青い人魚と軍艦娘   作:下坂登

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明乃「えーと、カンペカンペ……。なになに、
 【作者は『蒼青のミラージュ』が終わったことによるストレスで胃がやられました。色々言いたいことがあり(中略)。前書きは適当によろしく 0v0】
 …………ナニコレ」
陽炎「どんだけショックだったのよ……」(呆れ)
明乃「それより!『艦隊バトルでピンチ!』が終わっちゃんたんだけど!」
陽炎「あー、そっちも終わってたっけ」
明乃「作者さん、一回もやらずに終わった」
陽炎「マジか」
明乃「カンペに続きがあるけど……、
 【感想欄をご覧の方はご存知かもしれませんが、私は『艦隊バトルでピンチ』をプレイしておりません。なので、『艦隊バトルでピンチ』要素はほとんど出せないと思います。……いつかやろうと思ってたら終わってしまいました……(落胆)】」
陽炎「本当に、ソシャゲは終わると虚しいわね……」
明乃「今は『ニード・フォー・スピード』に打ち込んでるって」
陽炎「さっさとこれ書け!そして早くこの戦い終わらせなさいよ!」

 コロナウイルスの感染が広がっています。皆様も情報を確認の上、しっかりと体調管理と感染予防をして、お大事にお過ごしください。



※これから残酷な描写が増えます。

それでは、本編へどうぞ。


27話 晴風、絶対絶命

 バァン!!と破裂音が響き、晴風が揺れた。

 

 クルー達が突然の衝撃に悲鳴を上げた。

 

「きゃあっ!!」

「うわああ!!」

「何!?」

 

 古庄がすぐさま伝声管に怒鳴る。

 

「各部状況報告!」

『射撃指揮所異常なし!』

『1番魚雷発射管異常なし!』

『2番魚雷発射管大丈夫です!』

『こちら勝田、航行装置は無事ぞな!』

『炊飯器無事です!』

『こちら主計室、何かあったんですか!?』

『医務室、無問題』

『工作室異常ありません!』

『こちら野間、艦の外観に損傷無し』

『水測も異常ありません』

 

 各々の持ち場から返答が来る中、唯一返ってこない場所があった。

 

 

 

 機関室だ。

 

 

 

「そ……速力低下してますっ!巡航……いえっ……さらに低下してます!」

 

 鈴の泣き叫ぶ声が響いた。

 

 晴風は見る見る内に失速し、10ノットくらいにまで速度を落として、ゆっくりと左へと曲がっていく。

 機関に起こった何らかの重大なトラブルによって、左推進軸の力が失われたのだ。

 

「航海長!面舵当て!直進を維持しなさい!」

「はいぃぃぃ!」

 

 古庄の指示で、鈴は舵輪を右に回す。すぐに偏った推進力と舵の力が釣り合い、晴風は真っ直ぐに進みだした。

 

 明乃が機関室へ必死に呼びかける、もう皆が無事なのか、気が気じゃなかった。

 

「機関室返事して!皆無事なの!?…………っ、誰でもいいから答えて!!」

『……艦長!』

 

 ようやく麗緖の声が聞こえた。だがそのパニクった声が、ただ事では無いことを嫌でも痛感させた。

 

『美波さん呼んで!機関長が……!機関長が……!』

「マロンちゃんがどうしたの!?」

『パイプが破裂して、蒸気をモロに浴びたんだよ!早く美波さん来て!』

 

 明乃はショックのあまり、ひゅっと喉が引きつり、言葉が出なくなった。

 

「衛生長!機関室で熱傷発生!すぐ行ってくれ!手の空いてる人も手伝いに行け!」

 

 ましろが代わりに指示を飛ばす。

 

『了解、急行する』

「若狭さん!他に怪我人は!?」

『黒木さんと留奈が火傷してる!』

「機関は直せるのか!?」

『……無理だよ……、左タービンの主蒸気管(メインパイプ)が壊れてる……』

 

 血の気が失せるのを、誰もが実感した。

 もう機関も限界だったのだ。何度も何度も全開で回し続けたツケが、最悪のタイミングで回ってきた。

 

「速力11ノット!」

「教官!このままじゃすぐに追いつかれるわよ!」

 

 

 

 

 

 主砲と機動力を失った晴風は、30人の子供を乗せた海に浮かぶ巨大な鉄の棺桶と化した。

 

 

 

 

 

『どうして速力を落としてるんですか!?』

 

 古庄の個人回線に桜井から連絡が入った。

 

「機関にトラブルが起きました、もういつ止まるかもわかりません」

『……わかりました。晴風乗員はすぐに離艦してください、総攻撃は失敗、戦艦レ級は無傷で突破しました』

 

 攻撃は恐れていた最悪の結果に終わってしまった。さらに、

 

『レ級が晴風を射程圏内に捉えるまで、あと5分もありません』

 

 晴風の機関が無事ならば、全速力で逃げれば離艦するまでの時間は十分に稼げた。しかし機関が死んだ今、時間はもう無いに等しい。

 

 

 

 生徒達が生き残れる保証は、もう無かった。

 

 

 

『古庄教官と晴風乗員の幸運を祈ります』

 

 それを最後に、通信が切られた。

 

 不安げに古庄の様子を伺う生徒達。

 

 古庄は大きく息を吐いて、伝える。

 

 

 

 

 

「総員、離艦」

 

 

 

 

 

 艦橋が静まり返る中、明乃が震える声で、絞り出すように復唱した。

 

「……了解しました。……総員……離艦開始します……」

 

 明乃の肩を、陽炎がポンと叩いた。

 

「もう時間が無いわよ、『焦らず、急いで』ね」

「う……うん……」

「それじゃあ、皆、またね!」

 

 陽炎は場に合わない明るい笑顔を残し、走り出した。

 

「え?ちょっと待__」

 

 明乃は引き留めようと手を伸ばすが、僅かに届かず空を切った。陽炎はそのまま艦橋から海面へと飛び降りて、後方へと全速力で航行を始めた。

 

 

 

 

 

 __ああ、そうか。皆の離艦する時間を少しでも稼ぐために、勝ち目の無い戦いに向かったんだ。

 

 私が、こんな状況を招いたから。

 

 

 

 __違う、今はそんなこと悩んでる場合じゃない!

 

 

 

 

 

 明乃は強く唇を噛み、痛みで意識を現実へと引き戻した。

 

「総員内火艇へ!定員に達したものからすぐに離脱!」

「「「了解!」」」

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

「不知火!後は任せた!」

 

 無線でそれだけ伝えて、陽炎は晴風とは真逆に全速力で航る。

 不知火からは淡々とした声が返ってきた。

 

『陽炎、ご武運を』

「雪風がそう言ってくれると、安心できるんだけどねえ」

 

 そんな軽口を叩くと、向こうで不知火がムスッとしたのが分かる。

 

『不知火のでは不十分ですか?』

「『ご武運を』だけじゃ足りないかなー?」

『わかりました。では後で"すっごいこと"をするので楽しみにしていてください』

「"すっごいこと"って何!?何なの!?」

『秘密です』

 

 ドキッとして聞き返すと、不知火はニヤッと笑った。

 

 くそっ、生意気な奴め。喧嘩売ってるなら買うぞ、後で泣いても許さないから。

 

「OK、楽しみに取っとく。もし期待外れだったら私からお仕置きするわよ」

『上等です。約束ですからね』

「約束ね」

 

 通信終了。

 あんな軽口叩いておいてなんだが、今回は無事に終われそうな気がしない。

 

 

 

 陽炎の最低目標は、戦艦レ級flagshipから生徒達を逃がすこと。そのためには、レ級の推進機関に大ダメージを与えて失速させれば十分だ。

 

 問題はそれが不可能に近いと言うこと。

 

 前方で吹き荒れる、目でハッキリと見える密度の弾幕の嵐をくぐり抜けて肉薄して、雷撃をぶち込む。武装スキッパーですら近づくことすらできない中、そんな芸当できたら奇跡だ。

 

 だが、可能性が0.1%でも有るなら賭けるだけだ。

 

 

 

「さーて、噛み付いてやろうじゃないの!」

 

 陽炎が死地への突撃に向けて、己を奮い立たせたその時、

 

 

 

 

 

 激しい衝撃と同時に、目の前に巨大な水柱が出現した。

 

「え!?ちょっ、何!?」

 

 幸いにも、陽炎が進路変更するまでも無く、水柱は消え去った。が、また陽炎の真正面に水柱が立つ、それが何度も繰り返される。

 最初は比叡が誤射したのかと思ったが、キッチリと陽炎の進路上に弾着し続けている。

 誤射では無く、何か狙いがあるのでは。

 

 そしてハッと気がついた。

 

「……私とレ級を隔ててる」

 

 比叡はレ級に陽炎が見つからないように、砲撃でずっと壁を作り続けているのだ。35.6cm砲の威力で作られた水柱なら、陽炎なんてすっぽり隠れてすぐ見失うだろう。

 しかし、戦艦の主砲弾とは、なんとも豪華な仕切り板だ。

 

 その時、インカムへ通信が入った。

 

『もしもし、陽炎さん聞こえる?』

「この声……知名艦長ね」

『正解。比叡に頼んで、貴女が接近できるよう援護してもらってるから』

 

 そうか、この艦長がこんなぶっ飛んだこと考える奴だったか。全然そうには見えなかったのに。

 

「サンキュっ。一発ぶちかまして来るわ」

『……陽炎さん』

「何?」

 

 もえかは改まって、陽炎に願った。

 

『ミケちゃんを……晴風を守って』

「……確約はできないけど、全力でやるわよ」

『お願い』

 

 もえかと話している間に、レ級まであと5kmまで近づいた。ゼロ距離まで相対速度74ノットであと130秒。陽炎は115秒後、距離500mのところで魚雷全8門を斉射してレ級の足を止める。

 駆逐棲姫から貰った2基の魚雷発射管を正面へと向け、広範囲に広げて一発でも当たるようにと扇状に進むよう調整する。

 

「魚雷斉射用意、目標、戦艦レ級flagship!」

 

 

 

 

 

 さあ、最狂の怪物さん(超弩級重雷装巡洋戦艦)駆逐艦(デストロイヤー)の意地、見せてあげるわよ。

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

「駆逐艦不知火、起動」

 

 不知火は半壊状態でボロボロの艤装を装着し起動した。缶の出力はたった2%だが、起動さえすれば浮くことはできるのでよかった。ボートの定員を減らさずに済みそうだ。

 弾薬を満タンにした陽炎の両手持ち主砲と、ギプスのせいで履けない右脚部艤装を抱え、松葉杖をついて工作室を出て、甲板へと上がった。

 

 左舷甲板では、既に1隻目の内火艇に生徒達が乗り込んでいた。

 

「降ろすよー!」

 

 美甘がウインチを操作し、内火艇を海面へと降ろしていく。

 ましろが手すりから身を乗りだし、内火艇の操縦者になった聡子に声をかける。

 

「勝田さん!航路は北風の指示に従ってくれ!」

「了解ぞな!」

 

 内火艇が海面に着き、フックが切り離された。

 

「じゃあ副長、また後でぞな〜!」

「気をつけて!」

 

 晴風を置いて加速していく内火艇、そこに乗る生徒達の顔は、誰もが悲しそうで、悔しそうだった。

 

 不知火はそれを見送った後、ましろに尋ねた。

 

「宗谷副長、避難状況は?」

「今16人出て、残りは不知火さんと教官入れて17人」

 

 あと半分だな。と言って、ましろは右舷の内火艇へと向かいながら、艦橋へと報告を入れる。

 

「艦長、1隻目が離艦しました」

『了解、レ級の射程圏内まで後3分。それまでに終わらせて』

「はい」

『ちょっと待って…………麻侖ちゃんの応急手当が終わった、すぐ向かうって』

「了解しました」

 

 通信を切って、ましろは艦橋を見上げた。

 今、明乃は舵輪を握りつつ、艦全体の離艦指揮をしている。

 

 彼女と古庄、そして射撃指揮所に残る芽依と志摩の4人が、最後まで晴風に残りレ級を引き付ける囮役を引き受けた。

 無論、無理だと判断すればスキッパーで離脱する手筈になっているが。

 

 

 

(私は艦長だから、最後に離艦するよ)

 

 

 

 そう言って囮役に名乗り出た時の、辛さを押し隠した彼女の顔が頭から離れない。

 

 

 

 私が残るべきだった……いや、一緒に残るべきだったのでは無いだろうか。

 

 

 

「副長、心配なのはわかりますが、見上げていても何も変わりませんよ」

「……ああ」

 

 不知火に諭され、ましろは視線を内火艇へと戻し、残りの生徒達へ指示を出す。

 

「全員搭乗!鏑木さん達を乗せてから出るぞ!」

「「「了解!!」」」

 

 

 

 

 

 この時はまだ、予想を裏切ってさらに悪い状況になるとは、誰もわからなかった。

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

『もうすぐ弾幕を止める。チャンスは一回だけだよ!』

「わかってる!」

 

 比叡の砲撃による水柱に隠れながら、陽炎は発射地点まであと少しのところまで来ていた。

 却って不気味に思うほど、レ級の攻撃がこちらに向くことはなく、無傷で接近できていた。

 

『あたしが気を引いてやってるからよ!陽炎!魚雷をぶち込め!』

 

 そう無線で怒鳴ってきた赤羽が、ずっと足掻いて気を逸してくれているのも味方したのか。

 

 これを逃したらもう後が無い。

 勝負の一瞬が近づき、心臓がバクバクと悲鳴を上げる。

 大丈夫、ここで止める!!

 

『最後の弾着まで、3、2、1、今!』

 

 水柱の壁が途切れる。

 レ級の姿が、金色の脈絡までくっきりと見えた。

 

 この距離なら、絶対当たる!

 

「__魚雷全門斉射ァ!」

 

 陽炎の魚雷発射管から、8本の魚雷が一気に射出された。角度の狭い扇状に、海中を広がりながら進んでいく。

 

 そして、レ級を確実に射角に捉えた。

 

「よし!行っけぇぇぇぇぇ!!」

 

 陽炎は腹の底から、ありったけ声を振り絞って叫んだ。

 

 ぶっ壊せ!噛み付いてやれ!と怒りと希望をこめて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、その希望は裏切られた。

 

 

 

 

 

 レ級が突然、近くにいた駆逐イ級を顎で噛みつき捕まえ、向かってくる魚雷へ向けてぶん投げたのだ。

 

 宙を舞ったイ級は真ん中を進む魚雷4本に直撃し、駆逐艦に対しては過剰な程の雷撃火力によって、激しい爆発を起こして跡形も無く吹き飛んだ。

 

「なっ……!?こいつ……っ、仲間を盾に!?」

 

 仲間の命すらなんとも思わないレ級の行動に、陽炎も驚きを隠せない。

 

 次の瞬間、ハッと我に返った。

 

 逃げなきゃ。

 

 だが、そう思った時には既に、レ級は陽炎へと狙いを定めていた。

 

「シズメ」

 

 尾がグォォォォォ!と咆哮しながらビームを放つ直前の予備動作に入った。

 

「あ……」

 

 逃げなきゃ。そう思うのに、蛇に睨まれた蛙のように、身体が動かない。

 逃げて逃げて逃げ回って、晴風の皆が避難する時間を稼がないといけないのに。

 あんなビームのような砲撃を喰らったら、陽炎のちっちゃな身体なんて塵一つ残らないと言うのに。

 

 レ級が大量の武装を乗せた尾を振り下ろし、砲撃を放つ。

 

 

 

 

 

 その寸前、比叡の砲弾がレ級の真後ろすぐ近くに落ちて海面を叩き割った。

 着弾の衝撃で海面が捲れ上がり、レ級は空中へと跳ね上げられて照準がぶれ、ビームは陽炎の頭上ギリギリを掠めた。

 

「このォ!!」

 

 なんて危ない砲撃してるんだ!私もいるんだぞ!と文句を言うのも忘れて、陽炎はこのチャンスを逃してはならないとばかりに、前へと踏み出しレ級へと突撃した。

 

 

 

 レ級のビームには大きな欠点があった。

 第一に、撃つ前にクールダウンが必要だと言うこと。

 第二に、撃った後も僅かであるが隙ができること。

 そして最後に、反動が凄まじく、きちんと踏ん張っていないと吹き飛ばされてしまうということ。

 

 比叡の砲撃によって姿勢を崩したレ級は、ビームの反動で身体を軸にして大きく回転していた。

 陽炎は錨鎖を右手で掴んで引出すと、勢いそのままにレ級の尾の真下めがけてスライディングした。

 

「ふっ!!」

 

 レ級の太い尾が目の前を通り過ぎる、その瞬間に錨鎖を尾の先端の顎に投げて巻き付けた。

 

「よし!やっ__グエッ!!」

 

 ガッツポーズをする間も無く、限界まで引き出された錨鎖がビンと張って、陽炎はレ級に引きずられる形となった。

 

「ナンダオ前……!」

 

 レ級が陽炎を撃ち殺そうと主砲を後ろへ回す。が、その動きが途中でガキン!と止まる。

 陽炎の巻き付けた錨鎖が、あちこちに絡んで主砲にも引っかかったのだ。

 

「チィッ!!」

 

 レ級は主砲を諦めて副砲で陽炎を狙う。が、

 

「やらせないわよ!!」

 

 陽炎はここぞとばかりに主砲を連射し、副砲群を次々と破壊していく。安全性も合理性も無く山積みされていた副砲群は、面白いほどにボロボロと崩れていった。

 

「コノクソガア!!」

 

 好き放題にされて怒り狂ったレ級は、尾を大きくブンブンと振り回し始めた。当然、繋がったままの陽炎も振り回される。

 

「うえっ!?ちょ待っ……きゃあああああ!!」

 

 と悲鳴を残し、ハンマー投げのハンマーよろしく振り回されて、ウインチが壊れるのと同時に遠くへ吹っ飛ばされた。

 

『陽炎!よくやった!』

 

 そんな赤羽の声が、振り回されてぼうっとしている陽炎には霞んで聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くたばれこの化物が!!」

 

 陽炎をふっ飛ばしたレ級の背後から、赤羽のスキッパーが全速力で突っ込んだ。

 頭に血が登っていたレ級は、衝突する直前まで気づかなかった。

 振り返った時には、もう遅い。

 

 

 

 

 

 レ級へと激突し、ゴシャア!!と金属のひしゃげる音がした。

 スキッパーの装甲や、レ級の武装が千切れて火花とともに辺りに散らばった。

 

 

 

 スキッパーは激しい衝突にも関わらず、重装甲化のおかげか原型を保っており、レ級をぶっ壊れた船首へと引っ掛けたまま、突っ走り続けていた。

 

 

 

 

 

「……おいおい、嘘だろ……」

 

 顔を上げた赤羽は、キャノピーの窓を見て、ありえない、と目を丸くした。

 

 駆逐棲姫を撥ねた時より重量が増し、さらに船首を尖らせたため、体当たりの威力はかなり増していた。

 だが、窓から顔を覗かせるレ級は、まだ生きていた。

 

 

 

 それどころか、怒りの形相を見せて実に元気でいらっしゃった。

 

 

 

 バゴン!とレ級の右腕が戦車並みに分厚いキャノピーの天井をいとも簡単にブチ破って侵入し、赤羽を掴もうと暴れだした。

 

「やべえ!!」

 

 赤羽は身を低くして腕を躱すと同時に、機銃のトリガーを引いた。

 

 たぶん、激突した衝撃で銃身が歪んでいる、トリガーを引けば暴発して船首がレ級ごと丸焼けだ。

 

 赤羽の思った通り、トリガーを引いた瞬間に機銃が暴発、船首から火焔が噴き上がり、レ級を包み込んだ。

 

「グガアアアアアア!!」

 

 炎に焼かれて怒り狂うレ級は、キャノピーを掴むとそのまま力任せにべキッ!と引っ剥がした。鋼鉄でできたキャノピーが、まるで紙っペラのように中に舞う。

 そして、剥き出しになった赤羽を串刺しにしようと腕を振るった。しかし、

 

「この怪物が!」

 

 本当に間一髪のところで、赤羽はリジェクトシートのレバーを引き、空中へと脱出した。

 

「そのまま吹き飛べ!」

 

 

 

 手榴弾という置き土産を残して。

 

 

 

 その僅か数秒後手榴弾が起爆、残っていた弾薬とガソリン、さらにブースト用のニトロボンベを巻き込んで豪快な爆炎を上げ、スキッパーを内側から吹き飛ばした。

 

「やったぜ!」

 

 赤羽はパラシュートに揺られながらガッツポーズをした。

 これであの怪物も木っ端微塵だ!

 

 

 

 だが、激突にすら耐えた戦艦レ級flagshipが、そう簡単に死ぬ訳は無かった。

 

 すぐに黒煙の中からレ級が飛び出して、(はし)り続けているのを発見した。

 

「クソッ!まだ生きてんのかよ!」

 

 赤羽は吐き捨てて、パラシュートにぶら下がったままアサルトライフルを構えた。

 こんな武器で沈められるとは思わないが、鉛弾をブチ込んでやらないと気が済まない。

 

 スコープを覗いて狙いを定めた時、陽炎の怒鳴り声が耳をつんざいた。

 

『あんた何タイムリミット縮めてんのよ!』

 

 思わずうっ、と反射的に顔をインカムとは反対に背けた。

 

『わざわざ晴風に送り届けるなんて、何考えてんのよ!』

「え」

 

 自分でも間抜けだなと思う声が出た。

 レ級の進行方向に目をやると、あと800mくらいのところに何故か、晴風がいた。

 

 

 

 激突してからここまで、スキッパーはレ級を引っ掛けたままほぼ全速力で一直線に進んでいたのだ。

 そう、晴風の方へと向かっていることになんて、さらさら気づかずに。

 

 

 

 晴風はまだ乗員の避難も終わっていないのに、レ級の射程圏内に入ってしまった。

 

「クソッ!」

 

 赤羽はレ級の足を止めようと、背中に向かってアサルトライフルを連射する。しかし、弾丸は全て防護膜によって弾かれ全く効果が無かった。

 そして、レ級が振り返りもせず赤羽に向かって主砲を撃った。

 

「うわあああ!!」

 

 主砲弾がパラシュートをズバッと引裂き、赤羽は悲鳴を残して海へと墜落した。

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

「S1との通信途絶!」

「レ級が晴風に接近、乗り込むつもりのようです!」

 

 桜井は「あの馬鹿……!」と悪態をついた。

 北風は既に噴進弾を使い切り、レ級に届く攻撃手段は持ち合わせていなかった。それは弁天も同様で、このままではレ級が晴風に乗り込んでしまう。

 そうなったら、生徒達の生存は絶望的だ。

 

「何かレ級を止める方法はある!?」

 

 艦橋の全員に尋ねるが、代表して砲雷長が首を横に振る。

 

「もう弾薬も使い果たしています!」

「比叡の主砲は!?」

「撃たせてはいますが当たりません!」

「もう!」

 

 桜井は忌々しげに、飛行船からの映像に映るレ級を睨みつける。

 

 ……それでふと、常軌を逸した手段が頭に浮かんだ。

 

「……飛行船だ……」

「え?」

「飛行長!この飛行船のコントロール私に回して!」

「は、はい!」

「艦長!どうするつもりですか!?」

 

 砲雷長の問いに、桜井は一言。

 

「突っ込ませる!!」

 

 飛行船のコントロールが移されたレバーを、ゴツン!と前に目一杯押し込んだ。

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

『戦艦レ級健在!距離800m、接近してきます!』

 

 マチコの切迫した叫びが晴風に響いた。それを受けた古庄が声を張り上げる。

 

「主砲発射用意!総員備え!」

『了解!主砲発射用意!』

 

 射撃指揮所から芽依の焦った復唱が返ってきた。

 舵輪を握る明乃が、恐怖からか硬直しているのが視界の端に映ったが、構っている暇は無かった。

 

 

 

 

 

 その時、甲板ではましろが残った乗員を内火艇に引き上げている途中だった。

 

『主砲発射用意!総員備え!』

「全員耳塞いで伏せて!」

 

 ましろはすぐにそう指示した。皆が耳を塞いで伏せるのを確認し、自分も伏せようとした時、美波達と一緒に洋美が麻侖を抱えて、甲板に出てこようとしているのに気づいた。

 発砲するのに気づいていないのか。

 

「出るな!」

 

 ましろが叫ぶ、それに気づいた不知火が扉へ身体をぶつけて閉じた。

 向こうから洋美の驚いた声が聞こえた。

 

『不知火さん!?』

「出ては駄目です!」

『撃つよ!!』

 

 芽依の言葉の直後、第2第3主砲が咆哮。

 

「ッ!!」

 

 駆逐艦の小口径砲とは言え本物の軍艦主砲、発射の衝撃がズシンと身体に響く。

 手で耳を塞いでいなかったら、鼓膜が抜かれていた。

 

 しかも発射は一回だけでは無かった、装填装置が焼き付くかもしれない速度で連射し続けている。

 

 こんなに撃ってもレ級を止められないのか。

 

「駄目ですか……っ!」

『命中弾無し!乗り込まれます!』

 

 マチコの叫びの直後、戦艦レ級が海面を蹴って飛び上がり、後部甲板にその獰猛な姿を現した。

 

 

 

 

 

 グオオオオ!と獣の雄叫びのように尾が咆哮した。

 

 

 

 

 

 怪物の侵入という、経験したことの無い恐怖に生徒は戦意喪失し、内火艇に乗り込んだ者のほとんどが腰を抜かしていた。

 

「この化物!!」

 

 せめてこちらに気を引ければ、と不知火が主砲を構えてレ級に狙いを定めた。

 

 

 

 

 

 直後、無人飛行船が晴風の真後ろ上空から、レ級めがけて墜落と間違えるほどの勢いで降下してきた。

 

 何トンもある巨大な船体が晴風の後部甲板に突っ込み、空中線やクレーンごとレ級を押し潰しにきた。

 

「嘘でしょう!?」

 

 こんな馬鹿げたことをやるかと、不知火も飛び上がらんばかりに驚いた。

 

 バキバキと破壊音を立て、巨体が鉄製のクレーンをアメ細工のように曲げて潰していく。

 そして、そのままレ級に向かっていく。

 

 レ級が直前に気づいて主砲を飛行船に向けてぶっ放した。砲弾は燃料タンクに直撃、飛行船は爆発して外装を噴き飛ばし、骨組みと炎だけの残骸に変わり果てた。

 

 だが勢いは止まらず、甲板に激突してなお滑走し、レ級を轢いて下敷きにして晴風の第3主砲にぶつかり、砲身をへし折って止まった。

 その衝撃で右前エンジンからプロペラが外れて、高速回転したまま巨大な丸鋸となり、生徒達の乗った内火艇へと飛んでいく。

 

 幸いにも内火艇の生徒達は事前に低く伏せていたため、首を刈り取られるのは避けられた。

 だが、内火艇を吊っていたワイヤーが全てプロペラによって切断された。

 

「「「きゃあああ!!」」」

 

 内火艇は強く海面に落下し、乗っていたましろ達は船底へと叩きつけられた。

 

 

 

 

 

「宗谷副長ーッ!!」

 

 不知火が手すりから身を乗り出し叫ぶ。

 内火艇は生徒達を乗せたまま漂い、後方へと流されていった。

 

 どうする、助けに行くか。

 

 そう考えて海面に飛び降りようとしたが、晴風に残された10人はどうする?という懸念が沸いて、思い留まった。

 

 背後で扉が開き、美海が出てきた。

 

「何があったの!?」

 

 不知火は無言で艦尾を指差し、無線で古庄へと報告する。

 艦尾を見た美海は、恐ろしい光景に呆然と立ち尽くしていた。

 

「教官!内火艇が切り離されました!」

『生徒達は!?』

「宗谷、知床、納沙、駿河、伊良湖、宇田の6名が内火艇に!」

『残っているのは……、岬、西崎、立石、柳原、黒木、鏑木、等松、野間、万里小路の9人ね』

「はい。……等松さん!」

 

 不知火は残った生徒達の居場所を尋ねようと、立ち尽くしたままだった美海の肩を叩いた。……反応が無いのでもう一度。

 

「等松さん!」

「ねえ……不知火さん。……あれ……」

「え?」

 

 美海の指差す方向に顔を向ける。

 後部甲板で燃えさかる飛行船の残骸、その炎の揺らめきの中から、人影が現れた。

 不知火は恐怖のあまりインカムを取り落としかけた。

 

 そんな、まさか、まだ生きていたのか。ありえない……!

 

「逃げてください」

「え?」

「逃げろ!」

「うわっ!?」

 

 不知火は美海を艦内へと突き飛ばし、扉を勢いよく閉じた。

 そして、ギプスがついた脚を引きずりながらも、艦首方向へと急ぐ。

 

 

 

 

 

 途中で振り返り後ろを確認すると、炎の中から戦艦レ級flagshipがその姿を現した。

 火焔を振り払った身体は、無数の火傷によって変色していたが未だに五体満足で、武装もほとんどが破壊されていたが、あの凶暴そうな顎自体は原型を保っていた。

 

 レ級が大きく吠えた。

 

 それはたまりに溜まった、弄ばれた怒りや鬱憤を晴らすかの如く。あまりの威力にビリビリと空気が振動し、晴風の艦体すら震わす。

 

 それに足を取られて不知火は前のめりに転倒してしまった。

 

「……クッ……!」

 

 慌てず松葉杖をしっかりとついて、体重をかけて立ち上がる。

 そのまま1番艦首に近い扉へとなんとか辿り着いて、再びレ級へと振り返った。

 

 __瞬間、目が合った。

 

 自分がどんな視線を向けていたかは覚えてないが、レ級の視線に籠もっていたのは、底の見えない殺意だった。

 

 不知火はゾッとして、扉を開けると素早く身体を滑り込ませた。

 心臓がバクバク警報を鳴らし続けている。戦った訳でも無いのに、息が苦しい。

 

「……ハー……ハー…………」

 

 大きく呼吸して、少しでも多くの酸素を取り込み、覚悟を決めた。

 

 もう、レ級を倒す手段は、あれしかない。

 

 

 

 

 

 陽炎、ごめんなさい。

 

 約束、守れそうにありません。

 

 

 

 

 

 不知火は心の中で謝り、再び歩き出した。

 

 目指すは工作室。そこに残されたいくつもの艦娘用魚雷が、戦艦レ級flagshipの装甲を破れるかもしれない、唯一の武器だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 __晴風ごと吹き飛ばすことになるかもしれないが。




聡子「……ちょっと待つぞな、戦艦レ級の不死身っぷりがおかしいレベルまで行っちゃってるぞな」
まゆみ「轢かれて爆発に巻き込まれて、飛行船に潰されて……」
聡子「ライフがいくつあっても足りないぞな」
まゆみ「……これだけ生き残れるということは、おそらく運もいい。つまりはレ級が宝くじを買えば一等も狙える……?」
聡子「あんな馬鹿力があるなら、銀行を襲う方がよっぽど早いと思うぞな」

次回もお楽しみに。
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