すいません!!
「
「あ、会長。もしかして嫉妬ですか? 俺の過去の女が気になって──」
「そうやって逃げようとしても駄目よ!」
逃げようとした杉崎は、「会長モード」の時の
更に
「キー君。アカちゃん、こうなったら事実確認とれるまでずっと騒ぎ続けるわよ? わかるでしょ? 諦めなさい」
「分かってますけど……」
杉崎はどうしたもんかと悩んでる。仕方ない……後押しするか。
「杉崎」
「なんですか、クロさん」
「大丈夫だ、なにがあってもここにいる連中は、お前を否定しない。それに、俺は何があっても杉崎の味方だ」
「クロさん……!」
杉崎が真剣な目で桜野に向き合う。
「結論から言って、事実です。俺は、昔、二股かけてました」
杉崎が真剣だからか、桜野は杉崎につっかかるようなことしなかった。
それは、知弦や
桜野は「そう」と息を吐いて着席すると、「で?」と促してくる。
「杉崎は、詳しい経緯を話す気はないのね?
「はい。今は、勘弁して下さい」
杉崎の言葉に、桜野は嘆息した。そうして、続ける。
「でも事実なのね」
「はい。クロさんが証人として存在します」
「確かに知ってはいるが、証人って言い方やめろよ」
「黒兎がね……。まあ、いいわ。弁解する気は?」
「ありません」
「そう」
「はい」
「ん、わかった。じゃ、この件はこれでおしまいっ!」
桜野はそういうと、んっと背伸びして、スッキリした顔をする。
そうして、いつものように杉崎につっかかる。
「さて、杉崎! 早速更生するために色々するわよ! そんな記事が何度も書かれちゃ困るんだからねっ!」
「……そうですね。まあ、更生というより、表面を取り繕うぐらいはしましょうかね」
そう言って、杉崎は微笑む。
……やっぱり、桜野は人間として素晴らしい。過去を責めず、今と未来のために動こうとする。
能力で生徒会長になったわけではなく、人間性でなったとでも言うかのような。
そんな魅力は、ほかのメンバーも同様に持っている。気付くと、皆、いつもの皆に、いつもの笑顔に戻っていた。……俺は、いつものように笑えてるだろうか。
「ま、
「そうだぜー、
「こんなことでケチつけられちゃ、それこそつまらないわよ、キー君。ハーレムを保ちたいなら、ちょっとガードを固めるぐらいはしないと」
「こんなことでめげる奴は俺の知ってる杉崎じゃあないな。いつもの自分を思い出せ」
皆、もう二股のことについては触れようともしなかった。皆、杉崎の想いを尊重している。
この生徒会の暗黙の了解。本人が拒絶したら、深く入りすぎない。居心地のいい、ぬるま湯のような空間。この空間に、俺たちは救われている。世界が厳しいんだ、この生徒会ぐらい、ぬるま湯で丁度いい。
杉崎はニヤリと笑い、いつものように告げる。
「しょうがないなぁ。皆がそんなに俺を求めているなら、俺も、つまらないことで足元掬われないように気をつけてみますかぁ」
「いや、別に杉崎がいなくなるのは構わないけどね。生徒会のイメージがね」
「ふふふ、分かってますって、会長。会長がツンなのは、充分に理解──」
「いや、本気で」
「…………」
気のせいか、皆の眼が暗く輝いているように見える。……憐れ、杉崎。
「で、更生って、具体的に何をするんです?」
空気に耐え切れなくなった杉崎の質問に、「ふむ」と桜野が腕を組む。
杉崎がだらしない表情を浮かべる。杉崎ぇ……。
「杉崎。まずはその、変態的なこと考察している時のアホ面を改善しようか」
桜野はジト目で杉崎を見る。
「む。俺は、いつだって真面目に思考してますよ!」
「真面目に思考するテーマがいつも変態的なのよ!」
「ど、どうして俺の思考テーマが分かるんですかっ!」
「いや、分かるだろ。顔に出すぎだ、バカ」
「ホントですか、クロさん!? この俺のカッコいい顔が崩れている……だと!?」
「その自意識過剰なリアクションも駄目!」
「ええぇ!」
「いい加減マスオさんも封印しなさい!」
「シット!」
「意味もなく外人かぶれしない!」
「無念!」
「必要以上にキャラ作らない!」
「……でも、一応主人公だし……」
「なんの!?」
「このエロゲ……『ハーレム生徒会、大征服♪~副会長、私を食・べ・て♪~』の」
「この世界はそんなタイトルの世界だったの!?」
「ええ、今は会長ルートで攻略中です。まずはメインヒロインっぽい人からでしょう」
「だったら桜野以外の好感度上げようとするなよ」
「……って、そういう頭おかしい発言も禁止!? 黒兎もツッコミがずれてる!」
「そんな! そんなことしたら、この物語、かなりオーソドックスですよ!」
「貴方はなんの心配をしているのよ!」
桜野の体力が尽きた。
しかし、桜野を倒した杉崎の前には好戦的な目で杉崎を眺める知弦が。
「キー君の更生は、生易しいものじゃ駄目よ」
「知弦、なにかいい案でもあるのか?」
「ええ。クーちゃんが納得するような生易しさゼロの案が」
「すでに生命の危機が……」
「まずは……そうね。この科学部に作らせた『視線感知眼鏡』をちょっと改造して装着させて、キー君が女性の胸等を見たら即座に電流が流れるように……」
「いつの時代の荒療治ですかっ!」
「古代ギリシアの、とある……」
「スパルタでしょう! それ、スパルタっていうでしょう!」
「あら心外ね。愛の鞭と言ってほしいものだわ。鞭よ、鞭。美少女の鞭よ」
「いくら俺でも、こんな状況じゃ興奮しませんよ!」
「杉崎が興奮しない……だと……?」
「しませんよ! クロさんは俺をなんだと思ってるんですか!」
「変態?」
「否定できない!」
「仕方ないわね。……じゃ、二つ目の案聞く?」
「あるんですか?」
「ええ。まずは、女性を見ると言い知れぬ恐怖心が沸き上がるという催眠術で──」
「三つ目に言って下さい!」
「じゃあ、とりあえず去勢手術を──」
「わぁん! どんどん非人道的になってくー!」
「甘いな、知弦。そこは
「クロさん、それはマジでやめてください!!」
杉崎はがっくりと崩れ落ちた。
知弦は杉崎をいじめて満足したのか、「はふぅ」と恍惚の溜め息を漏らした後、教科書を取り出して俺の元まできて勉強を始めた。
知弦の次は、待ってましたと言わんばかりの椎名姉妹。
「ま、真冬も、色々案、あります!」
「あたしもあるぜー、杉崎鍵改造計画!」
……あの二人も、大分やばめの案を持ってそうだ。まあ、俺も疲れた。俺は鞄から書き途中の原稿を出して、書き始める。時折、分からない問題を質問してくる知弦に答えながら。今日は聞いてくることが多いな、知弦。
…………。……気が付いたら椎名姉妹によって体力を削られ、机に倒れ伏す杉崎の姿が。しかも、
その光景をボーっと眺めていると、杉崎がボソッと呟く。
「更生させるも何も、他の生徒会メンバーも全員変人なんじゃんか……」
杉崎のその言葉に、桜野が反応する。体力が回復したのか、机からがばっと起き上がる。
「ジョーダンじゃないわよ! 私ははマトモよ!」
「会長。自己申告制は駄目ですよ」
「それに桜野は、さっきそう言った杉崎を『マトモな人間の発言じゃない』って切り捨てたよな」
「う……。み、皆! 私は、マトモよね!?」
前回の杉崎に続き、桜野が生徒会に問いかける。
結果はもちろん。
「…………」
ずーんと沈み込む桜野が出来上がった。世の中そんなもんだ。
……更生、か。
俺が思考を始めるのと同じタイミングで、杉崎がぽつりと呟く。
「個性をなくすのが更生だって言うんなら……なんか俺、ずっとこのままでいいって気もしてきました」
「…………」
桜野が死んだ目で杉崎を見る。知弦も教科書から視線を上げ、椎名姉妹も暴走をやめて杉崎を見る。俺も思考の海から意識を戻し、杉崎を見る。
「俺だけじゃなくて、ここに居る生徒会メンバー、全員、ちょっと頭おかしいでしょう?」
「ちょ、だから、私は──」
「はい、黙ってようねー」
桜野が立ち上がり、反論しようとするのを、口を塞いで止める。そして、俺から逃れるために抵抗を始める。杉崎は満面の笑みを浮かべて、全員を見回す。
「でも俺、ここにいる頭のおかしいメンバー、大好きだよ」
「…………」
桜野の抵抗が収まる。桜野を開放すると、赤面しながら咳払いし、着席した。
知弦と椎名姉妹も、温かい視線を杉崎に向ける。
「俺の、ハーレムは、多少性格に難があっても、容姿さえよければモーマンタイなのさ! ああ、なんて心の広い俺! さあ皆! 遠慮しないで俺の胸に飛び込んでおいで!」
『…………』
……杉崎、調子乗りすぎだ。全員がそれぞれの作業に戻っていった。
杉崎が嘆息していると、小さい声で、ぽつりと、桜野が呟いた。
「……いいわよ、杉崎は、そのままで」
「? なんですって?」
「……なんでもない」
桜野は嘆息し、「あーあ、私、変だと思われてるのかぁ」と、また机にくたーっとしていた。
「ええと、それで俺、明日からどうします?」
その杉崎の質問に、全員がちらりと杉崎を見る。
そうして、全員が一瞬微笑し、また自分の世界に入っていった。
……生徒会は今日も平和なり、っと。
ギリギリ間に合いませんでした……。