生徒会の中心   作:赤羽 黒兎

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2.怪談する生徒会①

「本当に怖いのは幽霊や化物じゃないの! 人間自身なのよ!」

 桜野(さくらの)がいつものように小さな胸を張り、なにかの本の受け売りを偉そうに語っていた。

 その通りだと思ったが、当たり前すぎる言葉だったため、杉崎(すぎさき)に相手を任せる。

「あー、うん、ですよね」

「そうなのよ! 幽霊も化物も、結局は人間が生み出すからね!」

「いや、ちょっと解釈が微妙な気もしますが……」

 人間が怖いってのは、そうじゃないと思う。しかし、桜野は満足そうに椅子にふんぞり返っていた。

 杉崎のみならず、俺を含む桜野以外の生徒会メンバーも特に反応せず、各々、テキトーに感心したふりをしている。

 桜野がこんなことを言い出したのは、最近また生徒間で七不思議の噂が盛り上がり始めているからだ。

 七不思議。七つの怖い話全てを知ったら不幸になるとかならないとか。俺は怖い話は知っているが、七不思議は一つも知らない。周りは七つ以上知ってる奴が多いらしい。おい、「七」不思議じゃねえのかよ。呪いが本当だったら、学校どころか地域が壊滅しているぞ。

「事態は既に切迫しているわ!」

 ホワイトボードに太く、太く「今日の議題・怪談のはびこりすぎな現状について」と、書かれている。

 なぜか知らないが、桜野は現状がひどく気に入らないようだ。予想するなら、怖い話が苦手ってとこか。

 熱弁をふるい続けている桜野へと向けて、意地悪そうな笑みを浮かべ、すっと(みなつ)が手を上げた。

「はいはーい!」

「はい、深夏(みなつ)

「会長さん、こんな話知ってるか? あるトイレに入った女子の話なんだけど──」

「わ、わわ! な、なんで急にそんな話をっ! 脱線させないでよっ!」

「脱線じゃねーよー。ほら、対処するには、まずは詳しく知るべきだろう?」

「うぐっ······と、とにかくっ! 私は聞かなくてもいいの!」

 桜野の慌てる様子に、生徒会メンバー全員の眼が、きゅぴーんと怪しく輝いた。

『(これは面白いネタになる!)』

 桜野以外の全員が、まるで桜野の「怖がり」に気づかないふりをして、話をそれとなく桜野の望まぬ方向へスライドさせていく。

 まず、知弦(ちづる)が動いた。

「深夏の言う通りね。ええ、その通りだわ。まずは出回っている全ての怪談を一つ一つ確認して、検証する必要があるわね」

「え、ええ!?」

 桜野があからさまに動揺している。

 俺から順に知弦に賛成していく。

「そうだな。俺は怖い話は知ってるが、この学校の七不思議は知らないからな。対策もたてられない」

「ちょ、黒兎(こくと)! そんなことする必要なんかまるで──」

「ま、真冬(まふゆ)も、やるべきだと思いますっ!」

「真冬ちゃんまで……」

 桜野がたじろぐ。ここで杉崎が刃を突き刺す。

「あれぇ? 会長……もしかして、怖いんですか?」

「な──」

 杉崎の言葉に、更に知弦が追い討ちをかける。

「まさかぁ、キー君。生徒会長ともあろうものが、たかだか学校の怪談に怯えるなんて、あるわけないじゃない。もう、みくびりすぎよ? ねぇ、アカちゃん?」

「う、うう?」

 更に椎名(しいな)姉妹まで追撃。

「この歳になって怪談怖がるヤツなんて、いるわきゃねーよー」

「ま、真冬も怖い話、大好きです。……小学生の頃から」

「うぐっ」

 桜野はだらだらと汗をかきはじめていた。非常に情けない顔になっている。ここで俺が二本目の刃を突き刺す。

「桜野は心が広い会長だし、しっかりと怖がらずに対策をたてながら聞いてくれるよな」

「がっ」

 机にゴンッと頭をぶつけていた。痛そう(笑)。しかし、「ふ、ふん!」と腕を組んでふんぞり返ると、自信満々に言い放った。

「お、大人のこの私が、怪談なんて怖がるはず、にゃいじゃない」

 噛んでいた。

 知弦を見ると軽く恍惚の表情をしいている。つくづくS(エス)な人だよ、知弦は。

「それじゃあ……」

 知弦がパンッと手を叩くのと同時に、桜野が長机にバンッと手を置く。桜野は痛そうに震えている。

 そこで生徒会室の扉が開かれた。

「失礼します!」

 数人の男達が入ってきて、長机をどかして畳を設置する。

 彼ら碧陽学園土木建築研究会の人達だ。

「アネさんから声がかかるまでランニング!」

 そう言い、彼らは次々と退室していく。

「彼らは一体……」

「そんなこと、今はどうでもいいじゃない」

「この人も七不思議に入れていいんじゃないか……?」

 姉のこの言葉に知弦以外の生徒会メンバーは共感する。知弦より危ない学生は全国、世界を探してもほんの一握りだよな、多分。ってか、この学校の何人が支配下にいるんだ?

「それじゃあ始めましょう?」

「いいぜっ! じゃああたしからいくぞっ」

「え、ええっ、もう?」

「早くした方がいいだろう? あれ? 会長さん……怖いのか?」

「深夏、始めて」

 桜野精一杯の強がり、それを全員が生暖かい目で見守る中、姉が前のめりになり怪談を始める。

「じゃあ、一番手たるあたしは気合いれていきぞ。覚悟しろよ。

 ……この学校の家庭科室には、包丁がない。なぜだか知ってるか? ……そう、家庭科準備室の戸棚でまとめて管理されているからだ。でもさ、調理台下にはちゃんと、包丁を入れるスペースがあるんだよ。調理実習ではほぼ確実に使う器具なのに、授業の度にイチイチ準備室から用意するなんて、面倒なことこの上ないだろう?

 ではなぜ、包丁は準備室にあるのか、それは……家庭科室に包丁があったがために起こった、ある悲劇が原因なんだ」

 姉はいつもの元気を掻き消し、低い声で語りだす。彼女が真剣なため、一層場の雰囲気が重くなった。

 桜野は一見平気そうにしているが、動きを見るだけでかなり動揺しているのがわかる。

 その様子に姉が軽くニヤリとする。桜野はその表情に更に怯えていた。

「昔、ある女子生徒……ここでは仮に、くりむちゃんとするが……」

「なんで仮にくりむちゃんとするのよっ!」

 桜野の叫びを姉は華麗に無視する。

「くりむちゃんは、体のメリハリと背丈には若干残念なものがあったが、顔は良かったし、それはしれで需要があったんだ」

「……なんかその設定に悪意を感じるのだけど」

「で、そのくりむちゃん。バナナが半分しか食べられないくりむちゃん」

「童謡に出てきそうね、くりむちゃん」

「彼女はある日、学校に忘れ物をしてしまったんだ。気づいたのは夜中だったが、それはどうしてもその日のうちに必要だった上、家も近所だったため、学校に取りに行くことにした。

 夜の学校は怖かったが、くりむちゃんは今までに何回かあったため、もう慣れていたんだ。

 その日もくりむちゃんは、いつものように忘れ物を取りに行った。

 そして。

 翌日冷たい体となって発見された」

「ひぅ」

 桜野はびくんと反応する。……うまい話術だった。なにが起こったか分からないが、予想ぐらいは出来そうだな。つーか、姉は案外話し慣れてるな。

 リアルくりむちゃんは「ふ、ふん、それで?」と見栄を張って、本当は聞きたくない話の続を促す中、姉は続ける。

「くりむちゃんは……家庭科室で死んでいたんだ。全身を滅多刺しにされてね」

「な、なんか、いよいよ、くりむちゃんという名前設定がとてもイヤなのだけれども……」

 桜野は青褪めているが、姉はガン無視。

「犯人はすぐに捕まった。それは、最近周辺地域に出没していた変質者だった。学校に侵入したところを、丁度くりむちゃんに出くわしてしまったんだ。

 当然くりむちゃんは逃げたんだが、どんどん追い詰められ、最終的には家庭科室に逃げこんだんだが、それが失敗だった。男はそこが家庭科室だと気付いて、調理台下から包丁を取り出し、そして──」

「…………」

 桜野が意識をシャットアウトしようと試みていたが、杉崎に猫騙しで妨害されていた。

 桜野が咳払いし、姉を見つめる。

「な、なぁんだ。そ、その程度? そんな、過去に殺人事件があって包丁が別の場所に移されたってだけじゃあ、別に……」

「いや、違ぇよ会長さん。包丁が準備室に移されたのは、それが直接の原因じゃねーんだ」

「え?」

「大変なことがあったんだよ……。事件の後、放課後家庭科室に残っていた生徒に……」

 桜野がごくりと唾を飲み込む。話しもクライマックスだ。

「家庭科室に残っていた生徒が、また死んだんだ。……今度は──」

「今度は?」

 散々間を溜めて、告げる。

 

「家庭科室中の包丁が全て突き刺さった状態で」

 

「っ!」

 桜野が硬直する。あまりの場の雰囲気に、俺達もいささか緊張するが、皆分かっていた。

(んなわきゃあない)

 桜野以外、ちゃんと分かっている。そんな猟奇的事件が、ある事を除けば、警察に取り上げられないハズがない。しかし……桜野には、効果覿面だったようだ。「そ、その犯人って?」と、真剣な面持ちで姉に訊ねる。

「決まっているじゃねーか。それは……」

「それは……?」

「それは……」

 姉がそこで沈黙し、生徒会室が静まりかえる。

 直後。

 

「おまえだっ!」

 

「ひぅっ!」

 唐突に桜野を指差し大声で叫ぶ姉。ある程度びびったものの、予想出来ていたので、衝撃は少なかった。

 しかし桜野は……。

「…………」

 口から魂が抜け出ていた。こいつこそ、ホラーだろ。全員でニヤニヤしつつ、帰還を待つ。しばらくして意識を取り戻すと、桜野は「な、なによそれは!」と逆ギレした。

「わ、私が犯人って、そんなわけないじゃない! ば、馬鹿にしてぇっ!」

 その反論に姉は苦笑する。

「いやいや、そういうことじゃねーよ。つまり、犯人はくりむちゃんだって言いたかったんだ。そう……幽霊となった、くりむちゃんだってな」

「う……」

 幽霊という言葉に、桜野はまた言葉を失う。

 姉は話を締めくくった。

「とても人間業じゃなかったらしいぜ、その死に方は。全身に包丁がほぼ同時に刺さってたんだとよ。まるで······空中に浮かんだ包丁が、一斉に飛んできたかのように。

 ……それ以降だよ。包丁が準備室で厳重に保管されるようになったのは。……会長さん。もし家庭科の授業で誰かが家庭科室に包丁を置き忘れてしまっていたなら……そして会長さんがなんらかの理由で家庭科室に入ってしまったなら……命の保証は、できねーぜ」

「…………」

 また桜野の魂が口から出ていた。……相当怖かったらしい。魂が体に戻ると、「く、くだらない与太話ねっ!」と、まるで説得力の無い強がりを言っていた。




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今後は半月~一月で一話のペースで投稿していきます。
次回は四月前半になると思います。
今後ともよろしくお願いします。

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