モンハン世界に生まれて、理想のキリン娘に会う為にハンターになった男   作:GT(EW版)

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おっとこんなところにオニマツタケが

 

 モンスターという存在がそこら中に闊歩しているこの世界は、当然ながら非常にシビアだ。

 旅の中では前回立ち寄った村が次に来た時は滅ぼされていた、という光景を何度か目にしたことがあり、恐るべき力を持ったハンターすらモンスターとの戦いで命を落とすことは日常茶飯事だった。

 その事実が若かりし頃の私に、この世界がゲームの世界ではないのだということをまざまざと見せつけてくれた。

 

 ――狩るか、狩られるか。

 

 ――狩らなければ、狩られる。

 

 そんなこの世界で生きていく方法は、実にシンプルだ。力の無いものは死に、力のある者が生き残る。その「力」の定義というものは決して武力だけのことを指すわけではないが、この世界で生きる以上は最低限目の前の危険から逃げ果せるだけの自衛力を手に入れるべきだと私は感じていた。

 理想のキリン娘一筋に生きてきた私だが、それぐらいの現実は理解していたつもりだ。

 

 故に私は、「キリ」に物心がついた頃から教育の一環としてハンター道具の使い方を教え込んできた。

 

 その「キリ」とは、あのキリンから託された赤ん坊の名前だ。キリンから取ってつけた名前は安直にも思えようが、その子に名を与えようと思った時、真っ先に思い浮かんだのがこの名前だったのである。

 

 まだキリが赤ん坊だった頃は、片腕で古龍と戦う以上の苦難が私に襲い掛かって来たものだ。

 おぼろげな前世を振り返ってみても、実子どころか結婚さえしたことのなかった私だ。子育てのノウハウなどある筈もなく、こればかりは自分の知恵だけではどうにもならないと観念して人里に向かい、旧知の仲である元双剣使いの女性に助けを乞うたこともあった。

 

 その元双剣使いというのは私がハンター時代に何度かパーティを組んでいただいたことのある、キリン装備の女性である。現役時代は勇猛で筋肉質なアマゾネスの印象が強かった彼女だが、ハンター稼業を引退してからは心なしか女性らしい雰囲気になったように見え、現役時代に纏っていたキリン装備も脱いでいた為に始めは別人だと思ったほどだ。

 当時ハンター稼業を引退した身でのんびりとスローライフを満喫していた彼女の家に、赤ん坊を背負いながら唐突に押しかけてきた私の姿は、彼女の目にはどう映っていたのであろうか。

 

 そんな元キリン装備の双剣使いに頭を下げて頼み込むと、彼女は意外にも私が苦心していた「キリ」の世話を快く手伝ってくれた。

 

 私はその時まで知らなかったが、彼女は元々子供好きな性格だったのであろう。私と同じ独り身の筈でありながら、その手際は驚くほどこなれていたものだ。

 私では出来なかったことを簡単に行ってくれる彼女の存在は現役時代にパーティを組んでいた頃のように頼もしく、キリもまたそんな彼女のことを「ははうえ!」と慕い、懐いていたものだ。

 

 それこそキリを育てる役目は私ではなく、彼女こそが相応しいのではないかと思えたほどだ。

 

 私自身の勉強も兼ねてキリがある程度育つまで彼女の村に定住していた私だが、彼女が自分で物事を判断出来る年齢になったことで今後のことを……キリに残酷な選択を突き付けることにした。

 

 ――私はこれからまた、探し物を求めて旅に出る。

 

 ――彼女の元に残るか私と来るかは、お前が決めなさい、と。

 

 我ながら、父親として失格な発言だったと思う。

 私とキリ、元双剣使いの三人で暮らしていた穏やかな時間は居心地が良く、忙しなく旅回っていた私が永住さえ考えかけたものだった。しかしそれでも私は、最後まで理想のキリン娘への渇望を抑えられなかったのだ。故に私は、キリがある程度成長した頃には再び村を発つと決めていた。

 そんな折にキリの処遇は、母親代わりをしてもらった彼女と相談して決めたものであった。

 それまで定住していた村は比較的治安も良く、彼女の傍にさえ居れば先行き見えない私の旅に着いてくるより安全な生活が出来た筈であろう。元双剣使いもまたこの頃には本格的にキリの母親になることを考えていたようであり、最終的な判断はキリ自身に委ねようという話になったのだ。

 そしてキリ自身は無愛想な私よりも優しく温かい彼女のことを慕っているだろうと思っていた私は、村に残ることを選ぶのだろうと思っていた。

 

 

 しかし、キリは選んだ――私の旅に着いていくことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ました時、私の目に映ったのは簡易的に張り巡らされたテントの天井だった。

 ランタンの淡い光が狭いテントの中を照らしており、夜の寒波が私の肌を突き刺している。

 ホットドリンクの効果が切れたのであろう。しかしいつの間に眠っていたのであろうか……やはり私も、年老いたということなのだろう。

 

「マスター、夕食ができました」

 

 寝床から起き上がり、頭を押さえていた私の耳に張りのある凛とした声が響いてくる。

 するとテントの入り口を開けながら、白髪の少女が私の様子を窺いに来た。

 

「キリ……」

 

 この焦点がその姿に合わさったことで、私の寝ぼけ気味な意識が覚めて彼女の姿を認識する。

 キリ――幻獣キリンから託され、ここまで育ててきた私の娘にして弟子だ。

 キリンの背中から赤ん坊を拾い上げてから、もう十五年になるか。彼女の歳も十五歳となり、美しく成長した少女の姿はもはや幼子ではなくなっていた。

 これまで長いようであっという間に過ぎたような、不思議な気持ちである。

 

「どうかされたのですか?」

 

 そんな感慨に浸りながら彼女の整った容貌を眺めていると、不思議そうな顔でキリが訊ねてきた。

 その言葉に特に隠すようなこともなかった私は、正直に答えた。

 

「昔の夢を見ていた。お前が、私の旅に着いて行くと言った日のことだ」

 

 元双剣使いと共に村に残るか、私と共に旅に出るか。その二択の中から彼女が後者を選んだことは、私にとって衝撃的な選択だった。

 なにせ理想のキリン娘を探すなどという、彼女にとっては何の益もない長旅に付き合わせることになったのだ。

 彼女にもまた私の旅に同行するに当たって明確な目的があったようだが、村に残るものとばかり思っていた私としてはなんとも予想外であった。

 

「マスター……」

「キリ、お前は後悔していないか?」

「もちろんです。後悔したことはありません」

 

 娘という初めての同行者が出来た旅の中で、私はせめてもの親心として彼女の要望には可能な限り応じてきたつもりだ。

 しかしそんな時、キリが私に出した要望はこれもまた予想外なものだった。

 

『私を、父上のようなハンターにしてください』

 

 子供は親の背中を見て育つと言うが、父親の真似事をした私も母親代わりをしてくれた元双剣使いの女性も、元はハンターとして活躍していた人間だ。そんな私達に育てられたからであろうか、キリもまた十歳の頃にはハンターとして生きていくことを心に決めていたのである。

 

 本当ならば、未来ある女児にハンターなどという危険な職業に就いてほしくなどない。まるで本物の父親のようにそう思った瞬間、私の頭脳に電流が走った。

 父親としてのキリへの愛情を自覚したその時、私はようやく、この世界で理想のキリン娘が見当たらない本当の理由を理解したのだ。

 女性ハンターは筋肉質な体型が多いから? 違う。そうではない。

 

 ――私にとって理想のキリン娘となりうる麗しい少女ほど、キリン装備を着けたハンターになることを親が認めないからだ。

 

 それは恥ずかしながら、私自身が親の立場になったことで初めて理解したことだった。

 ハンターとは元来、死と隣合わせの危険な職業だ。この世界では女性でも鍛えれば男性と変わらぬ力を身につけられるとは言え、新たな命を宿すうら若き女性が守られるべき存在であることは、前世の世界と何ら変わりない。

 大切で儚い娘ほど荒事から遠ざけたいと思うのは父親として至極当然のことで、それがまさに理想のキリン娘が見当たらない理由に当てはまった。

 若者の男女から人気のあるキリン装備であるが、親の人間が見た場合にはその見方が変わってしまうのだ。

 

 仮に自分の娘がキリン装備を着けて、野獣のような男達が集う集会所へ向かった時、頑固者の父親は何を感じるだろうか。

 

 その答えは、古の昔から一つであろう。

 

 

 ――けしからん! 実にけしからん!!

 

 

 ……そう、私はその真理にたどり着いてしまったのだ。

 成長するに従って、日に日に美しくなっていくキリの姿を誰よりも近くに見て、私は思った。

 

 これは間違いなく、今まで出会ったどんな女の子よりも美少女に育つであろうと。

 

 仮にも父親代わりをしてきた身であるからか、親馬鹿の如く身内贔屓が入っているやもしれぬ点は否定できない。しかしそれは、彼女の姿を客観的に分析した上での真実だった。

 私自身は老いて枯れ果てた身であり、拾い上げてから娘のように思ってきた彼女に対して劣情を抱くことはない。

 しかし、神秘性さえ感じられる透明感のある麗しい容姿に、まるでキリンホーンのウィッグを装着する為に生えているような癖のない艶やかな白髪には自然と目が引き寄せられてしまう。肉付きにしても程よく整っており、天才的なハンティングセンスを持ちながらハンターとしては華奢な体型であり、儚くも美しいどこか庇護欲を誘うような見た目だった。

 

 その上性格は礼儀正しく真面目であり――はっきり言って、私の好みに直撃していた。

 

 十五歳となり、予想通り絶世の美少女に成長した彼女を見て私は確信したものだ。この子がキリン装備を着ければその瞬間、私の長年の目標である理想のキリン娘が誕生すると。

 

 ――だが私は彼女に対し、言えなかった。

 

 キリン装備を着てほしいと。

 私が長年追い求めてきたキリン娘になってほしいと、最後まで言うことが出来なかったのだ。

 長年の目標を達成できる瞬間がすぐそこまで迫っているというのに、私は彼女――キリに対してキリン装備を着せたいと思えなかったのだ。

 

 ――だって、嫌ではないか……自分の娘があんな格好するの。

 

 今でこそその感情が父親としての情から来ているものであることを自覚している私だが、初めてその感情を抱いた時の私は大いに困惑したものだ。

 理想のキリン娘と会うことは、今世における私の悲願だった筈だ。それだけの為に五十年近い年月を要し、地位も名声も捨て去って旅をし続けてきた。

 

 しかし……私にとって理想のキリン娘になりえる存在は、他でもない自分の娘だったのだ。

 

 理想のキリン娘を実現させる為には、自分の娘にキリン装備を着てもらわなければならない。

 そんなあまりにも残酷な現実から襲われた葛藤に、当時の私は行き場の無い拳を地面にぶつけることしか出来なかった。

 

 ――馬鹿な……これでは一体……

 

 

『 私は 何のために生まれてきた……? 』

 

 

 希望と絶望は表裏一体なのだと、その時の私は本当の意味で思い知らされた。

 朝をむさぼり夜を吐き出し、行かんとする我が性に、茫然と立ちすくんだのである。

 

 キリはこの世界の誰よりも美少女だ。少なくとも、私はそう思っている。

 そんな彼女と出会ってしまった今、たとえこの先ほどほどに可愛らしいキリン娘を見つけることが出来たとしても、この心は決して満たされないだろう。

 故に、ボーダーラインには絶対にたどり着けない。それは私にとって、死刑宣告も同様だった。

 

 かつて偉そうにもキリに己の行く道を選ばせた私は、今度は私自身が己の人生を選択する番となったのだ。

 

 理想のキリン娘を選ぶか、最愛の娘を選ぶか。

 キリは優しい子だ。そしておそらく、私が思っている以上に私のことを慕ってくれている。私が頼めば露出度の高いキリン装備であろうと、もしかしたら着てくれるかもしれない。

 しかしそれでは彼女の心を蔑ろにして辱めることになり、父親として許されることではなかった。

 

 ……ああ、気づかない内に、私の中で彼女の存在はそこまで大きくなっていたのだな。

 

 世界の何よりも理想のキリン娘に傾いていた筈の私の天秤は、いつの間にか娘に対する愛おしさへと傾いていたのだ。

 

『こ、こんな格好をしてほしいのですか? ……幻滅しました、もう近寄らないでください』

 

 ……最悪の場合、彼女からそんなことを言われた日には、生きることを諦める自信がある。尤も、この身はもう長くはないが。

 しかしキリが普段日常の生活で纏っている装備はどれも露出度の低いものばかりで、動きやすさを重視する修行の時でさえレザー装備程度の露出度に抑えている。

 誰に似たのやら少々堅物的な性格に育った彼女は、人前で肌を晒す恰好を好まないのだ。この世界では珍しい性格だと言えるだろう。

 そんないわゆる「恥ずかしがり」な彼女に無理を言って、私のエゴでキリン装備を着させるわけにはいかない。

 彼女の目を曇らせることになるのなら、私は長年の目標さえ捨て去ることが出来た。

 

「ふっ……」

 

 彼女を拾い、彼女を育て、いつの間にか私の心はキリン娘以外のことで満たされ始めていたのだ。

 再開した旅の中でそれに気づいた私は、最近ではキリン娘の捜索をそっちのけにして彼女との修行に精を出している始末である。

 私が教えれば教えるほど吸収し、天井知らずに実力をつけていく彼女の姿を見て嬉しくなり、私の心は初めてキリン娘以外のことで本当の喜びを知ったのだ。

 

 気づいた頃には私の心の天秤は、完全に逆転していた。

 

 理想のキリン娘を選ぶか、最愛の娘を選ぶか。その答えはもはや、語る必要がなくなっていたのである。

 そうしてこの感情を自覚した瞬間から憑き物が剝がれたように、私の心からキリン娘への執着は薄れていった。

 

 

「そうか……」

 

 このような老いぼれと旅をしている現状に後悔していないと、娘から聞けた言葉に私は嬉しくなる。

 幻獣キリンの目撃例のあるこの樹海の中、私はキャンプファイヤーを囲みながら石の椅子に座り、彼女が作ってくれたオニマツタケご飯をいただきながら笑みを溢す。

 

 うむ……若年にして、料理の腕は既に私を超えているようだ。

 

 これで戦闘能力も本物だというのだから末恐ろしい。あの細腕で豪快に大剣を振り回すなどとは、実際に目の当たりにするまで夢にも思うまい。きっとこの子は、私を超える素晴らしいハンターになるであろう。

 そんな彼女は、手作り料理を美味しくいただいている私の姿に対して温かく頬を緩める。そんな娘に対して、私はおもむろに問い掛けた。

 それはこの世に思い残すことのなくなった老いぼれの、ほんの些細な気まぐれだった。

 

「キリよ。何か欲しい物はないか?」

「えっ」

 

 唐突にそう切り出した私の言葉に、キリが首を傾げる。

 キリは物心ついた頃から聡明で、わがままらしいわがままさえほとんど言わなかった子だ。こうして私から言わなければ、欲しいもの一つ強請ることもなかったものである。

 そんな彼女に対して、私は切り出した言葉の意図を教えてやった。

 

「卒業祝いだ」

 

 そう――この私が理想のキリン娘を追い求めるよりも大切だと思った彼女と、とうとう別れる時が来たのだ。

 この内心を悟られぬよう苦笑で誤魔化す私に、キリは怪訝な眼差しを向ける。

 

「卒業?」

「私との修行は、今日で終いだということだ。今のお前ならハンターとして立派に、どのギルドでもやっていける筈だ」

 

 十五歳という年齢は、いっぱしのハンターとしてデビューするには若いと思う者もいるだろう。

 しかし彼女に関しては、これでも随分引き延ばした方なのだ。私よりも遥かに才能のある彼女は、十三歳の頃には既に隻腕の私が教えられることはほぼなくなっていた。

 今の彼女に必要なのは、これから先ハンターとして相対することになるであろう理不尽の経験だけだ。実戦でしか体験することのできないそれは、私との修行ではいくら続けても得られないものだった。

 

「お前には才能がある。お前ならきっと、私を超える優秀なハンターになれるだろう」

「いえ、そんな……わ、私にはまだ貴方から教わることがあります」

 

 そう伝えれば、キリは戸惑いの隠せない顔色で言い返す。

 もっとこの師弟関係を続けていたいと……そんな娘の言葉は、私としても心から嬉しいものだった。

 しかしハンターとは元来孤独なものなのだ。パーティを組み、協力して目標を狩猟していくこともあるであろうが、最後の最後に信じられるのは自分の力だ。

 

 自分の命は自分で守らなくてはならない。他の誰かから庇護を受けることのできない過酷な場所こそが、彼女の目指す「モンスターハンター」なのだから。

 

 故に私は、一人前となった時点で彼女を突き放す必要があった。

 

「キリよ、お前には夢があるか?」

 

 ハンターとは、生半可な覚悟で目指して良い職業ではないのだ。

 初めてキリがハンターになりたいと言った時、私は強くそう説得したものだ。しかしキリは「私にはどうしても成し遂げたいことがあるのです!」と言い切ると、そこにたどり着くにはハンターにならなければならないのだと訴えてきた。

 

 ――その時の彼女の目は、愚直にもキリン娘を追い求めていた若い頃の私とそっくりだった。

 

 しかし彼女は私とは決定的に違い、聡明で要領の良い子である。私よりも器用に生きていけるであろうことは、共に暮らしていればわかることだ。

 

「私にはたった一つだけ、大きな夢があった。それは人によっては小さな夢だと思うであろうが……私にとってはこの生涯を捧げても良いと思えるほど、壮大な夢だった」

 

 五十年以上続いた人生の旅路を振り返りながら、私は娘であり、弟子でもあるキリに対して最後の指導を与える。

 指導内容はこの私、「モンハン世界に生まれて、理想のキリン娘に会う為にハンターになった男」の自分語りだ。

 この情けない一生を反面教師に、彼女にはこれからの人生で存分に羽ばたいてもらいたい。

 

「しかしその夢は、ついぞ叶わなかった。……いや、叶う必要など始めからなかったのやもしれんな」

 

 たった一つの目標さえ成し遂げられなかった私だが、大切なものを得ることは出来た。

 一番欲しいと思っていたものよりも尊い、キリという存在を手にすることが出来たのだ。

 

「キリ、お前はまだ無知だ。あの頃の私と同じで、この世界の素晴らしさをまだ何も知らない」

 

 おっとこんなところにオニマツタケが……と、椀の中に残っていた最後のオニマツタケご飯をよそり、口に運んでいく。

 彼女の作ってくれた最後の晩餐は、私が今まで食べてきたどの絶品料理よりも美味しかった。

 

 本当に……こんな男にはあまりにも、過ぎた死に様である。

 

「だがお前なら、どこにでも行くことができる。これまでよりも美しい世界に、きっと辿り着ける」

 

 ああ……意識が薄れていく。

 手元から椀が落ち、駆け寄ってくる少女の声だけが耳に入る。

 既に視力は無く、そこにいる白髪娘の姿は見えなかった。

 

「父上っ!」

 

 現役時代、この身体を酷使し続けてきたわりには長生き出来た方だろう。

 力無く崩れ、地に倒れようとした私の身体は、さっと割り込んできた柔らかな腕と胸に抱きとめられる。

 私の様子がおかしいと見るや、見事な反応速度だ。

 

「其方に会えて良かった。元気でな……」

「父上っ……!」

 

 父……か。修行を始めた頃からは甘えを無くすために、私のことを師匠として「マスター」などと呼ぶようになった彼女だが、この期に及んでそう呼んでくれた気遣いに私は感涙する。

 

 ほとんどキリン娘のことしか頭になかった私だが、それでも彼女にとって父親と呼べる存在になれたのだろうか……そう思って良いのだろうかと、私はどこに居るのかもわからない神に問い掛けた。

 

 ――ああ、結局この子から、欲しいものを聞けなかったな……

 

 私のアイテムボックスは好きに使って良いと書き置きしておいたが、この子の性格では全部使ってくれるか疑問だ。

 出来ることならば私が振れなくなった大剣――召雷剣「麒麟」も直々に授けたかったところだが、新米のハンターに与えるには馬鹿親が過ぎるか。しかし彼女なら、あの武器さえ問題無く使いこなせるだろう。

 

 ――しかし、何ともまあ。

 

 私の扱っていた大剣を振るうキリの勇姿を想像すると、どうしてもキリン装備を纏った神々しい姿で想像してしまうのが御し難いところだ。

 あの子のことをキリン娘よりも尊い存在だと思っている今もなお、理想のキリン娘になった彼女の姿を見てみたいという気持ちは、やはりこの心に残っていたようだ。

 

 

 

 ――うむ、やはりけしからんな!――

 

 

 

 自分の娘にさせていい恰好ではないが、それはそれとしてやはりキリン装備はいいものだ。

 そんなしょうもない意識を最後に、しょうもない人生を送ったしょうもない私の意識は深い闇へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 




 仕方ありませんがモンハンの装備は男女でビジュアルに差がありすぎると思うの。もちろんどっちもすき。

 もう少しだけ続きます。次回はちょっとした勘違い要素のある娘側の視点になるかと思います。次こそはキリン娘をしっかり出して終わりたい。
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