約1名のキャラが大きく変わっております、ご了承下さい。
「......魔物の痕跡、か」
散歩中に見かけた、木が広範囲に折れ倒れている不自然な広場。そこに南雲を呼ぶと、すぐにそう判断してくれた。
「不自然にえぐれた地形、木も折れた場所が一定じゃない。そして明らかに人工物で斬り裂かれたとわかる痕跡。
間違いなくここで誰かが戦っていた。恐らくは依頼にあった行方不明の冒険者パーティーだな」
「となると南雲。どこに貴族のボンボンちゃんは隠れると思う?」
「そうだな、ここは木があるとはいえ開けている。逃げるには不向きだが......」
戦いの余波で大きく流れの変わった川を見る。その川は大河とはいかないが、人が流されるのには十分に広く、激しい。
「流された、となれば十分に逃げおおせられる」
一番目のいい南雲を先頭に川に沿って進む。魔物は時折現れるが、その度にユエの魔法とシアのバカ力で消し炭になり吹き飛ばされていく。
もちろん私は何もしないでただ散歩してる訳でもなく、
「南雲、この先に滝があるみたい。高さは流されても無傷で済むくらい」
「おおかたその近くだな......ユエ!」
「ん、”風壁“」
名前を呼ぶだけで意図を理解したらしいユエちゃんが魔法で川を塞きとめる。
その間に南雲が義手のアンカーを地面に打ち込み、ラペリングの要領でスルスルと滝のあった場所を下り、
「見つけた、依頼人だ」
しばらくして、えぐえぐとしゃくりあげる同じ歳くらいの少年を引き上げて来た。
駆け出しにしては良い装備、そして顔つきや髪からわかる育ちの良さ、間違いはないと見ていいだろうね。
「ウィル・クデタだな」
「は、はい......」
名前も確認が取れた、となると任務完了だろう。南雲は宝物庫から四輪駆動車“プリーゼ”を引っ張り出すとウィルを後部座席に押し込め、自身も運転席に座ろうとする。
「ちょ、帰るのか南雲!?」
「ああ、任務は終わったしな。帰る」
「清水君を探してくれるのでは無いのですか!」
「そんなこと言ったか?」
たしかにそんな約束はない、あっても所詮口約束だと跳ね除けただろう。
南雲にとってすれば仲間はユエちゃんとシアだけ、クラスメイト含めそれ以外は他人という線引きを終えてしまっているのだからか。
だったら私は、私はどうなんだろう?
思わず考え込みたくなる。
ガヤガヤと南雲と畑山先生達が言い争っている中、私はただぼーっとしていた。
「......ん?」
何か川底にキラリと光る物を見つけた。
冒険者の装備の破片と考えるのがだろうだろうが、それはあまりにも輝きすぎている。
明らかに金属の破片なりなんなりではありえない輝き方。
「“その足は人魚のごとく”......えい」
泳ぎやすくなるようエンチャントをかけ、私は水中へと飛び込んだ。
(......確かここら辺に、あった)
水中でハッキリとしない視界でもそれは目立つ。何か小石サイズの物体のようだが......
「ぶっふぉう!?」(なにこれ!)
手にして気がついたこの謎の物体の正体。それを認めた途端に思わず吹き出してしまい、
(......あ、溺れる)
そう思う暇もなく、私はあっさりと木の葉のように流されていった。
「だいたい南雲君は人を思いやると言うことができないんです!」
「へいへい」
「もう適当にあしらって!
綴織さんもですよ! 何か言ってやったら......ってあれ、綴織さん、綴織さーん?」
◇◇◇
「けほっ」
口の中に入っていた生臭い水を吐き出し、重い体を河原になんとか出す。
体が三徹明けの時のように重い。それは水を吸った服の重さか、溺れたために体力が消耗されたのか。
はたまた、別の理由か。
「......」
見上げると星空が目に入る。日はとっくの昔に沈んでしまっていたようで、よく思えば辺り一面暗闇に沈んでいた。
「ライトは......南雲が持ってるんだよなぁ」
執筆の時に借りているライトは南雲にいつも借りている。この闇を照らせそうな光源は持ち合わせがない。
「へくちっ」
鼻水を反射的に啜る。暦的には秋だった訳だから、日中は暑くとも夜は相応に寒い。
むむむ、このままでは風邪を引いてしまう。
体力を消耗してる以上、このままでは肺炎や低体温症など深刻な事態になりかねない。
濡れた服を脱いで下着姿になり、上着の水分を絞って羽織る。少々恥ずかしいが、これで随分とマシになった。
とはいえ河原は寒すぎ、風があまり通さない場所をさがさないと。なるだけこの近くで。
「とはいえ真っ暗だしなぁ......」
南雲みたいに夜目が効くわけでもなく、ユエみたいに気配にさといわけでもなく、シアのように聴覚が鋭いわけでもない。
私は真っ当に人間で、それ故にピンチに陥っている。
歩けば身体も温まるだろう、なんて素人考えで私は真っ暗闇に向けて歩き出した。
木にぶつかり、根っこにつまずいて、石を踏んづけて転ぶ。生身を怪我から守る服は脱いでるわけだからあっという間に擦り傷切り傷で身体中がヒリヒリと痛む。
「ぐぬぬぬぬ」
唸ってもどうにもなるわけでも無い。それでどうにかなるなら全ての遭難者が助かっているところだ。
べしゃり、と岩にぶつかる。黒いから全く気がつかなかった。
「あーもう大っ嫌い!」
腹いせに岩を蹴っ飛ばし、その硬さに足を抑えて飛び回る。なんと無様なことだろうか。
「......あはははは、死ぬのかな私」
これで死を覚悟するには何回めだっけか。
最初は旅の途中に魔物に襲われ行きずりの冒険者パーティーに助けられた。そこからも不注意不用意運の悪さに他人の不幸に相乗りさせられ。
南雲たちと一緒に行動するようになってからも、特にオルクス大迷宮では何回も死にかけ一番迷惑をかけた。
だが、ここに助けは来ない。
ご都合主義なヒーローはここには存在しない。
「これで終わりかぁ」
考えれば気が楽だ。なにも考えなくて済む。
ぶつかった岩に体を預けて、腰を下ろす。
なんか背中が暖かい気がするけれども、おそらく低体温症からくる副作用みたいなものだろう。いよいよ死期が迫ってきたらしい。
「はーああ」
ため息が口をついて出る。
やり残したことはいっぱいある。
どれもこれも、完結しないまま終わるのは嫌だ。
だけど......だけど、諦めも肝心。
ゴネたって締め切りは伸びない、編集は待ってくれない、読者は早く続きを騒ぎ立てる。
そんなときははっきり書けないという事も、きっとあり。
「おやすみ」
走馬灯のように、今まで出会ってきた人の顔が脳裏を駆け巡る。
両親、祖父母、ご近所さん、友達、行きつけの本屋の店長、司書さん、そしてシアやユエちゃんのような異世界の人々。
......なんで、最後が南雲だったんだろう。
一片の疑問を抱えたまま、私は眠気のなすがまま目を閉じて、夢を見る。
おそらく、終わることの無い夢を。
◇◇◇
「......んむぅ」
身体中が痛くて、何故かぽかぽかとする。
目を開けると、ぱちりぱちりと爆ぜる焚き火がまず見えた。
天国にしては随分と作りが惨めだ。
きっと私は地獄にいるらしい。
ほら、目の前に人がいる。
きっとあいつは、地獄からの使者なんだ......
「つーちゃん、ちょっと動かないで、今いいところだから」
......ん?
いま、あいつの声が聞こえたような。
「よしよしよし......デッサン終了、と。はーおわったおわった、ペンタブが無いと辛いねぇ」
目の前の人影は手に持っている板状のものを軽く叩いて、大きくけのびをした。
「おはようつーちゃん、久しぶり」
「......」
にか、とイケメンぶって歯を見せて笑いかけるイマイチパッとしない男。
私はこいつを知っている......というより、以心伝心レベルで知っている。
「......」
「へーい、起きてるんでしょう? 朝だよー、ハロー」
「ゆっきー......?」
「そうですよ、みんな大好き人気イラストレーター清水幸利先生だよー」
そうか、私の間違いじゃ無いんだな。
つまりここは......そういう事でいいんだな?
「ふふ、ふはは、ははははは!」
「え、ちょなにそれ怖いんですけど......」
「はははははは!」
思わず笑いたくなる。
どうにも、私はネタの神様に愛されているらしい。
「目の前から消え去れぇ!」
「辛辣っ!」
とりあえず本を引っ張り出して投げつけた。
「......はー、南雲生きてたのか。そんでつーちゃんは南雲と?」
「南雲にベタ惚れな吸血鬼ロリとうさ耳巨乳っ子と私で」
「へーそうなんだ......南雲会ったら一発殴る」
「無理だと思うぞー」
かくかくしかじかと私の今までの経緯と状況を説明すると、目の前で呪詛を垂れ流し始めたコイツの名前は清水幸利。
現在進行形で消息不明の御仁であり、私たち勇者(笑)の1人であり、私の幼馴染というか腐れ縁でありこちら側の人間だ。
学校では随分とひた隠しにしていたが筋金入りのオタクでもある。
「で、お前はどうしてここほっつき歩いてたわけ? 」
「ここら辺は自然が豊かだからね、背景の資料にはモッテコイだったからちとデッサンしつつキャンプをと」
「外出するとき誰かに何か言ったか?」
「..................すみません忘れてました」
「だと思った」
そしてコイツはイラストレーター、文章と絵の違いはあれどすれ、制作畑の人間は基本的自分の欲求に従って動く。
つまるところ私と同じだ。面白いと思うものがあるからここに来た、そして目の前のバカはそれを先生方に伝え忘れた。
「そのうち南雲が見つけだすだろう。それはではここを動かない方がいい......へくちっ!」
「はいはい、火焚きますね」
毛布というには薄い布をかぶりながら、焚き火に向かって手を伸ばし暖かさを補給する。
溺れていたんだ、風邪だって引くもんさとゆっきーは言っていた。
「そうそう、これなんだと思う?」
ゆっきーが叩いているのは、昨夜私がもたれかかってグースカ寝ていた黒い大岩。見た通りだろうと言い返そうとして、ふとよく見れば岩では無いと気がついた。
つるりとした表面は結晶のようなものが規則的に並び、全体的にゴツゴツというよりかは筋肉質な生物みを帯びた凹凸。
「まさか、まさか!」
「そ、そのまさか」
手招きされるまま裏側へ回り込む。
そこにあったのは、大人一人が抱えきれないほどの大木のような尾と、人1人飲み込むには十分な大きさの頭。
「ファンタジーの代名詞、男の子の夢と希望と憧れの結晶。
悪役であり、頼れる味方であり、立ちはだかる壁であり、共に試練を乗り越える相棒。
誰もが夢想し、一目見ようと憧れた空想上の生物」
「ドラ、ゴン!」
まごう事なき、龍の姿がそこにあった。
「......一緒に酒盛りしたらメイド服着てご奉仕してくんねえかな」
「ないない、お前じゃ無理だ」
◇◇◇
龍の尻を蹴飛ばす、という
意味としては相手をそれはもうカンカンに怒らせてしまうという事の比喩で、転じて相手を怒らせたくないとか身を引く時に使う。
元の世界での逆鱗に触れるとほぼ同義と見ていいだろう。
「だからといって蹴っ飛ばす奴があるか!」
「いやあゴメンゴメン、つい」
「ついでウッカリ、で済まないぞ!」
「でもつーさんも同じ事したよね多分」
「否定できないのが辛い......」
一国の軍隊すら殲滅可能と言わしめる伝承上の怪物。
光を吸い込む漆黒の鱗の描くラインは滑らか、かつその凶暴さを反映するように鋭く尖り逆立っている。相反する二つの様相を完璧な比率で調和させている姿は、正しく自然の生んだ奇跡を形容できよう。
......ブチ切れて牙剥き出しで目ん玉見開いてブレス撒き散らしてなければ、だけど。
「それにしても......なぁ」
「私だって驚いたわよ」
「「白髪眼帯ガントレットはテンプレすぎじゃないの?」」
「黙って見てねえで働け作家2人組! 」
「無理無理、死ぬって」
「頑張れ南雲ー」
「クソがああああああ!」
「クルゥアアアアアン!」
吼える南雲、咆哮する黒龍、縮こまる畑山先生達に死んだ目をしてるウィルくん。
現状は中々にカオスであった。
「はっはっは、どうしてこうなったんだっけ」
「ゆっきーのせいでしょ」
隣で笑うゆっきーを見ながらこう思う。
きっとゆっきーが蹴っ飛ばしてなくとも、状況は変わらなかっただろう。
だって私も蹴っとばした自信があるから......言わないけども。