青い人魚と軍艦娘   作:下坂登

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 更新が遅れてしまい、申し訳ありません。色々なことがあり、執筆に集中できない日が続いておりました。

作者「とうとうアズールレーンのアニメが始まりました。私は楽しみに見ていますが……皆は見てどうだった?」
明乃「面白かった!」
陽炎「艦が艤装に変形して装着されるところとか、カッコいいわよね」
芽衣「艦船が空飛んでるとかどうなってんの!?あれじゃあ魚雷が当たんないじゃん!ふざけんなー!」
明乃「そこ!?」
不知火「いえ、かなり重大な問題です。魚雷が当たらないなら、不知火達では勝ち目がありませんから」
作者「よし、じゃあ次の敵はアズレンから出すか。空飛ぶ敵とか面白そうだし!」
一同「「「「却下!!」」」」

※出しません

それでは本編へどうぞ。


22話 面談

 翌朝、古庄は晴風を訪れていた。昨日の会議で提案された、陽炎と不知火についての聴取を生徒達からすること。それと美波から依頼されたカウンセリングのためである。古庄自身、生徒達の様子が心配だったので、急遽予定に組み込んだ。

 

 明乃の了承を得て教室を貸し切り、即席の面談室にした。そして資料やメモ等の準備を終えると、艦内無線を使って通達する。

 

「これより教室にて個人面談を行います。名簿順に行いますので、最初に出席番号1番の青木百々さん、教室に来てください」

 

 

 

 

 

 呼び出してから1分後、スケッチブック片手に、セーラー服に油染みを作った百々がやってきた。

 

「失礼するっス」

「どうぞ座って。汚れてるけどどうしたの?」

「あ〜、さっきまで工作してたからっスね」

 

 百々は椅子に座り、古庄と向かい合った。

 見た限りでは、疲れが溜まっている様子はない。

 古庄は早速切り出す。

 

「ずっと戦闘続きだけど大丈夫かしら?体調を崩したりしてない?」

「全然大丈夫っスよ」

「本当に?」

「本当っス、こんな戦闘続きも慣れっこっスよ。反乱扱いされた時も似たようなもんだったっスから」

 

 その軽口が、古庄の心にグサッと刺さった。

 操られていたとは言え、晴風に向かって容赦の無い砲弾の雨を降らせ、さらには反乱容疑をかけるという教官、否、人としてやってはいけないことをしてしまった。

 罪悪感は今でも残る。

 

「ごめんなさい、本当にごめんなさい」

「あっ!?す、すみませんス!あの、決して悪気は無かったんスよ!?頭を上げてくださいっス!」

 

 百々がワタワタと慌てて古庄を宥める。古庄は顔を上げ、気持ちを入れ替えた。

 

「じゃあ体調面は問題無し、と。今仕事は何をしてるの?」

「だいたい機関室の手伝いっスかね、あとは陽炎ちゃんの艤装の整備っスね」

「艤装の?」

 

 古庄のメモを取る手がピタリと止まった。百々が目を輝かせて楽しそうに語りだす。

 

「はいっス、給油とか装甲板の交換とかくらいっスけど。あれかなり面白いんスよ!」

「詳しく聞かせて」

 

 古庄は興味津々に続きを促した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜かれこれ十数分〜

 

 

 

 

 

「それじゃあ、伊勢さんを呼んでくるっス」

「お願いね」

 

 長引いた面談が終わり古庄は百々を送り出した後、タブレット端末に保存した画像をスクロールしながら見返した。

 

 まさか艤装の整備をやらせて貰っているとは思わなかった。

 1人目から大き過ぎる収穫が得られた、百々が整備の傍ら部品の形状や構造をスケッチしていたのだ。缶と呼ばれる動力源からアームの接合部まで、写真のような精密さで描かれていた。

このままレポートに載せたいレベルの出来で、同意を得て写真を撮らせて貰った。

 

 これで艤装の情報が意図せず手に入った訳だが、古庄は素直に喜べなかった。何故なら、

 

「……さっぱりわからないわね……」

 

 図を見ても、艤装の原理はちんぷんかんぷんだったのだ。

 

「蒸気パイプは無いし油圧配管も見当たらない、電気駆動にしても各部を繋ぐ電線が無い。……どうやって動いてるのかしら……?」

 

 いくら考えてもわからないため、そのことは一旦脇に置いておく。

 それともう1つ、百々が話してくれた情報があった。

 

 

 

(確か、夕張さんとか明石さんとかって言ってたっスね)

 

 

 

 

 

__「夕張さんなら朝飯前でしょうが……」

「明石さんなら寝ながらでも……」

「できそうですね……」

「居ないしねぇ……」

「居ないですからね……」__

 

 

 

 

 

「夕張……明石……」

 

 その名前から浮かぶのは、軽巡洋艦夕張と工作艦明石、どうやら軽巡や工作艦まで仲間にいるようだ。

 ……早く会えればいいのだが。

 

コンコン

 

ドアがノックされ、古庄は意識を現在へと戻す。

 

「はい」

『伊勢で〜す』

「どうぞ入って」

 

 桜良がドアを開いて入室し席に着く、古庄は気持ちをリセットして面談を始めた。

 

「伊勢さん、調子はどうかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「松永さん、他に聞いておきたいことはある?」

「いえ〜、もう大丈夫です」

「じゃあこれで面談を終わります。岬さんを呼んできてもらえる?」

「了解です。ありがとうございました〜」

 

 理都子が退室し、教室には再び古庄1人になった。しんと静まり返った中、古庄は面談内容のメモを見返していく。

 

 やはり心身の疲れを感じている者が結構いた。また戦闘になるのかもしれない、無事に帰れるのだろうかと不安に襲われ、不眠や食欲不振、倦怠感に蝕まれていた。鈴に至っては胃薬漬けになっているらしい。

 それでも晴風の業務を回せているのは、前回の航海による連戦への慣れだろうか。だが、いずれ限界を迎えて壊れてしまいかねない。

 

「何もできないなんて、歯がゆいわね……」

 

 休ませようにも艦隊が到着するのは明日の夕方、それまで何も無いことを祈るしたかない。

 

 結局は運任せか、と自分自身の無力さを恨む。

 

 せめて戦う()があれば、あの時のように。

 

 

 

 

 

コンコン

 

 

 

 

 

 ドアがノックされた。

 

 そうだ、この生徒が今回1番の問題だった、しっかり話して重荷を解いてあげなければ。

 

『岬です』

「入って」

 

 ドアがゆっくりと開き、明乃が入室した。

 

「失礼します」

「どうぞかけて」

 

 明乃と向き合い、彼女の目を見る。

 

 疲れて、覇気の無い暗い瞳だった。

 

 だが、彼女はそれを隠して元気な(てい)を演じている。

 

「岬さん、ずっと連戦続きだけど大丈夫?疲れやすくなったりとか、体調を崩したりしてないかしら?」

「全然大丈夫です!」

 

 明乃は笑って答えた。

 

「そう……」

「それより、皆の様子はどうでしたか?」

「え?」

「皆元気無いなって感じてて、どうでしたか?」

「……大半の子が何かしらの不調を訴えているわ」

「そうですか……」

 

 それを聞いて、明乃は申し訳なさそうにうつむいた。

 

「私がもっとしっかりできていれば……」

 

 違う、そうじゃない。

 

「私、ダメダメですよね……」

 

 違う。

 

「……私が艦長として、ちゃんと皆を支えてあげないといけないですよね」

 

 

 

 古庄の悪い予感の通りだった、明乃は晴風艦長としての責務に囚われて、自分のことをおざなりにしているようだ。

 

 

 

 

 

「……岬さん」

 

 古庄は優しく語りかけるように言った。

 

「鏑木さんから聞いているわ。陽炎さん達の正体を知ってしまったことも、多くの人の死に気づいて、苛まれていることも」

「え……」

 

 明乃の被っていた、晴風艦長としての笑顔の仮面が割れる。

 

「こんなことを言っても慰めにしか聞こえないのかもしれないけれど、貴女はよくやっているわ。陽炎さん達を助けて、群れのリーダーを撃破して、晴風の活躍で艦隊の多くの人が救われている、だから気に病むことは無いのよ。

 多くの人が亡くなったのも、貴女達を戦いに巻き込んでしまったのも、私達大人の責任なの。だから__」

 

 

 

「……だからって……」

 

 

 

 明乃の顔に影が落ち、瞳から光が消える。

 古庄も「しまった」と後悔したが、時既に遅し。

 

「私達を守るために何人もの人が亡くなったのには、変わりないじゃないですか」

 

明乃が拳を握りしめ、身体を震わせる。

 

「私達だって晴風って戦える艦に乗ってるんですよ、それなのに……!スキッパーが吹き飛んでいく時も、北風や弁天が被弾している時も、何もできなかった……!」

 

 こんなことを言っても無駄だということは明乃にもわかっている、何を言おうと起きたことは何も変えられない。

 だが、決壊した言葉の流れは止められなかった。涙とともに、ボロボロと溢れていく。

 

 

 

「教官……教えてください……。私はどうすればよかったんですか……?これからどうすればいいんですか……?」

 

 

 

「それは………………」

 

 古庄はすぐには答えを見つけられなかった。そして見つかった答えも、生徒に言うべきか判らなかった。だが、ここで言わなければ前に進めないと思い、覚悟を決めて口を開く。

 

「……岬さん、ブルーマーメイドになるのなら、この先も多くの人の死に立ち会うことになるわ。先輩だけじゃなく、同僚や友人。そして、助けを求めていた人々の死にも。

 その度に今のように抱え込んでいては、いずれ壊れて誰も救えなくなるわ。だから、私からのアドバイスは__」

 

 古庄は明乃と目を合わせ、優しい声で教えた。

 

 

 

 

 

「__信頼できる人と共有しなさい。喜びだけじゃなく、悲しみも苦しみも後悔も。それが自分自身を壊さない唯一の方法よ__」

 

 

 

 

 

「……教官はそれで救われましたか……?」

 

 明乃は縋るようにか細い声で尋ねた。

 古庄は微笑んで答えた。

 

「ええ、救われたわ」

「……そうですか……、ありがとうございます、教官」

 

 明乃が深く頭を下げる。

 古庄はひとまずの解決に、ホッと胸を撫で下ろした。

 

「もし私にも相談したいと思うなら、いつでも連絡して」

「わかりました。……あの、私だけじゃなくて、他の皆もいいですか?」

 

 こんな時でも仲間を気遣う明乃を見て、古庄は少し頼もしく思うと同時に、また自分を蔑ろにしているのではないかと心配になった。

 

「もちろんよ」

 

 

 

 果たして、自分はこの子をちゃんと導けるのだろうか。

 

 

 

 ……そう言えば、次の面談相手は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明乃の次の面談相手はましろだった。

 

 ましろは席に着いて開口一番、古庄に尋ねてきた。

 

「教官、……その……岬艦長は大丈夫でしたか?」

 

 明乃のことが心配でたまらない気持ちが、ハッキリと伝わってきた。いても立ってもいられない、そわそわした様子が。

 

「……何か気にかかることがあったの?」

「昨日の夜から様子がおかしいんです。落ち着いていないというか……、追い込まれているというんでしょうか__」

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 __昨晩。真冬との電話を終えて、陽炎達にスマホの無断使用について文句を言ってやろうと扉を開けると、

 

「シロ副長、ミケ艦長なんか変よ」

 

 と陽炎が言ってきた。

 

「変?」

「大変なこと1人で抱え込んでる感じ」

「大変なこと?」

 

 ましろは首を傾げた。大変なこととは何なのか、さっぱり見当もつかない。新しい情報も逐一確認しているが深刻なものは無かったし、この晴風にも特に問題は起きていない……筈だ。

 

 ……何があったのか心配になってきた。

 

「艦長の悩み、聞いてあげてよ」

「ああ、わかった。……が、その前に、人のスマホを勝手に使ったことについて話がある」

「後で聞くから、先にミケ艦長と話して__。…………ごめんなさい……」

「すいません……」

 

 ましろがジイっと睨みつけると、陽炎達はそれに負けて観念したように頭を下げた。

 

 

 

 

 

 しばらくの間、陽炎達に機関銃(マシンガン)のように文句を言ってから、艦橋へと戻った。

 

「あ、しろちゃん。スマホ見つかった?」

 

 明乃が声をかけてきた。

 陽炎の話を聞いて心配していたが、いつも通りの明るい声だった。

 

 なんだ、何も問題無さそうだ。

 

「ええ、不知火さんに勝手に使われているのを見つけました」

「……ロックは?」

「解除されました」

「どうやって?」

「わかりません」

 

 ましろが肩をすくめると、明乃はクスクスと笑った。

 

「気をつけようね、しろちゃん」

 

 

 

 

 

 明乃と2人きりでの当直。あれだけの激戦を繰り広げた海域だというのに、嫌な予感すらしない程の静かな海だった。

 起こったトラブルと言えば、多聞丸が五十六と一緒に海図室を荒らしたり、桃缶をギンバイしようとした陽炎が美甘に見つかって正座させられたり、不知火が「『ぬいぬい』ってあだ名広めたのは艦長ですか!?」と恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら尋ねてきたくらいだった。

 

 あの2人の異様な馴染み具合には舌を巻くが、そんなこと今はどうでも良くなっていた。

 

 ましろはちらりと横目で、舵輪を握る明乃の様子を伺う。

 

 

 

 

 

 感情を失い影の落ちた暗い顔、光を失った瞳。

 

 

 

 

 

 ましろは思わず息を呑んだ。

 明乃のこんな顔は全く見たことが無かった、普段の明るさが形も無く消え失せた顔なんて。

 

 明乃がこちらに気づいて顔を向けてくる。その瞬間には、既にいつもの明るい顔に戻っていた。

 

「どうしたの?」

「あ……いや……。艦長、お疲れのようですが、何かあったんですか?」

「何も無いよ?」

 

 そうとぼける明乃に、ましろは歩み寄った。

 

「嘘ですね」

「へ?」

 

 ピシッと彼女の顔を指さして指摘する。

 

「隠そうとしてもバレバレです、疲れた顔してますよ」

「うっ……、……た……ただの寝不足だから心配ないよ」

「そんなわけありません、寝不足と違うことくらい私にもわかります。何かあったんじゃないんですか?」

 

 ましろがさらに問いかけると、明乃はバツが悪そうに視線を伏せた。

 

「あー……、うん、そうなの。心配してくれてありがとう。……でも、ごめん。しろちゃんにも話せないことなんだ」

「……それは艦長としての責務上ですか?それとも岬さん個人として?それとも__」

「……両方……かな?」

「……そうですか……」

「それに、これは私が解決しないといけないことなんだ。だから、ごめん」

 

 そう言われてしまうと、もう追及のしようがない。でも、これだけは言わせてもらう。

 

「……わかりました。でも、相談したくなったらいつでも言ってください。私は貴女の支えなんですから」

「うん!ありがとう!」

 

 明乃は笑顔でそう応えた。

 ましろはひとまず大丈夫そうだと判断し、周囲の監視へと意識を戻す。

 

 だが、ふと振り返った時に気づいてしまった。

 

 

 

 明乃の顔に、再び影が落ちていることに。

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

「__そう、やっぱりね」

「……艦長が何で悩んでいるのか、教官は知っていますか?」

 

 古庄は話してもいいものかと躊躇ったが、ましろなら、()()()()なら大丈夫だろうと理由を明かした。

 

「……公表はされていないけれど、第4特殊部隊にかなりの死者が出ているのよ。岬さんはそれに気づいてしまって、罪悪感を感じているの」

「やっぱり……」

 

 ましろもとっくに、死者数が意図的に伏せられていたことに気づいていた。明乃の悩みの原因がそうだと言う確証を得た以上、自ら動いて明乃の悩みを解決させねば。

 

 古庄が申し訳無さそうに、しかししっかりと目を合わせて頼んだ。

 

「宗谷さん、教官としてこんなこと言うのは情けないと思うけど。……岬さんのこと、支えてあげて」

「はい!」

 

 私が艦長を支えてみせる。

 ましろはそう強く心に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そう言えば、陽炎さん達について聞いているそうですが……」

「はっ!……忘れてたわ」

 

 明乃のことがあまりにも重要だったため、陽炎達のことがすっかり頭から抜け落ちていた。

 

 だが、既に古庄は真冬を通してましろの話を聞いていた。

 

「……と言っても、もう真冬艦長から聞いているのよね。だから大丈夫よ」

「あ……あの……、1つだけ伝えてなかったことがあるんですけど……」

「何?」

「気のせいかもしれませんが……」

 

 

 

「陽炎さん達の傷の治りが異様に早い気がするんですけど」

 

 

 

「……どうしてそう思うの?」

「陽炎さんの腕や脚の傷が、たった一晩でかなり減っているように見えるんです」

 

 今朝起きた時、下段のベッドで陽炎が着替えているのをちらっと見たのだが、昨晩にはあった筈の傷が、ほとんど消えていた。

 

「私の傷はまだ残っているのに、どうして陽炎さんの傷はもう無くなっているんでしょう?」

 

 ましろはそう言いながら、レ級に襲われた時の傷が残っている自分の腕をさする。血が出てできたかさぶたが、まだいくつも残っていた。

 

古庄の背中に嫌な汗が流れる。

 

「……体質……じゃないかしら」

 

 まさか「陽炎さん達の正体が怪物だから」と教えるわけにもいかず、適当に誤魔化すしか無かった。

 

「そう……ですか……」

 

 ……ヤバイ、宗谷さんジト目になってる。

 

 腐っても優秀な宗谷の女、何か怪しい、何か隠していると勘付いたようだ。しかし、口が滑っても本当のことは言えない。

 

「陽炎さんと不知火さんについては、まだ調査中だから何も言えないわ」

「はあ……」

 

 ましろは不満足そうな様子で頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 面談が終わった後、ましろは明乃に会うため艦長室へと向かっていた。

 

 早く明乃の重荷を解いてあげたいとはやる気持ちが表れ、足が無意識のうちに速くなっていく。

 

 艦長室の前に着いて、後先考えずにさっさとドアをノックする。

 

 一度考えだしたら、きっと踏み出せなくなってしまうから。

 

『はーい、誰ー?』

「宗谷です」

『……何かあったの?』

 

 明乃はドアを開かずに、質問を投げてきた。

 

 まるで心の扉を閉ざしているのを、示唆しているかのように。

 

「少しお話があります」

『艦のこととか、作戦について?』

「いえ、個人的に」

『……ごめん、また今度にしてもらってもいいかな?』

「今話したいんです」

『私凄い眠いんだ、だからまた後で……ごめんね、しろちゃん』

 

 その「ごめんね」は、拒絶の言葉だった。

 

「艦長?…………艦長、いいから出てきてください」

 

 再びドアをノックするが、返事も何も帰ってこない。

 

「艦長!」

 

 大声で呼びかけて、手をゴン!と自分の手が痛くなる程の勢いで、ドアに叩きつけたが、それでも返事は無かった。

 こうなったら強引に押し入ってやろう、とドアを開けようとするが、鍵がかけられているのか、ガチャガチャ言うだけで動かない。

 

 

 

「副長うるさい、何してんの」

 

 

 

 通りがかった芽衣が、怪しい者を見る目を向けてきた。

 

「艦長とどうしても話しておきたかったんだが、出てきてくれないんだ」

「はあ……。艦長も疲れてるんだよ、そっとしといてあげなよ。ほら行った行った」

 

 芽衣はそう明乃を気遣う言葉を言い、ましろをグイグイと押して、艦長室から遠ざける。

 

「ちょっ、ちょっと!」

「昨日から艦長の様子おかしかったからさ、きっと凄く疲れが溜まってるだろうし、ゆっくり眠らせてあげるのが1番でしょ」

「いや、それは……っ!」

「『それは?』」

「……いや……、何でもない」

 

 ましろは本当の理由(死者のこと)を話す訳にはいかず、口籠ってしまう。

 

「何でもないなら、後でもいいじゃん。とにかく休ませてあげよ」

「あ……、ああ……」

 

 ましろは後ろ髪を引かれる思いだったが、そのまま芽衣に押されて艦長室から離れてしまった。

 

 

 

 艦長が出てきたら、ちゃんと話をしよう。

 

 

 

 それはただの"逃げの言い訳"だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ごめんね、しろちゃん」

 

 明乃はベッドにうつ伏せになり、枕に顔を埋めていた。

 

「教官は『共有しなさい』って言ってたけど……。そんなのできるわけないよ……!」

 

 枕に涙が染み込み、冷たくなっていく。

 

 

 

 怖い。

 

 このやり場のない苦痛を仲間に移してしまったら、きっとその子もこの苦しみを抱え、心を病んでしまう、笑えなくなってしまう。

 

 そんな姿は、絶対、見たくない。

 

 そんな姿に、してはいけない。

 

 この家(晴風クラス)が、崩壊してしまう。

 

 

 

 でも、私が堪えれば、苦しむのは私だけで済む。

 

 

 

 私が解決しなきゃいけないんだ。

 

 

 

 

 

 

 これは、私自身の問題なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※生徒達の面談内容

流石に全員分考えるのは疲れて断念していまいました。揃っていない状態で載せるのも気が引けたのですが、一応参考になれば、と思いここに記載しておきます。

伊勢桜良
「機関室が暑くて大変なのでなんとかしてください」
「今すぐには無理」

「陽炎さんと不知火さん?う〜ん、全然話せてないからよくわからないです。けど、いい子みたいですよ?」



伊良子美甘
「炊飯器がまた壊れました……」
「新しいの買いましょうか?」

「陽炎ちゃんも不知火ちゃんも食欲が凄いんです。2人前はぺろっと平らげてますよ」



西崎芽衣
「もっと撃ちがいのあるデカイ相手に魚雷撃たせて」
「無理です」

「陽炎ちゃんと不知火ちゃんについて?そうだな〜、2人とも射撃センス半端ないから砲雷科に欲しいかな。
 あ、そう言えば。視力が3.0とか言ってたよ」



宇田慧
「電探の出番がほとんど無いんです……」
「気を落とさないで」

「……なんだろう……、何かあったと思うのに思い出せない……!」
「思い出したらでいいわよ」



内田まゆみ
「鈴ちゃんがストレスで辛そうなので助けてください」
「わかったわ」

「気になること?そう言えば……歴史の教科書を見た時に、『飛行機は無いの?』って言ってたんですけど……。飛行機って何ですか?」



小笠原光
「もっとバンバン連射できる主砲に替えてください、できれば冷却装置付で」
「無理」

「不知火ちゃんに『ぬいぬい』ってあだ名をつけたら、『誰から聞いた!?』って聞かれました」



勝田聡子
「悩み?特に無いぞな」

「ロシアからの帰国子女の友達がいるっていってたぞな!是非とも会いたいぞな!」



次回もお楽しみに。

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