青い人魚と軍艦娘   作:下坂登

17 / 34
先日ご指摘をいただいたのですが、晴風の主砲がOVAのものと異なっていました。申し訳ありません。
私がちゃんと調べないまま書き始めてしまったのが原因で、一応後付ながら理由を設定したのですが、文中への記載を忘れていましたので、ここに記載させていただきます。
また、陽炎達の艤装についても大きな変更点がありましたので、合わせて記載します。

晴風Ⅱ(沖風改)主砲換装
シュペーの副砲を流用した15cm砲を搭載していたが、他の艦と違う規格のため砲弾の流用ができず不便であり、また晴風の砲術員達から「もっとバンバン連射できるのがいい」「15cm砲は大き過ぎる」等の要望が出たために、先代晴風が最後に搭載していたのと同型のMk39 5インチ主砲に換装された。
ちなみに普段は他の艦との差を無くすためにリミッターがかけられ発射速度が抑えられているが、カットすると毎分60発という驚異的な連射性能を発揮する。

陽炎型駆逐艦娘艤装 変更点
公式ではローファーを履いているが、この小説では吹雪型、綾波型と同じ脚部艤装を履いている。
武装の形状は艦の武装に近いリアルなものになっている。
他の細かい情報については追々言及していきます。

それでは本編にどうぞ。


17話 爪痕、そして調査開始

「吸って……止めて……よし」

 

陽炎は肺に溜めていた息を大きく吐き出し、レントゲン撮影機から降りた。

美波がそのレントゲン写真をパソコンの画面上にいくつも並べて確認していく。何やら難しそうな顔をしているが、陽炎には何がそうさせるのかさっぱりわからない。

 

「……肋骨のヒビは広がっていない、左腕も悪化していない。無問題」

「そう、よかった」

 

陽炎は片腕を吊ったまま、器用に上から学校指定のジャージを羽織った。

 

 

 

 

 

戦いから戻ってきた陽炎を待っていたのは、楓とマチコを連れた明乃だった。

燃料を補給したらすぐまた行く、と告げると、いきなり楓とマチコに両脇から抱えられ、「連行!」との明乃の指示により問答無用で連行された。そして医務室へと放り込まれて、強制的に検査を受けることになった。ちなみに艤装はヒメモモに奪われた。

こんなところでじっとしていられるか!と出ていこうとしたら扉の向こうに薙刀を持った楓が仁王立ちしていて、抜け出すのは無理だと悟った。

 

万里小路さん怖え。

 

 

 

 

 

「ほらね、わざわざ検査なんかやる必要無いっての」

「『スキッパーから投げ出された』『破片が刺さった』と言われては心配にもなるだろう。あと、検査するように言ったのは不知火さんだ」

「不知火……はぁ……」

 

陽炎は大きく溜息をつく。

 

「いくら何でも心配し過ぎだって」

「周章狼狽」

「え?」

「その時の不知火さんの様子だ」

「どういう意味?」

「あわてうろたえる」

 

慌てる?うろたえる?あの不知火が?

陽炎はその光景を想像し、思わず顔がにやけた。

 

「見てみたかったわぁ……」

 

それを見て美波がポツリと呟く。

 

「野間のことを想像している等松のようだ」

「なんか言った?」

「何も……、次に脳の検査もするとしよう」

「何で?」

「頭に衝撃を受けると脳にダメージが残ることもあるから、脳波の測定を行うぞ。それから血圧測定と採血も」

「血ぃ取る必要あるの?」

「感染症などの検査のためだ」

「ふうん……そう」

 

陽炎がどこか含みのある相槌を打つ。

 

「早く戻りたいだろう?」

「ええ、そりゃ当然よ」

「なら、おとなしくしてくれ」

「はいはーい」

 

陽炎は元気よく答え、美波の指示に従った。

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

「0800、艦長会議を始めます」

 

古庄が開始時間になったことを告げる。

武蔵の会議室に各学生艦の艦長が集められていた。その中には当然、明乃ともえかの姿もあった。

 

「まず戦況についてだけど、怪物の掃討はほぼ完了したそうよ。現在は討ち漏らした個体の捜索のため、スキッパー及び飛行船による偵察が続けられているわ」

 

学生達の間にほっと安堵した空気が流れる。

 

「次に艦隊の被害状況、学生艦はいずれも損害は軽微で軽傷者数名、北風と弁天は怪我人十数名を出したものの、航海に支障は無いから心配無いとのことよ」

 

明乃は「嘘だ」と心の中で否定する。

学生艦の被害が少ないのは本当だが、北風と弁天の被害は酷い筈だ。古庄は死者の人数を言わずに誤魔化したが、明乃は晴風のすぐ側で、スキッパーが次々と運転手もろとも爆発するのを見たのだ。何が「心配無い」だ、きっと艦に乗っていた人達にも死者が出ているに違いない。

 

そう考えているのがわかったのだろうか、古庄はさっと次の議題に移り追及を避けた。

 

「神谷司令から、現海域の警戒及び掃海任務の要請が来ているわ」

「期間はどのくらいでしょうか?」

 

もえかが尋ねると、スクリーンに艦隊の展開状況が映し出された。学生艦隊の南の遠くにいるブルーマーメイド隊がこちらに向かっている様子が映る。

 

「南方600kmで展開していた艦隊がこちらに向かっているわ、この艦隊に引き継ぐまでの2日間の予定よ」

 

2日、短いと言えば短い、食料や燃料も十分保つ。引き受けても問題ないだろう。

 

「他に何か言いたいことは?…………無いようね。では掃海任務の詳細を説明するわ」

 

モニターが切り替わり、地図上に群れのいた場所を中心とする青い半径30kmの円と、その中心に赤い小さな円が表示される。

 

「群れのいた場所を中心とする半径30km圏内で怪物の残骸や持っていた武器、弾薬の捜索を行います。中心部から10km程は残骸が多く危険なため北風と弁天に任せ、我々はその外側を担当します。処理はプロの方がするから発見しだい連絡を。

もし万が一生きている怪物がいたら武装による攻撃も許可します。あくまで自艦の安全を優先してください」

 

艦長達が揃って応える。

 

『了解』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

他の艦長達は皆自分の艦へとスキッパーで帰っていったが、明乃はもえかに案内されて武蔵の甲板に上がった。

明乃が武蔵の被害を知りたいと頼んだのだ。

無数の砲弾を受けた甲板は穴だらけになっていて、張り替えるだけの暇も人員も無く壊れた木板を剥がしてブルーシート等で塞いであるだけだった。

高角砲や機銃の一部も被弾し使用不能となり、壊れたまま放置されていた。

 

「……酷いね……」

 

武蔵の痛ましい姿を目の当たりにして、明乃は心苦しくなった。

 

「いくら重装甲でも小型の武装とかはガードされてないから、仕方ないよ」

 

そう言うもえかも悔しさを滲ませている。

 

「こんなにたくさんの武器があるのに、怪物相手じゃ宝の持ち腐れだよ。今回もプロの人達と陽炎ちゃんと、晴風に助けられたんだよ」

 

もえかは始めて武蔵で無力感を感じていた。

46cm砲も大量の機銃も怪物相手にはほとんど効果がなかった。前回も今回も戦いを終わらせたのは陽炎達と晴風だった。武蔵はただデカイ図体と分厚い装甲で敵の気を引きつけ続けただけだった。

 

 

 

__二度とミケちゃんをあんな目に遭わせないって誓ったのに__。

 

 

 

もえかはぐっと唇を噛み締めた。

 

 

 

 

 

「もかちゃん!あれは?」

 

明乃が空を指差す、見上げると1隻の飛行船が武蔵の後部甲板に向かって降下してきていた。

 

「北風の無人機だよ。武蔵で燃料補給してほしいって頼まれたの。飛行船の運用設備が使えるのがうちだけらしくて」

「へ〜」

 

飛行船が誘導に従い後部甲板に着艦すると、待っていた武蔵の乗員達が燃料ホースを繋ぎ補給を始めた。

 

明乃はそれを珍しそうに見ていたが、ふと重大なことに気づいた。

 

「……あれ、……それじゃあ北風と弁天は……」

「飛行甲板にも被弾したんだよ。それも1発や2発じゃないよ」

 

もえかの言葉にハッとする。

 

「つまり、怪物の射程圏内に入って砲撃を受け続けたってこと……」

 

明乃は自分の身体から血の気が引いていくのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

防水処置を始めたとの報告から1時間程、艦の傾きがわずかながら戻った。

 

左舷に魚雷5発をまともに喰らって艦が傾き始めた時はもう駄目かとも思ったが、応急長が突撃隊の男達も強制動員しなんとか浸水を食い止めたらしい。

 

「なんとか沈まずに済んだ……」

 

桜井は艦長席に身体を任せてもたれかかった。

目の前のモニターには被害状況を知らせる艦内図が表示されているが、ほぼ真っ赤だった。浸水、火災、漏電等、集中砲火を浴びた被害は数え切れない。飛行甲板はチーズのように穴だらけとなり、機関は半分死んだ、レーダーも半数以上が破壊され、増設された機銃座は全滅した。

そして、もう1つの被害情報に顔をしかめる。

 

『38名死亡確認、12名行方不明』

 

死亡者のほとんどが艦に居たもので、行方不明の者は全員スキッパー隊員であり、ほとんどが大破あるいは轟沈していて生存は絶望的と思われる。

 

「いくら弁天を生かすためでも、私は間違ってると思うよ」

 

ちょうど今、弁天に乗り移っている神谷に向けた独り言。北風を強引に前進させ、弁天への攻撃を身代わりに受けさせたことへの否定であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……すまねえな」

 

弁天艦内の通路を歩いている途中で、真冬がそう謝った。

 

「何の話だ」

 

神谷はぶっきらぼうにそう返す。

 

「かばってくれたろ、弁天が狙われてた時に強引に割り込んで」

「……合理的判断の上だ。あの時北風は既に満身創痍、それに比べて弁天は飛行甲板くらいしか被害を負っていなかった、使える艦を残したかったんだよ。言うだろう?『戦闘時には重症者よりすぐに復帰できる軽症者の手当を優先しろ』と。それと同じだ」

「……そうか」

 

理由を聞いたあと、真冬は余計に険しい顔になった。

 

「北風の奴等はあんたを恨むぜ」

「指揮官だからな、恨まれて当然だ」

 

2人は飛行船の格納庫に入った。積んでいた飛行船は2隻とも落とされて、スペースは空になっていた。

 

 

 

その代わりに、駆逐イ級の死体が台に括り付けられて積まれていた。

陽炎の砲弾が開けた穴からはまだ血が流れ出していた。

 

 

 

「間近で見ると結構小せえな」

「ああ、しかし不気味な奴だ」

 

魚と兵器が混ざりあったような姿を見て、2人は率直な感想を言った。

 

「原型を留めた死体が手に入ったのは、大きな収穫だな」

「こいつを解析して何か掴めりゃいいが。__おい」

 

真冬は近くにいた衛生士を呼んだ。

 

「衛生長に解析を頼んだんだが、どこまで進んでる?」

「今遺伝子解析を始めたばかりです」

「解剖は?」

「『捌くの難しそうだから、スキャンする』とおっしゃってました」

「スキャンか……どう映るんだ?」

 

真冬はイ級の内部構造を想像してみる。機械が詰まってるのか、魚のように内蔵が詰まってるのか、はたまた未知のトンデモ機関か。

 

「ま、あたし等に理解できる物ならいいがな」

 

真冬は考えるのを止めて、イ級に近づき観察し始めた。

神谷はその場から動かず、じっとイ級を睨んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美波が陽炎に検査結果を告げる。

 

「脳波に異常なし、血圧も正常、血液検査の結果はまだ出ないが、今のところ無問題」

「じゃあ行ってもいいわよね」

「ああ、不知火さんも検査したいから呼んでほしい」

「ん、りょーかい」

 

陽炎は医務室から出ていった。楓も門番の役目が終わったので、開いた扉の向こうから美波に向かって会釈し、その場を立ち去った。

美波はそれを見送ると机に向かい、陽炎の血液の入った試験管を手に取り興味深そうに観察する。

 

「触らぬ神に祟りなし。だが、調べざるを得ない」

 

それは医者としての責務からか、もしくは医学者としての興味本意か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陽炎は工作室に入って、不知火に声をかけた。

 

「不知火ー、お医者さんが呼んでるわよ」

「え?」

 

不知火は総合情報処理端末からこちらへと目を向け、媛萌と百々も手を止める。どうやら不知火の監督の元、艤装の整備中だったようだ。

 

「どうしてですか?」

「不知火も検査したいって」

「出撃してないですが」

「血液検査とかやってなかったじゃない」

「そういえばそうですね。では報告が終わったら行きます」

 

不知火は医務室へ行くのを後回しにして、陽炎に艤装の状態を伝える。

 

「装甲は張り替え中です。機関に若干の出力低下が見られますが5%程度ですので、大した問題はないでしょう。操舵系に異常はありませんでした。武装も弾が無いことを除けば問題ありませんが……よく着けましたねこんな武装を」

「使えるのはわかってたから」

「これ……何なんスか?」

 

百々が駆逐棲姫の主砲を手に取り尋ねた。

陽炎と不知火の主砲とは違い、禍々しいあの怪物らしい形状をしている。

 

「駆逐棲姫の主砲よ」

「それはわかってるっス。でも……見た目は違うんスけど、構造は陽炎ちゃん達のとほぼ一緒なんスよね」

「武器なんて何処の国でも似るものでしょ?」

「それはそうスけど……」

 

百々はまだ何か気になるようでゴニョゴニョ言っていた。

 

「そう言えば、元の武装は?」

 

そう媛萌が尋ねると、陽炎は「え?」と固まった。そんなこと頭からさっぱり抜け落ちていた。

 

「あれ、外して何処やったっけ、確か……えっと……」

 

駆逐棲姫の武装を取り付けて、その後駆逐棲姫を海に還した。そして赤羽に促されて後部座席に__。

 

「あ、武装スキッパーのリアシートに置きっぱなしだ」

 

それを聞いた媛萌は苦笑いし、不知火はこめかみを押さえる。

 

「陽炎……、すぐ連絡して取り返してください」

「え、すぐ?」

「すぐです」

 

不知火は一気に捲し立てた。

 

「あれは元々不知火の武装ですよ、借りたものを戦闘で壊したのならともかく、うっかり無くすなど言語道断です。許しません」

「う、うん、わかったわよ」

 

陽炎はインカムで武装を持っていると思われる赤羽に呼びかけた。

 

「もしもし赤羽さん、武器を返して欲しいんだけど」

『隊長なら今いないよ』

 

無線の先からは、赤羽ではない女性の声がした。

 

『今傷の手当してるから後でこっちからかけ直すよ。じゃあね』

 

相手はそう言って無線を切った。

 

「今治療中って切られた」

「はあ……仕方ないですね……」

 

不知火は大きくため息をついた。

 

「艤装が直ったら取りに行ってくるわね」

「頼みますよ」

 

その時、明乃の声が艦内無線で聞こえた。

 

『艦長の岬です、艦長会議の結果をお伝えします。学生艦隊はこの場に留まり、現海域の掃海を行うことになりました。任務についてのブリーフィングを行いますので、各科長は0900までに艦橋へ集合してください。

あ、陽炎ちゃんと不知火ちゃんも参加してください。以上』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

艦橋にはいつもの艦橋メンバーに加え麻侖と美海も集まっていた。

 

「__晴風は西側のこの範囲を担当します。処理はプロの人任せだから、私達は発見して連絡するだけ」

 

明乃があらかたの説明を終えると、幸子がオンラインの海図を手に発言した。

 

「海流は南に向かっているので、流れてくる残骸は比較的少ないかと」

 

鈴がそれを受けて意見を述べる。

 

「もし漂流物に囲まれると危ないから、見張りをふやしたいな。できたら、他の科からも応援が欲しいよ」

 

明乃はうんうんと頷いた。

 

「そっか……砲雷科は何か意見あるかな?」

「う〜ん、もしもに備えて主砲と機銃は常に使えるようにしたいんだけど、そうなると手が足りないんだよね。正直なところ皆撃ちすぎて疲れてるし」

「うぃ」

 

芽衣の言う通り主砲と機銃を常に使えるようにするには、三交代制でも機銃2丁×3+主砲3名×3=15名が必要になる。ちなみに砲雷科は普段武装を扱わないましろと楓をいれても9名なので、全く足りない。

 

「自動化されてるんだから主砲は1人でいいんじゃないの?」

 

陽炎がそう尋ねると、志摩が首を横に振った。

 

「たいへん」

「回転ハンドルとトリガーがバラバラについてるから1人だと難しいんだよ」

 

芽衣が片手をグルグル回しもう片方でトリガーを引く動作をしながら、補足説明を入れた。

 

「それを3門同時にやるの、できると思う?」

「千手観音じゃなきゃ無理ね」

 

陽炎が納得したところで、明乃が麻侖へと話を振る。

 

「マロンちゃん、機関科からは何かある?」

「修理はもうすぐ終わっから問題ねえけどよ、2日間も動けるように火は入れっぱなんだろ?そしたら燃料がかなりカツカツでい」

 

蒸気タービン艦は缶の火を落とすと、再び圧力を高めるのに半日近くかかる。なのですぐ動く必要がある場合は火を絶やさず圧力を維持する必要があるのだが、当然その間燃料を消費し続けるのだ。数時間くらいならともかく、2日ともなればかなりの量を食いつぶしてしまう。蒸気機関の悪いところだ。

近代艦のガスタービンエンジンなら始動してすぐに動けるので、エンジンを回し続ける必要も無いのだが。

 

「ミミちゃんは?」

「備蓄は十分あるから問題ないわよ」

 

ふむ、と明乃は顎に手を当て考える。

 

「1番は見張りと砲術科のシフトだね。やっぱり手が足りないかな……」

「今の人数で組むとどうしても負担が多過ぎます」

 

ましろの意見に鈴も同意する。

 

「見張りが野間さんとサトちゃんとまゆちゃんとしゅうちゃんの4人……どう考えても無理だよぅ……」

「そもそも軍艦をたった30人で運用するのが間違いなんです」

「それ言ったらキリないから」

 

不知火のド正論を芽衣が押しのけた。

人数不足はもうどうしようもないのだ。

 

「なら、私と不知火も見張りに入るわ」

「え、いいの?」

 

陽炎の提案に、明乃は思わず聞き返した。

 

「ええ、私達凄く目がいいのよ。3.0はあるわ」

「そうじゃなくて、陽炎ちゃん達は晴風のクルーじゃないのに」

「もう、そんなかたっ苦しいこと言わない。使えるものは親でも使えって言うでしょ、こんなに有能な私達を遊ばせとくわけ?」

「う、うん、わかったよ」

 

有能とか自分で言っちゃうあたり図々しいとは思うが、明乃はその勢いに押される形で承諾した。

 

「と、とりあえず見張り台は航海科で回して貰って、右舷と左舷の見張りには艦橋組と陽炎ちゃんと不知火ちゃんを当てよう。それで十分賄える筈だから」

「わかりました。シフト表を作っておきます」

「砲術科の方はメイちゃんにお願いしていい?」

「まっかせて!」

 

幸子はタブレット端末にシフトを書き込みながら、隣のましろに耳打ちする。

 

「新たなミーちゃんポジですよ、シロちゃん」

「どういう意味だ?」

「救助したら晴風の仲間になってくれた人、ってことです」

「なるほどな。だが……」

「だが、なんですか?」

「ミーナさんはブルーマーメイドだったからよかったが、陽炎さん達は部外者だろう……?働かせていいのか?そもそも艦の中を自由に歩き回らせては駄目じゃないか……?」

「細かいことはいいんですよ」

「細かくないわ」

 

ビシッとツッコミを入れるが、幸子は動じない。

 

「もしかしたら、陽炎さん達もシロちゃんと同室になるかもしれないですね」

「それは流石に無いだろう」

 

この時ましろは笑い飛ばしたが、後で後悔することになったのは、また別のお話。

 

 

 

 

 

なんだかんだで砲術科のシフトもすぐに決まり(結局、1人ずつ常駐させればいいという結論に達した)、晴風は掃海任務を開始することになった。

 

「前進微速」

「前進微速」

 

鈴が復唱し、テレグラフを回す。

 

「進路このまま、晴風は掃海任務にあたります」

 

晴風はゆっくりと動き出した。

 

 




ましろ「戦いも終わったし、少しはゆっくりできそうですね」
作者「次の話も戦闘の予定はないよ」
ましろ「それはよかったです」
作者「ゆるい話を書こうと思ってるんだ」
ましろ「ここのところずっと気が抜けないことばかりでしたから、ありがたいですね」
作者「どれがいい?怪談か、水鉄砲戦争か、半舷上陸か」
ましろ「どれも身に覚えがあるんですけど……」

次回もお楽しみに。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。