「他人との触れ合いやぶつかり合いがあってこそ、人は成長していくのよ!」
「なんですか? それ」
「なに? ……ラジオ放送?」
ホワイトボードにはくっきりとそう記されているが、やはり意味が分からない。桜野以外の生徒会メンバーは全員首を傾げている。
「そう! これから生徒会で、ラジオをやろうと思うの!」
「ら、ラジオって……」
「あの……ラジオですか? 音楽かけたり、喋ったりする……」
「そうよ。その、ラジオ」
「……えと。それって……あの、なんで生徒会がするんですか? そういうのは放送部とかの仕事だと、
全くだ。誰もがそう思ってる。だが、相手は桜野だ。
「何言ってるのよ! 生徒会って、生徒をまとめる立場にある組織よ! 政見放送みたいなものもたまにはしないといけないわ!」
「政見放送なんて言葉、よく知ってたわね、アカちゃん。よしよし、いい子いい子」
「政見放送ぐらい、知ってるよ! 子ども扱いしないで!」
「そうね、アカちゃん。ごめんなさいね」
「わ、分かればいいのよ」
「ええ。……そういえば昨日、高視聴率クイズ番組で『政見放送』をテーマに問題が出てたりしたけど……。いえ、なんでもないわ」
「桜野……ぷっ」
「
「いや、なんでも。さ、わかったから進めてくれ。……ぷっ」
「黒兎ぉ! ……と、とにかく! 政見放送よ!」
やはり思いつきか。いやー、笑った笑った。
しかし、桜野は言い出したら聞かない。
「まあ、文句言ってもどうせやるんだろうけどよ……。でも、なんでラジオなんだ? 映像の方がいいんじゃねーの?」
「それも考えたけど……放送部に押しかけたら、『今渡せる機材はこれしか……』と泣かれたから、ラジオなの」
桜野はてきぱきと準備を開始する。放送部にやらせたのか、配線関係は水面下で終わっていた。桜野は俺たちの前にそれぞれマイクスタンドを設置した。俺の前にのみ、パソコンが置かれた。……なんで?
「そりゃ教室出た時に放送部の子に心配そうな目で見られるわ。……可哀想だな、放送部も」
「か、完全に準備されちゃってます……」
妹が元気をなくしている。目立つことが苦手なタイプだしな。ご愁傷様。
全員が諦めて状況を受け入れる中、桜野はただ一人テンションが高い。
「ほら、最近は声優さんのラジオも増えたじゃない。美少女がたくさん集まって喋っていれば、皆、大満足のはずよ」
「声優、ねぇ」
「会長、声優やパーソナリティ、そしてリスナーを舐めてるでしょう」
桜野は意地でもこの企画を押し通す気のようだ。
「可愛い声でキャピキャピ喋りあっていれば、男性リスナーなんてコロリと騙されるはずよ」
「謝れ! 俺とクロさん以外の男性に謝れ!」
「おい、俺を巻き込むなよ」
「杉崎と黒兎は騙されるんだ……」
「だから、俺を巻き込むなよ……」
「ま、まあ、それに、五人……六人もいれば会話が尽きることもないでしょう。大丈夫大丈夫。いつも通りに喋ればいいんだから」
「今誰のこと抜かしました、会長!?」
「もちろん杉崎よ。杉崎は存在自体が放送コードにひっかかってるから」
「ひでぇ!」
まあ杉崎だしな、仕方ない。自制する気はなさそうだが。
いつのまにかセッティングは全て完了している。俺はパソコンで録音状況を確認してなきゃいけないらしい。ああ、大変だ。録音放送であったのが唯一の救いか。
妹も諦めているのか、マイクをツンツン突いていた。
知弦はのどの調子を確かめている。やるなら手を抜かない構えのようだ。
姉は落ち着き払い、腕を組んで、椅子にふんぞり返っている。
杉崎も覚悟を決めたようだ。
「さあ、始めるわよ!」
桜野は手元の大量のスイッチの一つを押す。
さ、やるか。
ON AIR
桜野「桜野くりむの! オールナイト全時空!」
杉崎「放送範囲でけぇ!」
♪ オープニングBGM ♪
桜野「さあ、始まりました。桜野くりむのオールナイト全時空」
知弦「夜じゃないけどね」
黒兎「全時空って……」
桜野「この番組は、富士〇書房とWEB小説投稿サイト ハー〇ルンの提供で送りします」
桜野「まあ、ギャラもゼロ円だし、機材も放送枠にもお金かかってないから、スポンサーにしてもらうことは何もないんだけどね」
真冬「じゃあなんで提供を読んだんですか……」
桜野「それっぽいじゃない。うん、今のところ、とてもラジオっぽいわ」
真冬「……はぁ。いいですけど」
桜野「こら、真冬ちゃん! そんなテンションじゃ駄目よ! リスナーは、もっと、こう、女の子の元気な会話を望んでいるんだから!」
真冬「そうでしょうか……」
桜野「うん。男性リスナーなんて、そんなものだよ」
杉崎「こらこらこらこら! なんでリスナーを見下げた発言すんの!? 生徒に喧嘩売ってんの!?」
桜野「パーソナリティあっての、リスナーじゃない」
杉崎「リスナーあっての、パーソナリティだ!」
深夏「おお、鍵が物凄く真っ当な発言してる! すげぇ! ラジオ効果、すげぇ!」
桜野「……そうね。私が間違ってたわ、杉崎」
杉崎「分かればいいんですよ、分かれば……」
桜野「そうよね。やっぱり、ある程度媚びておいた方が得よね。うん、私、大人」
杉崎「だから、そういう発言を堂々としちゃ駄目だって──」
桜野「お便りのコーナー!」
杉崎「無視!? ラジオなのに、言葉のキャッチボール拒否!?」
知弦「それがアカちゃんクオリティ」
黒兎「桜野だから諦めろ」
杉崎「なんで貴方たちは要所要所でしか喋らないんですか! もっと舵取りして下さいよ!」
知&黒『…………』
杉崎「ラジオで無言はやめましょうよ!」
知&黒『……パンッ!』
杉崎「無言でハイタッチもやめましょうよ!」
桜野「さて、一通目のお便り」
杉崎「進行重視かっ! 会話の流れ無視ですかっ!」
桜野「『生徒会の皆さん、こんばっぱー!』はい、こんばっぱー!」
杉崎「え、なにその恥ずかしい挨拶! 恒例なの!?」
杉崎以外「こんばっぱー!」
杉崎「俺以外の共通認識!? クロさんまで!」
桜野「『オールナイト全時空、いつも、楽しく聴いております』ありがとー」
杉崎「嘘だ! 第一回放送のはずだ、これは!」
桜野「時系列なんて些末な問題よ、杉崎。このラジオにおいてはね」
杉崎「さすが『全時空』!」
桜野「あと、言い忘れてたけど、一応、生でも放送されているわよ、これ。聴いてる人は少ないだろうから、また明日昼休みに校内で流すけど」
杉崎「どうりでメールが来るはずだ! っていうか、じゃあもっと発言に気を付けて下さい!」
黒兎「杉崎、桜野だぞ?」
杉崎「そうでしたね!」
桜野「はいはい。じゃ、メールの続きね。『ところで、皆さんに質問なのですが、皆さんは、どんな告白をされたらうれしいでしょう? 僕は今、恋をしているのですが、どう告白しようか迷ってます。くりねぇ、是非アドバイスお願いします』」
杉崎「『くりねぇ』って呼ばれてんだ! こんなロリのくせに!」
桜野「そうねぇ……。これは難しい問題ね。でも、恋愛経験豊富な私に言わせれば──」
杉崎「男と手繋いだことさえないくせに……」
桜野「普通に告白すればいいと思う」
杉崎「なんかテキトーなアドバイスした──────!」
桜野「知弦はどう思う?」
知弦「そうね……好きにすればいいんじゃないかしら。私には関係ないし」
杉崎「パーソナリティがリスナーに冷てぇ──────!」
桜野「真冬ちゃんはどう?」
真冬「え? そ、そうですね……。えと……真冬は……。……わかりません」
杉崎「まさかの『わかりません』発言キタ──────!」
桜野「深夏は?」
深夏「当たって砕けろ! 以上!」
杉崎「もっとリスナーのハートを丁重に扱おうよ!」
桜野「黒兎は?」
黒兎「え? そうだな……相手と会話をすることで仲を深め、自分を知ってもらう。その中で自分に好意を寄せてもらえるように努力するか、告白を断れない状況を作り出すか、だな。
仮に振られても、相手の意思を尊重することが大切だ」
杉崎「一人真面目だ──────!」
桜野「次のお便り。『妹は預かった。返してほしくば、指定口座に──』……ん? あれ? これ、間違いメールね。ちょっとスタッフ―、しっかりしてよぉー。まったく。……じゃ、次」
杉崎「スルーしていいの!? 今の内容、そんな簡単にスルーしていいの!?」
黒兎「安心しろ、杉崎。どこからお便りがきたか、ちゃんと記録とってあるから」
杉崎「なら急いで警察に……」
桜野「『生徒会の皆さん、こんばっぱー』こんばっぱー!」
杉崎以外『こんばっぱー!』
杉崎「だから、なんでこれだけ皆ノるの!? いつ打ち合わせしたの!? さっきの誘拐犯もどきも気になるし」
桜野「『くりねえ。どうしよう。私、お金が早急に必要で……。というのも、うちの妹が誘拐されちゃって、両親が金策に走り回っているんだけど、集まらなくて……どうしたらいいかなぁ』」
杉崎「ディープなお悩みキタ──────! っていうか、ここにメールする以前に、警察に連絡しろよ! それに、間違いなくさっきのメールに関連してるな、これ!」
桜野「黒兎。どう?」
黒兎「ん。問題ない」
桜野「では、ラジオネーム《被害者の家族》さんには、黒兎から、《まとまったお金》をプレゼント! 待っててね!」
杉崎「ええええええええ!? 用意すんだ! しかもクロさんから!」
黒兎「大丈夫だ、俺の口座には使われないお金がいっぱいあるからな」
桜野「よし、じゃあ、ここで一曲。先日私が出したニューシングル。《妹はもう帰ってこない》を聴いていただきましょう」
杉崎「空気読め───────────────────!」
桜野「どうぞー」
♪ 《妹はもう帰ってこない》フル再生 ♪