなんか怖いな」
「私にも、というか。色んな人にちゃんと人生があるんだってこと……あまり考えたことなかったけど。私のこともそうやってちゃんと考えてくれてたんだ、小波さんって」
「准に限らず、人がどんな経緯で生きてるのかなんて千差万別だ。もしかしたら、俺は変身ヒーローかもしれないし」
「あはは、なにそれ」
冗談めかして言ったことを、准は楽しそうに笑って受け止める。
どうやら恐怖は拭えたみたいだが、それでも彼女の手は若干震えているように見えた。
「でも、確かに。似合うね、正義の味方」
「……ありがとう」
「え?」
「いや、何でもない。デザイナーの夢、応援してるよ」
「うん。こう言うとアレだけど、なんか一層頑張れる気がしてきたよ。……そうだ」
ぽん、と准は手を打って。
「お店にも迷惑かけちゃったし、私が小波さんに似合いそうな服を一着買ってあげるよ」
「いや、遠慮しておく」
「なんで?」
「服を買うなんてお金がもったいない」
「……貴方って人は。デザイナーの夢、応援してくれるんだよね? ――なら、モデルくらいにはなってよ。よ、男前!」
「散々顔を馬鹿にされた記憶しかないけどな!」
このころには准はいつもと変わらぬ雰囲気に戻っていて――いや、むしろ普段よりもずっと楽しそうで。俺の服をあれでもないこれでもないと選びながら、最終的に一つくれたものがあった。
「んー、申し訳ないけど、私が本気で貴方に似合うものを選んでいたら、服じゃなくなっちゃった」
「……これを?」
「そ、かっこいいよ」
彼女が買ったのは、黄色いストールだった。マフラーというには生地が薄いそれは、季節を問わずに使えそうで。
「ありがとう、貰っておく」
そして、なんだか妙に懐かしいものだった。
准との出会いが商店街であり、その上で一日ダーリンイベントをこなし、直後に商店街をうろつくと発生するイベント。
ちなみに強さが8主>9主なのは公式設定。というか、この二人が歴代主人公でワンツーフィニッシュ。未来人の6主や魔人込みの11主でもこの二人には勝てないらしい。
8主はともかく、9主はいったい何者なんだ……(棒)
Name:安藤・小波(8主。昨年、ホッパーズにて最多勝利)
【ポジション】…投手
【投打】…左投左打
【打撃フォーム】…ノーマル2
【弾道】…3
【ミート】…7E
【パワー】…0G
【走力】…10C
【肩力】…15A
【守備】…15A
【耐エラー】…15A
【投球フォーム】…スリークォーター2
【球速】…145km/h
【コントロール】…220A
【スタミナ】…280A
【変化球】…ツーシーム、カットボール4、ドロップカーブ5、SFF2、スクリュー7
【投手特殊能力】…キレ〇、リリース〇、逃げ球、ノビ〇、テンポ〇、重い球、対左打者〇(深紅とやり合って身に付いた)