作者「夏風邪ひきました」
美波「夜ふかしするからだ」
作者「そのせいで頭が回らずに結構遅れた」
美波「体調管理できない自分のせいだろう」
作者「美波ちゃん、一瞬で元気になる薬ない?」
美波「『薬より養生』普段からの健康管理に優るものはない。薬に頼らずに過ごせるようになれ」
それでは本編へどうぞ。
「これが中身か」
駆逐イ級のスキャンが終了し、神谷と真冬、古庄は会議室のモニターでその3Dスキャンデータを凝視していた。
神谷はとりあえず自分がわかったことを手早く1つ1つ箇条書きでメモしていく。
・動物のような肉体と、金属でできた装甲殻、武装及び推進機関で構成されている。
・武装は口内に格納された1門の砲と側面についた魚雷発射管。
・生物としての構造は哺乳類に酷似している。
・推進機関の存在は確認できるが、原理は不明。
「……こんなところか」
個人的に気になったのは、不知火の言っていた防護膜を発生させる装置の在り処。
バリアを張るというオーバーテクノロジーかつ、怪物の防御の要と言える装置。その仕組みや場所が分かれば、破壊あるいは無効化して防御力を下げ簡単に撃破できるようになる筈。
しかし、それがどれなのか、何処にあるのか。形も材質も分からないので、さっぱり見当もつかない。
「バリアの発生装置はどんな形だろうな?」
神谷は真冬に聞いてみたが、返ってきたのは全く参考にならない答えだった。
「んなことわからねえ」
真冬は真冬で気になることがあるようで、食い入るようにモニターへ顔を近づけていた。そして、唐突に話を振ってきた。
「さっき衛生長に聞いたんだが、遺伝子検査の結果こいつは未知の生物だとよ」
「そうだろうな」
これが知ってる生物だったら恐ろしいだろう、と神谷は驚きもしなかった。
だが、
「ただ、近い生物はあったってよ」
「何だ?」
次の衝撃の言葉には、流石に耳を疑った。
「人間」
「嘘だろ」
あたしもそう思ったよ、と真冬が頷いた。
「鯨かイルカだと予想してたが、まさか人間とはな。……人間……人間か……」
神谷はただその事実を受け止めるように、そう反芻した。
人型と鯨型は別物だと考えていたが、実は似ているものなのだろうか。
「これは……人工物、なのでしょうか?」
古庄が尋ねると、神谷は頷いた。
「まあ、こんな生き物が自然に生まれることはないだろう」
「ええ。ですが、人工物だとしたらかなり歪なものですよね」
古庄の言うとおり、これが人工生命体だとしたら、かなりちぐはぐな印象を受ける。
「体全体が装甲に覆われているので航行能力は推進機関だよりの様ですが、剥き出しの顎や無骨な形状は水中での抵抗を増やします。砲を口の中に格納していますが、兵器としては取り回しし辛く生物としては食事等に邪魔で合理的ではありません」
その考察は全て的を得ていて、神谷は古庄の観察力に感心した。
「流石は教官。……待てよ」
そこでハッと気がついた。
不知火のいう防護膜があれば、体全体を装甲で覆う必要はない。人型の個体のようにほぼ全裸に近い格好でも問題無いのだ。
なのに全身に装甲を施してあるということは、このイ級と呼ばれる個体には防護膜が無いということである。無いのはコストの問題か、もしくは技術的な問題か。すると、イ級が生まれた時にはまだ技術が未完成だったのだろうか。
そこでもう一つ、重要なことに気づいた。
「イロハ順か」
イ級やロ級といった種別名は、規則性は特に無いものだと思っていた。だが、イ級が始めの頃に生まれたとするなら、奴等の名称は「いろはにほへと」順に名付けられているのかもしれない。「あいうえお」ならア級がいないのはおかしい。
もしそうならばイ級は最初に発見された個体で、技術力もまだ不十分な時に生まれたものである可能性が十分にある。当然取れるデータは古くて少ないから、それを元に作る怪物への対抗策も効果が薄くなってしまう。
これ以上の被害を防ぐためにも、できるだけ新しく生まれた、強い個体のデータが喉から手が出るほど欲しい。
イロハ順で新しくなるならば、比較的新しいのは人型に集中している。
神谷は捜索活動中の全隊員へ無線を繋いだ。
「神谷だ。全員、人型の個体を優先的に探せ。生きている奴がいたらなるべく原型を留めて仕留めろ。以上だ」
神谷は無線を切ると肩を落として大きなため息を吐いた。
「
駆逐棲姫は上位個体で、他とは一線を画す性能を持っていた。その艤装や身体を調査すればより重要なデータが取れたのかもしれない。
だが、赤羽に尋ねたところ、死体は陽炎が海に捨てたと言われ、その後よく理解できないことを言っていた。
__何で止めなかったって?あたしが気づいた時にはもう海に落とすとこだったし、あと……何かしたらバチ当たりそうなくらい、めっちゃ美人だった。
いや見た目もそうなんだけどさ、何かこう……純粋ってのかな?あたし等とは反対に穢れを知らない子供みたいな安らかな顔でさ。仲間を殺した怪物だってのに、複雑な気分になっちまったんだよ……。
陽炎にもあたしとは別の解剖してほしくねー理由があるんじゃねーのかな?
例えば……お仲間だとか?
「お仲間……、まさか……!」
神谷が赤羽の考えを理解したのと同時に、弁天の通信長が会議室のドアを開いた。
「失礼します。安全監督室長より電文が入りました」
「内容は?」
それはあまりにタイムリーな内容だった。
『直接お聞きしたいことがあります。陽炎さんと不知火さんについてです』
◇
1622
『艦橋、2時の方向距離50に漂流物ぞな』
マチコと交代で見張り台に上がっていた聡子から、漂流物の報告が上がった。
まゆみと共に当直に就いていた芽衣が応答する。
「こちら艦橋西崎、詳細をどーぞ」
『黒い球状の漂流物、大きさは直径1m程ぞな』
「ん、りょーかい」
芽衣はタブレットに情報を打ち込みながら、念の為に確認する。
「それって怪物じゃないよね?」
『ちょっと待つぞな。…………う〜ん、怪物にあんなのはいないぞな』
聡子が怪物の写真と見比べたが、合致する奴はいなかったようだ。
怪物では無いのがわかって、少しホッとした。
「わかった。そのまま監視しといてね」
『了解ぞな』
「さーて、報告しないと」
芽衣がタブレットに打ち込んだ情報をもう一度確認し、報告しようと無線の受話器を手に取ったその時、陽炎の声が伝声管から響いた。
『ちょっと待って、それワ級かも』
「「ワ級?」」
芽衣とまゆみは「そんなのいたっけ?」と疑問に思い、互いの顔を見合わせた。
『輸送ワ級、弾薬や燃料を運搬するための輸送船よ。写真で確認できてなかったからリストアップされてなかったのね』
自分達が知らなかった理由を聞いて納得したが、それはすなわち、あの漂流物は怪物だと言うことだ。
もし生きていたら攻撃してくるかもしれない。
「ヤバイじゃん!すぐ戦闘配置かけないと!」
すわ一大事と、芽衣は慌てて艦内放送のマイクを握った。しかし、陽炎は落ち着いた声でたしなめた。
『大丈夫そんな必要ないから、落ち着いて』
「どゆこと?」
『ワ級は輸送船だから基本非武装なの、つまり攻撃してこないわ』
「あ、そっか」
ちょっと考えればすぐわかることなのだが、芽衣は慌てていてそこまで頭が回らなかった。
陽炎が聡子へと尋ねる。
『サト、見えるのは球体だけ?本体の白い身体は見えない?』
『身体って、どんな形ぞな?』
『人の身体みたいなの。上半身が球体から生えてるわ』
『……なんか聞くだけで不気味ぞな』
『深海棲艦は全部不気味よ』
『う〜ん、ひっくり返って水没してる可能性もあるから、なんとも言えないぞな』
『わかった。じゃあちょっくら見てくるわね』
「うえっ!?近づくの!?」
芽衣はわざわざ怪物に近づくなんて危な過ぎる、と反対だった。
しかし、当の陽炎は「大丈夫大丈夫」となんてことないように言う。
『身体が沈んだ状態で浮かんでるわけないから、たぶん身体と切り離されたコンテナだけが浮いてるんだと思う。あの中には結構私達が使えるものもあるから確保したいのよ。念の為に主砲と機銃を用意しといて』
陽炎はすぐに艤装を装着して晴風を降りワ級へと向かった。
弾薬の切れた武装は役に立たないため、工作室にあったバールを勝手に拝借し武器代わりに構えている。薙刀や刀は練習したことがあるが、バールを武器として使おうとしたことなんて無くて初めて振り方の練習をする、傍から見たら殺人のイメージトレーニングをするヤバイ奴に見えるのだろう。何度かやってなんとなく感覚は掴めた。
ワ級まで50m程のところで一旦停止、ソナーでワ級の動力音や拍動音がしないか、耳を澄ませて確かめる。
……何も聞こえない、生きてる奴ではなさそうだ。
間近まで近づいて、ようやくワ級の全体像がわかった。
機銃掃射に巻き込まれたようで、肉体とコンテナの接合部が銃弾によって破壊されて肉体は失われていた。残された球状のコンテナもいくつもの弾痕がついているが貫通したものは無い、球状なのが幸いして銃弾のほとんどを弾いたようだ。
晴風へと報告を入れる。
「こちら陽炎、漂流物はワ級のコンテナで確定。肉体は切り離されているから暴れたりする危険はないわ」
それに芽衣が応じる。
『了解、コンテナの中身って何だかわかる?』
「開けてみないとわからないわね」
陽炎はコンテナを晴風へ曳航するために、錨鎖を引き出しコンテナへと引っ掛けた。
「持って帰るから楽しみにしてて」
旅行先から「お土産買ってくよ」と電話する時のように呑気な声で告げて、晴風へと向かう。コンテナの中身はかなり重たいらしく、牽引すると鎖がビンと張った。この重量は弾薬か装備だろうか、開けた時が楽しみだ。
ところで、無線の向こうがワーギャー騒がしくなったがどうしてだろうか。
甲板の真下に着くと一旦コンテナから錨鎖を外して放り投げ、手すりに引っ掛けた。そして駆逐棲姫との戦いの合間にやったのと同じように自分の身体を先に引き上げてから、再びコンテナへ錨鎖を引っ掛けて吊り上げる。
「よいしょっと、あ〜重かった〜」
甲板にコンテナを置き錨鎖を格納したところで、何やら不穏な空気を感じた。
辺りを見回すと、前方には薙刀を持った楓+スリングショットを持った芽衣+角材を武器替わりにした姫萌と百々、後方には警棒二刀流のマチコ+巨大なスパナで武装した洋美、他は割愛するが各々武器を持ったクルー達が取り囲んでいた。
「……何警戒してんの?」
「普通するわ!」
全員が揃って声を荒げる。
「中から怪物が飛び出してくるのがお定番でしょ!」
と芽衣が。
「絶対ヤバイ液体とか入ってるって!」
と秀子が。
「開けたらお婆さんになっちゃうよ!」
と留奈が。
流石に最後の留奈のボケとしか思えない発言には、全員からバシッとツッコミが入る。
「浦島太郎か!」
そのおかげですっかり場の空気が緩んでしまった。そこへ、
「すいません通ります」
人混みをかき分けながら松葉杖をついて不知火がやってきた。起きたばかりなのだろう、前髪が一部跳ねたままで、ジャージもシワがついていた。
「不知火、寝てたんじゃなかった?」
「艦が騒がしくなったので起きてしまいました」
そう説明してから、コンテナの側に屈んでさっと観察する。
「ワ級のコンテナですか、早速開けてみましょう」
「お、乗り気ねぇ」
陽炎はウキウキしながらバールをコンテナの蓋の隙間へと捩じ込む。
鬼が出るか蛇が出るか。クルー達は警戒し身構えた。
陽炎がコンテナに足をかけ体制をつくると、不知火もコンテナを押さえるために手を添える。
「じゃあ行くわよ!3!2!1!GO!」
陽炎が一気に体重をかけると、蓋がバカッ!と物凄い音を立てて壊れて開いた。
クルー達はその音に驚き反射的に顔を伏せてガードしていたが、しばらくして顔を上げても爆発や噴出、老化等は起きておらずほっとした。
一方で、陽炎と不知火は中身を見て目をギラつかせた。
「あはっ、宝の山じゃない!」
中には大量の砲弾と魚雷が入っていた。手に取って見ると、砲弾は12.7cm砲弾ばかりで、魚雷も61cm酸素魚雷だけだった。おそらく駆逐棲姫のための補給物資だったのだろう。
「貰っちゃおう」
「ええ」
早速陽炎は主砲の弾倉を外し砲弾を詰め込み、不知火は魚雷を陽炎の発射管にセットしていく。
「不知火、私の主砲も持って来たら?」
工作室には陽炎が装備していた主砲が1つ置いてあった。
「そうですね。和住さん、持って来てもらえませんか?」
「わかった、持ってくるね」
媛萌は工作室へと走っていった。
2人が装弾している間にクルー達がわらわらと集まり、興味津々に弾薬を覗き込んでいた。
「これが弾なんだー」
「へー、ちっこーい」
「プラモみたいだね」
「よくできてるなー」
各々自由に思ったことを口にしている。
全ての主砲と魚雷発射管、次弾装填装置を満タンにしても、弾薬はまだ有り余っていた。
「残りは工作室に置いとこうかしら」
「賛成です」
そこへ、耳障りな警笛が聞こえた。
1台の武装スキッパーが行儀悪く横滑りしてすぐ側に停止、武装スキッパーのキャノピーが開いて、中から頭に包帯を巻いた赤羽が現れた。後部座席からはS6及川が現れる。
「よっ、弾薬拾ったんだって?あたし等に渡しなよ」
誰かが通報したのだろう。余計なことを。
赤羽の命令を陽炎は即拒否。
「断る」
「おいコラ。全部は使わねーっしょ、余った分よこしなよ」
「弾薬はいくらあっても足りないのよ」
酷い暴論だ、と周りの皆は思った。
「それより、私の武装はどうしたのよ?」
「あーあれか、無くしたよ」
「はあ!?」
「リジェクトシートふっ飛ばした時に一緒に飛んでった」
それを聞いて不知火がキレた。
「そうですか、では絶対に
と冷たく突き放す。
赤羽は真下の海を指さし、
「こんな深い海に潜れっての?潜水艇じゃなきゃ探せねーよ」
と言って手をお手上げポーズに変えたが、不知火は変わらず拒絶。
「なら渡しません」
「はあ、仕方ねーな」
赤羽はため息をつくと指をパキパキと鳴らした。
「及川、実力行使すんぞ」
「了解!」
呼ばれた及川は案外ノリノリで敬礼し、赤羽と共に晴風の梯子を駆け上って甲板に上がり、コンテナに手を掛けた。
「はい押収!」
「持ってくなー!」
陽炎達も取られまいと手を掛け、どうにか怪物の情報を手に入れたい赤羽・及川VS弾薬をたくさん確保したい陽炎・不知火のコンテナ引き合戦開幕。
「邪魔してると公務執行妨害で逮捕すんぞ!」
「大人気ないわよ!」
「法律を語るのが大人気ないっつーっの!?」
「貴女達が持っていても役に立ちませんので!」
「それをこれから調べるんだよ!」
周りを取り囲む生徒達から見たら、どちらも大人気ない不毛な戦いが続く。
片手が使えない陽炎と片脚の支えない不知火が圧倒的不利だと思われたが、予想に反して大人2人に対し全く互角の勝負だった。
「陽炎さん達、力凄くない?」
洋美が目を丸くしていた。それに果代子が頷く。
「陽炎さんねー、副長よりもずっと強かったよ。相撲したら黒木さんともいい勝負なんじゃないかな?」
「そ、そうなの?」
いったいどうしてそう言えるのか、洋美は知らなかった。
しばらく綱引き状態が続いていたが、赤羽に入った無線がそれを終わらせた。
「司令?」
無線に気を取られた赤羽が手を離す。そのせいで力の釣り合いが崩れ、陽炎と不知火は後ろに、及川は前にひっくり返った。
「きゃっ!」
「わっ!?」
「うぎゃっ!?」
きゅ〜、と目を回す3人を尻目に、赤羽は無線の相手をする。
「うん、……え?わかった。…………了解、……わかってる。んじゃ」
赤羽は通話を終えると、うつ伏せに倒れている及川の肩を叩いた。
「及川、帰るよ」
「ふえ?」
「隊長が帰ってこいってさ。早くしないと置いてくぞ」
そう言って踵を返し甲板からスキッパーへと飛び降りる。及川もその後を慌てて追いかけて飛び降りた。スキッパーがエンジンを始動し、晴風から離れていく。
「……やけにあっさりと帰ってったわね」
「ええ……」
陽炎と不知火はぶつけた後頭部をさすりながら怪訝そうにスキッパーを見送った。
◇
「隊長、弾薬を回収しなくてよかったんですか?」
及川が心配そうに、運転席に座る赤羽に尋ねる。
すると、赤羽はまるで悪戯っ子のように笑った。
「え?何言ってんの?」
そう笑う赤羽の手には、コンテナに入っていた12.7cm砲弾が何発か握られていた。
「いつの間に!?」
及川は開いた口が塞がらなかった。
いつコンテナから取っていたのだろうか、さっぱり気づかなかった。
「魚雷も2本持ってきたし、十分だろ?」
赤羽はにやりと笑みを深める。
「ホントはもっと欲しかったんだけど、あいつらと殺り合ったら敵わねーし」
「あれ?いつもなら『男でもグリーンベレーでもぶちのめす』って言うのに」
どうして怪我した子供相手に勝てないと思うのだろうか?と及川が首を傾げると赤羽は、
「あいつらゼッテー人の域外れてやがる」
と真剣な目で言った。
「急ぐよ、室長があたし等に話を聞きたいって言ってるらしいから」
赤羽はフルスロットルでスキッパーを加速させた。
コンテナを開けると……。
陽炎「行くわよ!3!2!1!GO!」
ボフッ!
秀子「うわっ!煙が!」
留奈「ホントに玉手箱だった!?」
赤ちゃん陽炎「……バブー」
赤ちゃん不知火「ブー」
一同「
次回もお楽しみに。