青い人魚と軍艦娘   作:下坂登

10 / 34
※読者の皆様にお知らせ
第4特殊部隊隊長神谷とスキッパー部隊長赤羽が混同し紛らわしいため、神谷の肩書を以下の通り変更いたします。

神谷篤 第4特殊部隊隊長→第4特殊部隊司令

既に投稿されている話に関しても順次訂正する予定です。ご迷惑をおかけし申し訳ありません。



明乃「……やっと投稿されたね……」
ましろ「7ヵ月以上も何をしてたんですか……」
作者「……仕事に行って帰って来るだけの生活だよ。疲れてモチベーション上がらんかった」
幸子「そーですかー、私の情報によると『峠の伝説』や『レーシングバトル』等車のゲームにハマっていたそうですが」
明乃「本当なの?」
作者「……すんません、楽しかったです、はい」
幸子「まあ、それは置いときましょう。それより……」
ましろ「ああ!はいふりのゲームアプリ!」
明乃「プレイ動画も公開されてたね!私すっごく楽しみだよ!作者さんももちろんやるよね!」
作者「……」メソラシ
明乃「……どうしたの?」
幸子「大変です!作者さんのスマホに『蒼青のミラージュ』という艦船擬人化ゲームが!しかもかなりやりこんでます!」
明乃・陽炎「……え……?」ゴゴゴ
明乃「……まさか、裏切ったの……?」ハイライトオフ
作者「え?あ、いや……」
陽炎「私達のゲームもやらずに、小説も進ませずに、他の艦の女の子達と……」ハイライトオフ
作者「その……えっと……楽しいからやった!何が悪いんだー!」ビュン
明乃「あっ!逃げた!」
陽炎「火焔直撃砲発射よーい!」
芽衣「了解!発射ー!」

追記:2020/10/9、誤字訂正を行いました。アドミラル1907様、誤字報告ありがとうございました。

それでは本編へどうぞ


10話 作戦会議

『陽炎と不知火を北風に寄越してくれ』

 

神谷の事務口調な呼び出しが掛かり、陽炎と不知火は北風へと向かっていた。

 

陽炎は自力航行するとして、不知火は誰が送るか?という議論が晴風の中で交わされ、真っ先に明乃が名乗り出たが、ましろに「緊急事態でもないのに艦を離れるな」と即却下された。

結局、陽炎達と一緒にいた媛萌がスキッパーで不知火を送り届けることになった。

 

 

 

 

 

「不知火ー、乗り心地どおー?」

「ほとんど騒音はありませんし、小型艇のように不安定では無く揺れも少ないです。実に快適です」

「いいなー、私も乗りたかったわ」

 

陽炎はスキッパーのすぐ横を並走しながら羨ましげに不知火を見る、背もたれにもたれかかりリラックスしている。ちくしょう羨ましい、こっちは自分で航行してるから疲れるのに。

そこへ媛萌が提案する。

 

「よかったら帰り乗せてあげよっか?まず不知火ちゃんを送って、その後引き返して陽炎ちゃんを送る。どう?」

「ナイスアイデア!」

 

陽炎は嬉しくてパチンと指を鳴らした。

 

その時、前方から北風の武装スキッパーが現れ、凄いスピードですれ違っていった。

赤羽から貰ったデータのものとは違い、正面に分厚い鋼鉄製のカウルを付けその他の場所にも装甲が後付されていた。

 

「あれ凄!メイちゃんにみせたら喜ぶだろうなー」

 

武装スキッパーを見てそう言った媛萌、その言葉に不知火は首を傾げる。

 

「メイちゃん……?」

晴風(うち)の水雷長だよ。この前艦長と、水雷委員のりっちゃんかよちゃんと一緒にスキッパーの練習しに行ったんだって。それでどうだった?ってりっちゃんに聞いたら、『スキッパーを武装したい!』って言ってたんだってさ」

「トリガーハッピーですか……」

 

不知火は頭を抱える。多分砲雷科に居ちゃいけない人種だ、間違い無い。「いいじゃないか島の1つや2つ!」とか言ってロマン砲の引き金を引きそうだ。

 

 

 

 

 

「ねえ、あのスキッパー戻ってきたわよ」

 

陽炎に言われて振り返ると、先程すれ違った武装スキッパーがUターンして追いかけてきた。

20ノット程でトロトロ航行する陽炎達に対し、100ノットを超える速度で距離を詰めてきた。小さな波に追従できず船体が水切りのように跳ねているが全く気にしていないようだ。そこから一気に急制動、陽炎達の真横にピタリと並んだ。

運転席の女がこちらに手を振ると、なんと不知火は親指を立ててクルっと下に向けて応えた。

 

「不知火ちゃん!?何してんの!?」

「嫌な人だったもので」

 

それを受けた運転手__赤羽はお返しとばかりに中指を立て、スキッパーを加速させぶっちぎっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3人が北風のダビットに吊り上げられ格納庫に入ると、そこは出撃準備中らしく隊員や整備士が忙しく動き回り溶接の火花や機械の音が飛び交っていた。

若い男性隊員が陽炎に声をかけた。

 

「お嬢ちゃん面白えもん背負ってんな。ちょっと触ってみてもいいか?」

「何?艤装(これ)の餌食になりたいの?」

 

触ろうとする手に向けて主砲を向ける。隊員はあっさりと両手を上げて降参のポーズを取った。

 

「おいおい物騒なこと言うなよ」

「私達司令さんに呼ばれてるの、何処に行けばいいかわかる?」

「圭が案内するから少し待ってろ。…………おっ、圭!遅えぞお前」

「しょうがねーでしょ、装備変えてテスト航行し始めたばっかだったんだから」

 

格納庫の反対側から赤羽が現れた。手に何故かスキッパーの追加装甲を抱えている。

 

「なんだ、それ?」

「ムーンサルトターンやったら取れた」

「なんで重武装スキッパーでサーカスやってんだよ」

「敵の頭上を通る為に必要なんだよ」

「嘘つけ」

 

赤羽は装甲を棚の上にがさつに置いてから、陽炎達と向き合った。

 

「待たせてごめん。うちの司令んとこに案内するわ。ついてきて」

 

気怠そうな態度に不知火はムッとした。人を罵倒したことを覚えてないのか?と。

一方陽炎は食堂で会った時との印象の違いにポカンとしていた。あの時は怖い人という印象だったのに、今はただのやる気の無い人っぽい感じがする。

 

3人は赤羽の後ろについて歩き始めたが、すぐに赤羽が足を止めて振り返った。

 

「あ、媛萌は帰って。子供には聞かれたくない話だから」

「あ……はい。でも」

 

帰りに送ってく約束が、と言う前に赤羽がスパッと言った。

 

「帰りなら心配要らないよ。うちらが送ってくから」

 

心読まれてる!?と媛萌が驚いている間に、赤羽は再び歩き出していた。陽炎がそれを追いかけながら、媛萌に手を振る。

 

「ヒメ、また後でね!」

「うん、また後で」

 

媛萌は陽炎達が見えなくなるまで手を振って、スキッパーに乗り込んだ。

 

しかし、なんだかモヤっとする気持ちが残った。嫌な予感がする。

 

「陽炎ちゃん不知火ちゃん……大丈夫かな……?」

 

やっぱりついて行こうかと思ったが、既にスキッパーがダビットに吊られて動き出していたので、もう戻れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あん時は悪かったね」

 

2人の前を歩く赤羽が謝った、「あん時」とは医務室での会話のことだろう。しかし不知火は戦艦クラスの眼光で赤羽を睨みつけた。

 

「謝られても許しません」

「ハハ、ずいぶん恨まれちまったみたい」

 

赤羽は刺すような眼光を受けても、平気そうにヘラヘラ笑っていた。

あの眼光に戦艦娘も気圧されることがあるのに、何という胆力だ。

 

「でも本気で悪かったと思ってるよ。あんた等が現状を知らないことにイラッとしちった」

「どういうことですか?」

「簡単に言うと、あたし等は絶対に撤退できないってことさ。日本の人口の大半はフロート艦(浮島)の上、あんな化物が来たら全部水底だから」

 

それを聞いて2人はハッとした。あの日本地図の四角い土地はすべて浮島だったのか、それならば戦うしかないという判断も理解できる。

陽炎達の世界では、深海棲艦が来襲して来たら内陸または地下への避難でやり過ごすことになっている、実際そうして人的被害を抑えてきた。

だが居住地をフロート艦に依存したこの世界の日本ではそれができない。

蜘蛛の巣のように張り巡らされた鉄道や高速道路は無くとても全人口が避難する余裕はない、そして地下層に逃げてもフロート艦丸ごと沈められて溺れ死ぬだけだ。

 

 

 

 

 

__深海棲艦の来襲、それは日本の終わりだ__

 

 

 

 

 

 

「解った?」

「……ええ、解りました」

「OK。さ、ついたよ」

 

赤羽が重い扉を引き開く。

いくつもの眩しいモニターが情報を映し出す会議室、陽炎と不知火はその中へ足を踏み入れた。

既に神谷、真冬、平賀、古庄、そしてもう一人、艦長帽を冠った女性が2人を待っていた。皆陽炎の艤装を、ポカンと目を丸くして見ていた。

なんだあれは、どうなっているんだ?と__。

 

「……ほうほう……」

「どうしたんですか真冬姐さん?」

「いい尻してるじゃねえか」

「そこですか!?」

 

……真冬だけは違ったようだが。

それを聞いた陽炎は、慌ててバッと連装砲を持った手でお尻を隠す。

 

「な、何言ってんのよ!」

「医務室で会った時にゃ判らなかったが、余分な肉の落ちてるしっかりと引き締められたいい尻だ。間違いねえ」

 

流石に平賀もドン引きした。

 

「何真剣な顔でセクハラ発言してるんですか……」

「真冬艦長、後で教官室に来なさい。たっぷりお説教してあげるわ」

 

古庄がまるで生徒を叱る時のように告げると、真冬は「げっ」と嫌な声を上げて、黙り込んだ。古庄の説教が長くて辛いのは経験済らしい。

 

「お喋りは済んだか?」

 

神谷が場を仕切り直した。

 

「改めて、北風にようこそ。陽炎、不知火。俺は第4特殊部隊司令、神谷篤だ。そして」

 

艦長帽を冠った女性が言葉を引き継いで、自己紹介を始めた。茶髪を二つ結びにした、幼さの残る女性だった。中学生じゃないかと思うくらいだ。

 

「第4特殊部隊副司令兼巡洋艦北風艦長、桜井遥です〜。よろしくねぇ」

 

ふわっとした挨拶の後、赤羽が陽炎と不知火に耳打ちした。

 

「ちなみに桜井ってのは旧姓で、今は神谷遥なんだ。……凄えロリコンだと思わない?」

 

陽炎達が思わず吹き出しそうになったその時、神谷が殺意を込めてぶん投げた警棒が赤羽の顔面に直撃し、後ろにもんどり打って倒れた。

 

「よし、これから対策会議を始める」

 

神谷は何事も無かったように、タブレットを叩いて情報をモニターに映し出した。この調子がいつも通りなのか、桜井も何も口を挟まず、ただニコニコとした笑みを続けているだけだった。

 

「奴等が初めて確認されたのは一昨日、UT01部隊が6体と遭遇、死者こそ出なかったものの部隊は壊滅状態に陥った。その後救援に駆けつけた晴風乗員が、新たに現れた7体目と御蔵艦内で遭遇。最後は晴風の砲撃によって御蔵もろとも海の底だ。

そして昨日、撤退中の横須賀学校艦隊が数百体の大群に強襲され大打撃を受けた。今度も幸い死者は0。しかし」

 

1番大きなモニターに日本周辺の海図が表示され、近海の太平洋上に、たくさんの赤いバツ印が浮かんだ。それが何か、誰も聞かなくてもわかる。ある者は恐れ、ある者は憤り、ある者は淡々とそれを受け入れた。

 

「その直後から奴等が大量発生した。日本近海でヨットから漁船、旅客船、貨物船、巡視艇、航洋艦関係なく襲撃され、52隻が撃沈、死者は具体的には分からんが、4桁は確実だろう」

「乗ってた奴のほとんどはもう死んでるだろうからね」

 

と、赤羽が軽い調子で付け加えた。神谷は一瞬ムッとした様子を見せたが、咎めることも無く話を続けた。

 

「海上安全整備局は直ちに、民間船舶の航行を禁止すると共に、緊急事態を宣言した。現在ほぼ全ての戦力を、奴等の行動海域に送り込み排除しようと考えている。だが」

 

モニターがある一点にズームインする、そこは艦隊の現在地だった。

 

「我々は最も陸地に近い場所にいるにも関わらず、増援が見込めない。もし突破されれば、多くの犠牲者を出すのは確実だ。したがって、現状の戦力だけで、奴等を殲滅しなければならないのだ」

「何故増援は来ないのですか?」

 

不知火が尋ねると、モニターに艦艇の現在地が加えて映し出された。

艦隊は深海棲艦の群れの北に位置している。だが、他の艦隊は別の群れと相対しているか、群れの反対側の更に遠くにいた。

 

「不幸なことに、付近の艦隊は別の群れと当たっているか、奴等に阻まれて合流することができない。無論横須賀基地には、まだ航洋艦が数隻残っているが、他の海域に回されるそうだ。ここには()()()()()、揃っているかららしい」

 

確かに、艦艇数はこの艦隊が最も多い。しかし学生艦のほとんどはまともな演習経験すら無い。前回の海洋実習では、ウイルスに乗っ取られ、ひたすら海を彷徨い、出会った船に砲撃を加えていたのだ。正気で砲を撃った艦は、両手で数えられるくらいしかいないというのに。

 

「学生艦も半数は損傷して使えないってのに、整備局には馬鹿しかいねえのかよ」

 

真冬が呆れて嘆いた。神谷は頷いてから、話を進める。

 

「それでも戦うしかないんだ。こちらでいくつか案を立てたが、情報不足でどれも確実なものとは言い難い。__そこで、奴等について詳しいお前達を呼んだ訳だ」

 

全員の視線が、陽炎と不知火に向けられる。

 

「作戦にあたって知りたいことは大きく分けて3つ。奴等の能力、索敵方法、有効な攻撃方法、無論それ以外の情報もできる限り出せ。解ったか?」

 

2人は首肯した。不知火が赤羽に端末の接続を任せて、前に出た。

 

「まず説明しなければならないのは、奴等の種類です」

 

赤羽が端末を投げ返す。それを難なくキャッチし、先程作った種別表をモニターに映す。

 

「駆逐級、軽巡級、雷巡、重巡、戦艦、輸送、潜水……どうして艦種で呼んでるの?」

 

古庄が尋ねた。

 

「奴等の能力は実際の艦と似たものになっています。例えば駆逐級は35ノット以上の快速と、少しの砲撃能力、そして雷撃能力を持っています。戦艦級は速力の低いものが多いですが、恐ろしい砲撃能力と、強固な装甲を備えています」

「なら、重巡は高速で、強力な砲に雷撃能力を兼ね備えているということ……?」

「その通りです。ただ、例外もあります。例えばこの戦艦レ級ですが、島風と並ぶ高速艦であり、砲撃はトップクラス、更に雷撃までできるというチートっぷりです」

「通称、『空を飛ばない宇宙戦艦ヤ○ト』『超弩級重雷装巡洋戦艦』よ」

「なんだよそりゃ!?」

 

陽炎のとんでもない補足に、真冬がツッコミを入れた。

 

「まあ他にも、駆逐に分類されているのに、戦艦をも凌ぐ装甲を持っている奴もいますから」

「分類直せよ!」

「では次に……」

「無視すんな」

 

不知火は真冬の声をスルーして、説明を続ける。

 

「奴等の攻撃、防御力について説明します。砲は大きくても4cm程と小型ですが、威力は桁違いです。駆逐級の砲でも、数mmの装甲であれば打ち抜けますし、戦艦級の砲は重装甲艦でなければ防ぐのは難しいでしょう。射程は最大で約4kmです。

次に魚雷です。実物の魚雷を10分の1スケールにしたものですが、艦底に穴を空けるには十分な威力を持っています。速力は40〜50ノット、射程は5km程です。

防御力ですが、9mm(パラべラム)弾はほぼ通用しません。駆逐級の装甲を抜くには、せめてライフル弾が必要です。戦艦級は20mm機銃を連射しやっと、確実に仕留めるなら40mmクラスの砲を当てなければいけません」

 

不知火が説明を終わる頃には、皆は顔面蒼白になっていた。

 

「とんでもない化物(バケモン)じゃねえか……」

 

神谷も今回ばかりは冷や汗をかいていた。だが、そこでフッと疑問が浮かんだ。

 

「質問いいか?」

「どうぞ」

「人型の個体についてだが、こんなに無防備な姿なのに、何故銃弾を跳ね返せるんだ?皮膚が硬いのか?」

「それについては、少々理解し難い話になりますが」

「構わん」

「簡単に言うならば、バリアです」

「バリア?SFお馴染みのバリアか?」

「はい」

「バリアなんて空想科学の産物だと思っていたがな。どんな仕組みなんだ?」

「艤装から、肉体を包むように防護膜が張られています。これにより、肉体へのダメージを防ぐことができるのです。しかし、バリアと言えど完全では無く、強力過ぎる攻撃は防げません。また、バリアが受けたダメージは艤装へと蓄積されていきます。……解りましたか?」

「いまいち想像つかんな」

「まあ、他の人達も理解できていないみたいですからね……」

 

その他の面々はたぶんわかってない。それぞれの様子はこうだ。桜井、何を考えているかわからない。古庄、話についていけない。平賀、思考停止。真冬・赤羽、「とりあえず撃ちゃあ死ぬんだろ?」

 

「……つまり、肉体へのダメージを艤装が身代わりに受けていると言うことか」

「その通りです」

「ということは、他の艦種についても同様の事が言えるんだな。防御力の違いは、艤装の強度ってことか」

「その通りです。しかし、バリアが防げなかったとしても、肉体がすぐ死に至る訳ではありません。当たりどころが良ければ生きながらえます」

「逆に言えば、艤装さえ破壊できれば肉体は無防備ということか」

「それでも人間よりは頑丈ですが」

「人的被害を抑えるなら、ありったけの弾薬をバラ撒いて、艤装が損傷して弱体化したところを各個撃破するべきだが」

「至近弾を浴びせるのも難しいです。密集している時ならともかく、散開されると効果が薄くなってしまいます。通常艦艇からの命中率は、多く見積もっても1%前後でしょう」

「イージスシステムで認識できれば、全艦の命中率も上がって解決するんだが……」

「レーダー、ソナーが効かないと無理でしょう」

「いや、何らかの方法で索敵できれば北風のコンピューターが勝手に照準をつけてくれる。どうにか索敵できれば……」

 

神谷が腕を組んで長考に入った。

それを見計らって、真冬が陽炎に尋ねた。

 

「なあ、お前達は索敵をどうしてるんだ?」

「基本目視よ。あとは電探とか」

「電探?もしかして、これか?」

 

真冬が陽炎の艤装から立つアンテナをつまむと、陽炎はその手をパシンと払った。

 

「触らないでもらえる?壊れやすいんだから」

「こんなんで索敵できるのか……凄えな。……つーか、これを北風に接続すりゃいいんじゃねえか?」

「無理よ。艤装の動力が無いと動かないし、艦のレーダーとは仕組みが違うから同調できないもの」

「じゃあ結局目視しかねえわけか……」

 

その時、桜井がハッと気づいた。

 

「光学測距なら使えるかも」

「光学測距?」

 

首を傾げる陽炎に、桜井は優しく教えた。

 

「旧日本海軍の艦にも搭載されていたた索敵装置で、2つのレンズで相手を捉えて、レンズの角度から相手との距離を割り出すの。相手が目視できる昼間しか使えないけど、ステルス艦でも索敵できる」

 

全員に向き直ってさらに続けた。

 

「スキッパーや飛行船にカメラを搭載して、その映像をリアルタイムで解析させれば、敵の位置をイージスシステムに映せる!」

「100以上の敵を30機のスキッパーに5機の飛行船で索敵するって、そんなスペック、うちの艦にあったっけ?」

 

赤羽がそう指摘するが、すぐに切り返した。

 

「全艦のコンピューターを接続させれば、十分でしょ?」

 

赤羽はごもっともだと頷いたが、神谷に向けてこう言った。

 

「司令、あたしは発信装置(マーカー)の使用を勧めるよ」

「あれか」

 

赤羽の言う発信装置とは、小型の発信装置付弾のことで、ステルス機能の小型艇対策に試作されたものだ。スキッパーが接近し、目標に向かって装置を発射、設置させ敵の位置を発信するというもの。

 

「あれならコンピューターへの負担も少ないし、リアルタイムで確実に解る」

「でも、あれの有効射程いくつだっけ?」

 

桜井が意地悪に指摘した。

 

「最大射程2km、確実に当てるなら800ってところかな」

「敵の目の前に突っ込んでいって、自殺したいの?」

「800ありゃ砲弾を躱すのなんて余裕余裕。300kmで疾走するスキッパーなんて奴等も経験無いから、簡単簡単。つーか、そもそも夜におっ始めたらどーすんの?カメラ使えねーじゃん」

「曳航弾使えばいいじゃない。そっちこそ、暗闇でどうするの?」

「ヘッドライトつければいいじゃん」

「そういうことじゃないんだけど」

 

「もういい、やめろ」

 

神谷が白熱する2人の討論を止めさせた。

 

「両方試す。桜井は光学測距のプログラムを準備しろ、飛行船も使って構わん。赤羽はスキッパー全機にカメラと発信装置の搭載を急げ」

「了解」

「わーったよ」

「索敵さえできれば恐れることは無い。遠距離からの砲撃で漸減させ、撃ち漏らした奴は第4特殊部隊(我々)で殲滅する。学生艦は後方からの支援砲撃に務める。……いいか?」

 

ブルーマーメイド全員が頷いた。

 

「古庄教官、学生艦のうち損傷の小さい艦のみを残し、他は撤退させよう。全速が出せて、主な武装が使用可能な艦だけを残すんだ」

「はい。ですが、半数以上の艦が対象になります」

「手負いがいたら撤退にも防衛にも手間取る」

「わかりました」

 

古庄は無線で天神へと連絡を入れる。

 

最後に、神谷が締めくくった。

 

 

 

「作戦開始は明日1000(ヒトマルマルマル)とする。準備に取り掛かれ」

「了解」

 

 

 

 

それぞれが準備のため、自分の持ち場に戻ろうとした時、陽炎が神谷に申し出た。

 

「私も前線に出るわ」

「却下だ」

 

しかし、神谷にスパッと切り捨てられてしまった。

 

「なんでよ」

「負傷者を前に出す訳には行かない、それにお前達は大事な情報源だ、死なせることはできん」

「これくらいの怪我、どうってことないわよ!」

 

陽炎が声を荒げた。

そこからは焦りが見て取れた。

対して神谷はただ、淡々と事実を告げていく。

 

「片腕が使えないのにか?戦いにおいて四肢1つの欠損は、力、バランス感覚、器用さ等で80%以上の戦力低下を意味する。それにお前の艤装は完全には修理できて無いだろう、その状態で前に出ても的になるだけだ。やめておけ」

「でも私はあれを倒すためにいるの!私が戦わなきゃいけないのよ!」

 

陽炎は無意識に、自分を責めていたのかもしれない。自分が艦娘という存在である責任から、深海棲艦を倒すのは自分達だけだと思い込んでいた。

 

 

 

__私が、守らなきゃいけないんだから__

 

 

 

「いい加減にしろ」

「もういい!勝手に出るわ」

「陽炎!」

 

 

 

__私が、戦わなきゃ__

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モニュッ。

 

 

 

「ひゃっ!?」

「おいおい、随分余計な力入ってんじゃねえか」

 

突然、真冬に尻を掴まれた。

真冬は妙にニタニタしながら、陽炎の尻を何かを確かめるように軽く揉む。

そして、

 

「こんなにねじ曲がった根性を直すにはこれっきゃねえ!いくぜ!超・根性注入!!」

「はにゃーーーー!!??」

 

モミモミモミモミモミモミモミ。

 

いつもより激しく尻を揉む。陽炎が泣こうと喚こうと揉む手を止めない。

古庄はその光景を見て、呆れたように言った。

 

「ここまで堂々とセクハラしてると、却って清々しいわ」

「全くです」

 

平賀も相槌を打った。

 

「まあ、陽炎さんも変に焦ってた感じあったし、リセットできるのかも」

「尻じゃなくて肩を揉め、って話なんですけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、根性注入がようやく終わった。

 

「ふにゅ〜〜ぅぅぅ……」

 

……筈だ。

陽炎は床にぐったりと横たわっている。

 

「なあ、却って魂抜けてない?」

 

赤羽が陽炎を突っつくが、ピクリとも動かない。

 

「まあ、一時的なモンだろ」

「ゼッテー違う」

「でも、あんな思いつめた様子で戦場に立たれちゃ、すぐ死んじまう。それだけは御免だぜ。……そうだ、いっそこのまま医務室にでも閉じ込めておくか?」

「セクハラされました。って告訴状だされるよ?」

「どうせテキトーに処理されるから出すだけ無駄さ」

 

 

 

「出さないわよ?」

 

 

 

その怒りに満ちた声で、背中にゾワッとした悪寒が走った。

 

「だって……」

 

がチャリ、と装填音が響く。

 

「今ここであんたをふっ飛ばすから」

 

陽炎、激怒(げきおこ)

 

「おま!ちょ、銃出すんじゃねえ!ただ尻をもんだだけだろ!!」

「死刑に値するわ」

 

真冬も流石にヤバイと逃げ出そうとするが、背後からガシッと羽交い締めにされた。

 

「陽炎、殺ってください」

「不知火!何しやがんだ!離せよ!」

「陽炎の尻を揉まれるなど……止められなかった不知火の落ち度です。せめてもの罪滅ぼしに、少しでも殺りやすいように貴女を拘束します」

「不知火、そのままでね。頭を吹き飛ばすわ」

「本気かお前!?」

「死ぬ準備はいい?」

 

陽炎が真冬の頭に主砲を突きつける。だが、それを桜井が後ろからヒョイっと、軽く手を捻っていとも簡単に取り上げた。

 

「武器はだめだよ〜」

 

武器は駄目、そう言ったが、殺っては駄目とは言っていない。

 

「ってことは、素手ならOK?」

 

桜井はニコニコしながら、手でOKサインを出した。

 

 

 

処刑許可。

 

 

 

「さあ〜て、行くわよ」

 

陽炎が右腕をぐるぐる回しながら真冬に迫る。

 

「なあ、おい、せめてグーはやめろグーは」

「ん?何なに?グーがいい?わかったわ」

「てめえコラ!!」

「行くわよ、歯ぁ食いしばりなさい!」

 

たった一歩の踏み込みで、陽炎の身体は目に止まらぬ速さに加速した。

そのあまりの勢いにビビった不知火は羽交い締めを解き、逃げ出した。

 

そして、

 

 

 

「必殺、メガトンパンチ!!」

 

 

 

陽炎渾身の右ストレートが真冬の顔面を撃ち抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北風の会議室に各学生艦艦の艦長、教官達、そして北風と弁天の幹部が集まってきた。

明乃ともえかもその中にいた。席についた時、明乃は右頬を腫らした真冬に気づいた。痛そうに氷嚢を手で当てている。

 

「真冬さん、何かあったんですか?」

「ぶん殴られたんだよ」

「えっ、どうして?」

「根性注入したらブチギレられた。ああ畜生、口の中血だらけだぜ」

 

その言葉で明乃は「ああ〜」と納得した。その横でもえかは首を傾げる。

 

「根性注入?」

 

明乃は手をワキワキと動かした。

 

「こういう……」

 

それだけでもえかは察した。

 

「なるほど、つまりセクハラってことだね」

「セクハラじゃねえよ」

 

真冬はそう言うが、どう考えてもセクハラだ。

 

それから少し経った時、神谷が前に出た。

 

「時間だ、始めるぞ。自分は第4特殊部隊司令の神谷篤だ。これから横須賀女子海洋学校艦隊は一時的に自分の指揮下に入ることとなった。

 

まず現状の確認だ。怪物の群れは我々の南方50kmの位置に纏まっていて、数は100体前後と推測される。怪物の能力については配布した資料を見てくれ」

 

明乃は配られていた資料をめくった。

怪物の写真にイ級やロ級と仮称がつけられ区別され、おおよその能力も記載されていた。

 

「こんな細かいデータ取ってたっけ?」

 

もえかが小声で明乃に尋ねると、明乃は首を横に振った。

 

「私達じゃない、たぶん陽炎ちゃん達だと思う」

「え?あの子達が?」

 

「この怪物が本土に接近すれば民間人に多くの被害が及ぶのは明白であり、我々はこの群れを駆除し脅威を取り除かねばならない。

しかし、残念だが増援は見込めない。怪物の群れは日本近海に多数発生しており、出動可能な艦艇はほぼ全て出払っているのだ。よって、我々の力のみで群れを殲滅しなければならない。

理解できたか?」

 

神谷は辺りを見回し、質問等の出ないことを確認した。

 

「では説明を続ける。駆除作戦を行うにあたり、損傷の酷い艦は作戦遂行に支障が出るためすぐに横須賀へ帰港して貰い、残った艦のみで作戦を行う」

 

それを聞いて学生達がざわつく。無理も無い、怪物に手も足も出ず攻撃されて恐怖心が植え付けられているのだ。

このまま帰りたい、参加したくないという気持ちがある。

 

「作戦参加艦を読み上げる。

武蔵、比叡、摩耶、五十鈴、名取、照月、晴風、他の艦の者は帰っていい。この7隻に加え北風、弁天の計9隻が参加する」

 

ほっ、と安堵したような空気が広がる。そして呼ばれなかった艦の艦長達は足早に退室していった。

一方、呼ばれた艦長達は不安な気持ちでいっぱいだった。当然明乃も例外ではない。

下手をすれば誰も生き残れないかもしれない。そのプレッシャーが重くのしかかった。

 

「作戦は至ってシンプルだ。北風と弁天による近距離からの砲雷撃、スキッパー部隊による肉薄戦、そして遠距離から学生艦による砲撃を加え目標を漸減させていく。群れが接近してくれば後退しながら攻撃を続け、逃げるようなら追い立て殺す。簡単だろう?」

 

簡単だろう?と言われても、全く安心できない。

 

「質問よろしいでしょうか?」

 

もえかが立ち上がった。

 

「知名艦長か。いいぞ、何だ?」

「怪物は目視以外での補足が困難で砲撃もほとんど命中しません、また目視圏内に近づいた時にはすでに撤退する余裕は無く、とても危険な作戦かと思われますが」

「その通りだ、奴等はレーダーやソナーに反応しない。だが対策は立ててある、飛行船やスキッパーに高性能カメラを取り付け中だ、この後各艦にもカメラを設置する。それとスキッパーには射出型の発信装置を積んである。それらの情報を元に奴等の位置を割り出す。無論完全とは言えないが、命中率はかなり上がるだろう。これで納得できたか?」

「はい」

「まあ、あとあれだ」

 

神谷は一拍開けてから言った。

 

「もし作戦が破綻した場合は、お前等の逃げる時間くらいは稼いでやるから安心しろ」

 

その言葉が本気だというのは全員にわかった。

自分が犠牲になっても、学生達を守ると。

 

「作戦開始は明日1000、予報によると快晴で風も無く、波も穏やかで好条件だ。全艦データリンクし一気に叩くぞ」

『了解』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明乃ともえかが会議室を出ると、陽炎と不知火が廊下の壁にもたれて待っていた。

 

「あっ、陽炎ちゃん、不知火ちゃん」

「結構早かったじゃない、岬艦長。……そっちは?」

 

陽炎はもえかと会うのは初めてだった。そこで不知火が確認した。

 

「武蔵の艦長ですよね?」

 

もえかが頷く。

 

「はい、大型直教艦武蔵艦長の知名もえかです。けど……私達会ったことないよね?何でわかったの?」

「?艦橋に居たじゃないですか」

 

不知火はあの激戦の中で、武蔵の艦橋にいたもえかを見ていたらしい。しかし、あの時もえかと不知火の間にはかなり距離があったはずだし、何より結構見上げ無ければ見えない高さなのだが。

 

「陽炎ちゃん達は用済んだの?」

「うん、まあ……ね」

 

陽炎は不機嫌そうな返事を返した。

 

「どうしたの?」

「情報聞き出すだけ聞き出しといて、危ないから出るなって言うのよ。しかもあの厨二くさい人にセクハラされるし、本当に最悪なの」

「真冬さん……」

 

明乃は呆れて苦笑するしかなかった。

そりゃあんなに痛くなるに決まってる。

 

「あっ、こんな愚痴言うために待ってたんじゃなかった。ねえ、ちょっと作戦教えてよ」

 

陽炎がそうお願いしてきた。

 

「いいけど……」

 

明乃は資料を見せつつ説明をした。時折もえかが補足を添える。

 

「あ、なるほど、そっか……」

「これは、まあ……」

 

陽炎と不知火の反応は微妙だった。

 

「どう?」

「どうと聞かれても……」

「可もなく不可もなく、堅実な作戦だと思います」

「堅実……?」

「機動力の高いスキッパーで敵を引きつけイージス艦の火力と機動力で抑え込み、遠距離から戦艦や重巡の砲撃で殲滅する。教科書に乗るような堅実さです」

「へ〜、そうなんだ」

「でもクラスター爆弾等が出ないのは拍子抜けですね」

「え?」

「毒とかナパーム弾も使ってたことあるのにね」

「なんでもありですから。核も投入されたくらいですし」

「へ、へ〜……」

 

物騒な言葉が陽炎達の口からポンポン出てくる、中には使用の禁じられた物も混じっている。

明乃ともえかはどう反応すればよいかわからず、適当に相槌を打つだけだった。

 

「ですが、これで勝てるというものでもありません。こちらの数も少ないですし、何より敵の情報も少な過ぎます。何があっても不思議ではありません」

 

不知火の指摘に陽炎は頷く。

 

「やっぱり私も出なきゃ、経験の無い人達に任せてられないわ」

 

明乃が心配して諌める。

 

「でも危険だよ、陽炎ちゃん怪我してるのに、それに勝手に出たら間違って撃たれるかもしれないんだよ」

「それは……そうだけど……」

 

勝手に出撃して、フレンドリーファイアを食らって死んぢゃいました。なんて笑い事では済まない。

 

「あーもう、どうすればいいのよ」

 

陽炎は思い通りにいかない現状にイラついた。

いつもは司令官が陽炎達の意見を優先し作戦を立ててくれるが、ここは全く違う組織なのだ。意見が通らないのは当たり前だが、非常に不快だ。

 

 

 

「陽炎、不知火、ここにいたんだ」

 

赤羽が2人を呼んだ。不知火が応える。

 

「何か用ですか?」

「うちの艦長が話したいってさ。ちょっと来てよ」

「艦長が?何でしょう?」

「あたしは知らねー、行けばわかるよ」

「何かしら?」

「さあ……」

 

陽炎と不知火は顔を見合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤羽が北風の艦長室のドアをノックした。

 

「艦長、陽炎と不知火を連れてきたよ」

『入れて』

 

赤羽がドアを開き入室を促す、2人はそれに従い艦長室に入った。赤羽は、

 

「んじゃ、準備に戻るわ」

 

と言い残し去っていった。

 

「ごめんね急に呼び出して。とりあえず座って」

 

桜井に促され2人はソファーに腰掛けた。桜井は向かいに座ると早速切り出した。

 

「あの作戦、改めて聞くけどどうかな?」

「堅実でいい案だと思います」

 

不知火が応えた。しかし桜井は笑みを崩さず何も言わない。

 

「……あの……何か気に障りましたか?」

 

その笑顔のプレッシャーに耐えかね、陽炎が尋ねた。

 

「うん、えっとねぇ。『いい』『堅実』って言葉は裏を返すと『悪くないけど最善では無い』『相手の裏をかけない』って意味になるの。私はねえ、そういうの大っ嫌いなの」

「え……」

 

まるで我儘を言う子供だ。

 

「私達第4はね、『最善か賭けか』『相手を騙して仕留める』がやり方なのよ。生憎他の部隊みたいな良い子ちゃんはいなくてね、所謂愚連隊よ」

「愚連隊……ですか」

「そう、司令(あの人)も色々やらかしてね、まあ私も同類なんだけど。だから方針や作戦も捻くれてて。けど今回は冒険をしない堅実な作戦、何でだと思う?」

「さあ……?」

 

さっぱり見当もつかない。というかほとんど面識の無い人のことなんか分かるものか。

 

「あの人、女の子には甘くてね。『女の子を守るのが漢の仕事だ』なんて言っちゃってるの、シロイルカ(ホワイトドルフィン)ごときがなにほざいてんのって感じよね。人魚(ブルーマーメイド)の尻の下にひかれる存在のくせに」

 

幼さの残る見た目からは想像できない辛辣な言葉が次々出てくる。この時、陽炎達はなんとなく察した、敵に回してはいけない人種だと。

陽炎は小声で不知火に話しかける。

 

「龍田さんタイプかな?」

「いえ、龍田さんは優しい方です」

「じゃあ神通さんタイプ?」

「おそらく」

「うわ」

 

桜井は聞いているのかいないのか、内緒話に構わず話を続ける。

 

「しかも、陽炎ちゃんが『出撃したい』って言うのに断っちゃって、ほんと勿体無い。使えるものは何でも使わないと」

「それって、つまり……」

「そ、陽炎ちゃん。出撃して」

 

そして、陽炎の前に大きなゴーグルが差し出された。VRゲーム用のディスプレイのような形で、横に色々スイッチが付いていた。

 

「これは何ですか?」

「ゴーグル型情報共有装置、とりあえずつけてみて」

 

言われた通り装着してみたら意外と軽かった、工事用ヘルメットと同じくらいだろうか。スクリーンは何も表示せず、向かいにいる桜井の顔が見える。

後頭部でベルトを止め、電源を入れるとLOG INと文字が表示され、様々な情報、艦隊状況や通達事項等が表示された。

 

「へ〜、凄いですね」

「識別機能から暗視機能、ズーム機能までいろんな機能を詰め込んだ便利モノ。識別信号もついてるから誤認される心配もないよ」

 

桜井は不知火にも同じ物を渡し、ゴーグルのディスプレイに作戦を表示させ説明する。

 

「陽炎ちゃんはこれをつけて後方学生艦と共に待機、艤装の索敵装置による索敵と、万が一北風と弁天が抜けられた時の初期迎撃をお願い。不知火ちゃんは晴風から観測及び情報提供をよろしく」

「前には出して貰えないんですね」

「自殺願望でもあるの?」

 

桜井の痛烈な物言いに眉をひそめる。

 

「前に出ても戦える余力は無いでしょ?それに艤装の残弾もほとんど無いんじゃない?」

 

的を得た指摘に陽炎は黙り込む。

確かに、砲弾は残り25発魚雷は0と、普段なら即撤退の判断がくだされる程だ。

 

桜井もなるべく陽炎を出したくは無い。陽炎と不知火は怪物に関しての情報源であり、オーバーテクノロジーとも言える海上機動力を持つ貴重なサンプルである。

しかし、ここで失うリスクは重いが、作戦の結果はそれに代えられない。

 

陽炎と不知火自身の戦闘力は期待できなくとも、索敵能力や戦場に立つからこその情報は何にも代えがたい。

それで少しでも自分達の生き残る確率が上がるなら、使う。

 

そして、桜井は心の中で悪い笑顔を浮かべる。

 

 

 

__それに、いい餌にもなるしね__。

 

 

 

「私の話はこれでお終い。貴女達は晴風に戻って待機して。あ、そうだ。赤羽さんに送ってもらってね、いい体験できると思うよ」

 

桜井は屈託の無い笑顔で2人を送り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陽炎に質問です。

Q.スキッパーに初めて乗った感想は?

A.最悪、スキッパーに乗ってみたいなんて言うんじゃなかった。

 

赤羽のスキッパーの後部座席に乗り込んだ時、ワクワクしていた自分をぶん殴ってやりたい。あの時、不知火の方の運転手に頼めばよかった。

 

 

 

スキッパーが海面に降ろされて、エンジンをかけた直後だった。

 

赤羽がニヤリと笑い、スキッパーのスロットルをふかした。

鋼鉄のボディが爆音を立て加速する。それはまるでドラッグレースのようで、凄まじい加速度についていけず、身体が後ろにつんのめった。

 

「え、ちょっと、スピード出し過ぎじゃない?」

「作戦に参加するに当たって、スキッパーの性能も知っといてほしいんだよねー」

「いや、スペックさえわかれば……」

「一度試し乗りしてみればよくわかるってばよ」

「絶対嘘だ!!」

 

スキッパーはあっという間に時速100ノットを超え、波を超える度にバンバンと突き上げられる感覚が襲う。

 

「止めて止めて!!絶対ぶっ壊れるって!!」

 

陽炎の悲鳴もお構いなし、赤羽はスキッパーをフルスロットルで進ませる。

こいつはあれか、頭文字○の主人公か。

 

「これからちょーっと怖え思いするけど、ジェットコースターだと思って楽しんで」

「それフラグじゃない!?最後絶対海面に叩きつけられてバラバラになるやつでしょ!!」

「大丈夫大丈夫、んじゃ行くぞー!」

 

フワリ、とスキッパーが突然浮いた。正確には船首が上がり空気抵抗が増し、そのまま持ち上げられバク転し始めたのだ。すぐに船尾も海面から離れ、スキッパーは上下逆さまに宙を舞った。

 

「きゃあああああ!!海が!!落ちる落ちる〜〜!!」

 

陽炎は以前アクロバット飛行をする戦闘機に乗ったことがあるが、それより何倍も恐ろしかった。

なぜかというと、水上艇は空を飛ぶものでは無いからだ。凄まじい空気抵抗で巻き上げられた後は、重力に任せて落ちるだけ。着水のタイミングが僅かでもずれたら海面に跳ね返され、何度もバウンドしてグシャグシャのスクラップになるだけだ。

 

スキッパーは回転を続け、船首を真下に向けた。目の前に海という水の壁が迫る。

 

あっ、これ死んだわ。と思った直後、何が起こったのか一気に船尾が下がり、船体が水平に戻った。

そしてそのままの姿勢で着水、激しい水しぶきを上げる。着水の衝撃で頭がグワングワンと揺さぶられた。

 

「どうよ?スキッパーはこんな動きも出来るんだぜ!」

 

赤羽はそう言って、再びフルスロットルでスキッパーを加速させた。バク転で終わりではないのか。

陽炎は必死に叫ぶ。

 

「降ろせーー!!私自力で行くから降ろせーー!!」

「こんな速度で飛び降りたら命ねーよ。タイタニックに乗ったつもりで安心しろよ」

「沈むー!!」

 

スキッパーは艦隊の中に突入、艦の間を全く速度を落とさず駆け抜けていく。

 

「さーて、ジムカーナでもやりますか」

 

赤羽が舵を右へ切る、するとスキッパーが右にグワッと向いて横滑りし始めた。

フルスロットルのままのエンジンがアフターファイヤーを吐き唸りを上げた。

 

 

 

「誰か助けてーーーーー!!」

 

 

 

陽炎の悲鳴が海原に響く。

 

 

 

 

 

散々危険運転に付き合わされた結果晴風に到着した時、やっと終わったという安堵感と同時に、胃の中のものが逆流する感覚に襲われた。

そして久しぶりの「お魚さんに餌やりタイム」となってしまった。

 

赤羽は「ちょっと刺激が強過ぎたかな、ハハハッ!」と憎たらしい笑いを残し、往路と同じように全開で飛ばし帰っていった。

 

「陽炎、大丈夫ですか?」

 

かなり遅れて到着した不知火が声をかける。

 

「無理……」

 

陽炎はぐったりと手すりにもたれかかったまま。

 

やがて晴風の乗員達も心配して集まってきた。

その中で鈴が尋ねる。

 

「お医者さん呼ぼうか?」

「……お願い…………」

 

後で赤羽の奴をぶっ飛ばしてやろうと心に誓う陽炎であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝手に何やってる」

「何のことかなぁ?」

 

問い詰める神谷に対し、桜井は書類仕事をしたままとぼける。

 

「とぼけるな、陽炎と不知火を連れ込んで何を話した」

「もう貴方には解ってるんじゃない?当ててみて」

 

桜井はいたずらっ子のような笑みを浮かべる。神谷は腹を立て机をドン!と叩いた。

 

「陽炎を戦場に出して囮にするつもりだろう!お前はあいつ等を殺す気か!」

「殺させなんかしない。でも、囮になってくれれば私達の生存率が上がる」

 

そして桜井は無線機を差し出しこう尋ねた。

 

「……私はあくまで背中を押すだけ、最後に決めるのは貴方。どうする?中止させる?それともこのままやる?」

 

神谷は悩んだ。

 

そして、無線機を桜井に突き返した。

 

「やっぱり、そうすると思った。貴方はちゃんと現状を解ってる」

「そりゃどうもな。全く、本当に面倒な女だ」

「そこがいいんじゃないの?」

「そうだな、そうやってずる賢いところも気に入ってる……準備は?」

「今夜中には終わる」

「急がせろ、最悪もう来るかもしれん。それと、念の為弁天にも作戦の変更を伝えておけ」

「了解」

 

 

陽炎や明乃達が知らないまま、戦いの戦禍が迫っていた。

 

 

 




陽炎「散々な目に遭ったわ……」
不知火「しかも最後になんだか不穏な感じになりましたね」
陽炎「もうすぐ戦闘よね?」
作者(丸焦げズタボロ)「あと1話短いのを挟んで戦闘回に入る予定です」
不知火「ちゃんと進めてくださいね」
作者「……はい……頑張ります……」



真冬「あたしの扱い酷くねえか!?尻揉んでぶっ飛ばされる役って!」
平賀「作者曰く、真冬姐さんはそのイメージしか無いそうです」
真冬「おい作者!何言ってんだコラァ!」

次回も気長にお楽しみに
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。