青い人魚と軍艦娘   作:下坂登

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作者「劇場版はいふり見てきました!
 感想を一言でいうなら最高です!見たいものが全て詰め込まれてて、とても満足でした!前半は皆かわいいし、後半の戦闘シーンはメッチャかっこよかったです!」

明乃「あのー、興奮してるところ悪いけど……」
作者「ん?」
明乃「劇場版とこれの時系列とか、設定のズレとか大丈夫なの?」
作者「……」(考えてなかった……!)
明乃「あはは……」

 物語が一段落ついたら、それも含めた設定集みたいなものを上げようと思います。

それでは本編へどうぞ。


25話 その選択が何をもたらすとしても

 

 時間は僅か数分前に遡る。

 

 

 

 

 

 

『こちら比叡!左舷副砲群壊滅!至急救援を!』

『乗員はできるだけ重装甲区画へ避難しろ!』

 

 助けを求める比叡乗員の声と、それに対する絶望的な状況を示す神谷の命令。

 

 誰一人言葉を発しない、重苦しく静まり返った晴風の艦橋に、それだけが響いた。

 

 

 

 

 

「……比叡が……」

 

 やがて、ポツリ、と明乃が思い詰めた声を漏らす。

 

「比叡がやられちゃう……」

 

 生徒達は皆俯き、古庄ですら黙り込んだまま、何も答えない。

 全員、この絶望的な状況を打破する希望なんて持ってないからだ。

 

 唯一、陽炎だけが希望的観測を述べる。

 

「い……いくらレ級が強くても、比叡の装甲を撃ち抜くだけの火力は無いわ、本物に比べたら豆鉄砲だもの。だから、沈んだりすることは無いと思う。

 それに、もう少ししたら弁天も追いつくから、なんとかなるわよ」

「……本当に、そう思ってる?」

 

 その質問に、陽炎は黙り込んだ。

 

 いくら戦艦だからって、乗員が無事でいられる確証なんて無い。

 アメリカの巨大原子力空母も、浮沈戦艦とすら称された10万トン超えのタンカーも、深海棲艦の餌食になってきたのだ。

 どんなに沈みにくい艦でも、いつかは深海棲艦に沈められてしまう。

 

 明乃はそんな陽炎の様子を一瞥し、古庄へ提言する。

 

「古庄教官、晴風を接近させてレ級の気を引きましょう」

「何を言ってるの!?」

 

 古庄は思わぬ意見に目を丸くするが、明乃はお構い無しに続ける。

 

「このままでは比叡が危険です。射程ギリギリまで接近し砲撃して、気を引いて比叡から引き離しましょう」

「無茶です!」

 

 ましろが割り込んだ。

 

「相手は最凶とすら言われる敵です!迂闊に接近すれば、今度は晴風がやられるかも知れませんよ!」

「大丈夫、レ級の速力は40ノット、射程5km。対してこっちは37ノットしか出ないけど、射程は最大23km、有効射程を考えても10km程はアドバンテージがある。砲撃して回避行動を強いれば、やすやすとは追いつかれない」

 

 明乃の考えは一理ある。

 相手より長大な攻撃範囲を持てば、相手に攻撃を加え続け接近を阻止できる。が、

 

「却下」

 

 陽炎がズバッと切り捨てた。

 

「そのスペックはノーマルのやつでしょ?flagshipのスペックはたぶんそれ以上よ、ミケ艦長が考えているより余裕は無いのよ。それに追いつかれて一発喰らったら、こんな紙っペラ艦、いとも簡単に沈められるわよ。……ミイラ取りがミイラになるだけよ」

「でも、このままじゃ比叡がやられちゃうんだよ!陽炎ちゃんはそれでもいいの!?」

「そんなわけないわよ!私だって今すぐに出撃して、この手で沈めてやりたいわよ!でもね、私が出てったところでこのまま食われるか、挽肉になってから食われるか、ステーキになってから食われるかの3択しかないんだから仕方が無いじゃない!」

「2人とも落ち着け」

 

 知らない内に熱くなっていた2人を、ましろが間に入って制止する。

 

 と、その時。思いもしない悪い知らせが飛び込んできた。

 

 

 

 

 

『こちら比叡!雷撃を受け左舷に浸水!速力低下!』

 

 

 

 

 

 比叡の装甲が抜かれた。

 

 そのたった1つの出来事が、激震を走らせた。

 

「まさか……!」

「戦艦の装甲を破ったの!?」

 

 たった1体の怪物に、戦艦が沈められようとしているのだ。

 無論、戦艦が簡単に沈むわけは無く、比叡の一区画を浸水させただけだろう。だが、今ここで撃沈される可能性が十分にある。

 その事実が、選択を迫る。

 

「古庄教官!」

 

 明乃が古庄に詰め寄る。

 

 古庄は比叡の危機と、晴風のリスクの2つを天秤に()()()()()()()

 だが、天秤は揺れ動くものの、どちらにも傾かない。古庄には比叡の生徒も晴風の生徒も、どちらも切り捨てられないのだ。

 古庄は、苦しみ悩んだ。ほんの数秒が、とてつもなく長く感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助けに行きましょう」

 

 

 

 

 

 その力強い声にハッと振り返る。

 

 声の主は鈴だった。

 

 それを皮切りに、他の生徒達も声を上げる。

 最初に芽衣が意気込んで、

 

「やろうよ艦長、あの怪物をぶっ潰そうよ」

 

 幸子がドスの効いた声で、

 

「ワシ等がやらずに、誰がやるんじゃい」

 

 それに続いて、皆の声が聞こえた。

 

『機関は問題ねえ!やってやろうってんでい!』

『お姫様に散々翻弄されたからね、今度こそバーンと1発で仕留めるよ!』

『見張りは任せてください』

『ちょっとくらい傷ついても、私達がなんとかするよ!』

『ご飯作っておくね!』

『ま、なんとかなるぞな!』

 

 皆、肯定的なようだ。

 クラスの皆からの支持を受け、明乃は再び古庄に迫る。

 

「古庄教官!やらせてください!」

 

 だが、古庄は首を縦に振らない。

 

 レ級を引きつけるのはいい。だが、その後の鬼ごっこに終わりが見えないのが、恐れていることであった。

 

 レ級から逃げ切れるほどの速力は無く、かと言って撃沈できる保証もない。

 なんとか沈めようと、逃げようと足掻いた挙げ句に、武装や機関も不調をきたして詰みの状態なんて、駆逐棲姫との戦いの再現になりかねない。

 あの時は敵が駆逐級であり、大した火力は持っておらず、また、陽炎が終始囮になっていたため、晴風の被害はなかった。

 しかし、今回は火力トップクラスの戦艦、晴風に被害が及ぶのは目に見えているし、陽炎の囮も恐らく無駄だろう。

 

 向こうの持久力が未知数である以上、安易には同意できなかった。

 

「……陽炎さんはどう思う?」

 

 古庄が陽炎に意見を求めると、陽炎はキッパリと反対した。

 

「反対よ。時間稼ぎにはなるかもしれないけど、決め手が無い以上こっちが負けるわ」

「陽炎さんの魚雷で撃沈するのは?」

 

 陽炎の雷撃なら戦艦級を沈められるのでは?と考えたのだが、

 

「全弾ぶち込めば、ワンチャンできるかも」

「実際にできるの?」

「私1人じゃ無理ね。有効射程に入る前に砲撃喰らってドボンするし。もし近づけても、一斉射じゃ足りないから再装填するしかないけど、その間に殺されるわ」

 

 陽炎が首を横に振る。

 もとより期待はしていなかったが、少し残念だった。

 

 

 

 あれこれと苦悩しているうちに、更なる悪い知らせがマチコから飛んできた。

 

「教官!比叡が群れに追いつかれます!」

 

 レ級に置いてきぼりにされた怪物の群れが、北風やスキッパーからの攻撃を受けながらも、比叡に襲いかかろうと追いついてきたのだ。

 

「……もし、あの数から雷撃を受けたら、もう保たないわね……」

 

 古庄が悔しそうに唇を噛む。

 レ級1隻の火力で既に満身創痍なところへ、群れによる攻撃を受けたら__。どうなるかは想像に難くない。

 

「だったら!せめて群れだけでも晴風に引き寄せましょう!」

 

 明乃が強行に訴える。

 レ級よりも遥かに速力や火力の劣る群れが相手ならば、晴風は自慢の足と砲力を使って逃げ切れる。

 

 __だが、……本当に大丈夫なのだろうか。

 

 古庄は嫌な予感に襲われた。しかし、もう戸惑っている暇は無いことも事実だった。

 

「……岬艦長、作戦実行を許可します。但し、一撃加えたら直ちに反転し離脱しなさい」

「了解、比叡の援護に向かいます。一撃加え直ちに反転、離脱します」

 

 明乃は復唱した後、振り返り皆と向かい合う。

 

「鈴ちゃん取り舵反転!前進一杯!」

「はい!取り舵反転!前進一杯ヨーソロー!」

『前進一杯でい!』

 

 晴風はUターンして、比叡の元へと全速力で向かう。

 

 

 

 

 

「……教官、よかったの?」

 

 陽炎が古庄へ、生徒達には聞こえないように問いかける。

 その声は酷く冷えていた。

 

「十中八九、誰か死ぬわよ」

 

 研ぎ澄まされた矢のような視線が、古庄に突き刺さる。

 古庄はそれに耐えられず、すっと目を逸した。

 

「……どのみちこのままだと、比叡に死者が出るわ。だから、少しでも希望のある方を選択したのよ」

「比叡は戦艦だから装甲も厚いし、注水区画も桁違いに多いから、中々沈まない、弁天が合流するまでは持ちこたえられる筈よ。それに比べて晴風は紙っぺら装甲だし、バルジもロクに無い、下手すれば一発喰らっただけで誰か死ぬわよ。

 それも考えての判断?()()()()?」

 

 「教官」では無く「先生」と、陽炎は呼んだ。

 教え子を守る者、としての覚悟はあるか?という意味なのだろうか。

 

「……ええ」

「……なら、もう何も言わないけど」

 

 陽炎は追及を止めて前を向いた。

 

 

 

 

 

 これから、晴風に何が起こるかわからない。

 

 最悪、(艦娘)が何とかしないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで晴風が接近してる!?」

「『我、比叡の援護に向かう』とのことです!」

「引き返させろ!今すぐだ!」

 

 神谷が怒鳴るようにオペレーターに命令する。

 オペレーターはすぐに通信を繋ぎ呼びかけた。

 

「こちら北風、晴風は退避せよ。繰り返す、晴風は退避せよ」

 

 しかし、帰ってきたのは、明乃の拒否だった。

 

『こちら晴風、その指示には従えません』

「これは命令です、退避せよ」

『お断りします』

「代われ!」

 

 神谷がしびれを切らし、オペレーターと代わった。

 

「岬艦長命令だ、下がれ」

『お断りします』

「いいから早く下がれ!晴風まで巻き込まれるぞ!」

『比叡を見殺しにするつもりですか?』

「そんなつもりは無い!今残っていた武装スキッパーを向かわせた、弁天もじきに追いつく」

『たった1機のスキッパーで太刀打ちできるんですか?』

 

 明乃は的確に穴を突いてきた。

 既に7 台のスキッパーが破壊されているのに、重装甲とは言えたった1機のスキッパーが、レ級を撃破できるとは保証できない。

 神谷自身も、赤羽(あの馬鹿)ならどうにか殺れるだろうとの、希望的観測なのだ。

 

『もうすぐ、群れも比叡に追いつきます。その前に晴風に食いつかせて比叡から引き離せば、比叡の損害は大幅に減るはずです』

「だが、狙われるのが晴風になるだけだぞ。わかっているのか!」

『わかってます。でも__』

 

 

 

 

 

『もう、誰かが死ぬのを、指を咥えて見てはいられないんです』

 

 

 

 

 

 その心から溢れた涙の言葉を最後に、通信が切られた。

 

 北風の艦橋は、重い空気の中に静まり返った。

 

「…………クソッ!!」

 

 神谷がコンソールをドン!と殴りつけた。

 それを咎める者は、誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 晴風は最大戦速で、比叡の左から直角に接近していた。

 もうすぐ群れも比叡を捕捉するかというギリギリのタイミングで、有効射程まで近づいた。

 

「速度そのまま!取舵一杯!群れと同航に!」

「はい!」

「主砲撃ち方よーい!」

「うい!」

 

 左へと舵を切り、比叡を追いかける群れとピタリと並走し、全ての主砲を向ける。

 

『射撃用意よし!』

 

 光の報告を受けた志摩は頷き、明乃に向けて指で丸を作った。

 

「マル」

 

 戦闘準備は整った。

 明乃は自分を落ち着けるため、一度大きく深呼吸した。

 

 

 

 __大丈夫、誰も、傷つけさせない__。

 

 

 

 そう自分に言い聞かせ、叫ぶ。

 

「始めるよ!主砲撃ち方始め!」

()ー!」

 

 

 

 

 

 晴風が群れに向けて一斉射、群れと晴風の戦いが始まった。

 

 




作者「……前書きで凄い興奮してたけど、実は1つショッキングなことがあったんだ……」
陽炎「何!?」
幸子「まさかこれ凍結とか!?」
作者「『蒼青のミラージュ』※のサービス終了が決まったんだ……」
※艦船擬人化ゲームで、『戦艦少女R』のスピンオフ。
陽炎「なーんだ、そんなこと?」
幸子「まあ、仕方ないですよ。サービス開始から1日と欠かさずプレイしてたんですから」
作者「もうすぐできなくなると思うと、すげえ辛い……。あの戦闘システムとか、キャラのLive2Dとか、ボイスとか、お気に入りだったのに……」
あかね「ソシャゲは終わっちゃうと、何も残らないんだよね」
幸子「虚しいですねー」


次回もお楽しみに。

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