モンハン世界に生まれて、理想のキリン娘に会う為にハンターになった男 作:GT(EW版)
久しぶりにMHWやったら歴戦王キリンとかいう素晴らしそうなイベントを逃してしまった記念に新章投下。多分三話ぐらいで終わると思います。
うーまの装備、どれ好き? ぼくは~キリン!<ピキーン!
陸珊瑚の台地――ゾラ・マグダラオスの進行によって変動した地形から、我々調査団はまさに大自然の神秘とも言うべきこの地にたどり着いた。尤も既に台地では三期団が調査を進めていたのだが、相次ぐ地形変動により本拠との連絡が取れなくなっていたのは調査団にとっても誤算であろう。
しかし三期団員の多くは長寿である竜人族で構成されている為か、長年この地に閉じ込められたことへの悲壮感は見受けられなかった。加えて三期団の面々は特に好奇心の強い学者であるためか、調査に事欠かないこの台地は、彼らの探求心に火をつけるには十分な価値があったのであろう。
……さて、そんな三期団を束ねるリーダーから特殊任務を授かり、今の私はキリと共にこの「陸珊瑚の台地」へ赴いていた。
奇しくも私と同じ理由――死に場所を求めて新大陸へ渡って来た古龍ゾラ・マグダラオスを海に帰すという、全世界でも類を見ない大規模な任務を成し遂げた調査団は今、しばらく平穏が訪れるかと思いきや新大陸に起こった新たな事象を前に再び慌ただしくなっていた。
それは新大陸に生息する同種のモンスターよりも強力な「上位個体」や「亜種個体」、さらにその中でも特に強力な力を持つ「歴戦個体」の発見など、ゾラ・マグダラオスの謎を解明した後もまだ調査すべき事象は山積みだったのだ。
無論、調査団のハンター達も日々激務に追われる毎日であり、そんな中でもとりわけ目立った活躍をしているのが我が娘であるキリだった。育ての母からキリン装備を受け継いだキリは、私の託した召雷剣「麒麟」を操りこれまで多大な成果を上げている。
初めは装備の性能が良いだけだとルーキーであるあの子をやっかんで陰口を叩く者もいたが、縦横無尽に戦場を駆け巡り、同業者を助けることも多くあった彼女の存在は次第に彼らからも受け入れられ、今では調査団一の人気者として問題無く受け入れられていた。あの子の人間関係に関しては私が最も心配していたことだが、礼儀正しく人当たりの良いキリに対してそれは杞憂だったのやもしれない。
そして、五期団で優秀なハンターはキリだけではない。特にギルドから指名を受けた「推薦組」のハンター達も負けじと功績を上げており、中では受付嬢と組んで気品溢れる戦い方をするランス使いの青年「オール殿下」やら、同じ年ごろのキリをライバル視して日々邁進しているガロン装備の少女とその兄のコンビ、通称「ガロン兄妹」もまた若手を語るに外せない有望株だ。
特に兄上の方からは若かりし頃の私と比べどこか近しいものを感じる為、個人的に気に掛けている存在である。
しかし、流石は新大陸の調査という大命を果たしに来た若者達であろう。生きのいい人材は豊富に揃っており、そんな彼女らを見ていると私も現役時代を思い出す。その時だけは、失ったこの左腕を恨めしく思ったほどだ。
既にキリン装備を脱ぎ捨て、現役を退いて久しい私は今、ソードマスターの奴が何を吹き込んだのやら司令官からは「ハンターマスター」などと呼ばれ、この調査団で教導官の真似事を行っている。しかし先に言ったように五期団のハンター達はこちらの想定以上に優秀な人材であった為、私から彼らに指導することと言えばいかに初見のモンスターとの遭遇から生還するかという、私がキリン娘探しの間に培ってきた生存術ぐらいなものだった。
私とて、伊達に何十年もキリン娘を捜しに過酷な地域を巡っていたわけではない。出会ったモンスターの種類は数多く、危険なモンスターから見苦しく生還する術に関しては今でも自信があった。
そして生還してきたということは、それだけ自身の目で多くのモンスターの情報を集めてきたと言うことでもある。
そんな私の経験を頼ってきたのであろう。三期団のリーダーから受けた特殊任務とは、この「陸珊瑚の台地」で痕跡が発見されたある希少モンスターの調査だった。
……ここまで語れば既に多くの者は察しているであろうが、そのモンスターとは私が最も因縁を感じている幻獣――「キリン」である。
「この焼死体……落雷に撃たれたように、一瞬で命を断たれていますね」
白い太腿が眩しく、私の前でしゃがみ込んでいるキリの呟きである。
そんな彼女の視線にあるのは、本来この地の生態系の頂点に君臨している筈の飛竜「レイギエナ」の焼死体だった。
死体にはハンターがつけるような銃痕や斬り傷はなく、翼も頭も健在なままただただ黒く焼き焦がされている状態だった。その状態から考えればハンターではなくモンスターに殺されたものと考えるのが自然だが、レイギエナを焼き殺しうるモンスターとなればリオレウスやリオレイア亜種、最近新大陸で発見された「バゼルギウス」と言ったところへと限られてくる。しかしかの飛竜らしき痕跡は辺りを探してもレイギエナ自身の物しか見当たらず、これほどの力で仕留めたにしては妙に小奇麗だったのだ。
それこそキリの言うように、運悪く落雷に撃たれて絶命したと見えるほどに。
「キリンの仕業だな」
さて、白々しい推理はその辺りにして、私は陸珊瑚の主を葬った存在をそう断定する。
足元に落ちていた白い体毛を拾い上げながら、私は三期団リーダーの情報が確かなものであったことを確信した。
この白い毛は触った瞬間からバチバチと電気が迸っており、まだ真新しい。落ちていた場所から考えてキリのキリン装備から抜け落ちたものとは考えられず、であれば最も大きな可能性は「幻獣キリンがレイギエナと対峙し、一撃で仕留めた」というものだった。
一撃という根拠はキリンの攻撃方法である落雷攻撃の痕跡が、レイギエナの死体の範囲にしか及んでいないことからだ。……どうやらこの毛の持ち主は、かの幻獣の中でも際立って高い能力を持っているらしい。
「では、やはり三期団長の言った通り……」
「うむ、キリンは間違いなくここに居る。それも、まだそう遠くには居ないようだ」
キリの表情から、彼女の緊張した様子が読み取れる。
古龍の一種である幻獣キリンがこの地に居る。その事実を知って平常心を保てるハンターなど極めて稀だとは思うが、今の様子は私から見て何か引っ掛かるほどにキリらしくなかった。
キリは過去に私との旅の中でキリン以外の古龍――寧ろキリン以上の力を持つとされる古龍と対峙したことさえ何度かあったが、その時は十代の若さとは思えないほど落ち着き払っていたのが記憶に新しい。
そんな彼女が明らかに強張るほどに、キリンというモンスターが特別な存在であることを物語っていた。
「キリ、深追いは禁物だぞ。今回の任務は、かの幻獣の確認にある。必ずしも今戦わねばならないというわけではないのだ」
「はい……」
今回の任務は元々私宛てに出されたものであり、彼女がついていく必要は実を言うと無かった。
片腕で満足に戦えない私を護衛するにしても、その役目はソードマスターの奴にでも任せておけば十分だったのだ。
しかしキリが今の私に同行しているのは、単に私がこの任務を受けたことを知った彼女の方から志願したからであった。
その理由を私は、おそらくこの世界に居る誰よりも理解していた。
「戦いにくいか?」
「え?」
幻獣キリン――自らの出生に縁のあるキリは、かのモンスターのことを一目見ておきたかったのだろう。
実を言うとキリはまだ、キリンを狩ったことはない。
今彼女が着ているキリン装備も育ての母である元双剣使いから受け継いだものであり、ワンサイズ大きかったそれをある程度こうして彼女用にあった寸法に仕立て直すことが出来たのも新しくキリンを討伐したからではなく、キリン以外の素材を既存の装備とつなぎ合わせたからであった。これは私も最近知ったことであるが、この新大陸にも生息している「シャムオス」や「パオウルムー」から剥ぎ取れる素材には、キリン装備の構造と互換性があったのである。
元双剣使いのキリン装備とそれらの素材をつなぎ合わせて新生させた、「キリン装備α」。それが今、キリが着ている装備の詳細だった。
……まあキリが着ているキリン装備である以上、私に文句などある筈がない。
大切なのは何を着ているのかではなく、誰が着ているのか――今の私にとってはそのことの方がよほど大事なものであり、我ながら邪道に落ちたものだと自嘲する。
そんなキリン装備α一式を纏う娘に、私は言った。
「キリンは我々にとって特別なモンスターだからな……戦いにくいと思うその感情は、人として大切なものだ。これからも持っておくといい」
「父上……」
まだキリンを討伐したことがなく、それどころか過去にキリンと縁があることを知っている彼女は、かの幻獣に対して情が湧いている可能性がある。
かく言う私ですらそうなのだ。出来ることならばキリンを殺したくないと思うのはハンターとしては褒められたものではないが、人としては当たり前の思いだった。
しかし今回の任務はキリンの存在を確認することだ。暗に無理して戦う必要はないのだと選択肢を増やすようなことを言った私であったが、娘は私が思っている以上に強い子だった。
「……いえ、戦えます」
そう言い切ったキリはレイギエナの死体の前から立ち上がると、決意に染まった目で私を見る。
妖精のように儚く美しい瞳は、しかし一ハンターとして遜色のない、立派な力強さを映していた。
「これを葬った力が父上に害をなすのなら、私は一瞬たりとも躊躇いません」
たとえ自分にとって特別なモンスターであろうと、こちらに牙を剥くのなら迷いはしない。
自身の弱さを見せたがらない気丈な姿はルーキーのハンターとしては可愛げのないものであったが、我が娘としてはどこか愛おしいものだった。
「キリ……」
「貴方を守らせてください、父上。私はその為に同行しているのですから」
……迷わないことは結構だが、判断基準が私なのはいかがなものか。
しかしそれを厳しく指摘することが出来ない私は、娘よりも弱い人間だった。
「……まったく、困った子だ」
「父上の子ですから」
生意気になったものだ、こやつめ。そう言って軽く背中を叩いてやると、キリは柔らかな微笑みを浮かべる。
毎度毎度、この子の笑う姿はとてつもない破壊力だ。その笑顔は今でこそ向ける対象が少ないが、後々他のハンター達にも見せることがあれば一体何人の男を落とすことになるのやら……これはおそらく、親馬鹿的な誇張ではないだろう。
当たり前ではあるが、今でも彼女の男人気は凄まじいものがある。念の為もしもの時の護身用に対人スキルも教え込んではいるが、父親としては気が気でなかった。
「む? 導蟲が……」
そのように娘の心配をしながら痕跡を探していると、我々が携帯していたランタン型の虫かごから飛び出した導蟲が青く発光し、踊りながら何処かへと飛んでいった。
導蟲――普段は緑色の光を帯びた羽虫であり、特定の物質や匂いに反応して群がる性質を有する。
調査団ではこの導蟲の性質を利用してフィールドの探索やモンスターの追跡、今行っているような痕跡の捜索に活用している。
ソードマスター以外の調査団員は誰もが携帯している、もはや「探索の友」と言うべき虫だ。この導蟲がもっと早くに広まっていれば、かつて行っていた私の旅も違うものになっていたのやもしれない。尤も、それではキリと会えなかった可能性が高い為、私からすれば広まらなくて良かったと言えるが。
「他の痕跡を見つけたようですね」
虫かごから飛び出していった導蟲は青い光の列を作り、その名の通り「導」となって我々に道を示した。
普段は緑色の光を帯びた導蟲がこうして青く発光するのは、並外れた強い力を感じた時だけだ。そんな蟲達の群がった先には見たことの無い洞窟の入り口があり、キリと目配せした私はその中へと入っていった。
導蟲の光を辿りながら、洞窟内を進んでいく私とキリ。
しばらく歩いたところでやがて何かに突き当たり、蟲達は再び踊り始めて暗闇を照らし出した。
「……! これは……」
導蟲が突き当たった場所に広がっていたのは、白い岩肌に覆われた洞窟の壁だった。
その壁には、石で彫られたような壁画が描かれている。
――大きな一本角に、四足の長い足。絵で見ても雄々しいたてがみは、我々が今回の任務で追っている幻獣の姿だった。
「これは、キリンの絵ですか?」
「うむ、間違いあるまい」
これはなんとも……中々見事な壁画である。モンスターの資料などでもそうは目に掛かれないほどに、かの幻獣の特徴をよく捉えた壁画だった。
顎ひげを擦りながら私がそう分析していると、今度は緑色に光った導蟲が渦を巻いて岩陰へと向かっていく。
「みゃあ」
忙しない導蟲が示した場所に居たのは、一匹の猫だった。
岩陰から顔を出しながらこちらの様子を窺っている、テトルーの姿である。
「そうか、これはテトルーが描いた絵だったのか」
「テトルーですか? しかし、何故キリンの絵を」
テトルーとは、新大陸に住まう猫に似た獣人族だ。有名な獣人族であるアイルーとは近しい存在と考えられており、体の大きさや身体能力、言語による意思疎通を行う知能の高さもアイルーに似ている。
おそらくはこの新大陸の先住民族なのであろう。彼らは住む地域によって毛色がやや異なっており、それぞれが独自の部族を成して生活している。
そんな彼らの生活圏には縄張りを示す証拠として猫の手などの落書きがされている為、それらを辿っていくことで彼らと遭遇することが出来るのだと言う。
しかし、キリの言う通り不可解なのはここに描かれているキリンの壁画だ。ハンターはこれまでもいくつかテトルー一族と交流することはあったが、猫とはどう考えても無関係に思える幻獣の絵が縄張りのマークになっている一族などという報告は、調査団にも一切上がっていなかった。
ならばここに居るテトルーは、新発見の一族なのやもしれない。とにもかくにも、詳しい話を聞いてみる必要があった。
「ならば、本人に聞いてみればいい。キリ、猫語はわかるな?」
「は、はい」
「ならば頼む。お前の方が警戒されないであろう」
「わ、わかりました……」
テトルーはアイルーと同じく、こちらから敵意を示さない限り意思疎通が可能だと言われている。
しかし対話役には猫から見ても私より優しそうに見えるキリの方が適任だろうと判断し、ここは彼女に向かわせてみることにした。
故に、他意はないのだ。他意は。
私から命を受けたキリは恐る恐る岩陰へと向かっていくと、テトルーの前でしゃがみ込んで目線を合わせる。
そんな彼女は何故か周囲の視線を気にするように辺りを見回した後、テトルーに向かって口を開いた。
「にゃ、にゃあ」
……猫語である。
「みゃあ?」
「にゃあにゃ、にゃあ」
「みゃみゃあ!」
猫特有の鳴き声を上げるテトルーに対して、目を合わせながら可愛らしい声で応じるキリ。
それは一見微笑ましく見える光景だが、その実至って真剣なやり取りであった。
真面目な話、人語の通じないテトルーとの意思疎通は人の言葉では難しいものがある。そこで活用したのが、今キリが話している「猫語」だ。ソードマスターからの情報によれば、どうやらテトルーの言語は野生アイルーのそれに近いらしく、人間の言葉は通じずともアイルーの猫語ならば問題なく通じるとの話だ。
本当ならテトルーとコミュニケーションを行うにはオトモアイルーを連れて通訳してもらうのが手っ取り早いのであろうが、生憎キリも私もオトモアイルーを雇っていない身だ。しかし昔取った杵柄から、私はある程度の猫語ならばそれなりに習得していた。
あれは十年ぐらい前のことだったろうか? いつだったか野生のアイルーと会話をしている私を見た幼いキリに、「わたしもネコさんたちとおはなししたいです!」と言われ、彼女にも猫語を教えてやることにしたのだ。
その結果、人並み外れて覚えの良かったキリは瞬く間に猫語を習得し、十歳の頃には私よりも流暢に話せるようになっていたものだ。
尤もこの「猫語」はただでさえ習得が難しい上に人語を話せるオトモアイルーを雇えば利点が薄い為、話せる者は非常に少ないのだが、ギルド脱退後の私はあえてそれを率先して学んでいた。
野生猫特有の情報網はキリン娘捜索に役立つ、貴重な情報源だったのだ。
……しかし、それはそれとして頬を赤く染めながら猫語を話すキリの姿は中々に可愛らしいものである。
いや、それは不謹慎か。私の記憶では幼い頃のキリは子猫アイルー達を相手に喜んで猫語を話していたものだが、流石に十七歳になった今の彼女には恥ずかしいのだろう。悪いことをしてしまったな。
だが恥を忍んで流暢な猫語を使い、テトルーと話してくれたキリの会話は、今回必要な情報を有意義に引き出してくれた。
『この絵は、あなた方が描いたのですか?』
『な、なんだお前ら!? 拷問しようったって、吾輩は屈しないぞ!』
『いや、拷問などそんな……誤解させて申し訳ありません。こちらに敵意はありません。私は聞きたいだけなのです。こちらにある見事な壁画を描かれたのは、一体どのような素晴らしいお猫様なのかと』
『にゃに!? ふっ、ふ、ふーん……お主、ニンゲンの癖に中々見所があるじゃにゃいか! その絵は吾輩が描いたものだにゃ!』
……キリの奴め、下手に出てテトルーを乗せるとはやるではないか。
あのテトルーもテトルーで随分と単純そうだが、この絵を彼が描いたことがわかったのは収穫だった。このキリンの絵を描いたテトルーを捜す手間が省けたのだから、話は早い。
『その絵は吾輩が描いた最高傑作よ! 見物料として生肉を所望するにゃ!』
「生肉、ですか……父上は持っていますか」
「いや、持っていないな。しかし」
これまでに発見したキリンの痕跡とキリンの壁画。その二つは、決して無関係なものではあるまい。
そう判断した私はあの壁画を描いたというこのテトルーに対して、これ見よがしに手札を切ることにした。
「おっと、こんなところにオニマツタケが」
『にゃ!? にゃんだそれは……!? 臭う! 吾輩の美食センサーがビンビン来とるにゃ! 生肉はいい! それを吾輩に寄越すのにゃー!』
この猫、面白い奴だな。私もキリも、ついでに言えば今のソードマスターの奴もあまり口数の多い方ではないから、このように騒がしい者と話すのも新鮮な気分だ。
言われた通り運良く持ち合わせていた携帯食糧用の干しオニマツタケを差し出してあげると、テトルーは初めは恐る恐る手を出しながら、一口噛んだ後にはガツガツとむしゃぶり、美味しそうに平らげてしまった。
『にゃんだこのキノコは!? こんな美味いもん、食べたことないにゃ!』
『オニマツタケは新大陸ではまだ発見されていないからな。私はまだ今の食べ物を持っているのだが、もっと欲しければ絵のことを詳しく教えてくれぬか?』
『ああ、いいぞ! 教えてやるから今のをもっと寄越せー!』
古来から、獣人族を手懐けるには好物を与えるのが有効と決まっている。
「父上、随分用意がいいんですね……」と干しオニマツタケを大量に持っていた私に対し驚きの目を向けるキリに、私は父親面をしながら「そなたもまだまだ甘いな」と得意げに返す。
そうとも、戦うことだけがハンターの本業ではない。こういった原生生物との調和もまたハンターの役目なのだと……私はこれまでの人生で、学んできたつもりだった。
相当空腹だったのであろう。テトルーは私の干しオニマツタケを全て平らげてしまった後、地面に座っているキリの膝の上でゴロゴロと背中を擦りつけながら約束の話をしてくれた。
幾分穏やかに打ち解けた空気の中で彼が言い放ったのは、想像以上に興味深い話だった。
『吾輩達はこの辺りに住んでいるネコなんにゃが、最近あの黒い奴が空を飛び回るようになってから、奴に何度も住処を壊されて引っ越すようになってにゃ……』
『黒い奴……最近と言うとバゼルギウスか、もしくはネルギガンテでしょうか』
『バゼ……? 寝るギガンテ? なんにゃその名前は』
『爆弾のような鱗を空から落としてくるのがバゼルギウスで、頭にこう、大きなツノが生えているのがネルギガンテです。私達人間は黒い奴のことをそう呼んでいます』
『ばぜるぎうす……! ばぜるぎうすにゃ! あいつの名前はそう呼ぶのかにゃ!』
最近の事象は余所者である調査団でさえ対応が慌ただしくなっているのだから、現地の民が相当の目に遭っているのは当然の話であろう。
この陸珊瑚の台地に住んでいるテトルー達もまた、度々強力なモンスターによる被害を受けているようだった。
美味しい食事にありつけた満足感に浸されたことで、キリの膝枕に横たわりながらテトルーは忌々しげに語った。
『そうにゃ! 空からウンコみたいな爆弾をボトボトボトボト……あいつのせいで何度も住処を壊され、殺された仲間もいたにゃ!』
「獣人族の間でも、アレには手を焼いているのですね……」
「アレはイビルジョーと同じ、生態系の破壊者であるからな。アレもまた、自然の一部とも言えるが」
近頃から発見されるようになった爆鱗竜バゼルギウスへの対応は、今調査団の中でも問題視されている。
縄張りという確固たるものを持たないかの飛竜は新大陸のどこにでも出没し、調査環境をこれでもかというほどに荒らし回っていくのだから始末に負えない。加えて戦闘能力が高くリオレウスやレイギエナと言った生態系の主でも歯が立たないところもまた、かのイビルジョーと共通していた。
直近でキリが受けたクエストも、大半はバゼルギウスの討伐が絡んでいたことを思い出す。害竜扱いと言えば少し気の毒だが、強力な上にそれなりに個体数も多いのがアレの厄介な生態だった。
『そんな時、吾輩達の前に神様が現れたのにゃ!』
キリに腹を撫でられ、「みゃー」と気持ち良さそうに鳴きながら、テトルーは語る。
幾度となくバゼルギウスの襲来に苦しめられてきた、自分達の一族を救ってくれた存在を。
それこそが今回我々が調査を引き受けた、かの幻獣の存在だった。
『それがイカズチ様だにゃ! 吾輩はあの方に敬意を払って、あそこの壁にイカズチ様の絵を描いたのにゃ!』
キリの膝の上から起き上がったテトルーが、自らの描いた壁画を見上げながら高らかに言う。
それは崇拝の混じった、守り神に対する言葉だった。
『イカズチ様は強くて優しい、雷を操る神様だにゃ。そのばぜるぎうすとかいう奴にも天罰を下し、今日だって仲間のネコを助ける為にでっかい奴をやっつけてくれたのにゃ!』
『でっかい奴……あのレイギエナですか』
『いつかイカズチ様のような強い狩人になる……それが吾輩の夢なのにゃ!』
『狩人? 画家ではなくて?』
『絵はただの趣味にゃ』
『それで、そのイカズチ様は……今どこに?』
『吾輩達の新しい住処にいるにゃ!』
『では……』
『ああ、さすがに案内は無理にゃ。お前らからは、特にお前からはイカズチ様に似た良い匂いがするから嫌いじゃにゃいが、他の仲間は今とてもピリピリしているしにゃ。吾輩からは難しいにゃー』
『……正しい判断です。仲間を守る為なら、当然でしょう』
彼の語るイカズチ様……というのは間違いなくキリンのことであろう。
そのキリンは今テトルーの住処に居るという話だが、案内はしてもらえずともそれを知った時点で驚嘆すべき発見だった。
テトルーに味方するキリン――そんなモンスターはかつて今まで、私としても聞いたことがなかった。
「……どう思いますか、父上?」
キリもまた、今しがたテトルーの語った衝撃的な話にどう対応すべきか困っているのだろう。
「今の話が本当なら、キリンは彼らテトルーを守ろうとしている。何故そんなことをするのかは疑問であるが、何せ相手はキリンだからな。人の理屈では動かぬこともある」
テトルーの話からするに、キリンがテトルー達のことを守ったのは偶然とは思えない。
モンスターが同種でも亜種でもない他のモンスターを助けることなどそうあることではなく、私もそれを行ったのがキリンでなければ信じなかったやもしれない。
だが、相手が他ならぬキリンであるならば、そういうことがあっても何ら不思議ではないと思っていた。
「そなたを私に託した、あのキリンのようにな」
「…………」
あのキリンが私に人間の赤ん坊を託したように、理屈では考え難いことは十分に起こりうる。
しかし私から一つ言えるのは、この調査はまだまだ続ける必要があるということだった。
「とりあえず調査団には、「古龍の怒りを買う危険がある故、陸珊瑚のテトルーには手を出すな」と伝えるべきであろうな。しかし出来るならば直接会ってみたいものだな、そのイカズチ様という者に」
「……そうですね」
キリンがテトルーの住処で共存しているのだとすれば、かの幻獣とテトルーが意思疎通出来ている可能性が高い。
ならば人間も、テトルーを通して幻獣との意思疎通が出来るやもしれない。
もしそれが可能だとするならば、幻獣に調査団に危害を与えないよう説得することが出来るかもしれないのだ。それは私にとっても、喜ぶべきことだった。
――出来るなら私も、キリンを敵に回したくはない。そう思うようになったのは、やはりキリと出会ったからであろう。
……私がそんなことを考えていた、その時だった。
かの幻獣と対話をする機会は直後、唐突に訪れた。
「!?」
電気が奔り、導蟲が踊りを止めた。虫達は激しく点滅を繰り返しながら私とキリの虫かごへと戻っていき、ガタガタと震え始めた。
本能的に「死」を感じたのであろう。特定のモンスターに群がっていく筈の導蟲は、その相手にだけは習性に抗い、生存する可能性が最も高い方法を選んだ。
……虫までもこのような反応をする相手は、黒龍ぐらいなものだと思ったのだがな。
やはりそなたは、かの黒龍に匹敵する個体だったようだ。
『わわっ、イカズチ様っ! 本日はお日柄も良く……』
青白い光が弾けて広がり、一瞬で洞窟内全てを照らしていく。
訪れた場の変化に警戒したキリは目にも留まらぬ速さで私を庇うように前に出ると、背中に担いだ召雷剣「キリン」の柄に手を添えながら相手の姿を睨んだ。
――岩の上からこちらを見下ろしている、白き幻獣の姿を。
ああ……あのキリンは、見間違える筈が無い。
同じキリンの中でも比べ物にならない力を誇り、圧倒的な威圧感を放っているあの姿は。
私とキリを見下ろしながらどこか懐かしそうな目を浮かべている姿には、間違いなく十七年前の面影が漂っていた。
「……ここに居たのか。十七年ぶりだな、我が道導よ」
「えっ?」
出会いは一瞬だったが、導蟲よりも長く私に進むべき道を示してくれた存在――幻獣キリン。
流石にキリは気づいていないようだが、その姿から感じる歴戦の個体どころではない力は、私が忘れる筈がなかった。
彼のような個体に名を付けるならさしずめ「歴戦王」と言ったところか。いや……テトルーの言うように、「守護神イカズチ様」と呼ぶのが相応しいのかもしれない。
――そんな神様を前に、私は再会の挨拶を交わした。
~三人ほど多分本編には出てこないと思う簡単な人物紹介~
キリン公爵・・・キリン娘捜索引退につき装備はレザー一式 頭部装備は無し
キリ・・・キリンα あんまり大きくない 天使
オール殿下・・・原作主人公。クリスタルパレスに帰るぞ
ガロン兄さん・・・ガロンα ハンターサークル「ガロン装備の横から手を突っ込み隊」隊長
ガロン妹・・・ガロンβ キリをライバル視 はいてない