青い人魚と軍艦娘   作:下坂登

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作者「MMDを始めたら、凄く楽しくてハマりました。キャラクターを自分で自由に動かせるって面白いです。ちなみにお気に入りはやっぱり陽炎(改二)です」
陽炎「始めたきっかけは?」
作者「陽炎達の外見や動きについて立体的に知りたかったから」
陽炎「それなら改二じゃ意味無いんじゃない?改造する前の姿じゃなきゃ」
(小説では陽炎達は未だ改)
作者「あ……」
陽炎「……アホか」

それでは本編へどうぞ。


21話 知らなければよかった

 明乃にトンと軽く胸を押されて、抵抗できないままよろけて数歩後ろへ、医務室の中へと押し戻される。

 

 明乃は音を立てないように扉を閉め、美波と向き合う。

 普段は天真爛漫で豊かな表情を見せる明乃だが、この時は感情を表に出さないように無表情を取り繕っていた。

 

 美波は磔にされたように固まっていたが、やっとの思いで声を絞り出した。

 

「……どこから……聞いてた……?」

「『人造兵士』ってとこから。後は途切れ途切れだったけど」

 

 彼女が美波へと一歩ずつ近づいてくる、その足音がまるでカウントダウンのようにカツン、カツン、と響き、

 

「もう一度聞くね、どういうこと?」

 

 カウントがゼロになり至近距離から顔を覗き込まれて、影の落ちた暗い瞳が向けられる。

 

「言えない……、箝口令が敷かれて……」

()()()

 

 明乃が語気を強めて有無を言わさぬプレッシャーをかける。

 もはや美波に抵抗できる余地は無かった。

 

「……2人の身体が異常な程頑丈で回復速度も早いのは診てすぐにわかった。だから血液を採取して調べたら、遺伝子が人為的に組み換えられていたことがわかった。さらに、身体能力も強化されていることも」

「頑丈で回復が早くて力も強い……だから兵士にうってつけってこと?」

「それはあくまで想像に過ぎない、単純に死ににくい身体を作りたかったのかもしれん。だが……」

 

 美波は明乃からさっと逃げるように顔をそむけて、パソコンのスリープモードを解除し陽炎と駆逐イ級の遺伝子照合結果を映す。

 

「怪物と極めて酷似した遺伝子構造を持つことが判明した」

「陽炎ちゃん達は『怪物とほぼ同じ存在』、だって赤羽さんが言ってたっけ」

 

 美波はコクリと頷く。

 明乃は「そう……」と気持ちの乗らない言葉だけを残し、踵を返した。

 

「何処に行く?」

「陽炎ちゃん達のとこ」

「待て!」

 

 美波は慌てて呼び止めと、明乃は振り返らずに立ち止まった。

 

「どうするつもりだ?」

「直接確かめるの」

「駄目だ、口外しないよう言われてるんだ」

「だからって、黙ってられないよ」

 

 明乃はドアノブに手をかけた。なおも美波は食い下がる。

 

「第一問い詰めてどうする、相手がどう受け止めるかもわからないぞ」

 

 真霜が陽炎達の処遇を現状維持としたのには理由がある。陽炎達に、怪物と同じ存在だと事実を突きつけ拘束しようとすれば陽炎と不知火は抵抗するかもしれない。手負いとは言え超人的な身体能力を持つ2人をすんなりと取り押さえられる保証は無いし、艤装を使い全火力を注げば晴風すら撃沈できるかもしれない2人を敵に回したら目も当てられない。

 

 何より協力関係をぶち壊せば怪物の情報も得られず戦況はより悪化する、それは絶対に避けなけねばならない。

 

 だから、何も知らないふりを決め込むことにしたのだ。

 

「もしそれで陽炎さん達が我々から離れたら__」

 

 

 

 

 

「だからって、黙ってなんかいられないよ!」

 

 

 

 

 

 明乃が声を荒げて振り返る。

 色んな感情がごちゃまぜになって噴き出す。

 

 自分でもどうすればいいかなんて全然わからない。

 ただ、思うまま言葉を吐き出す。

 

「陽炎ちゃんも不知火ちゃんも仲間だから守りたいし、できたら踏み込みたくない。もし誰かが戦いのために生み出したのなら、私はその人を許せない。

でもね、古庄教官も神谷司令も言わないけど、たくさんの人が死んでるんだよ!」

 

 美波がその言葉に息を飲む。しかし、明乃は止まらない。

 

「もうこれ以上誰かが死ぬのも、傷つくのも見たくないよ!だから、もしそれで何か新しい情報が聞き出せるなら……!」

 

 そこまで本心を吐き出して、言葉が出なくなる。

 

 明乃が見てきた陽炎と不知火の様子がフラッシュバックして、頭から離れない。

 

 

 

(私は陽炎、駆逐艦陽炎よ)

(不知火です。よろしく)

(ねえ、ちょっと作戦教えてよ)

(こちらの数も少ないですし、何より敵の情報も少な過ぎます。何があっても不思議ではありません)

(可愛くないぞ岬艦長、ほらリラックスリラックス)

(だから、私は仲間を守るために戦う)

(守ってもらった私が断言する、ミケ艦長は晴風に相応しい艦長になるわ)

(人を守るのが私達の使命でしょ、相討ち覚悟で戦ってやるわよ!)

(……岬艦長、陽炎が気を引いている内に離脱を……)

(大丈夫なんですかこの艦は……っ!)

(ねー不知火)(はい)

 

 

 

「それで……っ、誰かが守れるなら……っ!」

 

 明乃は胸が締め付けられるように苦しくなった。

 

 

 

 陽炎も不知火も、怪物でもなんでも無い。自分と同じ、晴風の皆と同じ普通の女の子だった。

 楽しければ笑って、苦しい状況に追い詰められ焦って、頭を抱えて、励ましてくれて、協力して強力な敵に立ち向かって。

 

 もし怪物と同じだと事実を突きつけて問い詰めたら、彼女達は傷つき悲しみ、私達との間に壁を作ってしまうかもしれない。最悪の場合、艦隊から去ってしまう可能性もある。

 

 

 

「……それが、正しい選択だと思うか?」

 

 美波の問いかけに、明乃は思いつめ泣きそうな顔でうつむく。

 

「わかんない……わかんないよ……」

 

 陽炎と不知火を守りたい気持ちと、海の人々を守りたい気持ちの板挟みになった明乃の心は判断を拒否し思考停止、彼女はその場でうずくまった。

 

「……なら、大人に丸投げすればいい」

「……え……?」

 

 美波の口から出た意外な答えに、明乃は顔を上げた。

 

「この問題は精神年齢の幼い艦長には重すぎる、大人に任せるのが最適だと医者として意見具申する」

 

 あまりにこじつけな理屈に、明乃はポカンとしてしまった。

 

「そんなのでいいの……?って言うか私の精神年齢幼いって言った!?」

「失礼、年相応というべきだったかな」

 

 美波は明乃をからかい、何処か子供っぽい笑みを浮かべた。

 

 この艦長は相変わらず1人で抱え込もうとする、このくらい言ってやるべきだろう。

 

「前の航海と違って頼れる大人が何人もいる、艦長が全てを背負う必要はない。無理なら教官にでも司令にでも任せておけばいい」

「そう……かな……?」

「そうだ」

 

 美波は落としたままだったマグカップを拾い上げ、ついでに明乃を引っ張り上げ立たせる。

 明乃はまだ完全に納得はできていないようだが、表情が明るさを取り戻している。少し気が楽になったようだ。

 

「わかったよ、この件は教官達に任せるね。ありがとう美波さん」

 

 明乃は美波にそう微笑んで、医務室を後にした。

 

 

 

 美波は緊張から開放され、ひとまず胸をなでおろした。

 

 あんな艦長を見たのは初めてだった。

 

「……それだけ追い詰められているのか……」

 

 美波にも艦隊の被害はよくわかっていない、北風と弁天の被害報告の中には死者数が含まれていなかった。おそらく、学生達に精神的ショックを与えないように、との配慮なのだろう。

 罪悪感や恐怖心に耐えきれず、PTSD等を発症する可能性がある。戦いを経験してきた大人達はともかく、幼く戦いや死を目の当たりにした経験の少ない学生達は、より発症しやすいと思われるからだ。

 

 しかし、一部の頭が回る者は既に気づいている。明乃もその中の1人のようだ。

 自分達を守るために誰かが死んでしまったことが、罪悪感を背負わせているようだ。

 

……重圧に潰されなければいいが。

 

「教官にカウンセリングを頼むか……」

 

 カウンセリングは専門外かつ経験も少ない。なので、大人に任せるのが最適だろう。教官ならきっと大丈夫の筈だ。

 

「頼む前に一服しておこう」

 

 美波は扉を開き、厨房へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

検索:飛行機

 

一致する結果は見つかりませんでした。

 

 

 

検索:空の乗り物

 

関連項目:飛行船 気球

 

 

 

「不知火ー、なにしてんの?」

 

 ましろ不在の副長室で、陽炎が不知火の手元を覗き込む。さっきから不知火はベッドに転がってずっとスマホをいじっている。

 ちなみに、今使ってるスマホはどう見ても不知火のものではない。不知火のスマホはピンクだが、今使ってるのは赤だ。何処から持ってきたのか、誰のなのかは触れないでおく。

 

「調べ物です」

 

 不知火はそう素っ気なく答えて、秀子から借りた世界史の教科書を捲る。

 側には晴風の生徒達や艦内図書から借りた、歴史や艦船に関する本が山を作っていた。子供向けの図鑑から高校の教科書、読んでると目が痛くなりそうな字が細かく分厚い本まで、様々な種類の本が積まれている。

 

「ふ〜ん」

 

 陽炎は集中しているところを邪魔するのも悪いと思い、放っておくことにした。

 椅子に腰掛けて背もたれに身体を預け、ぼーっと天井を見上げる。

 

 チラッと横目で不知火を見やるが、調べ物に夢中のようで本とスマホとにらめっこを繰り返している。

 

「歴史ねえ……」

 

 陽炎は教室で読んだ歴史の教科書の内容を思い返す。

 世界大戦が起きなかったり、飛行機のことが一切書かれていなかったり、ブルーマーメイドがどうのこうの書かれていた。

 

 そんな馬鹿なことがあるか。

 

 陽炎も大まかな歴史くらいは学んだことがある。ライト兄弟によって飛行機が生まれ、世界は2度の世界大戦を起こし、日本軍は自衛隊に変わった。

 あんなの嘘っぱちに決まってる。

 

 

 

 だが、旧型艦の存在だけが引っかかる。

 

 武蔵を始めとする旧型艦艇群は、どれも本物だった。いや、本物だと言うのは語弊があるかもしれない。

 

 武蔵も比叡も摩耶も五十鈴も名取も照月もあの戦争で沈んでいるから、此処にいるのは陽炎達の知るその艦では無いはずだ。

 だが、どの艦も確かに偽物では無かった、最新式のレーダーやダビッド以外は何1つ変わっていなかったし、何十年もの年季が入っておりレプリカとも思えない。

 何より、陽炎の直感があれは本物だと訴えている。理由は定かでは無いが、なんとなくわかるのだ。

 

 一体どういうことなのか、陽炎にはさっぱりわからない。

 どう考えても、なにを考えても堂々巡りを延々と繰り返す。

 

「あーあ、考えるのはやーめた」

 

 車に乗るライダーを真似たセリフを吐き、瞼を閉じて身体の力を抜く。考えが行き詰まったら、一回頭の中をスッキリさせてリセットするのか大事だ。

 

「呑気ですね」

 

 それを見て不知火が嫌味っぽく言った。陽炎は手をヒラヒラと動かし答える。

 

「四の五の考えるのは苦手なのよ〜」

「そうですか」

 

 不知火はそれだけ言って、すぐににらめっこを再開した。

 陽炎は再びだら〜んと腕を垂らし、頭をスッキリさせようとして、ふと疑問を思い出した。

 

「ねえ、『晴風』って艦を聞いたことある?」

「今乗っているじゃないですか」

「そうじゃなくて、()()()()と会う前にってことよ」

 

 不知火はふむ、と少し考えてから答えた。

 

「ありませんね」

「そうよね、やっぱり聞いたこと無いよね」

「急にどうしたんですか?」

 

 陽炎は床を蹴り、椅子のキャスターで滑って不知火の側へと近づいた。

 

「他の艦は知ってるのに、晴風だけは聞いたこと無くってさ。不知火は知ってるかなーって。あと、この艦なんか妙な感じするのよね」

「妙な感じ、ですか?」

「凄いのにボロい、新しいのに古い、みたいな?」

「……よくわからないんですが……」

「なんて言ったらいいんだろう……、あ!」

 

陽炎はやっといい例えを思いついたようで、パン!と手を叩いた。

 

「要するにチグハグな感じがするのよ!」

「チグハグ……?」

「この艦も他の陽炎型と同じ時期に造られたっぽいけど、それにしては妙に新しい感じするのよ」

「高圧缶に最新式レーダー、5インチ砲Mk39なんて魔改造をしているんですから当然でしょう」

「装備じゃ無くって、艦そのものの話よ!艦そのもの!」

「はあ……」

 

 陽炎が強く訴えるが、不知火にはちゃんと伝わらず、形ばかりの相槌を返されるだけに留まった。

 と、その時、不知火の持つスマホが震えて着信を知らせた。発信者の名前は「真冬姉さん」、間違いなく宗谷真冬艦長のことだろう。あのセクハラ艦長か、と2人は眉をしかめた。

 そして陽炎は、不知火の持つスマホがましろの物だと理解した。いつの間に盗んだのだろうか、加えて何故ロックを解除して使えているのだろうかという疑問が湧く。

 

「真冬姉さんだって、しろ副長は妹だったのね」

「あんな姉を持って、大変そうですね」

 

 あんな姉がいる日々を想像してみるが、とても耐えられそうにない。2人ともましろに同情するとともに、自分の姉妹があんな変態でなくて良かったと幸せを感じるのであった。

 

「で、どうする?シカトしとこっか?」

 

 勝手に他人の電話に出るのは良くないことだと、陽炎はそのまま止まるまで放っておこうとした。が、

 

ピッ。

 

 不知火が躊躇いも無く通話ボタンを押した。

 

『おいしろ、手短に用件だけ言うぞ。陽炎と不知火に気になることがあったらすぐ連絡しろ。わかったか?』

「ええわかりましたよセクハラ艦長、電話の相手くらいきちんと確かめましょうね」

『なっ!?おま__』

 

ピッ。

 

 不知火は言いたいことだけ言ってすぐに通話を切った、その顔にはしてやったりと満足そうな笑みが浮かぶ。

 

「大事な要件なら気をつけるべきです」

「最後の驚きっぷり面白かったわ」

 

 2人はハイタッチを交わす。陽炎も真冬をからかうことができたので、十分楽しかった。

 

 しかし、何故真冬は今更そんな警告じみた命令を、何故個人回線でましろにしたのだろうか。同室になると決まった時点で既に「気をつけろ」等の警告を受けていてもおかしくない、なのに何故改めてしたのだろうか。

 

「……私達、なんか悪いことしたかしら?」

「してませんよ?」

 

 不知火にも心当たりは無いようだ。それなら考えていても仕方無いと思い、再び背もたれに体重を預けてぐだ〜っと身体の力を抜いた。

 

 そこへましろが戻ってきた、キョロキョロと部屋の中を見回し、何かを探しているようだが……目当ての物はやはり。

 

「なあ、私のスマホを知らないか?」

 

 不知火がスマホを見せて聞き返す。

 

「これですか?」

「そうそれ」

 

 不知火は素直にましろへスマホを返した。たぶんましろは盗られたなど全く思っておらず、置き忘れたと思っているのだろう。

 閲覧履歴は返す直前に全て抹消されているだろうし、使ったことがバレる心配は無い。

 

 

 

「……なんかバッテリーが凄く減ってるんだが……」

 

 

 

 撤回、バレる心配は残っていた。

 

 

 

「それにキーボードの予測変換に身に覚えの無い単語があるんだが……」

 

 

 

 さらに撤回、ほぼバレた。キーボードの学習機能までは気が回らなかった。

 完全に疑いを持ったましろがジト目で不知火を睨むと、不知火の背中を嫌な汗が流れる。

 

「……不知火に落ち度でも……」

 

 追い詰められた不知火は目線だけを動かし陽炎に助けを求めた。

 陽炎は「しょうがないな」と重い腰を上げて助け舟を出す。

 

「さっき真冬艦長から電話あったわ」

「え?」

「『陽炎と不知火に気になることがあったら連絡しろ』だって、すぐにかけ直して聞いた方がいいわよ」

「へ!?」

「私達が聞いちゃいけない話だろうし、外出てるわね」

 

 目を丸くしているましろを他所に、陽炎は不知火をベッドから引っ張り出し、さっさと部屋から退室する。

 

「ちょっと待って!」

 

 ましろが呼び止めるが、陽炎がパタンと扉をしめたので、その後の声は聞こえなくなった。

 

 陽炎はふぅと一息ついてから、不知火に呆れた様子で文句を言った。

 

「……あんた詰めが甘いのよ」

「……すみません」

 

 不知火は申し訳なさそうに頭を下げる。陽炎は「ま、もういいけど」と流した。

 

 そこへ、明乃がやってきた。

 

「2人とも何してるの?」

 

 明乃は不思議そうに尋ねてきた、部屋から不知火を引っ張りながら出てくるところを見て、何かあったのかと心配になったらしい。

 

「しろ副長がセクハラ艦長と電話してるから、邪魔かなと思って」

「セクハラ艦長……」

 

 真冬の悪いあだ名に明乃は苦笑いした。

 

「ミケ艦長は何してるの?見回り?」

「うん、そうだよ」

「ふ〜ん」

 

 陽炎は明乃の雰囲気の僅かな変化に気がついた。なんとなくだが、暗くなった気がするのだ。何か大変なことでもあったのだろうか。

陽炎は気になって尋ねた。

 

「何かあったの?」

「何かって何?」

「なんか大変なことよ」

「何も無いよ?」

 

 本人はそうとぼけるが、やはり何か隠しているように見える。いや、抱え込んでいると言うべきか。

 陽炎は思い切って踏み込むことにした。

 

「嘘ね。ミケ艦長、あの時と同じ顔してるわよ」

「あの時?」

「私と貴女だけで艦橋で話した時よ。また何か抱え込んでるんじゃないの?」

「何も無いから心配いらないよ。陽炎ちゃん達こそ大丈夫かな?何か困ったこと無い?」

 

 どうやら話してくれる気は無いようだ、ここは一旦引くしかない。

 

「そう……、私達は大丈夫よ。でも何か相談したいことがあったら気軽に言ってね。いつでも聞くわよ」

「ありがとう、気持ちは受け取っておくね」

 

 そう言って笑顔を残して、明乃は去っていった。

 その後ろ姿が見えなくなってから、不知火が言った。

 

「何か隠してますね」

「そうね」

「聞き出さなくて良かったんですか?」

「無理に聞いても無駄よ」

 

 陽炎も明乃が心配でたまらなかったが、あの様子では明かしてくれそうにない。もしかしたら自分達には話せないことかもしれないし、諦めるしかなかった。

 

「では、宗谷副長に相談しておきますか?」

「それ、いいアイデアねっ」

 

 陽炎は不知火の言う通りだと思い、ましろに相談することにした。副長なら艦長を支えられるだろう。

 

 ちなみにスマホの無断使用については、結局後でこってり絞られるハメになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでいいんだ」

 

 明乃は廊下を独りで歩きながら、自分で自分に言い聞かせる。

 

「私が黙っていれば、陽炎ちゃんと不知火ちゃんは傷つかない、皆も怪物とは思わずに普通に接して、過ごしてくれる。皆が幸せなら、これでいいんだ。

美波さんの言ってた通り、きっと教官や司令がなんとかしてくれる、怪物への対抗策だって真霜さん達がなんとかしてくれる。私は私にできることをしていればいいんだ」

 

 ポジティブな言葉の裏で、明乃の心は一向に晴れなかった。

 ブルーマーメイドとしての海を守る義務を他人に任せ、艦の中の父親(お父さん)に徹するのは、人魚(ブルーマーメイド)としてやってはならないことだと自覚している。

 だが、今は考えたくなかった。多くの人の死を受け止められず、クラスメイトと陽炎達を守ることだけに集中するように心が勝手に強引に蓋をして、重荷を心の奥底に閉じ込め笑顔を作る。

 

「艦の家族(みんな)を守らなきゃ駄目だ。私は、艦長なんだから」

 

 明乃はそう自分に改めて言い聞かせ、艦橋への階段を登っていった。

 

 

 




ミケちゃんが精神的に追い詰められ始めました。
周囲の方々はサポートをお願いします。


今回は何度もプロットが崩壊を繰り返しました。ミケちゃんが真実を知ったらどう思うのか、何度も考え直して書き上げました。
ここから陽炎達との関係はどう変化するのでしょうか。

もうすぐ次の戦闘回に入る予定です。晴風と艦娘が今度はどんな戦いを繰り広げるのか。

次回もお楽しみに。

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