風来坊で准ルート【本編完結】   作:しんみり子

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《ケラケラケミカル》I

 夜の公園。

 怪我をした肩に自分のマフラーを巻いて止血する。何等かの呪詛、或いは能力の影響なのか傷が塞がりづらい。……これは、もうこのマフラーは使えないかもしれないな。

 

 血がどす黒く変色してこびりついたマフラーは、お気に入りの品だったが仕方がなかった。

 

 灰原の消息は分からない。が、おそらく生きていたとしても重傷だろう。

 CCRの在り方次第ではあるが、きっと再起動には時間がかかるだろうし……もしあいつの中に記憶チップでも内蔵されていれば、俺が何をしたか、何を知っているか、そういったものが大神には届くはずだ。

 

 そうなれば、ここに俺の居場所は無い。

 

『深紅!!』

 

 声がした。

 さっと外套を羽織って傷を隠す。

 あいつらは妙に心配性だからな。俺を気にするより、自分たちの立場を気にしなければ危ういというのに。……そんな彼らだから、触れあっていた俺は"人間"になれた。

 

『数日ぶりか、小波、友子』

『……ああ』

 

 おそらくはデートの最中であったのだろう。

 気づかれないようにちらりと目をやれば、固く結ばれた手と手が見える。

 

 ……二人の絆に入った亀裂は、きっとより強固な結びつきをもって重ねられたに違いない。言われずとも分かる。彼らの幸せそうな未来予想図が。

 

 小さく破顔しながら、小波に向き直った。

 

『どうした、そんな神妙な顔をして』

『いや……』

 

 小波は一度、友子を振り返る。彼女も彼女で妙に渋い表情をしていた。

 ……その手が二人の愛情を示してくれている以上、何も悩み事などないはずだが。

 

『……深紅。俺の思い過ごしかもしれないけど、お前……いなくなるのか?』

『……どうしてそう思った?』

『それがもう答えじゃない!』

 

 顔に似合わず、鋭い男だということを忘れていた。図星を突かれたことが、表情に出てしまっただろうか。友子がおかんむりと言った様子で俺に詰め寄ってくる。

 

『そんな寂しそうな顔をして、横に荷物があったら誰だって察するわよ! ……まさか、私たちにも何も言わずに出ていくつもりだったの?』

『いや、それは』

『貴方は私たちの大事な友達なの! そんな貴方が勝手に居なくなったら、私たちだってとても寂しいじゃない!!』

 

 今まで見たこともないような強烈な剣幕で口角泡を飛ばす彼女を、慌てたように小波が抑える。ヤツの表情を見る限り、あんな彼女は俺じゃなくても見るのは初めてらしかった。

 

 それは、それとして。

 

『……すまないな、小波。お前にあれだけカッコつけたことを言っておいて、俺は何も出来なかったから……合わせる顔がなかったんだ』

『……嘘を、吐くなよ』

『本当さ』

 

 灰原がどうなったかは分からない。

 そうである以上、俺と小波が接触しているというだけで彼に矛先が向いてしまう。

 ならば早々に退散を。……と思っていたんだが。

 

 そんな顔をしてくれるな、二人とも。

 

『……友子』

『でも、小波君……』

『頼む』

『……分かったわ』

 

 ぼんやり思いを馳せていた俺をよそに、二言三言と交わした二人が前に一歩歩み出る。そっと友子が懐から取り出したのは、一つの茶封筒だった。

 

『はいこれ。餞別』

『……用意してたのか?』

『本当は、私たちが居なくなる時に渡そうかと思っていたんだけど……今日、突然小波君がこれを持って出かけるって言いだしたから。まさか、こんな形で的中するとは思わなかったけど』

 

 差し出された茶封筒を、一度受け取る。

 思ったよりずっしりとしていたそれの中身は、俺でなくとも察することが出来る。

 すぐさま突き返した。

 

『受け取れない。俺はお前たちに何も出来ていない。むしろ、礼をするのは俺の方だ。お前たちに色んなものを貰ったんだ。これ以上施しを受けるわけにはいかない』

『おいおい、プロ野球選手の年棒なめるなよ? 最多勝利投手だぞ、俺は』

『だからと言ってな』

『細かいことは気にするな』

 

 ばしばしと外套越しに背中を叩く小波。

 

『何も言わなくていい。お前は、俺たちに多くの助けをくれた。悩んでいたところに手を差し伸べて、俺たちの知らないところで色々やってくれて、それに感謝を求めることすらしない。これでお前がふらりと消えたら、俺たちがやるせない。――深紅』

『……なんだよ』

『お前は、俺たちのヒーローなんだ』

『――』

 

 言葉が、出なかった。

 ふわりと微笑んだ目の前の男の、その言葉。

 同意するように後ろで微笑む少女の笑顔。

 

 ……お前たちの、ヒーロー。

 

 ああ。

 

 俺は。何をすればヒーローになれるのか。何をすれば己の存在を本物に出来るのか、ずっと悩んで生きてきた。けれど、ここに答えの一つがあったのだとしたら。

 

『……ありがとう。俺は、お前たちに何も返すことが』

『だーかーらー! 良いの! 貴方は十分、私たちに色んなものをくれたのよ! それでも受け取れないっていうのなら、しょうがない。……貴方、次の旅路に目的はあるの?』

『いや……特には』

『気ままな旅ガラスってとこか。なら、ちょうど良いんじゃねえか、友子?』

 

 気ままな旅ガラス……? 良いな、なんかかっこいい。

 

『一つ、頼みを聞いて欲しいの。……私と同じように、私より先に、過去より未来に生きようとした子を――救ってあげて欲しい』

『よし、任せろ』

『早いわよ!! もう、もう、小波君!! 私やっぱり深紅君のこと心配!!』

『そうは言っても、それが深紅だからな……。おい深紅、お前、どのみち先立つ金がないんだから。そうだな……ここぞという時に。大事な時に使う金だと思って、受け取ってほしい。ダメか?』

『……分かった』

 

 渋々、受け取った。

 手が震える。金の入った封筒なんて、持つのは初めてに近いと言っていい。

 それに、大事な友達が頑張って稼いだ金と来たら、プレッシャーも余程だ。

 地区大会決勝なんかよりずっと緊張する。

 

『助けてあげて欲しい子の名前は……ええっと、確か……』

『なんで覚えてないんだよ』

『仕方ないじゃない、別れる間際なんだから。名前付けたの』

 

 その後、詳しく話を聞いた。

 広川武美という少女の、過去と待ち受ける苦難を。

 

 それは確かに、救いたい。

 

『……分かった。必ずその子は俺がなんとかする』

『ありがとう、深紅君。……またいつか、会えるよね』

 

 ああ、と頷く。

 

『深紅。俺は今年、最後の一年に挑む。テレビのある場所があったら、たまにでいいから俺の雄姿を見届けてくれ。必ず、優勝してみせる』

『……お前は、まさしく最高の野球選手だよ、小波』

『まあな。お前に「俺もうピッチャーやめる」って言わせた実力は、プロにおいても最強だって示してやるさ』

『楽しみにしている』

 

 ぐ、と拳をぶつけ合う。それを友子が暖かく見守ってくれる。

 ああ、この関係も今日で最後か。

 さらば、安藤小波。森友子。

 

『……それじゃあ、またいつか』

 

『ほんとに、さくっと行っちゃうのね』

『それが風来坊だからな』

 

 お達者で。と手を挙げて、公園をあとにする。

 この先にはまたきっと、新しい旅が待っているから。

 また会おう、友よ。

 

『――俺たちは、いつまでも親友だぞ、深紅』

『じゃあね。この……おせっかい野郎!』

 

 

 

 

 

(そして・・・)

 

 

 

 

『ええっと、小波さん』

『……』

『あの、小波さん?』

 

 ……ん? 誰だ?

 

 とある製鉄所の近くの河川敷を、遠前町へ向けて歩いていた。

 その道中、聞き覚えのある名前を連呼する声を聴き、最初はプロ野球の話でも電話でしているのかと思って少々友人として誇らしく思っていたのだが。

 

 振り向けば、明らかに俺に話しかけてきている、金髪の女性。

 

『……え、俺ですか?』

『あ、はい』

『人違いですよ。俺があんな不細工に見えますか?』

『え、いや、でも』

 

 ちょっと失礼、と彼女はぴょいっと俺の背に回る。

 そして、背中から何かが剥がれたような気がした。

 

『ここに、ほら』

『なっ……』

 

 彼女が手に持っていた白い紙には。

 

『俺の名前は小波深紅。宜しくな!』

 

 と、書いてあった。

 

 ……あのバカ。

 

 一言断って受け取り、裏を返すと。

 

『お前、苗字もないなんて浮くから俺からプレゼントだ。本当は友子の子で子波でもよかったんだが、なんか可愛くなっちゃうから却下、だそうだ。悪いな。名前を呼ばれる度に俺を思い出して、最後まで打てなかったスクリューの味を悔やむがいい』

 

 あいつらは。

 

『……ははっ』

『ええっと、小波さん?』

 

 訝しそうに、彼女が問いかける。

 俺はそれに、笑って答えた。

 

『はい、俺が小波です。間抜けな張り紙を剥がしてくれて、ありがとうございました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ケラケラケミカル》I――違うぞ権田――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、何をしようかな」

 

 総合練習を終えて、商店街から河原への帰り道。

 ここ最近は段々と一日のローテーションも安定してきて、なんだか普通の人みたいな生活を送ることが出来ている。……家がテントでなければの話だが。

 

 朝、河原で起きてまず封筒を探す。

 その後、軽くランニングと、(あれば)朝食。

 そして腹ごなしに封筒を探す。

 練習へ向かう。

 帰りに商店街へ寄る。スポーツ用品を見たり、権田と駄弁ったり、ドリルメイドにいびられたり、カンタくんと遊んだり。

 その後、テントに戻ってきて封筒を探す。

 日が暮れたら(あれば)夕食。

 河原で身体を清めて、就寝。

 

 驚くほど普通の人みたいな生活だ。素晴らしい。

 

 そんな一般人小波深紅だが、今日は少し予定に変更を入れていた。

 

「……あれ、留守か」

 

 御用の方はカシミールまで。

 

 広川漢方に辿り着いた俺は、張り紙を見てそのままUターン。

 くるりと回ってカシミールまでやってきた。

 しかし……どうしようカレーを食べるお金はあるだろうか。

 何かの間違いで小銭が落ちてやしないかと、自販機を見る度につり銭クンポケットに手を突っ込んでみたりしているのだが、貰えた小銭は皆無だった。ついでに商店街の皆さんから不審の目で見られた。

 

 仕方がない。武美に会いにいくだけと思えば、カンタくんのお母さんも目を瞑って……くれるかなあの人。割と好感度低い感じがするのだけれど。

 

「いらっしゃいませ……あら」

「どうも、こんにちは」

「あん? よぉ、小波じゃねえか」

「権田もいたのか」

 

 カンタくんのお母さん――奈津姫さんに軽く会釈をして店内を見渡すと、さっきまで一緒に練習していた権田が居た。しかも、そっちは……。

 

「まあ座れよ」

「いや、悪いが俺は金がない」

「じゃあ何しに来たんだ」

「武美を探して――」

 

 と、そこで厨房の方からひょっこり顔を出すリボンの少女。

 

「呼んだ~? って、お、風来坊のご登場だ」

「よう」

 

 軽く手を挙げて挨拶すると、武美はピースで返してくる。

 鍋の調子でも見ているのか、またのれんの向こうへ彼女は消えていったが――権田は軽く頷いて、彼の目の前にある席を指さした。

 

「いいから座れ。今日は俺の奢りにしてやるから」

「え、いいのか?」

「権田さん? どういうこと?」

 

 目を丸くしたのは俺だけではないらしい。

 意外そうな目で奈津姫さんが問えば、権田はバツが悪そうに頬を掻きながら、あーだのうーだの唸っていたが。それでも言葉が見つかったのか、席についた俺の前に水を置きながら笑った。

 

「ちょっとした礼、かねえ。ああ、奈津姫。こいつに例のヤツを」

「ふーん……権田さんが商店街以外の人と仲良くなるなんて珍しい」

「い、いいんだよそんなことは」

 

 などと、軽口を交わしながら二人は作業に入った。

 ――そう、権田がカウンターを隔てて厨房側に居るのである。

 

 なるほど、手伝いを申し出たのか。

 

「ところで権田。何の礼だ? いまいち分からないんだが」

「い、良いんだよそんなことは! ほら、助っ人の礼だとでも思っておけ」

「じゃあ違うってことじゃないか」

「うるせえ!」

 

 奥から奈津姫さんの、「ちょっとうるさいよ!」というクレーム。

 とたんにしおれた権田の様子に、俺は何かを察した。

 

 ……はっはーん、邪念というのはそういうことか。

 

「おいなんだ小波、その顔は」

「ぶぇっつにぃ~?」

「あ、くそ、腹の立つ!」

 

 カレー皿に米をよそった権田は、そのまま奈津姫さんにパス。彼女がカレーをかけて――と良いチームワークを見せてくれる。手伝いそのものに、全くと言っていいほど邪念のようなものは見られない。

 むしろ真摯に彼女のために、店のために頑張っていると言えた。

 なんで今までやらなかったんだよ。

 

「ほら、権田さん。仲良しの小波さんに渡してあげて」

「仲良しじゃねえよ! ――ほら、お前がいつか来ると思ってな」

「ありがと――これは!!」

 

 カレーの隅に遠慮がちに腰かける、美しきパールの如き輝き!!

 

「ラッキョウ!! ラッキョウじゃないか!!」

「はしゃぐな」

「ばっかお前、ラッキョウだぞ!?」

「お前の中でラッキョウの重要度どうなってるんだよ! ――まあいいや、せっかく仕入れてもらったんだ。有難く食えよ」

「おお……権田、お前が電脳世界の神か……」

「崇め過ぎだしなんで電脳なんだよ」

 

 いっただっきま~す。

 

「……本当にラッキョウ好きだったのね」

「いや俺もまさかここまでたぁ思わなかったが……」

「どしたの二人とも――ってなんか深紅さんが無心でカレー食べてる! すごい、みるみる皿がっ、掃除機かっての!」

 

 ふう……ごちそうさま。

 

「奈津姫さん、ごちそうさまでした。権田、お前、最高だよ」

「ラッキョウでそんな賞賛されてもリアクションに困るんだよ」

「こんな輝くような表情で笑うのね、小波さんって……」

 

 これからは何かにつけて権田に恩を売ってはカレーで返してもらおう。

 そのためにも、次のコアラーズ戦は勝つぞ。27奪三振してやる。

 

「で、深紅さんはあたしに用事があってきたんでしょ?」

「ああ、そうそう」

「――へえ、深紅さん、ねえ」

 

 権田がにやにやしていた。

 いや、邪推のしすぎだ邪念野郎。

 

「俺の友達に同じ名前のヤツが居てな。そいつの話がし辛いからってだけさ」

「なんだよ面白くねえな」

「その友達っていうのがねー、安藤小波選手なんだよー権田くぅん」

「なんだって!?」

 

 冗談めかして武美が言うと、驚いたように権田がカウンターに両手をついた。

 しかし物凄い剣幕だな。……キャッチャーとして、良いピッチャーには思うところがあるのかもしれないが。

 

「お、おま、おままま、安藤小波と言えば、ホッパーズの救世主だぞ?」

「権田お前、ホッパーズファンかなんかだったのか?」

「そうじゃなくてもプロ野球好きなら知らないはずがないだろうが!」

 

 ……あれ、なんだろう凄い誇らしい。

 そうだ、俺の友達はちょっと凄いぞ?

 

「深紅さんその顔むかつく」

「……で、小波。ひょっとしてこの前言ってた甲子園が云々っていうのは」

「ああ、そいつはまた別人。今は日ハムで外野手やってる」

「お前の交友関係どうなってるんだ……」

「交友、と呼べるのは小波のヤツだけだよ」

 

 ちょっと誇らしさが減った。

 哀愁が増えた。

 

「それで、あたしに用事って何なの?」

「あー、いや。この前の話の続きだよ」

「お、風来坊の旅路を教えてくれるのかな?」

 

 ワクワクな雰囲気で問いかけられては、すぐに首を振るわけにもいかないか。

 権田も妙に耳がでかくなっている気がするし、奈津姫さんは何だか……にこにこしている。小波と俺がバカ話している時の友子を思い出すような微笑みだ。

 

 ……ならまあ、いいか。

 

「そうだなあ。じゃあ小波の話が出たし……俺はこの前までホッパーズの本拠地近くに居たんだよ。そこで、小波と――あいつの彼女と知り合った。あいつらは良い恋人同士で、俺はあいつらを応援していた。なんだかんだ、仲良く三人で話すことも多かった」

 

 彼らとのこまやかな思い出。

 公園の草が食べられるか、小波と真剣に吟味したり。

 小波がバカ過ぎて心配だと訴える友子のために、簡単なテストを作ったり。

 

 裏に関わることは一切触れず、友子の名前も出さず、ぽつぽつと楽しい記憶だけを掘り返していると。ふと口をはさんだのは権田だった。

 

「――その二人は恋人だったんだよな。その……お前は邪魔だと思われなかったのか?」

「ちょっと権田さん、その言い方は」

「いや、良いよ」

 

 権田の言葉を詰める奈津姫さんを制して、続ける。

 ていうか権田、何を思いつめた顔してるんだお前は。

 

「俺が旅を再開する時、二人して泣きながら見送ってくれたし、邪魔じゃなかったと信じたい。それに、基本あいつらが俺を見つけて遊びを仕掛けてきてたからな。ほら、この通り連絡手段もないわけで」

「そこは誇るところじゃないよ深紅さん……」

「あとはまあ、俺の性格かもしれないな」

「ていうと?」

「俺はどうも仲人に定評があるらしい。俺の部下は俺のクラスメイトとくっついたしな……」

「またコメントし辛い過去だなあ。……ていうか部下って何さ。風来坊さん」

「その話はまた追々な」

 

 きゃー、人生経験豊富な旅人さんだー! とテンションを上げる武美。

 経験豊富かは分からないが、密度の濃い生き方をしている自覚はある。

 

 権田はといえば、さっきまでの深刻そうな表情はなりを潜め、楽しげに俺の話を聞いているようだった。お前本当に分かりやすいな。お前と奈津姫さんをくっつけようとはしてねえよ。

 

「ところで小波さん。武美と仲が良いみたいですけれど」

「それがさー聞いてよなっちゃん! この前ね、『俺は広川さんのことを知りたい』なんて言ってねー!」

 

 頬染めるな頼むから。奈津姫さんもそんな、旅ガラス発言の時みたいな目で見ないでくれ。

 

「やるじゃねえか」

 

 違ぇよ。今そんな尊敬のまなざしで見るんじゃねえよ。

 

「いや、みんなが想像しているのとは違う。俺はただ――」

 

 ただ、武美がガイノイドである自分をどう思っているのか、この先の短い人生に何を思っているのか、それを打開する手段はあるのか、そういうことを――聞けるかこんなタイミングで!!!

 

「言い訳すんなよ。そこは押せよ」

「酔っ払ったおっさんかお前は!!」

 

 お前の茶々入れのせいで照れ隠しみたいになってるだろうが!

 

「じゃあなんであたしのことが知りたいの?」

「それは、その」

 

 言えるかよ!!

 

「へっへー、風来坊さんでもこの手のことには奥手なんだね」

「男なんだからもっとびしっといきなさいよ」

 

 奈津姫さんまで勘違いしはじめた……。

 助けろ権田。

 

「……ぐっ」

 

 サムズアップすんな折るぞ親指。

 

 と、そこでずいっと奈津姫さんが顔を寄せてくる。

 貴女ひょっとして実は今まで猫被ってたりしました!?

 

「小波さん、いいですか」

「は、はい!」

「行く時は行くものです。それを、押せなくて何が男ですか」

 

 おい権田、なるほどみたいな顔して頷くな。

 

「ね、風来坊さん。じゃあ今度一緒に出掛けようよ」

 

 ね? と楽しそうに小首をかしげる武美。

 強烈なプレッシャーをかけてくる奈津姫さんと、盛大に勘違いした権田の前で、俺にそれを断る勇気はなかった。

 




補足
1,本文中にあった日ハムの外野手がこのお話に出てくる予定は今のところないです。
2,このお話は准ルートです。
3,ただ、お話の都合上とはいえ武美のこの扱いはあんまりかと思うので、この作品での武美ルートも本編終了後に用意する予定。作者は武美派だし。なんなら1~14まで全部通しても武美が一番だし。「だから……見捨てないでね?」
4,准が攻略出来ないのはバグ。
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