志摩「今さら?」
作者「アニメ5話で射撃指揮所内部が映るんだけど、あれで3つの主砲が操作できるものなのか……」
志摩「気にしちゃ、駄目」
それでは本編へどうぞ
『学生艦隊真下、深度300!数おおよそ50!』
桜井は陽炎の報告を受けて「待ってました!」と言わんばかりに笑った。
「やっぱり来た!陽炎ちゃん!海面まで何秒!?」
突然の質問に陽炎は詰まってしまう。
『え!?えっと……今270だから……』
『海面まで135秒!』
不知火が咄嗟にフォローを入れた。
「ありがとう!砲雷長、噴進魚雷発射用意!数60!海面に出る前に叩き込む!」
「了解!噴進魚雷数60!怪物の予測進路に標的合わせ!」
イージスシステムが深海棲艦の浮上速度を元に攻撃座標を決定する。
「照準固定、発射準備よし!」
「噴進魚雷発射始め!」
北風のVLSが一斉に開き噴進魚雷が宙へ飛び出した。
◇
『学生艦隊真下、深度300!数おおよそ50!』
陽炎の報告は学生艦隊にも届いており、敵が突然足元に現れたことに学生達は慌てふためいた。
「真下!?」
「奴等は潜水できるのか!?」
明乃とましろが驚きの声を上げる。
「海面まで135秒!」
不知火が無線の相手にそう言うのが聞こえた。135秒、怪物が水上に現れるまで余裕が無い。
「鈴ちゃん前進いっぱ__」
明乃が言いかけたその時、古庄の命令が割り込んだ。
『全艦急速回頭!武蔵、五十鈴、晴風は左へ!比叡、摩耶、名取、照月は右へ展開!爆雷を装備している艦はすぐに投下しなさい!』
動揺していた学生達も命令にすぐ従い艦を動かす。
艦隊が左右2つにスッと別れ、爆雷を装備していた五十鈴、名取、照月が爆雷をいくつも海に投下していく。
『陽炎!晴風についてきてください!』
「了解!」
陽炎も晴風の後に続き移動しながら爆雷をばら撒く。
その時、北風のVLSから大量の噴進魚雷が発射され、なんとこちらに向かってきた。
「え!?なんかミサイル沢山来てる!?」
『ミサイルではなくアスロックのようです!』
「アスロック!?」
ゴーグルのディスプレイに投射域が表示されたが、陽炎を中心とした直径1kmにまんべんなく撒かれるようだ。……つまり、陽炎は爆心地のど真ん中にいることな他ならない。
「殺す気かー!!」
陽炎は機関全開で噴進魚雷から逃げる。しかし、ロケット推進の噴進魚雷の速度にかなうわけがない、みるみる内に距離が詰まる。そして投射域に近づいた噴進魚雷はロケットエンジンを切り離し着水、魚雷の推進力で水中に潜っていく。
「これ逃げられるの!?」
「ギリギリ間に合うかどうかです!」
「ちょっとでも遅れたら巻き込まれるぞ!」
晴風や他の学生艦も深海棲艦からではなく噴進魚雷から大慌てで逃げる。
北風の人達は頭おかしいんじゃないのか!と叫びたくなった。
陽炎と学生艦隊が投射域から抜け出した直後、噴進魚雷と爆雷が一斉に激しく爆発、爆圧により海面がドーム状に盛り上がった。しばらく膨らみ続けたドームはまるで風船のように弾け大音響とともに水と煙を上空に向けて吐き出した。
「うっひゃ〜、ド派手だね〜!」
機銃座の芽衣がそれを見て目をキラキラさせる。
「不知火ちゃん!今のでどのくらい倒せたかな!?」
「わかりません!しかし、大きなダメージを負っているでしょう!」
不知火が明乃に答えた。
あれほど大規模な爆発は経験も少ないため効果は未知数だった。
不知火は古庄へと呼びかける。
「古庄教官、意見具申。浮上してすぐは武装の排水の為攻撃はほぼありません、その間に一気に畳み掛けましょう」
『こちら古庄、意見具申受託。艦隊は北へ回頭せよ!怪物を挟撃する!』
2つに別れた艦隊が北へと曲がり8kmの間隔で並走して深海棲艦の群れを挟み込み砲門を向ける。
『全艦射撃用意!』
「主砲右舷へ!撃ち方よーい!」
晴風も主砲と機銃を深海棲艦の群れへと向ける。
武蔵の高角砲から照明弾が発射され辺りを眩く照らす。
浮上した禍々しい化物の姿が、光によってくっきりと映し出された。
『全艦攻撃始め!!』
無数の砲が火を吹いた。
武蔵突入作戦の時よりも激しく轟音が鳴り続ける。
噴進魚雷と爆雷により損傷していた深海棲艦の群れは、成す術無く蹂躙されていく。
武蔵と比叡の砲が海面を抉り、速射性に優れる晴風と照月の主砲が次々と砲弾を叩き込む。
ある個体は直撃され粉々にされ、ある個体は砲弾の破片によってズタズタに切り裂かれた。
しかし、損傷の少なかった個体が砲撃を縫うように躱し艦隊へと肉薄してきた。
不知火はその様子を双眼鏡で確認した。
「もう砲や魚雷も使える筈です!接近させては駄目です!」
「わかった!主砲は接近してくる個体を優先!」
『了解!』
「メイちゃんタマちゃん!機銃で迎撃をお願い!」
『任せて!』
『うい!』
マチコが目標を視認した。
『数4!距離15!駆逐級3!軽巡級1!』
幸子が明乃にタブレットの画面を見せた。
「北風から敵の位置データ来ました!」
「全員に共有して!」
「はい!」
北風の飛行船や艦のカメラから得た映像を元にした敵の位置データが北風から送信され、各武装制御装置に伝達される。普段は「人間CIWS」との異名を持つ志摩の計算で射撃しているが、今回は敵の数があまりにも多いことで計算が間に合わないことが危惧されたのでそれを元に主砲が狙いを定める。
『艦長、10まで』
志摩が主語も動詞もすっぽ抜けた意見を具申するが、明乃はすぐに理解した。
「了解、距離10まで引きつけて」
主砲も機銃も狙いを定めたままじっと深海棲艦の接近を待つ。
『距離14……13……』
マチコのカウントが進む度に心臓の拍動が速くなる。それは緊張からかはたまた戦闘による高揚感からか。
『12……11……!』
射撃のタイミングを今か今かと待ち望んでいた芽衣と志摩、砲術委員達は呆気に取られ深海棲艦が沈んでいくのをポカーンと見ていた。
『ごめんなさいね、やっぱり見てるだけって性に合わないのよね』
どうやら陽炎が横取りしたらしく、晴風の右舷に並走している彼女の主砲から煙が立ち上っていた。
不知火は怒って無線越しに叱った。
「陽炎!」
『何よー、いいじゃない』
「貴重な弾薬を消費してどうするんですか!それにあのくらいの敵なら晴風でも迎撃できましたよ!」
『はいはい。…………あ、ヤバ……!』
突然陽炎の声が真剣なものへと変わった。そして陽炎が咄嗟に左に曲がった次の瞬間、本来陽炎がいるはずだった場所に駆逐イ級が陽炎を喰らおうと大口を開けて海中から飛び出してきた、さながら人を喰らう巨大ザメのように。
その駆逐イ級は普通の個体ではなく、金色の筋の入った__
「__"flagship"クラス!」
「flagshipクラスって何ですか!?」
幸子が尋ねた。
「flagshipは簡単に言えば上位個体です!通常の個体より圧倒的に強いんです!」
「あんな金色に輝くのはデータにありませんよ!」
「ええ!つまり、ようやく奴等の精鋭が送り込まれたということです!」
駆逐イ級が陽炎を食い殺そうと追いかけるのを芽衣と志摩が機銃で射撃する。北風から持ち込まれた新型機銃は口径こそ小さくなったものの、圧倒的な連射能力を発揮した。まさに滝のように弾を吐き出すのだ。
「沈め沈め沈めーー!!」
初めは銃弾が装甲に弾かれていたがすぐに撃ち破り、イ級に数えきれないほどの大穴を開けた。やがてその穴から青い血がゴボゴボと吹き出し、イ級はゆっくりと沈んでいった。
芽衣がガッツポーズをする。
「よし!敵駆逐級撃破!」
『まだ来るわよ!』
「うえっ!?」
陽炎の声で周りを見渡すとまた新たに3体、flagshipクラスの深海棲艦が海中から現れた。
『主砲1番は1時、2番は3時、3番は6時方向の敵を狙え!』
『了解!』
ましろの指示で光が各砲塔の照準を定める。
「1番主砲14の3!2番主砲90の0!3番主砲そのまま!」
美知留が慌ただしく各主砲を回す。1番主砲を小さく回し2番主砲を90度回す、そして3番はそのままで__。
「3番修正仰角
「待って待って!追いつかないから!」
美千留は学生艦の射撃指揮装置を呪った。
昔の改装前__駆逐艦の頃の射撃操作は各砲塔ごとで、1つの砲に何人も配置されていた。
しかし晴風をはじめとする学生艦の射撃操作は射撃指揮所1ヶ所からたった3人、しかも光の照準担当、美千留の旋回担当、順子の発射担当と分けられているため基本は1つずつ砲を動かすのだ。だからこうも細かく修正が全砲門で入るとどうしても手が足りない。
シュペーに向かう魚雷や武蔵停止作戦の時には全砲門で撃ってたじゃないかって?あれは志摩の超人的な弾道計算能力によるものと、それにただ真っ直ぐ奔る魚雷や馬鹿でかい武蔵なんて居眠りしながらでも狙えるからだ。
今回の標的は小さくてすばしっこい、狙う側からしたら最悪の敵だ。鮫とか海鳥なんかを狙う練習をしとくんだった。
「ヒカリ!もっと的確な指示お願い!」
「無理だって!アイツ等めっちゃじたばた泳いでるんだもん!」
光も焦っていた、狙いを定めてもすぐに射線上から逃げられていまう。
「もっと大人しくしなさいよこの化物……!」
『落ち着け、焦っても当たらないぞ』
ましろが落ち着いて指示を送る。
『敵はそこまで複雑な動きをしている訳じゃない、不知火さんによると標的に向かってほぼ真っ直ぐ向かってくるそうだから、動く先に照準を合わせるんだ。もし撃ち漏らしても西崎さんと立石さんが蜂の巣にしてくれる』
それを聞いて肩の荷が下りた気がした。
光は大きく息を吐いて、照準を再設定する。
大丈夫、私達だけでも撃てる。
「1番仰角0度!4秒後!3番170度!7秒」
「1番回した!」
「2……1……発射!」
順子が引き金を引く、1番主砲から放たれた砲弾は一直線に駆逐イ級をぶち抜き撃沈した。
「次3番!」
「回した!」
「バキュンと行くよ!」
続いて3番主砲が咆哮しロ級の身体を抉り取った。
最後に2番、と行きたかったがもう間に合いそうにないと光は判断した。あれは晴風の横っ腹に突っ込む気だろう。
「タマちゃんごめん!3時の間に合わない!」
『うい、大丈夫』
そして目にしたのは機銃弾によって豪快に耕される駆逐ハ級、それなりに滑らかだった外殻が機銃掃射によって穴と凸凹だらけになって、最後には左右真っ二つに
晴風は見事な射撃能力によって続々と現れる深海棲艦を撃沈していった。
だがそれでも深海棲艦は海深くから次から次へと現れる。
◇
『海中に数4!浮上中!』
『まだ来るのか!』
『これじゃあキリが無い!』
『また私を食い殺そうとしてるんだけど!』
神谷と桜井は無線から聞こえる学生達と陽炎の悲鳴にも似た声を聞いていた。
「晴風と陽炎に集中攻撃、良くも悪くも予想通りね……」
「flagshipとやらも出てきたが、これで最後とは思えないな」
「そうね」
桜井が不知火に尋ねる。
「不知火ちゃん、ボスは出てきた?」
『……いえ、確認できません』
「わかった。……ボスが出て来るまで耐えてもらうしかないかな」
桜井は確実にボスが出てくるのを待つつもりだった。しかし、神谷は却下。
「駄目だ、このままでは晴風が持たない」
現状は晴風だけで迎撃できているが、長く続ければパフォーマンスは低下しいずれ潰されてしまう。そして晴風に守られている陽炎も死ぬ。
あんな化物共に子供を殺させてたまるか。
神谷は無線を赤羽に繋いだ。
「赤羽、聞こえるか」
『はいはーい、司令なーに?』
「チームSは晴風の護衛に当たれ」
『えー、まだボス出てねーっしょ?いいの?』
「ああ」
『ふ〜ん、……ま、いいけど。チームS、出るぞ!』
無線が切れた。
……これが正解なのだろうか。
神谷は手を額に当てた。
赤羽の部隊はボスにぶつけるために残しておいた精鋭、最後の切り札だった。
カードが使えるのは一回きり、まだ敵にカードが残っていたらもう打つ手が無い。
「__貴方の導いた答えだもの。勝てるわ」
桜井が優しく微笑む。まるで天使のような声に神谷は少し救われた気がした。
「ああ、そうだな」
神谷は気合を入れるようにパキパキ、と指を鳴らした。
「こっちは俺達で抑え込むぞ!」
「了解!」
北風の甲板にいくつも設置された機銃と2基のCIWSが接近してきた深海棲艦を滅多打ちにする。
北風と弁天は既に敵の射程圏内に入り接近戦を始めていた。
鈴「噴進魚雷に怪物に……もうヤダ〜!」
幸子「そんな時はこちら!目隠し操舵法!」
不知火「え?何してるんですか!?」
幸子「鈴ちゃんは目隠しすると操舵やゲームが上手なんです!」
不知火「そんなことが……」
幸子「さあ鈴ちゃん!let'sGo!」
鈴「う、うん!行くよ!」舵輪グルグル!
ガンッ!(陽炎を跳ねた音)
陽炎「……」チーン
鈴・幸子「あっ……」
不知火「何が上手ですって……?(怒)」ゴゴゴ
鈴「えっと……その…、ごめんなさい!」鈴ハ逃ゲダシタ!
幸子「待って鈴ちゃん置いてかないで!」
ガシッ!
不知火「逃しませんよ?」
幸子は目の前が真っ白になった。
次回もお楽しみに