青い人魚と軍艦娘   作:下坂登

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幸子「今回はシリアスっぽさの無い日常回だそうです。なにやら凄く面白いことが起きたらしいんですが、私は何も覚えて無いんですよね……。どうしてでしょうか?
……はっ!まさか何か重大な機密を知って記憶を消された!?
『君は余計なことまで知ってしまった。君をこのまま帰すわけには行かない、記憶を消させてもらおう。なぁに、ここ数年間の記憶が綺麗さっぱり消えて、君は元の平和な生活に戻るだけだ』みたいなことが!?」
ポンポン(後ろから肩を叩かれる)
幸子「はい?」
作者「これを見て」(何処かでみた宇宙人と戦う男達のような黒いスーツにサングラス。そして謎の光る棒)

パシュン!

幸子「……あれ?私は何を……?」
作者「ココちゃん、前書きだよ」
幸子「あっはい!え〜と、サブタイトルは『相部屋でアンラッキー』相部屋になりそうな人と言えば、もう決まってますよね」

それでは本編へどうぞ。


18話 相部屋でアンラッキー?

 

0930、朝食の時間が過ぎた食堂はガラガラで、お客は芽衣と理都子と果代子しかいなかった。ましろは欠伸を噛み殺しながら遅い朝食を受け取り、誰もいないテーブルに座った。

戦闘が終わった後も被害状況の確認や艦長が武蔵に移っている間の指揮など仕事続きで、ようやく食事にありつけた。

 

実を言うと疲れと眠気であまり食欲は出ないが、それでも食べておかないと身が保たない。少しずつでも食べ進める。こんな状況でも美味しい食事を用意してくれる給養員には感謝しかない。

 

しばらくすると非番になった洋美が偶然やってきた。

洋美は隣に座ると、いろんな話を提供してくれた。噂好き4人組から聞いた教師の噂話や陸での馬鹿騒ぎ等、戦闘や演習とは関係ない話を選んで聞かせてくれて、そういうのを忘れてリラックスしたかったましろにはとてもありがたく、時折クスリと笑いながら相槌を打っていた。

 

 

 

「しろちゃん」

 

 

 

いつの間にか明乃が自分の向かいに食事の乗ったトレーを持って立っていた。

 

「ここ、いいかな?」

「どうぞ」

 

ましろには拒否する理由も無く承諾、明乃はましろの向かいの席に着いた。

すると、

 

「お邪魔しま〜す」

 

何故か陽炎と不知火も艦長とセットでご来店のようで、陽炎は洋美の向かいに、不知火はその隣に着いた。2人は怪我をしていてトレーを持てないため、食事はほまれとあかねが後から運んできた。

 

「「お待たせしました〜」」

「ありがとうほまれ、あかね」

「ありがとうございます」

「いえいえ〜」

「ゆっくりしてってね」

 

杵崎姉妹は厨房へと帰っていった。

ましろは陽炎と不知火に聞いた。

 

「2人もまだ食べてなかったのか?」

「ええ、戻ってきたらすぐ医務室にぶち込まれたから」

「不知火は艤装の点検をしていたので」

 

2人はそう答えると律儀に手を合わせて「いただきます」と言ってから食べ始めた。

その傍らで、明乃が要件を切り出した。

 

「しろちゃん、お願いがあるんだけど」

 

ましろは何故か嫌な予感を感じた。

 

「……何ですか?」

 

そう尋ねて味噌汁をすする。

明乃はとびきりの笑顔で言い放った。

 

「うん、陽炎ちゃん達をしろちゃんの部屋に泊めて欲しいんだ」

「ブッ!!ゲホッゴホッ!!」

 

思わず味噌汁を吹き出しそうになったのを気合いでこらえたが、気管に入ってしまい凄く咳き込んだ。

 

納沙さんの言っていたとおりじゃないか!!

 

「宗谷さん大丈夫!?」

 

洋美が慌てて声をかける。

 

「大丈夫だ、問題無い……」

「それ問題あるフラグだよね!?」

 

ようやく落ち着きを取り戻して姿勢を整え、明乃と向き合う。

 

「何でまた私の部屋なんですか……」

「空き部屋が無くって、部屋の数も前から変わってないんだよね」

「そんな……っ!なんとかならないんですか!?」

 

拒否したい構えのましろに対し、明乃は困り顔だ。

 

「そう言われても……、みなみさんから医務室のベッドは使うなって言われたし……、あとは船倉で寝袋くらいしか……」

「……」

 

その言葉にピクッと芽衣の猫耳リボンが反応した。

 

「あ〜、あれだよね。私等の禁固刑と同じってことだよね」

「「禁固刑?」」

 

陽炎と不知火が息ぴったりに首を傾げる。

 

「いやちょっとやっちゃったことあってさ、タマと私が禁固刑食らってしばらく船倉に閉じ込められたんだよ」

「まさかその原因は、許可なく発砲したとかじゃ無いですよね?」

 

不知火が鋭いところを突いた。しかし、トリガーハッピーの巣窟ならありそうだと考えるのは、些か失礼な気もするが。

 

「まあ、半分当たり?だよね艦長」

「そ、そうだね……」

 

芽衣が同意を求め、明乃は肯定する。

不知火は酷い頭痛を感じた。

 

「大丈夫なんですかこの艦は……っ!」

「いやでもっ!あの時は仕方なかったと言うか、そもそも私等は悪く無いっ!!」

 

芽衣はそうぶった切って不知火を納得させないまま、話を強引に戻す。

 

「副長、ホントに陽炎ちゃん達を船倉にぶち込むつもり?」

「いや……その……」

「暗い船倉に閉じ込められて、寝袋も寝辛くて、精神的にも肉体的にもしんどかったのに……!」

 

そして顔を手で覆い、ぶわっと泣くふりをする芽衣、もちろん嘘っぱちだ。

それに理都子と果代子も乗り、同じように顔を覆い泣いてる振りをする。

 

「水雷長もタマちゃんも辛そうで見ていられなかった……っ」

「ホントかわいそうだったよ……」

「おい!立石さんも西崎さんも意外と禁固刑エンジョイしてただろうが!!」

 

ましろが吠えると、3人は揃って舌を出した。

 

「「「てへぺろ☆」」」

「今度楽しみの無い禁固刑喰らわせてやろうか」

 

ましろが拳を震わせる。

 

「……エンジョイする禁固刑って何?」

 

陽炎が聞くと、不知火は「さあ」と投げやりに答えた。不知火はこの常識の通じない晴風という艦を前に、考えることを放棄していた。

 

ましろは何とか相部屋を逃れる手は無いかと一生懸命考え、ハッと思いついた。

 

「そうだ!晴風に空き部屋が無いのなら、他の艦に移って貰えばいいじゃないか!弁天か北風に引き取って貰いましょうよ!」

 

しかし、明乃は申し訳なさそうに謝った。

 

「……ごめん、私もそれ考えたんだけどね……」

 

そして回想に入った。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「古庄教官、陽炎ちゃんと不知火ちゃんを他の艦に預かってもらえませんか?」

「どうして?……ってそっか、晴風には空き部屋無いものね。わかったわ、ちょっと相談してみる」

 

古庄は神谷と真冬に連絡を取った。

だが、

 

『北風では預かれないぞ』

『こっちも止めたほうがいいな』

 

2人とも受け入れを拒否した。

北風はそもそも沈みかけているから論外として、弁天はと言うと。

 

『また化物が来た時は弁天が盾にならなきゃいけねえんだ、わざわざ危険に晒すわけにはいかねえだろ。学生(ガキ)と一緒に逃げてくれたほうがよっぽど安全だ』

 

と、ごもっともな理由を返された。

古庄はそれを受けて、空き部屋もあり、そして1番頑丈な武蔵が適任だと判断した。しかし、

 

「では武蔵に移ってもらいましょうか」

『反対だ』

 

神谷が異論を唱えた。

 

『自分は晴風が適任だと思う』

「理由をお聞かせ願えますか」

『被害が最も少ない、弁天を除けば1番足が速い、それと実戦経験豊富で怪物との戦いでも成果は抜きん出ていて、学生艦の中では最も頼りになる』

 

真冬も同意する。

 

『そりゃいい考えだ、晴風なら何があっても逃げ帰れそうだしな』

 

反論の余地もない理由に、古庄も同意せざるを得ない。

 

「了解しました」

 

古庄は無線を切った。

 

「岬さん、申し訳ないけど2人はこのまま晴風で預かって貰える?」

「了解です」

 

 

 

     ◇

 

 

 

「__って」

「あああああ!!」

 

ましろは頭を抱えて叫んだ。

晴風が凄く高評価なのはとても嬉しくて舞い上がる程だが、そのせいで退路は絶たれた。

 

「でもベッドは1つしかないじゃない、どうするのよ?」

 

洋美がましろの援護のためそう指摘すると、不知火はさも当たり前かのようにこう答えた。

 

「陽炎と一緒のベッドで寝るので問題ありません」

 

そして陽炎もうんうんと頷く。

 

「これで解決ね」

「待って、2人で寝たらベッド狭いけど、いいの?」

「全然へっちゃらよ」

 

そして陽炎は不知火の背後に回ってベタ〜っと抱きついた。

 

「ねー不知火」

「はい」

 

ましろが「ああ……」と諦めと絶望のオーラを漏らす。

 

「宗谷さん……」

 

洋美もどうましろを励ませばいいかわからなかった。

ましろは机に突っ伏し、魂の抜けた声でお決まりのセリフを言った。

 

「本当に……ついてない……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺風景だった部屋

 

__艦の中ということもあり、必要最低限のものしかないシンプルで殺風景な部屋でした。しかし……、

なんということでしょう!

至るところに飾られたファンシーグッズ達、殺風景だった部屋が年頃の女の子らしい、可愛い気のある空間へと変身しました。

これで夜独りぼっちでも寂しくは__。

 

 

 

「ビフォーアフターやめろ!」

 

幸子のリフォーム番組の用なナレーションを、ましろが強制的に終わらせた。

 

朝食を食べ終わり、陽炎達に部屋を案内することになったら何故か幸子もついてきて、部屋に着いてすぐ飾り付け前の写真を持ち出し突然ナレーションを始めた。

それが可笑しかったようで、陽炎はケラケラと笑った。

 

「凄いそっくり!傑作!」

「お褒めに預かり光栄であります!」

 

副長室は前の航海と変わらず、ましろのかわいいぬいぐるみ達が占領していた。

 

「しろ副長ってこんなのが好みなのね」

 

ましろは恥ずかしそうに顔を赤くした。

 

「悪いか……ってしろ副長!?なんだその呼び方!」

「まーまー、細かいことはいいじゃない」

 

陽炎は並べてあるぬいぐるみを1つ1つ観察していく。

 

「どれもかわいい〜!ね、不知火、そう思うわよね?…………不知火?」

 

返事がないので振り向くと、不知火はベッドに腰掛けて、鮫の抱きまくらのブルースをぎゅっと抱きしめていた。

 

「不知火、どうしたの?」

「……意外と気分が高揚します」

「それ加賀さんのセリフ」

 

どうやらブルースを気に入ったらしくモフモフして感触を楽しんでいる、実に微笑ましい。

 

「ま、いっか」

 

陽炎はぬいぐるみ観察へと戻った。ひよこやアザラシ、ペンギンなどの可愛らしいぬいぐるみ。その中に、1体だけ凄くリアルな猫がいた。

 

「あら、この子だけずいぶんリアルなのね」

 

それを取ろうと手を伸ばしたその時、

 

「なぁご」

「へ?」

 

その猫が鳴いて、顔をスリスリと陽炎の手にこすりつけた。

 

「この子……、本物の猫!?」

「多聞丸だ」

「多聞……丸……?」

 

それは二航戦の飛龍がことあるごとに呼ぶ名前で、陽炎は思わず聞き返した。

 

「私の飼い猫だ」

「え…あ……そ、そうなんだ……」

 

飛龍が出会ったらどんな反応をするのだろうか。

多聞丸はまた「なぁご」と鳴くと、ピョン!と跳ねて陽炎の胸に飛び込んだ。

 

「わっ、ちょっ」

 

陽炎が慌てて右手で多聞丸を抱っこすると、多聞丸はゴロゴロと喉を鳴らした。

 

「お〜よしよし、この子すっごい人懐っこいのね」

「そうだな……」

 

初めて会ったばかりなのに懐かれている陽炎に対し、ましろは少し嫉妬し頬を膨らませた。

 

「むぅ……」

 

それを動物の勘で感じ取ったのか、多聞丸は陽炎の腕から抜けて、ましろへと跳んだ。

 

「にゃ!」

「わっ!?」

「やっぱりご主人様の胸がいいみたいね」

「そ、そうなのか?」

「にゃ」

 

ましろはそんなことを言うが、頬が緩んでいるのがバレバレだ。

 

微笑ましい。

 

「……なんだその目は……」

「微笑ましいな〜と思っただけ」

 

ましろは気恥ずかしくなったのか、コホンと咳払いをした。

 

「あー、部屋を使うに当たってだが、2人は下のベッドを使ってくれ」

「はいはーい」

「ぬいぐるみとかは構わないが、他の私物にはなるべく触れないでくれ。着替えや日用品は後で持ってくるよ」

「はーい」

「あと、最後に1番大事なこと」

 

ギン、とましろの眼が真剣なものに変わる。

 

「1番……大事なこと……?」

「それはだな……」

 

ましろは幸子を指さし告げた。

 

 

 

 

 

「納沙さんが仁義のない映画を見に来るから気をつけろ」

「陽炎さん不知火さん!一緒に見ましょう!」

 

 

 

 

 

幸子がどこからか仁義のない映画のBlu-rayBoxを取り出し勧めてきた。

 

「は……?」

「は?じゃないですよー!」

「なんで?」

「理由なんていいんです!一緒に見ましょうよ!ね?」

 

ずいずいっと仁義のない映画を推し進めてくる、というかずいずいっと近づいてくる、近い近い。

 

「……まあ、1回見てみよっかな」

「ありがとうございます!」

 

本当に嬉しそうな幸子。しかし、不知火は松葉杖をついて立ち上がり、

 

「不知火は結構です」

 

と言った。

すると幸子は、ガーンという効果音が似合いそうな程ショックを受けた。

 

「なっ、なっ、なんでですか?」

「まだ検査を受けてないので。鏑木衛生長を待たせては悪いですし」

 

不知火はそう言い残して部屋から出ていった。

寂しい幸子はましろも誘う。が、

 

「しろちゃんは__」

「悪いが、等松さんに日用品を頼んでこなくちゃならない。それと、その話はもうセリフ一字一句まで覚えてる」

 

と部屋を出ていってしまった。

多聞丸もこっそりと退室。

 

「…………」

 

うるうると目に涙を滲ませる幸子。

陽炎から見てもかわいそうに思えた。

 

「……とりあえず、見よっか」

「はい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

30分後。

ましろが陽炎達の着替えや日用品を持って帰ってきた。

 

「ただいま、……って……」

「ここ見どころですよ!ここ!」

 

幸子が画面を指差すが、答える声は無い。

 

「……スー……スー…………」

 

陽炎、寝落ち。

ベッドに腰掛けたまま頭を垂れて眠っていた。

 

「納沙さん、陽炎さん寝てるぞ」

「えっ!?」

「気づいてなかったのか……」

「陽炎さん!いいとこなのにー!」

「揺するな揺するな」

 

ましろは荷物を机に置くと、陽炎の身体をそっと後ろに倒しベッドに寝かせる。

 

「疲れてるんだろう。そっとしてあげよう」

「はあ〜、しょうがないですね」

 

幸子はため息をついてディスクをレコーダーから取り出す。

 

「せっかく陽炎さんとも友達になりたいと思ったのに」

「その基準が仁義のない映画って間違ってると思うぞ」

 

幸子の友達=仁義のない映画の好きな人らしいが、それでいいのか。

 

「もうワシらの時代はしまいかのお」

「終わるどころか始まってすらいないだろ。私も寝るから出てってくれ」

「また戻ってくるけえ、首洗って待っちょれよ」

「気いつけて物言いや。こんなの言いざまじゃ、まるで喧嘩売るようなもんで」

 

仁義のないセリフで幸子を送り出して、ましろはパジャマに着替え上のベッドに登った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……寝れない……」

 

しばらく横になって目を瞑っていたが、全然眠れない。身体はヘトヘトだし、頭もロクに働かないのに眠れない。

 

怪物との戦いが頭から離れないのだ。

 

この後当直なので、眠れないと疲れを引きずってしまい任務に支障が出る、なんとか寝ておかなけば。

 

「……美波さんに睡眠薬でももらうか……」

 

ましろは医務室へ行こうとベッドから降りた。下のベッドを覗くと、陽炎は相変わらずの安らかな顔で寝息を立てていた。

 

「寝れるのか……羨ましい……」

 

ずいぶんと神経の図太い奴だと思った。

 

 

 

 

 

医務室のドアをノックすると、「ちょっと待って」と少し慌てた美波の声が帰ってきて、ほんの10秒程待つとすぐに「どうぞ」とドアが開かれた。

 

机の上の書類の中に見られたくないものでもあったのか、隠すために慌てて積んだようで山が崩れかかっていた。

 

「何の用?」

「睡眠薬を貰いたいんだが……書類が崩れそうだぞ?」

「え、ああ。感謝する」

 

美波は山の形を整えてから、睡眠導入剤の瓶を取り出した。

 

「また眠れないのか」

「すまない……」

「薬漬は止めてほしいのだがな、航海長も胃薬を貰いに来たぞ」

「それは怪物に言ってくれないか」

「無理難題」

「だろうな」

 

美波は2粒の睡眠導入剤を手渡した。

 

「とりあえずこれを」

「ありがとう」

 

ましろは薬を受け取り礼を言うと、洗面所に行きコップ1杯分の水と一緒に薬を飲み込んだ。ふと鏡を見ると、目の下に大きな隈ができた酷い顔だった。

 

「……疲れてるんだな、私」

 

それに気づいた途端、いきなり強烈な睡魔に襲われた。目蓋が重くなって視界が狭まる。

 

「……あ……ヤバイ……眠……」

 

ましろはフラフラと副長室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さんこんにちは、私達『五十六・多聞丸撮影隊』です。突然ですが、デジャヴに遭遇してしまいました」

「めぐちゃん、誰に言ってるの?」

「多聞丸の猫鍋を撮影していた私達ですが、ふと目を離した隙にいなくなってしまい、探しに艦内を回っていたら……!いつぞやのようにフラフラと眠そうに歩く副長と、その横に付き添う多聞丸が!」

 

まるでナレーターのように語る慧と、それを不思議そうに見る美甘。それと幸子と百々の4人が、ましろの後をコソコソとつけて歩く。

 

「宇田さん、これはもしかして……」

 

幸子が耳打ちすると、慧ははっきりと頷く。

 

「うん、あの時と似たパターンだね」

 

そう、あの時とは、このメンバーが五十六を追いかけなんだかんだあって副長室を覗くと、ましろがミーナを抱きまくらにして眠っているのを目撃してしまった出来事なのだ。

(いんたーばるっ参照)

 

眠そうにフラフラ歩くましろと、それをそっと見守る猫。あの時そっくりだ。

 

「これは追いかけるしかないっスよ」

「「「うん」」」

 

百々の言葉に全員が頷く。

今副長室には陽炎が寝ているはずで、ましろがまた同じことをやってくれるのかとワクワク気になって仕方がない。

当然、他の人の部屋に忍び込むのは半ば犯罪行為にも等しいが、プライバシーとか倫理とかそんなのとうに吹き飛んでしまっている。

またあれを見たい、検閲される前に保存したいという欲望が強すぎた。

 

4人は足音を立てないように気をつけて追いかける。

 

 

 

すぐにましろが副長室の前に辿り着き、扉を開けて中に入った。多聞丸も扉が閉まるまでの間に入っていった。

 

 

 

閉じた扉の前にスタンバイ。

 

慧がドアノブに手をかけ皆を見る。

 

全員の同意を確認。

 

扉をほんの僅かに開き、鍵のかかっていないことを確認。

 

「突入」

 

扉を静かに開き、素早く中へと入り込む。

 

すると__。

 

 

 

 

 

「おおお……」

「流石副長、期待を裏切らない」

 

慧は一心不乱にデジカメのシャッターを切り続け、美甘も構図を変えながらもシャッターを切る。起こさないように設定でシャッター音を消しているので、カチカチというボタンの音だけが響く。

 

皆の期待通り、ましろは寝ぼけて間違えて下の陽炎が寝ているベッドに入ってしまい、陽炎にぎゅっと抱きついていた。

そして驚きなのが、抱きつかれた陽炎もましろを優しく抱きしめ返しているのだ。

 

「いいっスね〜」

 

百々は鼻息荒く目にも止まらぬ速さで鉛筆を動かしスケッチしていく。

幸子は小声でブツブツと裏航海日誌の内容を口から漏らしながら更新する。

 

「なんか、陽炎ちゃんって母性溢れてる気がしないっスか?」

「あーなんとなくわかる」

 

慧が頷く。

 

「副長はなんか子供みたいに抱きついてるけど、陽炎ちゃんはそれをあやすお母さんみたいだよね」

「もしかして、陽炎さんってお姉さんなんですかね?」

 

幸子の疑問に慧は首を傾げた。

 

「え?どういうこと?」

「私には、甘える妹と甘えさせる姉の構図に見えるんですけど……」

 

言われてみれば、そうとも見える。

__妹、ましろと一緒に寝る姉、陽炎__。

 

「言われてみれば、そうかも」

「副長は末っ子だっけ?」

 

美甘が尋ねると、幸子が即答した。

 

「はい、3人姉妹の末っ子です」

「だからこんなに甘えん坊さんなんだー。もう一枚撮っとこ」

 

美甘は再びシャッターを切った。

 

「でも、陽炎ちゃんて妹いるのかな?」

「さあ……?」

「不知火ちゃんは違うんスかね?」

「髪の色違うし、あんまり似てないよね」

「そう?結構似てない?」

「う〜ん……」

「美波さんに血縁関係を調べてもらいますか」

「今忙しそうだから……」

「もしや、黒潮とか親潮って名前の妹がいたりして……!」

「陽炎、不知火、黒潮、親潮……って全員陽炎型の名前かい!」

「いたら凄いねー」

 

ワイワイと陽炎の姉妹について騒いでいた時、

 

「んん…………」

 

ましろがモゾモゾと動いた。

 

「ひっ!」

 

4人はいつでも逃げられるように扉に手をかけ、様子を見守る。

 

「起きた……?」

 

慧はそっと近づき顔を覗き込む。幸子が様子を尋ねた。

 

「宇田さん、どうですか?」

「しっ」

 

慧は口の前に人差し指を立て、静かにさせた。

 

ましろの口が、小さく動いている。

 

「何か言ってるみたい」

 

美甘達も近づいて顔を覗き込み、ましろの唇を注視する。

 

「なんて言ってるの?」

「さあ……」

 

その時だった。

 

 

 

 

 

「岬さん……かわいいなぁ……」

 

 

 

 

 

確かにはっきりと聞こえた。

 

「今、なんて……?」

「岬さん」

「かわいいな、って」

 

4人はしばらく顔を見合わせた。

そして、衝撃の大スクープに一気に沸いた。

 

「「「「きゃあああ!」」」」

「やっぱり本命は艦長だったんだ!」

「噂にはなってたスけど!」

「もしかして陽炎ちゃんを艦長と勘違いしてる!?」

「とんでもないスクープを入手してしまった!陽炎さんに抱きついたしろちゃんが寝言で『岬さんかわいいな』と衝撃の発言!もしかして夏休みの間に何か大イベントが!」

 

そこからは素早かった。

慧と美甘はカメラを動画モードに切り替え、次の寝言を今か今かと待ち構え。百々は今までのスケッチに加え陽炎を明乃に置き換えた、ミケシロ添い寝を描き始めた。幸子は裏航海日誌の更新を凄いスピードで進めていく。

 

「「「「さあ副長(しろちゃん)!次の爆弾発言をください(っス)!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何してるんですか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

声にバッと振り返ると、不知火が何があったのかと不思議そうに部屋の入り口で立っていた。

 

「あ……不知火ちゃん」

「こんな狭い部屋で4人も集まって何してるんですか?」

 

不知火はツカツカと進み、ベッドの横に来た。そして、その光景を見て黙り込んだ。

 

「…………」

 

しかし、様子がおかしい。ブチッと何かが切れる音がした。

慧が恐る恐る声をかける。

 

「あの……不知火ちゃん……?」

「はい?」

「ひいっ!?」

 

思わず後ろに飛び退る。不知火の声は滅茶苦茶怒気を孕んでいて、怪物のような恐ろしい冷徹な眼光でこちらを睨みつけてきた。後ろに鬼でも見えそうな恐ろしさだった。

今まで経験したことの無い恐怖で4人は動けなくなって、子鹿のようにガタガタと震えた。

 

「これはどういうことですか……?」

「えっ……えっとね……副長がベッ……じゃなくて、フラフラしてて危なっかしいから様子を見に来たら……」

 

美甘がしどろもどろながら考えていた理由を言うが、不知火の怒りはちっとも収まらない。

 

「ふうん……それで、陽炎が襲われてるのを楽しそうに撮影していたというわけですか……」

「いやぁ……その……ね……?」

 

本当はましろが寝ぼけて陽炎のベッドに入ってしまっただけなのだが、不知火にとっては陽炎を襲っているように見えるらしい。

不知火がパキポキと指を鳴らす。

 

「皆さん……覚悟はできてるんでしょうね……?」

「その……データは全部消すし、絶対誰にも言わないから許して!」

 

慧はカメラを差し出し命乞いをした。

しかし、

 

「不十分です」

「……え……?」

「人の口に戸は立てられないと言いますし、消すなら」

 

そして閻魔大王のように宣告する。

 

 

 

 

 

「皆さんの記憶から消さなければ」

 

 

 

 

 

4人は恐怖のあまり声にならない悲鳴を上げた。

 

誰か助けてーーー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……う〜ん……う〜ん……はっ!!」

 

慧はガバッと毛布を跳ね飛ばし飛び起きた。目覚めた場所は何故か医務室のベッドだった。

側にいた鶫が気づいて声をかける。

 

「あ、めぐちゃん起きた。おはよー」

「あ……おはよー」

「気分大丈夫?痛いとこ無い?」

「うん……大丈夫」

「よかった。ところで、何があったの?」

「え?」

「ココちゃん達と一緒に廊下で倒れてたんだよ?」

「え?」

 

慧は必死に何があったのか思い出そうとした。

非番になって、美甘に誘われて多聞丸の猫鍋を撮影したら多聞丸が逃げ出して、それから__。

 

「うっ!?」

 

そこから先を思い出そうとした途端、猛烈な頭痛が襲った。まるで何かを思い出させないようにバリアが張ってあるかのように。

 

「めぐちゃん大丈夫?」

「あー……駄目、思い出せない」

「無理しないで、他の皆も思い出せないみたいだし。美波さんが言うには、頭に強い衝撃が加わったことによる部分的な記憶喪失だって」

「そうなの?」

「うん、でも変なんだよね。艦が揺れたわけでも無いし、皆の倒れてたとこには何も無かったし、原因がさっぱり解らないって」

「そうなんだ……」

「ダウジングで探して来ようかな」

 

そんなものがダウジングで見つかるとは思えないのだが、鶫は2本の針金を取り出し構えた。すると、

 

ガシッ。

 

「めぐちゃん?」

 

慧が鶫の腕を掴んだ。

 

「駄目」

「え?」

 

慧の顔は甘納豆入りエクレアを食べた時と同じくらいに青ざめていた。

 

「やめた方がいいよ」

「どうして?」

「どうしてかはわからないけど、すっごく嫌な予感がする。だからやめて」

 

鶫は謎のプレッシャーに押されて、大人しく頷くしかなかった。

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

その頃、不知火は副長室の下段のベッドで陽炎に抱きつきながらウトウト眠ろうとしていた。

 

「……陽炎との同衾は……不知火の特権です……」

 

好きな人と一緒にいられる幸せを噛み締め、ゆっくりと目蓋を閉じる。

 

陽炎が寝言で不知火を呼ぶ。

 

「……むにゃ……不知火ー……」

「……はい、ここにいますよ……」

 

そして、陽炎は不知火を優しく抱きしめた。

不知火は幸せそうに、深い眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この一連の騒動の中で、最も不幸だったのはやはりましろだろう。

 

全く悪気は無かったにも関わらず不知火の逆鱗に触れてしまい、酷い目にあった。

強引に陽炎から引き剥がされ、固い床へと思いっきり投げ飛ばされたのだった。

不幸中の幸いなのは、本人が間違って陽炎のベッドに入ったことや閻魔のような不知火のことも、全く知らずに済んだことくらいだろう。

 

 

 

 

 

「いたたたた……」

 

鈴が秀子から舵を引き継いだのと同時に、ましろが右肩に手を当てながら艦橋にやってきた。歩き方も全身が痛いのかぎこちなく、首や腰には湿布が貼ってあった。

鈴は心配して尋ねた。

 

「副長どうしたの?」

「寝てる間にベッドから落ちたみたいで……。気がついたら床で寝てた」

 

ましろはそう説明しながら志摩から当直を引き継ぎ、志摩と秀子は艦橋を降りていった。

 

「大丈夫……?」

「ああ……。しかし、本当についてない……はあ……」

 

ましろは大きくため息をついた。

 

 

 

この航海もまた不幸続きだ、私の不幸の呪いはいつ解けるのだろうか。

 

 

 




作者「単純に陽炎達が何処に泊まるのか考えてたらどんどん膨らんでこうなりました」
陽炎「不知火の暴走が凄い」
作者「なんか頭の中で勝手に動いてくれたんだ。これでも色々減らしたんだけど……」
陽炎「他に何があったのよ……」





☆悪ノリしすぎたNG集

洋美「待って、2人で寝たらベッド狭いけど、いいの?」
不知火「むしろ密着できるので嬉しいです」
一同「ブウッ!?」



ハラリ
不知火「これは……?」

『リアリストめぐちゃんの秘密メモ
陽炎ちゃん:普通
不知火ちゃん:残念』

不知火「……ロードローラーだっ!!(怒)」

慧「うえ〜ん!胸が真っ平らになったぁ〜!」
鶫「何があったの?」





作者「こんなのが……」
陽炎「流石にやりすぎでしょ」

次回もお楽しみに。

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