陽炎「知らない方がいいわよ」
鈴「え?」
陽炎「正体を知っちゃった人はね……消さなきゃいけないのよ!」鈴ニ主砲ヲ向ケル!
鈴「きゃあああ!!」
不知火「そんな掟ありませんから、変なことを吹き込まないでください」
それでは本編へどうぞ。
「宗谷安全監督室長、ご無沙汰しております」
『お久しぶりです、神谷司令』
モニター越しに神谷と真霜が挨拶を交わす。
弁天の会議室には神谷と真冬、古庄がいた。ちなみに桜井は北風の応急修理にかかりっきりだ。
モニターの向こうの真霜の顔には誰でもわかる程疲れの色が出ていた、真冬もこんな顔の姉を見るのは生まれて初めてだった。それだけ、この怪物の引き起こす被害が類を見ない大きさなのだろう。
『神谷司令、真冬艦長、古庄教官。怪物体の撃退、ご苦労様でした。報告は既に受けていますが、直接確認したいことがあるのでこうして連絡させていただきました。晴風が救助した陽炎さんと不知火さんについてです。』
真霜が2つのレポートを映し内容を読み上げる。これは明乃ともえかが提出した戦闘報告書だ。
『岬艦長、知名艦長からの
ちょうどその頃、武蔵の側に不知火さんが現れ、陽炎さんと同じように三十体あまりを撃破。その最中に攻撃を受けたもののなおも交戦。途中で陽炎さんと合流し武蔵格納庫へ乗り込み、武蔵の一斉射撃に合わせて再び突撃、しかし怪物の攻撃により重傷を負い行動不能に陥ったところを、晴風に救助された』
写っていたレポートが次の物に変わる。古庄がとった聴取記録だ。
『聴取では、自分達のことに関しては姉妹だということ以外何も語らなかった。しかし、怪物を以前から知っていた様子で「深海棲艦」と呼び、生物と機械の融合体であることを話した。また航行能力、戦闘能力は彼女達の持っていた艤装によるものだと判明した』
最後は神谷の書いたレポートへ変わる。
『2人は非常に協力的かつ多くの情報を知っていて、怪物の基本から種別ごとの能力差等、ありとあらゆる情報を提供してくれた。
殲滅作戦においては陽炎を囮とし、群れのリーダーをおびき寄せた。陽炎は晴風と協力しこれを撃破。その後も戦闘を継続し群れの殲滅に貢献した。
__これらは全て事実ですか?』
真霜はこれらの報告疑っているというより、あまりにも要領を得ない報告に戸惑っているようだった。突然ピンチに美少女戦士が現れ、獅子奮迅の活躍で怪物を倒し艦隊を救った。そんな特撮ヒーローかアニメのような話が本当にあるものかと。
神谷が代表して肯定する。
「はい、相違ありません」
『そうですか……。部外者を戦闘に参加させるなど問題行動もありますが、今は置いておきます』
真冬はその言葉に若干の呆れと怒りを読み取った。姉と神谷の間に何かあったのだろうかと少し興味が湧くが、今は黙っておく。邪魔したら後が怖い。
『彼女達は何者なのでしょうか……?』
「身元確認できる物は何もありませんでした」
神谷はただ淡々と答える。
「ここからは自分の推測ですが、年齢は外見から15歳前後と思われます。顔立ちや言葉使い等から、日本人の可能性が極めて高いです」
『他には何かありますか?』
真霜が目線を動かし真冬達にも意見を求めると、真冬は困ったように頭を掻いた。
「そう言われてもなあ……、知ってることは全部レポートに書いたから、もう何もねえぞ」
真冬の言葉に古庄も意見を添える。
「自分達のことについてはほぼ黙秘を貫いているし、怪物と戦う子達ということくらいしかわからないのよね」
『指紋照合は行いましたか?』
真霜は最後の望みの指紋照合に期待していたが、神谷がすっと照合結果を映し、それはあっさりと崩れ去った。
「もうやりましたが、ノーヒットでした」
データベースに一致する指紋無し。
『はあ……』
モニターの向こうで真霜が大きなため息をついて頭を抱える。普段ならそんな様子は決して見せないのだが、よっぽど疲れているために隠す元気も無いらしい。
『証言も取れず身元もわからないのでは……、どうにもならないじゃない……』
「真霜姉が尋問したら吐くんじゃね?」
『軍関係者は口が固いから大変なのよ』
真霜はうんざりしたように愚痴った。
どいつもこいつも「機密です」「黙秘する」のオンパレードで中々落ちないし、逆にこっちの情報を聞き出そうとする輩もいるからやり辛いことこの上ない。
と、ここで神谷が切り出した。
「取り調べでは彼女達も口を閉ざすでしょうが、それ以外であればボロを出すのではないでしょうか」
『どういうことですか?』
「つまり、晴風で過ごす内に晴風のクルーに何か話しているかもしれません。部下の話では既にクルー達とかなり親しくなっていたそうですし、大事なことを明かしていてもおかしくはないかと」
真霜は思いがけない言葉に、その手があったか!と顔を明るくした。
『では生徒達からも話を聞きましょう!古庄先輩お願いできますか?』
「任せて」
古庄が胸を張って頷いた。
そこへ、両手に荷物を抱えた赤羽がノックもせずに、いきなり扉を足でガン!と蹴飛ばして開けて入ってきた。
「失礼しまーす」
「お前はまともにノックもできないのか」
神谷がこめかみを押さえる。
高校生ですら部屋に入る時はノックしろと教わるというのに、この部下は全く教わって来なかったらしい。北風にいる時ならともかく、他の艦でもこの調子とは呆れるばかりだ。
「両手塞がってんだから仕方ねーじゃん。お、室長ちーっす」
さらに、安全監督室長たる真霜の前でも、気怠そうな雰囲気を崩すつもりは無いようだ。
その態度に真霜も一瞬顔をしかめた。
『どうも赤羽さん。その両手の荷物はなんですか?』
真霜が尋ねると赤羽は机の上に荷物をドンと置いた。
陽炎の12.7cm砲2基と大破した4連装魚雷発射管1基、砲弾6発、魚雷2本。
「陽炎の武器と怪物の弾薬一式調達してきたよ」
それを聞いて全員が驚愕のあまり目を見開き口をあんぐりと開け、そのまましばらくフリーズ状態が続いた。
「えっ……、ど、どうやって持ってきたの?」
古庄が凄く動揺しながら聞いた。
陽炎達があんなに触れられたくないと「爆発しかねない」とまで言って大事にしていた艤装を、どうしてそんなあっさりと持ってこれたのか見当もつかない。
「え?戦闘中にあたしのスキッパーで武装を交換して、リアシートに置きっぱなしだったからネコババしただけ」
先程陽炎達には「リジェクトシートふっ飛ばした時に一緒に飛んでった」と言っていたが、あれは嘘だ。実際にはリアシートの足元に置いてあったため、リジェクトシートの射出には巻き込まれずに済んでいたのだ。
「弾薬はあいつらが回収したコンテナから拝借してきた。お手柄でしょ?」
「ああ、お手柄だな」
神谷はその大きな手で赤羽の頭をワシャワシャと撫でた。すると赤羽は嬉しそうに言った。
「じゃあ美味い肉奢ってよ」
「お前は毎回一言余計だな」
神谷は苦笑いした。
「……ちょっと待て、陽炎が武装を交換したって言ったよな」
真冬がハッと気づいてそう尋ねると、赤羽はのほほんと頷いた。
「そうだねー」
「なら、陽炎が今使ってる武装は誰のなんだ?」
「お、気づいた?」
赤羽は楽しそうに、にやりと笑って明かした。
「陽炎がくっつけてんのは、駆逐棲姫の武装だよ」
その場が固まる。
誰も何も言わないのをいいことに、赤羽はポンポンと言葉を吐き出す。
「手持ち式の連装銃ならともかく、魚雷発射管はバーベットのサイズが共通じゃねーと装着できねーし、制御系統も同じじゃねーとすぐには使えない。さらにこの弾薬は怪物の物だけど」
赤羽は主砲を手に取り弾倉を外すと、持ってきた砲弾を一発差し込む。それはカシャンと軽い音を立てて
次に大破した魚雷発射管を手に取った。1番右の1門だけがかろうじて原型をとどめている。そこへ魚雷を押し込むとカチリという音とともに装填された。
「銃弾も魚雷もおんなじもの。この意味がわかる?陽炎達と怪物の装備は全く同じ規格で造られてるってことだよ。
同じテクノロジーを使った奴等だっていうのはわかってたけど、規格まで一緒ってのはおかしいよねえ?」
真霜が尋ねた。
『……つまり、なんだと言いたいの?』
「あいつらの武装は同じところで造られたってことだよ、だから武装が全部共通規格なんだ。あともう1つ、確証はねーけど1番でかい爆弾が……」
赤羽が大袈裟な前置きをして核心に入ろうとしたその時、通信士の声が割り込んだ。
『神谷司令、晴風の鏑木衛生長より通信です』
「いいとこなのにじゃますんなー!」
「黙れアホ!」
直上から神谷の拳骨を食らって、赤羽は「星が見える……」と言い残し撃沈され机の影に消えた。神谷は「石頭が」と吐き捨て痛めた拳をさする。
パワハラもいいとこだが、これが平常なのだろうか。
真冬が「ひでえ……」と漏らしていたが、自分のセクハラとどっこいどっこいだと思われる。
「今会議中だが、緊急なのか?」
『はい、とにかくすぐ話したいと』
「内容は?」
『陽炎さんと不知火さんについて重大なことが判明したと』
それを聞いて渡りに船とばかりに即承諾。
「よし、こっちに回せ」
『了解』
すぐにモニターの画面が組み換えられ美波の顔が映った、背景を見る限り晴風の医務室から通信しているようだ。
『晴風衛生長の鏑木だ。陽炎さんと不知火さんについて至急報告したいことがある』
美波は努めて平静を装っていたが、あまりに驚きの発見のようで動揺を隠し切れていない。
どんなに重大な発見なのだろうか、と興味と恐ろしさが入り混じって心臓が飛び出しそうなのを必死に押さえつける。と、
「当てようか?」
机の下からひょこっと頭にたんこぶを作った赤羽が顔を出す。
こいつにはもう答えがわかっているようだが、神谷が沈痛な表情で黙らせた。
「言わなくていい、たぶん当たってるだろうからな」
これから明かされることは、禁忌に触れることなのかもしれない。だが、聞かないと言う選択肢はない。
神谷は発言を促す。
「鏑木衛生長、言ってくれ」
美波は自分を落ち着けるため、大きく息を吸った。
『結論から言おう、彼女達は……』
__人間じゃない__。
『……待って、どういうこと?彼女達が人間じゃないって』
真霜が目を見開いたままで説明を求めた。
真冬や古庄も同様の反応をしている。
一方で赤羽は「あたしが言うとこだったのに」と唇を尖らせ、神谷は変わらず沈痛な顔のままだ。
『正確には我々と違うと言うべきだろう』
美波がモニターにDNAの検査結果を表示した。ぶっちゃけ医学等に詳しくない者からすれば、何がどうなってるのかさっぱりだ。
『2人から血液を採取し遺伝子解析を行った、その結果DNAの構造が我々とはだいぶ異なっていた』
「ど、どう違うんだ?」
真冬が尋ねる。
『詳しい説明は追々するが、異種との掛け合わせ等で誕生するものではない、明らかに
人為的に、人が何かの目的を持って人の遺伝子を弄んだ。
一体何の目的の為に。
画面が切り替わりレントゲン写真が映る、誰かの左腕のようだが単純骨折して、見事に骨が真っ二つになっている。
『これは陽炎さんを救助したすぐ後に撮ったレントゲン写真だ』
陽炎は戦艦棲姫との戦いで左腕を骨折していて、その治療のために撮ったものだった。
だが、パッと見ただけでその異常に気がつく。
『ひと目見ただけでわかるだろうが骨密度があまりに高い』
そう、あまりに骨密度が高く、骨が塗りつぶしたように真っ白く写されていたのだ。
「密度が高いってことは、それだけ頑丈ということ?」
古庄が尋ねると、美波は首を縦に振った。
『そうだ。次にこれを見てくれ、これはその腕を今日撮影したものだ』
次に映されたのも陽炎の左腕のレントゲン写真。前回の撮影から2日も経っていないので、ほとんど変わりは無いかと思われた。
だが、それを見た一同は驚愕した。
「おいおい……何でもう骨がくっつき始めてんだよ……!?」
真冬が声を上げた通り、骨の破断部がもう癒着し始めているのだ。
「普通骨が直るのにひと月はかかるだろ!?たった2日じゃ折れたままじゃねえのか!?」
『普通は完治するまで2ヵ月くらいかかるだろう。しかし、陽炎さんの治癒状態から考えると、1週間もあれば完治できると思われる』
「1週間!?」
神谷が感嘆の声を漏らす。
「通常の8倍以上の回復力か……凄いな……」
『左腕だけでは無い、肋骨も同じくらいの回復速度だ。さらに無数にあったかすり傷や切り傷、火傷に打撲等の小さな傷のほとんどが既に消えかかっている』
『……つまりは、頑丈な身体と驚異的な回復能力を兼ね備えている。ということね』
「あと身体能力もね」
『え?』
赤羽が軽い口調で付け加える。
「あいつ等の動き、どー考えても人外でしょ。瞬発力、スタミナ、動体視力、ありとあらゆる能力がおかしいレベルで高過ぎるんだよ」
異論は出ない。古庄達も根性注入の仕返しに、真冬をパンチ一発で軽々と吹き飛ばしたのを目撃しているからだ。あれがただの少女の力だとは到底思えない、同じことができるのはムキムキの大男くらいかもしれない。
『頑丈な身体、驚異的な回復能力、圧倒的な身体能力、それらを手に入れるための遺伝子組み換えなのね』
『そうだ』
『……まさかとは思うけど、その目的って……』
真霜は恐ろしい考えに至った。身体から血の気が引いていくのが自分でもわかる。他の人もその考えに至ったのか、黙り込んでいる。
『……人造兵士……』
「超人的な力に頑丈な身体、もし負傷しても凡人の何倍もの回復速度、戦争にうってつけってか?胸糞悪い」
神谷が不機嫌に吐き捨てる。
「司令、『おまけにロリなので敵の警戒心もゼロになります。声をかけてきたところを一撃です』が抜けてるよ」
「黙ってろ!」
不真面目に茶化す赤羽を神谷が一喝するが、
「いや見た目大事だろ」
真冬がまさかの肯定。
「ムキムキマッチョより、ロリの方が警戒されにくくていいだろ?」
「めっちゃ美人だしな。そこらのロリコンなんてイチコロっしょ」
「しかもいい尻してるしよ」
「うわー変態だ」
「うるせぇ」
何故か盛り上がる2人を余所に、古庄が真霜へと向き直る。
「流石に……憶測に過ぎないんじゃないかしら、いくらなんでも考え過ぎよ」
その言葉は、何処か歯切れが悪い。
『……私もそう思いたいですが、彼女達自身が怪物を倒すためにいると言った以上、その可能性の方が高いでしょうね……』
古庄の脳裏に、作戦会議の時の陽炎の声が流れる。
__でも私はあれを倒すためにいるの!私が戦わなきゃいけないのよ!__
「……信じたくはないわね、あんな子供が戦争のために作られたなんて」
『私もです……』
古庄と真霜はうつむき沈黙した。
「あ、そうだ。大事なもん忘れてた。言おうとして邪魔されたんだった」
赤羽がふと思い出したように、真冬との話を切り上げてタブレット端末をいじり始めた。
「どうした?」
「ちょっとね。……あれ?DNAの照合ってどうやんの?」
「見せろ。……ああ、ここまで来たら照合したいのを選択して、開始ボタンを押せばすればできるぞ」
「サンキュ」
赤羽は真冬に教えられた通りに端末を操作し、照合を始めた。
「誰のを照合したんだ?」
「んー?」
赤羽は照合結果が出るのを待ちモニターに映し出した。
そして、飛び切りの悪い笑顔でぶち撒ける。
「
__DNA適合率96.9% 酷似した生物同士だと思われる。__
その場が凍りつく。
『……何……これ……?どう…………いうこと……?』
真霜も動揺を隠せず、言葉が途切れ途切れにしか出なかった。
「陽炎と不知火と怪物はほぼ同じ存在ってことだよ。人外ヤローが2つ居たらその可能性くらい疑えよ」
赤羽は呆れたようにため息をつく。
「陽炎が怪物とまともに戦える理由がわかったろ?同じ怪物だから同じ土俵に上がれるんだよ。ま、どっちが先でどっちが後かなんてのは、さっぱりだけどさ。
あたし等は
そして神谷と向き合い、瞳が怪しく光る笑顔で言う。
「よかったねー司令、生きた人型のサンプルが手に入ったじゃん。
解剖してあれこれ調べればもっと手がかりが得られるかもよ?」
だが、
「くだらん」
神谷は間髪入れずに一蹴し、力強く断言する。
「2人は海上安全監督室が救助した『人』だ、我々が保護すべき存在であることに変わりはない」
そして赤羽を鋭い眼光で睨みつけた。
「二度とそんなことを口にするな」
「……悪かったって、あたしも本気じゃねーってば」
赤羽はヘラヘラと笑ってそう釈明して、
「でも、見た目が女の子だからって庇護欲が湧いてんなら、痛い目見るよ」
と再び妖しい光を灯した瞳で忠告した。
「わかってるさ」
「ならいいけど」
赤羽はそれ以上の追及はしなかった。
なんでうちの部隊の女はこんな面倒くさいのばかりなんだ、と神谷は聞こえないようにボソッと呟いてから、話を進める。
「陽炎達と怪物が似た存在なら、陽炎と不知火は名前から駆逐級に当たる」
「陽炎型航洋艦ですね」
古庄の答えに頷く。
「そうだ、陽炎と不知火は陽炎型駆逐艦の1番艦2番艦の名前。武装の形状は明らかに陽炎型をイメージしている。わざわざ艦を模倣する理由は理解できないが、もしそうなら他にもいるかもしれない」
「吹雪型や白露型を模した子もいると?」
「戦艦や巡洋艦の可能性もある。__室長、他の部隊からは陽炎達に似た人物の報告は入っていませんか?」
『今現在は入っていません。発見したらすぐ知らせるよう通達します』
「頼みます」
真冬が次の話題を切り出す。
「なー真霜姉、大事なこと気づいたんだけどよ」
『何?』
「陽炎達、陸でどうすんだ?」
『どうするって?』
「あいつ等怪物に似てるんだろ?未知の生物とか調べるのってよ……」
「「「あ……」」」
そこまで言って全員が察した。
このような時に研究に当たる機関はいくつかある。
文部科学省 海洋科学技術機構
国立海洋医科大学 先端医療研究所……等
しかし、そのほとんどの機関があの事件に関わっていた。
『Ratの開発チーム……!』
「それってヤバくね?あいつ等が何されるかわかったもんじゃねえぞ。わけわかんねえ実験しまくって、最凶の洗脳ウイルス作って、大パニック引き起こしやがって、最後は証拠隠滅してしらを切り通しやがる奴等の集まりだぜ。
陽炎達を渡したら解剖だの人体実験だのヤベエことしまくって、怪物よりヤベェことしそうな気がするんだけどよ……」
『……容易に想像できるわね……』
真霜の額を汗が伝う。
『そのデータを元に新たな怪物を作り出そうとしたりしそうね……』
「絶対やるぜ。陽炎と不知火を奴等に渡しちゃならねえ」
『あいつ等の目に触れないようにしないと……』
『でもどうするんだ?病院や保護施設に入れたら間違いなく知れるぞ』
美波の指摘に、真霜は頭を悩ませた。
『家も引き取り手もないから私達で保護するしかないのだけれど、どう隠し通しましょうか……』
「まあ、そっちは真霜姉に任せるわ。あたし等にはちっとも思いつかねえからよろしく」
『わかったわよ』
真霜は溜息をついて、話の締めにかかる。
『陽炎さんと不知火さんの処遇は現状のままでお願いします。調査は引き続き行っていただきますが、この件について口外は一切禁止です。データも最重要機密事項に指定させて貰います。何かあった時は私への直通回線で連絡をお願いします』
「「「了解」」」
◇
「……疲労困憊……」
美波は通話を終えパソコンをスリープモードに移行し、椅子にぐったりともたれかかる。
2人のレントゲンを撮影した時から、何か他の人間とは違うことには気づいていた。
駆逐棲姫との戦いの後、不知火から必ず陽炎の検査をしてくれと言われて、それに便乗する形で血液を採取し分析した結果、人間とは違う遺伝子を持つことがわかった。正直自分の目を疑った。それから休まずにより詳しい分析を行い、すぐに神谷へ報告をしようとしたら会議にそのまま参加させられた。
人造兵士やらなんやらと恐ろしい言葉が出てくる中、もっと恐ろしい事実を知ってしまった。陽炎と怪物のDNAが酷似しており、赤羽曰く陽炎達は怪物と同じとのこと。
ハッキリ言って脳みそがキャパオーバーになりそうだ。
陽炎達と怪物は人為的に作られた表裏一体の存在で、自分達はその戦いに巻き込まれた?駄目だ、もう訳がわからない。
ひと息入れるため塩ココアを飲もうと、マグカップに瓶から塩を移そうとして、切らしていたことに今更気づく。検査しながら飲んで大量消費したのをすっかり忘れていた。
億劫だが厨房に取りに行くしかない。
カップを手に椅子から立ち上がり、廊下への扉を開いた。
「美波さん」
扉の向こうで待ち構えていた人物から名前を呼ばれた途端、カランと乾いた音を立てマグカップが床に転がった。
「ねえ、美波さん」
声をかけられただけなのに、身体が凍りつき何もできなくなる。彼女の感情を圧し殺した声だけが、医務室に響く。
「今の、どういうこと?」
明乃が美波の前に立ち塞がっていた。
明乃「今の、どういうこと?」
美波「今の……とは……?」ゴクリ
明乃「『休まずにより詳しい分析を行い』って、ちゃんと休まないと倒れちゃうよ!」
美波「そっちか!?」(心配してくれるのは嬉しいが!)
次回もお楽しみに。