ありふれた物語の語り手   作:通りすがる傭兵

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主人公くんのイメージは『空の境界』より両義 式さんです。
中身は若干アンデルセン風味ですけど。

あと、ルビ打ち傍点フリ練習も兼ねてます。慣れないと難しいねコレ


ありふれた物語の題目は......

  異世界転生、と言うものはご存じであろうか。

 

  ウェブ小説で少し前からトレンドとなり始めたジャンルの一つである。

  どういうものかというと、現代日本に生きる主人公が、何の前触れなく異世界に行き、そこで冒険を繰り広げる、というものだ。

  転生させるのは神様であったり、異世界の巫女様であったりと様々。大抵世界の危機などを救ってくれ、と勇者と呼ばれたり、神様の気まぐれでチートなどのとてつもなく強力な能力を与えられたりする。

 

  さて、何故このような話題を語っているかという問いがあると思うが、その答えはシンプルな理由だ。

 

  現在進行形で、体験しているから、である。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

 好々爺といった印象を受ける、ヨーロッパ司祭が着るような長い司祭服を着た男性がそう語るのを半分ほど聴きながら、ポツリと漏らす。

 

「......活版印刷(かつはんいんさつ)って何世紀だっけ」

 

  手書きも味があって良いと思うのだが、いかんせん手書きの癖字は読みにくいと感じるものだ。

 

 

 

 

 

 遡ること約半日、学校の始業チャイムの少し前に時を巻き戻そう。

 

「今日もいつも通りだね、昨日から今日まで仕事かい?」

「......ああ」

 

  始業ギリギリ、あと五分とでチャイムと言ったところで彼、南雲ハジメと鉢合わせする。相変わらずいつも無愛想だが、暫く前から軽く手を振ってくれるようになったのはいい進歩だと思う。

  あいも変わらず眠そうだが、聞けば親の手伝いでゲーム制作を手伝っているという。高校生でそう働くのは尊敬に値すること、徹夜はいただけないが......彼が好きでやっていることだ、口を出すわけでもない。

 

  教室の扉を開け、続いて南雲が扉をくぐる。

  いつものように、不快な視線が南雲に降り注ぎ、イジメ筆頭の檜山が不快な笑い声を上げる。

  全く、人とは得てして理解しがたいものだ。彼の場合注意しても聞き入れてくれないので、そのうち証拠を取って訴えようかとも思っている、それに不快な感情は文字列で見るだけで十分だ。

 

「おはよ、南雲くん、綴織さん。いつも君達はギリギリなんだから、もっと早起きしないと!」

「夜型生活が直らなくてね、申し訳ない」

「......」

 

  ドア近くの席で談笑していた女子生徒、白崎香織(しらさき かおり)さんがそう声をかけてくれる。学校では美人として評判で、告白が絶えないという。噂ではファンクラブもあるとか。

  整った顔立ち、艶やかな黒髪、バランスの良いその肢体(したい)はまさしく天使、と形容するに相応しい。

  そして外見だけでなく内面も素晴らしい。

  いつも笑みを絶やさず、面倒見もよく責任感も強い、頼まれごとも全部引き受けてくれるという、そして成績はこの学年で一桁をキープし続けるという秀才ぶり。才女という言葉は彼女のためにある、といっても過言でないだろう。

 

「おはよっ、南雲くん。挨拶をされたらちゃんと返事しないと、めっ!」

「あああ、お、おはよう!」

「よし、今日もいい返事だね!」

 

  そんな彼女は、南雲によく話しかける。

  長い前髪に、荒れた肌、くっきりと染み付いた隈で容姿は優れたとも言えない南雲にそうするのは、彼女が恋しているから、だそうだ。

  長い付き合いである友人の八重樫雫曰く、一目惚れだという。この事はまだ2人の秘密だが、

 

「......ちっ」

 

 この不快な感情が南雲に降りかかるのは、才女に愛される醜男(ぶおとこ)(ひどく偏った見方だ、自分の意見ではない)に対する嫉妬らしい。人の悪意に鈍い彼女は気づかないままで、親切な南雲は気づいているが言えず......今の今まで悪循環は続く、というやつだ。

 

  「南雲君、ケイ。おはよう、毎日大変ね」

「香織、また彼の世話を焼いているのか? 全く、本当に香織は優しいな」

「全くだぜ、そんなやる気ないヤツに何を言っても無駄と思うけどなぁ」

 

  アワアワする南雲と白崎嬢に声をかけた3人組。武士然とした雰囲気を纏う白崎嬢の親友八重樫雫(やえがし しずく)。イメージとしては白崎嬢の問題をいつも仲立ちしているから苦労人だ。この前胃薬をあげたら喜んでくれた。

  そして2人目、サラサラの茶髪に長身、優しげな雰囲気だがいざという時頼れる正義の味方、天之川光輝(あまのがわ こうき)。少しばかり激しい思い込みさえ直してくれれば言うことはないのだが。

  荒い口調が特徴な彼、坂上龍太郎(さかがみ りゅうたろう)

  短髪にがっしりとした体つき、柔道を修めているので運動神経も抜群だ。イメージは昭和の主人公の、熱血努力勝利!を体現する素敵な方だ。文系インドア派な自分と南雲とは少しソリが合わないこと確かだ。

 

「おはよう八重樫さん、天之河くん、坂上くん。はは、自業自得とも言えるから仕方ないよ」

「それが分かっているなら直すべきじゃないか。何時までも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だって君に構ってばかりはいられないんだから」

「いや、ははは」

「え?私が話したいから話してるだけなんだけど......」

 

  いつものごとくの流れになったので、そそくさと場を離れて席に着き、文庫本を取り出す。

  今日の読書(ごはん)はアガサ・クリスティ「オリエント急行殺人事件」。

  最近映画化されたので、再販されたものを買ったのだ。訳者によって解釈が違うので、同じ本であっても読むのに飽きない。ミステリの鉄則をついたブレイクスルーを描く不朽の名作、少々古いが本屋、図書館に必ず並んでいるので他人に勧めているんだが、読んでくれない。

  今のところ手にとってくれたのは南雲と白崎嬢だけだ、白崎嬢は丁寧に感想を便箋にしたためてくれ、南雲は面白かったと一言。

  感想には人となりが出るとは言うが、南雲の面白かったには裏表は感じられず、純粋に面白かったと思ってくれていたのがわかる。あんな表面上はぶっきらぼうだが、性根は優しいのだ。

 

  「はい、SHRを始めます、委員長?」

「規律、礼!」

 

  中年の担任の先生がやる気なさげに声を上げるのを聞いて、本に栞を挟み込む。

  教科書だって本だ、少々不満足だが食べられないわけでも無い。

 

 

  昼休み、購買はあるが自分は弁当派だ。節約した金は本代に消える。自炊の方が安上がりな上、時々小説に出てくるスイーツや料理を試したくなるから、スキルはないことに越した事はない。

 サンドイッチは誰が開発したのやら、もし会えたらお礼が言いたい。

  こうして食事の時両手を塞がずに済むのは最高だ、本来はトランプをするときに、だったそうだが読書でも構わないだろう。

 

「ケイ、食事中に読書はお行儀が悪いんじゃないの」

「んあ?」

 

  顔を上げれば、八重樫嬢がこちらを咎めるように睨んでいる。口にものを入れて喋るのは行儀が悪いので、レタスハムを胃に押し込んでから、

 

「サンドイッチは主食、小説はオカズ。

 自分は完全無欠に食事をしているだけだ、批判されるべきところは見当たらない」

「それは屁理屈ってもんよ、南雲くんといいケイといい」

「それに甘酸っぱい恋愛小説は食事にいいアクセントをくれる」

「......」

「3日前の新刊だ」

「......貸して」

「はいどーぞ」

 

  チョロインとは八重樫嬢を指すんだろう。武士然としているのに恋愛小説が趣味の彼女は、自分の数少ない友人(読み友達)でもある。本人曰く、人にこういったものを見られるのは恥ずかしいという。

  趣味を大っぴらにしすぎるのも考えものだが、隠し通すのも辛いらしい。

 

  八重樫嬢の背後では、白崎嬢と南雲がイチャイチャし、天之川が横槍をはさみに行った。

  それなりに文章を嗜む身として、彼と彼女(南雲と白崎嬢)の恋模様を綴るのもやぶさかでもないのだが、彼が迷惑するだろう、辞めておく。

 

(公の場に出すのは、ね)

 

  事実は小説より奇なり。

  であれば、その奇妙なものを小説にするのは文芸者の端くれとしての使命だろう。これでも一応デビュー作家の端くれ、企画さえ通ればイケるのだよ?

 

「さて」

 

  恋愛小説は貸し出してしまったので、朝読んでいたオリエント急行殺人事件を開く。

  深海に潜るように、雪に囲まれた20世紀初頭の急行列車に意識を沈みこませる。

 

  灰色の脳細胞、往年の名探偵ポワロが事件の真相を語りはじめる。

 

「この事件の真相は......」

 

 山から吹き下ろす雪に、自分の意識が埋もれていく......

 

 

 

 そして、舞台は冒頭に巻き戻るわけだ。

 

 

 

 言い忘れていたが、自分の名前は綴織(つづおり) ケイ。

 趣味は読書。

 好きなものは活字。

 嫌いなものは特になし。

 特技は速読、速記だ。

 

 そして、この物語の主人公......ではなく、ただのしがない一登場人物だ。

 

  むしろそうでありたい、そうでなければ困る。

  物語に浸るのは好きだ、英雄のように困難に立ち向かい、苦難と栄光を受ける(主人公気分に浸る)のも悪くない。

  だが、主人公の立場になる、と聞かれればお断りだ。

  なぜなら、余程のことがない限り主人公はトラブルに巻き込まれる。そんなことをしていたらおちおち本も読む暇もない。

  そんな事になれば禁断症状が出て死んでしまう。

 

「......だが、コレは悪くない」

 

  ありふれた人間とそれ以外の戦い。だが、現実であればステレオタイプのその裏にも、きっと面白いドラマがある事だろう。

  大広間に通され、現地人の筆頭だろう司祭服の男、イシュタルと言ったか、が口を開く。

  イシュタルといえば確か女神だったような、実は彼は彼女だったと言うオチなのだろうか。

  そんな些事は脇に置いて、彼の話に聞き入る。要点はメモ帳に纏める、コレは記録だ、ネタにはちょうどいい。

 

「...... 、“エヒト様”の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

 

  胡散臭い。直感的にそう思った。

  弱者を悼み、虐げられるものに安らぎの手を伸ばす、人としては尊敬できる誠実な人物だろう。

 だが、話の一部......推測された部分では主観と推測が入り混じり、こうあって欲しい、というような願望が混じっているような気もする。

  そこが信用できない。水に垂らした一滴のインクのように、うっすらとした不信感が全体を覆ってしまっている。

  だがあくまで主観ゆえ、この推測は結論にはできない。もっと、根拠が必要だ。

 

「納得いきません!こんなものただの誘拐じゃないですか!」

 

  たまたま巻き込まれた唯一の大人......畑山先生が声を荒げる。新任教師らしく、理想に燃え、生徒を守るのが仕事とその小さい体を大きく動かして顔を真っ赤にするが、

 

「お気持ちは察しますが......現状、貴方方の帰還は不可能です」

 

  ......なん、だと。

 つまり、本が買えない、ということか?

 たった今、今の今でも多くの人が手がける、媒体を選ばず世に出る作品が、見ることができないと。

  傑作凡作力作駄作秀作遺作著作、あらゆる人がペンと指を走らせ、命を削り思いを紡いで制作した創作が......追いかけられられないと。

 

  「馬鹿げている、とんだ駄作だ。

  勝手に期待した分、勝手に落差を作り落胆する自分が道化に見えてくる」

「......ケイ?」

 

  目の前では、そのカリスマ性を持ってして天之川が皆を鼓舞し、励ましている。

  だが、戦争なぞ許されることでは無い。美化された人殺しは、空想だけで十分。

 空想だからこそ、許される事があるのだ。

 

  例えば、他人の読書を妨害すること!

 そして......買った本を積んだまま放置すること!

 

「決めたぞ、南雲」

「さっきからブツブツ言って、大丈夫?」

「ああ。新作が自分を呼んでいる。意地でも自分はウチへ帰るぞ」

  「え、でも帰れないって」

「今のところは、だ。行きがあるなら帰りも存在する、きっと隠されているはずだ......考古学も、悪くない」

 

 

 そこから自分達は移動したらしく、いつのまにか部屋に通され、1人広い部屋で立ち尽くしていた。

  思考の海にふけると周りが見えなくなるのは悪い癖だ。しかし、ここからやるべき事は見えてきた。

 

 1つ、読むための書を確保する。

 2つ、帰り道を探す。

 3つ、死なない。

 

 

  なんだ、簡単じゃないか。

 

 

 

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のおける身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

  鎧を着、豪快に肩肘張らない話し方をされればこちらも楽で助かる。確か騎士団の団長、と名乗っていたはずだ。

  結局昨夜は一睡もできなかったが気にすることでもない、よくある事だ。

 

  そして手渡された身分証ほどの大きさの金属板。表面には細かな幾何学模様が彫られいて、曲げようと力を込めても反りもしない。かなり硬い金属だ。

 

  あたりを見渡せば、指先から血を垂らす姿がちらほらと。......成る程、血をつければ登録されるシステムなのか。

  興味半分、不安半分といった心持ちで血を垂らす。すると走るような輝きが表面に文字を刻んて行く。

 

 

  ===============================

 綴織 ケイ 17歳  レベル:1

 天職:作家

 筋力:5

 体力:25

 耐性:10

 敏捷:15

 魔力:10

 魔耐:10

 技能:速読・速記・書籍製作・書籍閲覧・言語投影・言語理解

 ===============================

 

 ふむ、基準が不明だから評価のしようがない。

 

 ステータス云々という話を聞き流し、技能に書かれた文字、速読・速記に目を取られる。

  後述のものはともかく単純に特技を羅列された気がするのは自分だけだろうか?

 

「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 

  つまり平均値、一般人か。

  内心ガッツポーズだ、コレで一軍落ちは確定、前線に立てるステータスではないから主人公格の役割をする必要がない!

  意気揚々とまず騎士団長殿に報告したのは天之川、

 

  ============================

 天之河光輝 17歳 男 レベル:1

 天職:勇者

 筋力:100

 体力:100

 耐性:100

 敏捷:100

 魔力:100

 魔耐:100

 技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

 ==============================

 

  ステータスおよそ10倍、技能の数では遠く及ばず、団長は嬉しそうに背中を叩いている。

 

  成る程、彼が主人公か。

  せいぜい頑張ってくれたまえ、自分は傍観させてもらおう。

 

 そして順番は巡り、南雲の時が来た。その次が自分の番だ。

  よほど見劣りするモノだったか、今まで喜んでいた団長殿が固まっていらっしゃる。

 

「ああ、その、何だ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……」

 

 歯切れ悪くハジメの天職を説明するメルド団長。錬成......成る程、よほど現実からかけ離れた、空想らしい職業だ。

 

「素晴らしいじゃないか!自分のありふれたものとは格が違う、まさに空想、まさにファンタジー!

 錬成という事は金属を自由に加工できるんだろう、いやあ、出来ることが多くて羨ましい限りだ」

 

  突然大声を張り上げた自分に注目が集まる。

  虐められている彼の事だ、今のところ唯一の非戦闘職、しかもよくあるものだ。まず槍玉に上がるだろう。それは忍びない、一応とはいえ友人のつもりだ、それに非戦闘職だからといって卑下する風潮は好きではない。

 

「聞けば自分達は戦争をするのだろう?だったらお誂えの職ではないか!

  戦うだけで戦争が終わると考えている想像力の欠如した者が居るとは思わないが、裏方というのは大切だろう。

 鍛治職人ならば剣を作る鎧を作る武器を作る、いやはや実に楽しみだ。ライトセイバーなんか再現できたら面白いと思うのだがどうかね?」

「い、いや、そんなのわかんないよ......」

「解らない?ならば否定ではないのだな!いやあ、楽しみである!」

 

  がーっはっはっは、と高らかに笑ってみせよう。そのまま団長殿が同じように肩を組んで、気取られないよう顔を近づける。

 

「ライトセーバーはともかく、銃なんか作ると面白そうなのだが、どう思うかね?

  ちょうど資料が携帯にある、後で渡そう」

「!」

「なに、気にするな。

  同じ非戦闘職のよしみというものだ......

 

 ああ、団長殿、自分のステータスを見てくれ、見ての通りほとんど平均値だ。いやはや、非戦職は平均値という慣習があったら先に教えて貰いたかったな!期待して損したよ」

 

 

 憎まれ役も、悪くない。

 

 

 

 

 

 

「まったくもって、駄作だ。こんな絵に描いたようなピンチ、わかっているから心も踊らん。

  ネタバレを食らった気分だ」

 

  場所は変わって迷宮。そう、ダンジョンとかいうテンプレートなレベル上げスポットである。

  使い古されたネタ、出涸らしの出涸らしくらい試行錯誤が行われたフレーズでもある。

  それにこれまたテンプレートよろしく遠征に出かけ、自分は無理やりに参加させられ、これまたテンプレートのように罠に引っかかり、これまた定石通りにボスモンスターの所に案内されたわけである。

 

  気分は最悪、状況も最悪、場所も最悪。

 

  まず見え透けなトラップに堂々と引っかかりにいって奴に腹がたつ。

  次に分かりきったような展開をさも今始めて知ったように驚くのに腹がたつ。

 そして最後に、コロッセウムのような逃げ場のない足場に、そこまで幅の広くない石橋。

 そして誂えたよう前に構える恐竜もどき(ベヒモス)と、背後を塞ぐ骸骨騎士。

  そして、殿をつとめようと飛び出した南雲(役立たず)

 

  「ああクソ、クソクソクソ!こんなんじゃ駄作だ、型通りの旧式だ!懐古主義が嫌いじゃないがただ場所と相手がすげ変わっただけ、こんなものただの盗作と同義じゃないか!」

 

  無理やり役を押しつけるように任命された記録係、今までは馬鹿正直に地図を置い、モンスターの情報を羊皮紙き書きつける仕事(ただの暇つぶし)を貰っていたが、今は緊急事態だ。

  新しい記録用紙を引っ張り出し、慣れない羽ペンで乱雑に文章を綴る。

 

「っよし!”されどその守りは城塞の如く、あらゆる攻勢を防ぎきってみせよう!”」

 

  書き散らした言葉が光を発し、魔力を紡ぐ。

  クラスメイトが必死に保つ結界の光が少しだけ強まり、気持ちばかり硬い音を返す。

 

「ありがとケイちゃん!」

「ちゃんは余計だ!」

 

  所詮気休め程度のものだ、根本的な解決にはなってはいないのにお礼は困る!

 

「そうじゃない、そうじゃないだろ......!」

 

 今必要なものは、なんだ?

 圧倒的な力......だが俺には実力が足りない。

  魔力もお粗末、耐久は紙切れ以下、力は子供と変わらない。

 

「“かの男は不撓不屈(ふとうふくつ)、一騎当千の英雄なり!”」

 

  申し訳程度の能力追加も焼け石に水、南雲の錬成がなければ戦線はとっくに崩壊してる。

 

「南雲、地面が持たないぞ!橋を穴あきチーズにするつもりか!」

「もう少し、もう少しで......!」

「心中なんぞそんなのとしてもつまらんぞ!」

「後衛職は下がって!」

「だああクソ!こんな時に融通のきかない頭でっかちが!

 南雲!“死ぬなよ!”」

 

 騎士団員に押しのけられ、後ろに押し流される隙間から見た背中。

  それが、自分が南雲を見た最後の姿だった。

 

 

 

 

 

 

  南雲が死んだ。

  それはそれは英雄らしく殿をきっちり勤めて、奈落の底に消えたらしい。

  この場内に漂う暗い空気の原因はそれだ。

  直視してしまった前衛陣の心の弱いもの、うっかり見てしまった運の悪いものは部屋に閉じこもり、白崎嬢に至っては倒れてしまったらしい。

  一部は訓練を再開している。

 

「......つまらん、実につまらん」

 

  よくある話だ。

  小を切り捨て大を救う。どこかの物語での正義の味方がそうであったように、これは責められることではない、むしろ賞賛されるべきだ。

  戦力的にもありふれた錬成師という天職、失って困るものではない。

 

 

 

  ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 

 

 

「......い

 ............せない

 ............させない!

 忘れさせない!

  あの馬鹿を、命知らずの特攻野郎を!ありふれた死に方で終わらせない、終わらせてたまるか!

  南雲は死なない!俺は死なないと言った!

  俺の筋書きで南雲ハジメはまだ()()()()()()()()

  ......ああ、俺にできることなんでたかがしれてる。

  だけど、俺にできることは文章を綴るだけだ!

  あのクソヘタレで、妙に男気があって、悪知恵だけは働いて、ずる賢くて、真面目で、臆病で、勇敢なアイツを書くだけだ!

  ああ書くよ、書くさ!

  お前を歴史に刻んでやるぞ南雲ハジメ!

 うっかり足を滑られて奈落に落ちて帰ってきた、史上稀に見るマヌケとしてな!

 撤回なんぞしてたまるか、させてたまるか!俺がさせねえ!

  なんせ、ペンは剣よりも銃よりも強いんだからな、ハハハハハハハハ!ハーッハッハッハ、ハーッハッハッハー!」

 

 

 

 

 

 

「今日も香織はあの調子。

 いつになったら起きるのかしらね......

 ケイ、朝ごはんよー、ケイー?」

 

  ケイを呼びに来た雫は首を傾げる。

  いくら()()が夜型だといっても、学校には間に合うくらいには起きている。その習慣は異世界でも変わらず、寝坊なんてまだしていないのだ。

 

「ケイー、入るわよ?ケイ?」

 

  重い木製の扉を開けた雫の肌を、優しい風が撫ぜ、便りを運んで来た。

 

「なにこれ、ルーズリーフ?」

 

  異世界では見たことのない、しかし高校生活では馴染みのあるもの。

  何故これがこんな所に、と首を傾げた彼女が面をあげた。

 

「なっ!?」

 

  紙、紙、紙、紙。

  床全てをびっしりと覆い尽くし、それでも足りないと積まれた紙束の山がどさどさと崩れ落ちる。

 

  その一枚一枚には細かい文字がぎっしりと詰め込まれており、一見すると呪文のようにも思えてくる。だがそこに書かれている文字は馴染みのある日本語、雫のよく知る癖のある角ばった字。

 

「ちょっとケイ!あんた本に埋もれて死にたいとか言ってたけど自殺するのは早いでしょ!」

 

  あながちアイツならやりかねない、と顔を真っ青にする彼女に胸に、1枚の羊皮紙が飛び込んできた。思わずそこに書かれている文章を目で追う。

 

『クラスメイトのみんなへ

 

  ちょっと取材に行ってくるついでに旅してくるので、探さないでください。

  あと南雲が自分の本を借りパク中なので、取り立てに行ってきます。

 

 綴織 ケイ』

 

 

 同時刻、隣の都市へ続く街道にて。

 

「さてと、無事に脱出できた。

  かの大泥棒もアテになるものだ。

  身につけたもの全部売って不自然なものは無い、路銀もある。

 カンカンに怒った八重樫嬢が来る前にさっさと逃げるか。 ......ふむ、何処へ行こうか。

  そうだな、まずは定番、ケモ耳獣人に会いに行こう」

 

  彼女の旅は、始まったばかりである。

 

「......大型二輪でもあれば絵になったんだがな」

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