芽衣「よっしゃー!撃ちまくるぞー!」
作者「まだメイちゃんの出番は無いよ」
芽衣「え……」
作者「今回はプロの方々の戦い。艦娘無しで深海棲艦と戦うとしたら?というのを書いてみた」
芽衣「ふーん。で、次回は私も撃てるんだよね!?」
作者「どーかなー」
芽衣「撃てなかったら波動砲で撃つよ?」
作者「Oh……」
それでは本編へどうぞ
『スキッパー部隊
艦内放送で次から次に命令が飛んでくる。
仮眠を取っていた赤羽は慌てて飛び起きると狭い通路をダッシュで駆け抜け格納庫へと向かう。
耳に着けたインカムから部下の文句が聞こえた。
『隊長!まだ来ねぇのかよ!』
「仕方ねえだろ!あたしは寝てたんだからさ!αリーダーにそっちの指揮を一任!出れる奴から出ろ!Sも発艦しとけ!」
他の乗員とぶつかりながらも全速力で走り、格納庫へとたどり着いた。すぐに自分専用のスキッパーに乗り込みエンジンをかける。
ノーマルのスキッパーとは比較にならないほどの甲高い爆音が響き渡る。
「船体制御グリーン、武装オールグリーン、油温水温グリーン、データリンク異常なし、非常脱出装置異常無し」
手早くチェックを済ませ、スキッパーを列の最後尾へと押し込む。
北風の格納庫にはカタパルトが設置されていて、スキッパーの発艦はカタパルトで押し出され海面にジャンプするという方法なのだ。
赤羽の前に並んでいたスキッパーがカタパルトから飛び出し、赤羽のスキッパーがカタパルトに載せられる。
「S1赤羽出撃する!!」
グン、とスキッパーが急加速し、空中へと飛び出す。すぐに重力に引かれて海面に船尾から着水、ダンパーが衝撃を吸収するがそれでもかなりの衝撃が走った。
「こちら赤羽、チームSは予定通り配置につけ」
赤羽は無線でそう告げるとスロットルを一気に全開にしてとばした。
◇
神谷が北風艦橋にて指示を矢継ぎ早に飛ばしていた。
「全艦データリンク」
「了解。データリンク開始」
「学生艦は全速後退!距離20kmは取れ!古庄教官、細かい指示は任せる。直教艦による支援砲撃を頼む、座標はこちらから送る」
『こちら古庄、了解しました』
「弁天、準備はいいか?」
『今最後の飛行船を上げてる!すぐに終わるぜ!』
「スキッパーの展開は?」
「スキッパー全機発艦完了!」
「飛行船は?」
「鷲1号2号展開中、3号もすぐに飛びます!」
「よし、体裁は整ったな」
神谷は遠くに未だ立ち昇る煙を睨んだ。念の為にと出した偵察機が撃沈された、そのおかげで怪物の接近にいち早く気づけたわけだが、仲間を4人も失った。それを無駄にはできない。
「……仇は取ってやる」
◇
陽炎は工作室に飛び込み艤装を装着しているところだった。
そこへ媛萌が入ってきた。
「陽炎ちゃん!出るの!?」
「ええ!手伝って!」
陽炎が脚部艤装を装着する間に媛萌は主砲のついたアームを機関部へと接続させる。
「魚雷発射管は要る?」
「つけて!」
既に魚雷は撃ち尽くしているが、一応つけておく。
媛萌の手伝いもあって素早く艤装を装着し終った。
「ありがとうヒメ。駆逐艦陽炎起動、リンク開始……リンク100%、起動完了。機関始動、機関出力80%、武装異常なし、操舵系統異常なし。よし!行ってくるわね!」
艤装は無事起動し、陽炎は工作室を飛び出した。
「陽炎ちゃん!絶対戻ってきてね!」
陽炎は媛萌の声に手を振って答えた。
◇
武装スキッパー部隊が群れへと向かい、その上を北風と弁天から発艦した3隻の無人飛行船、鷲1号と鴉1号2号が飛ぶ。北風と弁天は蛇行しつつ群れとの間合いを測っていた。
一方学生艦隊は背を向けて全速力で距離を取ろうとしていた。その上空には北風の飛行船2隻がついている。
◇
不知火が慣れない松葉杖に苦労してようやく艦橋に上がると、既に全員が揃っていた。
こちらに気づいたましろが声をかける。
「不知火さん」
「状況は?」
「今まとめてる」
ましろがそう答えたすぐ後、幸子が情報の収集を終えた。
「今から5分前の0133、スキッパーの偵察隊が30ノットで接近してくる群れを確認、……偵察機3機の内2機が撃沈されたそうです……」
「それって……」
明乃の言葉に幸子は首を横に振る。
その場が重い沈黙に包まれる。
晴風に乗ってから初めて聞く殉職報告、それは明乃達高校生には重すぎた。
明乃は心の中で手を合わせ冥福を祈った。
だが、立ち止まっている時間は無い。
この間にも怪物の群れは迫ってきているのだ。
「ココちゃん、修理はどれくらい終わってるの?」
「機関を除いて全て完了しています」
「わかった。機銃にはメイちゃんタマちゃんが行って、機銃は新しい物に交換してある」
「わかった。行こう、タマ」
「うい」
「ココちゃんは状況を逐一教えて」
「はい」
「マロンちゃん!機関はどう?」
『現状だと全開じゃ長く持たねえ!第四船速くらいに抑えてといてくれ!その間になんとか直す!』
「第四船速……27ノット、わかった!できるだけ急いで!」
『合点承知!』
一通りの指示を終えたところで、陽炎の声が伝声管から聞こえた。
『ミケ艦長!不知火!陽炎、出撃するわ!』
陽炎が甲板から勢いよく海に飛び出した。
◇
「桜井艦長、出たわよ」
陽炎は再設定されたインカムで桜井に呼びかけた。が、
『陽炎か』
聞こえたのはあの可愛らしい桜井のものではない、どう考えても男の声。
「あら?もしかして神谷司令?」
『そうだ』
「あちゃー、バレちゃったんだ」
『残念だったな、まあお前のやることは変わらん、しっかりやれよ。あと索敵を入念にな』
「了解」
陽炎は早速電探とソナーを起動させた。
「電探、艦隊周囲に敵影無し、アクティブソナーにも感なし。今のところクリーンね」
『こまめにやれ』
「了解」
『こちらはこれから賑やかになる。お前も気をつけろ』
「誰に言ってんのよ」
陽炎は無線を切ると遠くの北風と弁天の方に目をやった。
「頼んだわよ」
何人生き残れるかもわからない、下手すれば全滅するかもしれない戦い。だが、もう誰も死なないで欲しいと願った。
◇
「始めるか」
神谷が短い言葉で告げる。桜井が頷き指示を出した。
「照明弾撃て!」
北風の主砲から光の弾が上空に放たれ海を明るく照らす、その光が怪物の群れをくっきりと浮かび上がらせた。
飛行船のカメラが群れの姿を捉え、映像をリンクした全ての艦のコンピューターが解析、怪物一体一体の位置を特定する。
「目標補足完了、数126」
「先頭集団の人型に絞って狙うぞ」
「了解」
砲雷長が噴進弾の目標を設定する。
「噴進弾数8、発射用意よし!」
神谷が無線機を手に取る。
「弁天、用意は?」
『バッチリだ。派手にぶちかまそうぜ!』
「古庄教官、支援砲撃の用意を」
『了解。武蔵及び比叡、主砲発射用意!』
『了解!』
各艦の準備が整ったことを確認して、神谷が命令を下す。
「さあ始めるぞ。各艦攻撃始め!」
「噴進弾発射始め!」
北風のVLSから8発、弁天からも8発の噴進弾が空へ飛び出す。軌道は大きく弧を描いて群れへと飛び込んでいく。
怪物の群れは迎撃しようと無数の砲弾や銃弾を噴進弾に向けて撃ち始めた。
合計16本の噴進弾の内5本は途中で迎撃され、4本は目標を外した。しかし、残りの7本が群れに殺到し次々と直撃或いは至近弾となった。
「全部直撃にはならないか」
「映像だけによる予測だと多少のズレがあるみたい」
桜井が冷静な分析をする。
「他にも噴進弾のバックブラストや水煙とかがカメラの邪魔になって、度々個体をロストしてる」
「なるほどな、なら数で補うしかない。主砲撃ち方始め!」
さらに5インチ単装砲が火を吹き、水柱を乱立させる。弁天の76mm砲もまるで機関銃のような連射性能を見せつける。
さらに武蔵と比叡が支援砲撃を開始、46cm砲と35.6cm砲が海面を叩き割るような衝撃で群れを吹き飛ばす。
だが、激しい弾幕をものともせず怪物の群れは近づいてくる。
「やはり止まらないか」
神谷はすかさず次の手を打つ。
「スキッパー部隊突撃せよ!」
『了解。チームα、β突撃する』
16機の武装スキッパーが群れの側面から強襲をかける。その姿はまるでスズメバチの大群だ。
『機銃は駆逐級くらいにしか効かねえ!それ以外の奴には
『了解!』
『お前等愛機沈めんな!敵沈めろ!』
『ラジャー!』
αリーダーの激励に気合いで馬鹿でかい返事をして、全速力で突入していく。トリガーを引くと船首の機銃が咆哮し、駆逐級と思われる怪物を目にも止まらぬ速さで蜂の巣に変えていく。
怪物も反撃に砲弾を飛ばすが、スキッパーは右へ左へアクロバティックな動きで回避翻弄する。
まるで艦と戦闘機の戦いだ。
しかし、人型の怪物は防御力が高いため機銃でも効果が薄い、機銃弾が当たってもカンカンと音を立て弾かれているようだ。だがそんなことは最初から解っている。
目くらまし程度に機銃をお見舞いすると同時に、スキッパーに後付されたランチャーから発信機を発射し人型の奴等に貼り付ける。
『こちらα4、マーカー起動、戦艦クラスと思われる』
『β7マーカー起動、重巡』
『α8、設置完了、戦艦』
『こちらβ2、すまない駆逐級だ』
『何やってんだアホ』
『うるせー黙ってろ』
『こちらα2__』
余計な音声が入るが無事に発信機を取り付けられたとの報告が入る。どうやら全部で9個取り付けられたようだ。
「駆逐級は除外」
「了解。数8!」
「撃てぇ!」
北風から再び噴進弾が発射される。今度のは発信機の信号によって誘導されて見事に全弾直撃、当たった個体は全て跡形も無く消え去った。
しかしその一方で、こちらにも被害が出始めていた。
『こちらα1!α7がロスト!』
α7は重巡級からの砲撃をモロにくらい爆沈した。砲弾が正面からコックピットをぶち破りエンジンまで到達、大きな火球となってこの世から消えた。
次にβ4も砲弾によってウイングを抉られバランスを崩しスピンして船体が跳ね上がり、海面に激しく転がりながら叩きつけられバラバラの破片に変わってしまった。
さらに弁天の飛行船、鴉1号が狙われた。真下からの戦艦主砲による砲撃が右前のエンジンに直撃、エンジンから火が上がった。
「鴉1号第2エンジンに被弾!火災発生!」
「すぐ上昇させろ!また喰らうぞ!」
真冬が指示する。だが既に遅い。
エンジンを1つ喪失したために動きが遅れ、第二射が船体の中心に刺さった。鴉1号は空中で激しい爆発を起こすと浮力を失い、真っ赤に燃えたまま海へと墜落し再び激しい爆発を起こした。
「鴉1号墜落!」
「クソッ!」
真冬は思わず悪態をついた。
「奴等こっちの目を潰しに来やがった!飛行船を奴等から離せ!」
未だ健在の鴉2号が上昇しつつ群れから離れていく、鷲1号もそれに続き距離を取る。それを追うように対空射撃がされたが幸いにも被弾はなかった。
『おい司令、奴等も馬鹿じゃねえみたいだぜ』
「まともな頭はあるようだな」
『んなこと言ってる場合じゃねえだろう。飛行船が近づけねえと命中精度が上がらねえ、どうすんだ』
「どうしようもない」
『は?』
「とにかく攻撃し続けろ」
『マジかよ……』
真冬が無線の向こうで頭を抱える。
かろうじて抑えられてはいるが、このままではジリ貧だ。飛行船を遠ざけたことでカメラの映像が荒くなり、主砲や噴進弾の命中率が落ちている。スキッパーにもカメラを搭載してはいるが、高速航行するスキッパーはラリーカーのように激しく揺れたり曲がったりを繰り返すためあまりあてにならなかった。発信機も貼り付けがうまく行かずそれほど効果を得られなくなっていた。
「最悪近接戦闘かこれは」
このまま接近されれば、最悪北風ギリギリにまで引きつけてCIWSと機銃を撃ちまくるしか手は無い。
だがそれは同時に北風が怪物の射程圏内に入ってしまう賭けにも等しい最終手段、装甲の分厚い戦艦ならともかく装甲の薄いイージス艦では被弾一発一発が致命傷になりかねない。
「控えめに言って万事休すだな」
◇
遠くから砲火の音が聞こえ、爆炎が上がり続ける。
陽炎はそれを眺めることしか出来ない。
あそこで戦うべきは自分なのに。
「……不知火……」
『……北風は最善の策で戦っています。今私達にできることは学生艦を守るためにここにいることだけです』
「そうね……」
陽炎は唇を噛む。
畜生、何が「出撃して」だ。
結局私はここに釘付けじゃないか。私が戦わなくてどうする、私が傍観者じゃいけないんだ。今そこで深海棲艦との戦争が始まってるのに、なんで行けないんだ。
インカムで神谷を呼び出す。
「……神谷司令、無茶だって解ってるけど……私も……」
『駄目だ、許可できん』
「そう……よね……」
『それより索敵はどうだ?』
陽炎はソナーの音に耳を澄ませた。しかし、何も聞こえない。
「……感なし」
『そうか……』
『あの、神谷司令』
不知火が会話に割り込む。
『なんだ』
『先程から妙にこちらの索敵状況を気にしているようですが、何かあるのですか?』
『……不確定な話だ。聞くか?』
『はい』
「もちろん。隠し事なんて無しよ」
神谷は重い口を開いた。
『俺達の予測だが怪物が狙うのは陽炎、お前だ。お前は奴等の親玉を釣る為の餌なんだよ』
陽炎の背筋にゾワッと悪寒が走った。
『餌……!?まさか、桜井艦長はそのつもりで……!?』
『ああ、そうだ』
陽炎は頭をフル回転させ、どういうことなのか考察した。
あの戦いの最後は、晴風が群れの中に再突入して陽炎達と対峙していた戦艦棲姫を砲撃し撃破して2人を回収、群れの中から抜け出した。
しかし、なぜ晴風が群れの中に戻って来て、そこから逃げ延びることができたのか?群れから逃げ出すことも、陽炎の支援が無かったらできない程だったのだが。
その理由は簡単だ。2人が群れのボスと戦って指揮を乱したから、晴風に対する攻撃がまばらになった。そしてボスが倒されて完全に統率が取れなくなって、晴風を取り逃がしたのだ。
つまりはボスを倒して、統率の取れないうちに叩けば勝率はグッと上がる。
だが、ボスは既に倒した後だ。
しかし、他の個体が新しいボスになっている可能性があると桜井達は睨んだ。
何故なら深海棲艦はまだ動いていない。統率の取れない軍団なら、勝手に行動する奴が居てもおかしくない。それが居ないということは、統率が再び取られるようになった、つまり新たなボスが生まれたということだ。
そのボスにとって1番目障りなのはおそらく、自分達と近い存在の陽炎と不知火。だから陽炎を戦場に出せば、何が何でも倒しに来る、精鋭部隊もしくはボス自ら。それを返り討ちにすればこちらが有利になる。
そして相手を確実に殺るには、わざと奇襲を実行させて油断したところにありったけの火力を叩き込むのがいいと判断。だから学生艦隊の近くに陽炎を待機させた。
「……そういうことだったのね……」
陽炎がその考えに至ったその時、ソナーに無数の反応が現れた。
「っ!ソナーに感あり!」
『どこだ!?』
『どこですか!?』
「学生艦隊真下、深度300!数おおよそ50!」
桜井達の予想通り深海棲艦が奇襲を仕掛けてきた。それによって陽炎と晴風は再び戦闘へと巻き込まれた。
陽炎「やっぱり艦娘抜きで深海棲艦と戦うのは難しいわよね」
不知火「同感です」
陽炎「ていうか私を餌にするって酷くない?」
不知火「果たして連れたのはどんな深海棲艦なんでしょうね」
次回もお楽しみに