青い人魚と軍艦娘   作:下坂登

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幸子「はいふり劇場版DVD&BDが10月28日発売決定です!」
明乃&陽炎「イエーイ!」
作者「イエーイ!って遠いわっ!」
明乃「え、遠い?」
作者「同時期に上映してたシンカリオンは、先月とっくに出たよ!なんで4ヵ月も差が開くんだよ!?」
明乃「それは……まあ……」
幸子「色々ありましたから……」
作者「あと3ヵ月、どう待てばいいんだー!」
陽炎「小説書いて待てばいいじゃない、今回だって前回から2ヵ月以上も空いてるのよ。遅れを取り返しなさいよ」
作者「……」メソラシ
明乃「それでもって、レ級との決着も着いてないんじゃねえ……」
作者「あ、もう決着は書き終わってる」
一同「え?」
作者「コホン……えー、読んでくださる皆様、決着まで一気に書いたら、文字数がとんでもなく多くなってしまったので2話に分けました。残りもすぐに投稿する予定なのでお待ちください、2、3日以内には投稿する予定です」

それでは本編へどうぞ。


29話 白イルカの意地

 時間は僅かに遡る。

 

 神谷を筆頭に屈強な漢達6人で編成された突入部隊は、スキッパー6機に分乗し晴風へと向かっていた。

 

 神谷は先頭を進むスキッパーの後部座席で武器の点検をしていたが、何かに気づいて運転士に声をかけた。

 

「おい、減速だ」

「え?減速ですか?」

「ああ」

 

 時速120kmで航行していたスキッパーが、70km程にスピードを落とす。

 右前方に、全速航行で晴風に向かう陽炎の後ろ姿が見えていた。

 神谷は身を乗り出し、陽炎に叫ぶ。

 

「陽炎!」

 

 それに気づいて陽炎が振り返った。

 

「乗っていくか!?」

「もちろん!」

 

 陽炎はスキッパーが追いつき横に並んだところで、神谷が伸ばした手を掴み、スキッパーの右ウイングに飛び乗った。

 運転士はそれを確認し、スキッパーを再加速させた。

 ツインテールが風圧で暴れて顔を叩くのがとても煩わしいが、右腕は身体を支えるのに精一杯で、左腕は相変わらずギプスで固定されているのでどうにもできず、バタバタと暴れるのを無視して尋ねた。

 

「晴風に乗り込まれたって本当なの!?」

「本当だ!これから乗員を救出しに行く、お前は外に散らばる怪物の対処を頼む!」

「了解!」

 

 陽炎がそう答えた直後、前方に見える晴風の後方を塞ぐ怪物から、いくつもの発砲炎が吹き上がった。

 

「回避します!」

 

 運転士がすぐにスキッパーを蛇行させ、砲弾を躱していく。

 かなり揺れの酷い運転の筈だが、赤羽の自殺同然のアクロバティックを経験した陽炎にとっては、大したこと無いように感じた。これなら射撃もできそうだ。

 

「司令!ちょっと私の身体支えといて!」

「どこを持てばいい!?」

「アームを掴んどいて!」

 

 魚雷発射管のアームの関節を固定し神谷に支えさせ、主砲を構えた。スキッパーは高速で揺れているが、神谷がしっかりと支えてくれてたので、よろけたりすることは無く、これなら撃てそうだ。

 

「撃つわよ!」

「応ッ!」

 

 ドドン!と2発の砲弾が発射され駆逐ニ級に命中、しかし致命打にはならず、黒煙を噴き上げて速力を低下させるに留まった。

 

「あー!撃沈できなかったー!」

「構わずもっと撃て!」

「わかってるわよ!」

 

 陽炎は主砲をバカスカ撃ちまくり、怪物の群れを掻き乱していく。群れは統率が取れていないのか、砲撃にいちいち反応してバラバラに勝手な行動を取り始めた。陣形が乱れ個体同士の距離が開き、スキッパーの道が開ける。

 

「このまま晴風に横付けしろ!」

「了解!」

 

 スキッパーの群れは開けた道を真っ直ぐに突き抜け、晴風に接近する、艦尾に墜落し、未だに炎上する飛行船がはっきりと見えた。その時、陽炎が主砲を下ろし叫んだ。

 

「私はここで降りるわ!艦内()は頼んだわよ!」

「任せろ!」

 

 神谷が頷くのを確認して、陽炎は勢いをつけスキッパーから大きくジャンプした。着水と同時に後傾姿勢を取り重心を後ろにして踏ん張り、足にかかる水の抵抗で転びかける身体を止めて、最大速力(30ノット)まで一気に減速する。そこから機関を全開に回し、攻撃を始める。

 

「雷撃始め!」

 

 再装填された4発の魚雷を、発射管をグルッと回し四方に向かって放つ。魚雷は全てそれぞれの目標に命中し、撃沈もしくは大破させた。

 

「さあ!私が相手よ!」

 

 反撃に飛んでくる砲弾や魚雷を躱し、陽炎は怪物へと突っ込んでいく。

 

 

 

 

 

 その隙に突入隊を乗せたスキッパーの群れは、晴風へ接舷を試みる。

 神谷を乗せたスキッパーが飛行船の燃える後部を避け、左舷中央部へと寄せた。

 

「動きがあるまで離れて待機していろ!」

「了解!」

 

 神谷はワイヤーガンを発射しフックを手すりへと引っ掛け巻取り、甲板へと上がった。スキッパーは後続の邪魔にならないよう、晴風から離れていく。

 すぐにアサルトライフルを構え、甲板上に怪物がいないかを見渡し確認する。

 

「__クリア!」

 

 それを受けた後続のスキッパーが、次々に接舷し突入隊を送り込む。

 だが、順調に4人目が上がり、5機目のスキッパーが接舷しようとした時、

 

『戻って!危ない!』

 

 無線から聞こえた陽炎の叫び声の直後、スキッパーの右ウイングが突如爆発し、根本からもぎ取られた。

 

『うわあああああ!』

 

 運転士の悲鳴を残し、スキッパーはコントロールを失ってスピンしながら晴風から離れていった。

 

「どうした!?何があった!?」

 

 神谷も何が起きたかさっぱりわからなかった。何の前触れも無く、スキッパーが爆発したように見えたのだ。

 

『チ級の酸素魚雷よ!』

 

 陽炎に言われてハッと思い出す。

 

 __酸素魚雷__純酸素を燃料とした魚雷。従来の魚雷と比べて圧倒的な雷速と射程、炸薬量を誇るが、そのパワーと引き換えに危険度が上がり、開発は難航し当時実践投入できたのは日本だけという兵器。

 これには先述した利点3つの他に、もう1つ恐ろしい長所がある、それは()()()()()()ことだ。

 酸素魚雷の排気ガスは、水に溶けやすい水蒸気と炭酸ガス。そのため排気された瞬間に排気ガスの気泡は消滅し、航跡も何も残さずにカッ飛んでいく。視認しやすい真っ白な航跡が無くなれば、魚雷を目視するのは困難。

 つまりは、血眼になって探さない限り、発見するのは不可能ということだ。

 

 雷巡チ級を早く潰さないと、離艦する時にも雷撃されて死人が出かねない。

 

「すぐに雷巡を潰せ!」

『わかってるけど!こいつ私が魚雷を撃てないように、晴風の側を離れないのよ!オマケにネ級まで健在で……!あーもう、こっち来んなー!』

 

 後ろに目をやると、陽炎が悲鳴を上げながら、チ級と重巡ネ級の砲撃から必死に逃げ回っていた。

 2対1、しかも巡洋艦相手に魚雷が使えないのは、流石に分が悪い。

 

 神谷は晴風の機銃座を指差し、部下の3人のうち2人へ命令した。

 

「機銃で援護してやれ!間違っても陽炎に当てるなよ!」

『もし当てたら、あんた達の股間の機銃を潰してやるわ!』

 

 陽炎のおっかない発言に、機銃座に登ろうとしていた隊員が顔を青くして股間を押さえた。

 尻を揉んだ真冬がぶん殴られて吹っ飛ばされたことは、隊員達の間でもう知れ渡っていた。陽炎なら本当にやりかねない、使用不能にされかねない、と2人は恐怖した。

 

「冗談に決まってるだろ!早く行け!」

 

 神谷はそんなことにビビってる場合か!と、そいつらの尻を叩く。

 そこへ、

 

「おいおい、そんなんで玉ァ縮み上がらせちまってるようじゃ、根性注入が必要みてえだな」

 

 右舷から真冬が部下2人を連れて、手をワキワキさせながらやってきた。

 神谷は呆れた様子で言う。

 

「お前も来たか。……って、男にもやるのか?」

「おうよ!いい船乗りはいい尻から!それに男も女も関係ねえ!」

 

 駄目だこいつ、手遅れだ。

 神谷は矯正不可能だと悟り、諦めた。真冬の部下も諦めてくださいと首を横に振る。

 後で陽炎にもう一発殴らせて、トラウマでも植え付けた方がいいんじゃないか。

 

「行くぞ、ついてこい」

「おう!」

 

 神谷はそう言い残し、艦内へ突入する。その後ろを部下と真冬達が追いかけた。

 

 

 

 

 

 アサルトライフルを構えて、警戒しながら晴風艦内の後部通路に入る、通路には人っ子一人いなかった。生徒達は教室にいると聞いており、戦闘の形跡も無いことから、レ級は艦首にいるのだろうと推測がつく。

 

「宗谷艦長は教室の生徒の救出を、自分達は艦首に向かう」

「了解」

 

 神谷はそう告げて、部下を連れて真冬達と別れ艦首へ向かった。

 

 

 

 

 

 艦首へ繋がる一本道の細い通路に入り、警戒しながらも急いで向かう。

 頼むから全員無事でいてくれ。

 そう願い、通路を走る。

 

 その時、教室に向かった真冬から通信が入った。

 

『司令、覚悟しといた方がいいぞ』

「どういう意味だ?」

 

 真冬には似合わない深刻そう声、その意味を尋ねた直後、前方に現れた気配に気づいて急停止する。

 

 通路の突き当りから、その気配の主が姿を現した。

 

 

 

 

 

『教官と不知火は、もう死んでるかもしれねえ』

 

 

 

 

 

 現れたのは、尾の顎から涎の如く血を垂らし、返り血で全身を真っ赤に染めた戦艦レ級flagshipだった。

 

 古庄か不知火のどちらか、または両方か、目の前にいるこの怪物が既に喰い殺してしまった。

 

 神谷は怒り、畜生!と吐き捨てた。

 

 レ級は神谷達を新たな獲物と認識し、一気に加速して襲いかかってくる。神谷はアサルトライフルを向け迎撃体制を取り、無線の向こうの真冬に怒鳴った。

 

「宗谷艦長!生徒達を離艦させろ!!今すぐだ!!」

 

 向かってくるレ級に向けて、アサルトライフルの引き金を引き続ける。その神谷の怒りに呼応するように、アサルトライフルがありったけの弾を吐き出す。だが、防護膜に弾かれてレ級には効果が無かった。

 

「クソッ!」

「司令!ここは俺が!」

 

 部下がシールドを手に前に出る。この部下__郷田と言うが、第4特殊部隊でもトップのマッスルボディの持ち主で、体力勝負なら部隊1位のマッチョマンだ。突撃隊のパワーファイターとして、その剛力で犯人を殴り倒してきた。

 

「うおおおおお!!」

 

 雄叫びを上げながら、シールドを構えて突進し、レ級を真っ向から迎え討つ。対するレ級はショルダータックルの構えを見せた。

 

「相手に取って不足なしぃぃぃー!!」

 

 そして、バァン!とまるでトラック同士の交通事故のように、激しく正面衝突し、

 

 

 

「ゴハァ!!」

 

 

 

 郷田はゴムボールのように軽々と弾き飛ばされ、神谷へ向かって吹っ飛んできた。咄嗟に頭を下げて躱すと、郷田はそのままの勢いで突き当りの壁まで飛び、頭を打ち付けてその場にストンと落ち、動かなくなった。

 

「郷田!!」

 

 そこへ真冬が部下1人を連れて、ドタドタと走ってきた。

 

「司令!大丈夫か!?」

「俺はいいから郷田を頼む!」

 

 神谷は効果の無かったアサルトライフルを捨て、グレネードランチャーをレ級に向けて発砲、擲弾がレ級の顔面に直撃し爆発する。しかし、やはり効果は無く、レ級の顔に煤が付くだけに終わった。レ級は、その程度?と嘲笑うような気味の悪い笑顔を浮かべた。

 

 郷田の様子を確認していた真冬が、声を張り上げて神谷に教えた。

 

「頭打って寝てるだけだ!」

「運んでやってくれ!」

「わかった!__おいお前、運べ!」

「ちょっ、私1人でですか!?」

 

 真冬は郷田の搬送を部下に押し付け、テーザー銃をレ級に向ける。

 最近は使われなくなったワイヤー針式のテーザー銃だが、バッテリーの部分が異様に膨らませてあり、ビニールテープでぐるぐる巻に絶縁してあった。

 真冬が悪役のように笑い、改造内容を発表する。

 

「バッテリー10基直列仕様だ!怪物だってイチコロだぜ!喰らえ!!」

 

 バッテリー10個なら電圧も10倍、人間相手に撃てば命の危険は十分にある禁断の違法改造。

 軽い音を立てて発射されたワイヤーは、見事にレ級の胸に当たり、有り余る電力をバチバチと流し込んだ。過剰な電力が空気中に漏れ、雷のようなスパークが当たりに飛び散った。

 

「どうだ!」

 

 だがレ級にはまるで効かず、ワイヤーはあっさりと引き千切られ、悲しげな火花を残して投げ捨てられた。

 電撃への耐性もあるのか。

 

「畜生!電気も効かねえのかよ!」

「他に武器は無いのか!」

「あとは普通のしかねえよ!クソッタレ!」

 

 真冬はテーザー銃を投げ捨て、代わりにアサルトライフルをレ級に向けて撃ち始めた。

 そんなものではレ級はかすり傷すら負わず、神谷に狙いを定めて飛びかかってきた。

 

「クソッ!」

 

 神谷はもう銃火器は役に立たないと判断したのか、グレネードランチャーを捨ててナイフを構えた。

 真冬はそれを見て声を上げる。

 

「おい!そんな短えナイフじゃすぐ殺られちまうぞ!」

「だったら援護しろ!」

 

 神谷のナイフは刃の短いただの軍用ナイフ、レ級との体格差を考えると、リーチの差はほぼ無い。もしナイフを躱されてあの怪力で掴まれたら、一環の終わりだ。そして何より、当たっても効果が無い可能性が殆どだ。

 

 間違い無く、死ぬ。

 

「クソッ!」

 

 真冬はせめて一太刀浴びせられるようにと、目眩ましにスタングレネードを取り出した。

 

 すぐに訪れた勝負の一瞬、レ級が神谷に飛びかかってくる瞬間に、真冬は自分の背後でスタングレネードを起爆させた。

 

 激しい閃光が広がり、レ級も思わず目を手で覆う。一方で神谷と真冬は背を向けていたため、影響は少なくそのまま動けていた。

 神谷がレ級の顔めがけて、大きく振りかぶって腕を振るう。

 しかし、その時既にレ級は閃光弾のダメージから回復していた。

 

「死ネエ!!」

 

 レ級は神谷の顔を握り潰そうと、ナイフを無視し腕を伸ばす、ただのナイフで防護膜が貫けるわけ無いだろう、と。

 

 端的に言えば、油断していたのだ。

 

 艦娘では無い、ただの人間の意地を知らずに。

 

 

 

 

 

 神谷はレ級の腕が届くよりほんの僅かに早く、レ級の顔面に1()2().()7()c()m()()()()の砲口を突き立てた。

 

 

 

 

 

「なっ……!?」

 

 後ろから見ていた真冬は、あまりの早業に目を丸くした。

 

 レ級が顔を覆ったのと同時にナイフを持つ右腕を振りかぶり、身体の後ろに回した瞬間に腰に下げてあったケースから12.7cm砲を引っ張り出し、ナイフと入れ替えたのだ。

 

 ちなみにこの12.7cm連装砲は、陽炎が忘れたのを赤羽が回収してきた、不知火の主砲だ。

 

 普通の銃火器では怪物には歯が立たないだろう。だが、ゼロ距離でなら駆逐棲姫の装甲も破れる、この主砲なら。

 

「こいつならどうだ!!」

 

 引き金を思いっきり引いた。

 駆逐艦娘用主砲が、戦艦レ級flagshipにゼロ距離で砲弾を叩き込む。

 

 バアン!!と大きな発砲炎が噴き出すと同時に、普通の銃の何倍もの轟音が狭い通路に反響した。

 それに比例して反動も桁違いで、大柄な男である神谷の身体が、弾かれるように後ろへ吹き飛んだ。

 

「ぐおっ!!」

 

 それでも反動を受け流しきれてはおらず、右肩がゴキリと嫌な音を上げて外れた。右腕からの激痛が走る中、床に背中を強打しさらなる激痛が加わり、肺の中の空気を全て吐き出した。

 

「がはっ!!」

「おいっ!大丈夫か!?」

 

 真冬が駆け寄り、神谷を引っ張り起こす。

 

「肩を脱臼しただけだ!奴は!?」

 

 左手で右腕を掴んで強引に関節をゴキリ!とはめ込み、自分で脱臼を直した。それを見た真冬から「お前人間か?」と疑いの目を向けられた。失礼な、人間だ。

 だが、関節をはめ直しても右腕の痛みは治まらず、十分には動かせそうにない。

 

「ガアァァァァァ……」

 

 レ級は獣のような唸り声を上げながら、顔を手で押さえてのたうち回っていた。顔から手を離すと、右目のあった場所から青い血がドバドバと溢れ出した。

 

「クソ……、ゼロ距離で撃っても片目だけか」

 

 頭を撃ち抜けたか、という期待はあまりにも固い防御力によって裏切られた。

 もう一発ゼロ距離で撃ち込めば可能かもしれないが、さっきの反動で利き腕が使えない中、あの12.7cm砲(怪物砲)を扱うのは無理だ。

 おまけに、

 

 

 

「ウオオオオオオオオオ!!」

 

 

 

 怒り心頭で髪も逆立つ程殺気立ったレ級が、もう一回喰らってくれるとは思えない。金の脈絡はより一層激しく脈打ち輝きを増し、黄金のオーラを纏っているように見える。「怒髪天を衝く」という言葉を体現したレ級の、あまりのプレッシャーに2人は後ずさった。

 

「……なあ、逃げねえか?流石にサイヤ人相手に勝つ自信はねえぞ」

「サイヤ人か、まさにピッタリだな。生徒達の離艦は?」

「確認する……………………、まだ終わってねえ」

「なら、逃げるって選択肢はないな」

 

 神谷はそう言って12.7cm砲を真冬に押し付けた。

 

「こいつを使え、あと4発入っている」

「アンタが吹っ飛ぶような銃、あたしに使えると思ってんのか?」

「尻揉みで鍛えた腕の見せ所だぞ」

「……チッ……」

 

 言い返す言葉が見つからなかったのか、舌打ちをしつつも12.7cm砲を受け取る。

 

「あとでアンタにも根性注入してやるよ」

「御免被る」

 

 神谷は自分が捨てたグレネードランチャーを拾い上げ、弾を装填した。真冬も装填レバーを引き、12.7cm砲を撃てるようにする。

 

「…………行くぞ」

「おう」

 

 こちらの準備が終わったのに合わせてか、レ級が動き出す。雄叫びを上げてフル加速、目にも止まらぬスピードで駆け出し、暴走する自動車のように迫ってくる。

 2人はすぐさま武器を構えて射撃態勢に入り、

 

「え?」

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 レ級に背後から、少女(雪風)が飛びかかるのを目撃して目を見開いた。

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 雪風は銃声を頼りに艦内を疾走していた。艦の構造はわからないが、銃声のする方に行けば確実にレ級に辿り着ける筈だと。

 曲がり角を壁を蹴ることで減速せずに曲がった時、ついに戦艦レ級flagshipを見つけた。

 レ級の正面には人が2人、襲うつもりか。

 

「やらせません!」

 

 彼等を守るため、雪風はさらに加速しレ級に迫る。

 まずは此方に気を引かなければ、そのために、重装甲でも撃たれたら嫌な箇所__頭を狙う。だが、レ級の背中は尾についた巨大な顎が守っている。狭い通路を占拠するそれを、横から躱すにはスペースが足りない。

 

「だったら上から!」

 

 床を蹴って跳び上がりさらに壁を蹴って三角跳びを決めて、尾の頭上を飛び越えた。

 

「たあーっ!!」

 

 掛け声に気づいてレ級が振り向く、その顔面めがけて主砲を射ち込むが、防護膜に阻まれた。それをわかっていた雪風は、三角跳びの勢いをそのままに、全体重を乗せて薙刀を突き立てた。それをレ級は右手を突き出して迎え撃つ。

 切っ先がレ級の掌に当たった瞬間、激戦に耐えてきた薙刀がついに音を上げて、バキリ!と砕け散った。合掌。

 

(やっぱり木製の薙刀じゃ保たなかったじゃないですかー!)

 

 レ級が雪風を捕まえようと腕を振るう。雪風はそれよりも早くレ級の胸を蹴り、後ろへ飛んで戻った。そして逃がすまいと追撃してきた顎を、華麗なバク宙で躱してさらに後退し態勢を整えた。

 

「邪魔スルナアアア!!」

 

 横槍を入れられて激昂するレ級が、雪風に狙いを変えた。

 

 とりあえずこのまま、あの人達から離せれば不知火が来るまでの時間が稼げる。もしこっちに目もくれないで、人を襲うようなら危なかった。と雪風は安堵した。

 

「ここからは、雪風が貴方の相手です!」

 

 レ級の意識をこちらに集中させるため、堂々と啖呵を切り主砲を向ける。これで、レ級が此方を狙っている隙に彼等は逃げるだろう、深海棲艦相手に生身の人間が挑もうなんて思わないから。

 

 

 

 

 

 ……という艦娘の常識は、彼等には通じなかった。

 

 

 

 

 

「おい、ロリっ娘が出てきたけどよ、陽炎と不知火の仲間か?」

「おそらくな、何処から来た?」

「知るかよ、どうする?」

「子供に任せておけるか、()るぞ!」

「おう!ブルマーの意地、見せてやらねえとな!」

 

 真冬は一度12.7cm砲を降ろしアサルトライフルを、神谷はグレネードランチャーをぶっ放した。

 うっとおしい銃撃に反応し、レ級が再び2人に狙いを変える。

 

「何やってるんですか!?」

 

 雪風は2人の暴挙に慌てた。

 艦娘の1番の使命は人命を守ること、だから自分が狙われるように煽ったのに、なんで再び狙われるようなことをするのか。

 

「雪風が引き受けますから、貴方達は逃げてください!」

「断る!お前こそ逃げろ!」

 

 神谷は即拒否し、真冬と共に撃ち続ける。

 レ級が雄叫びを上げた、襲いかかるまで時間がもう無い。

 

「あーもう!」

 

 雪風は説得は無理だと諦め、どうにかして武力でレ級の動きを封じることに決めた。だが、魚雷は威力が強すぎてレ級どころか人や艦体すらも破壊しかねない 爆雷も同様の理由で却下。となれば残されているのは、主砲によるゼロ距離攻撃。

 

 狙うべき場所はすぐに見つけた、レ級の左目だ。右目は何があったのか既に失われており、左目も潰してしまえば(めくら)にできる。

 いくら高性能レーダーを積んでいても、狭い場所や接近戦でものを言うのは肉眼なのだ。目さえ潰せれば勝ったも同然、彼等を逃がすことも余裕でできる。

 雪風は覚悟を決めた。

 

「一気に決めます」

 

 先程と同じ速度では、主砲を突きつける前に掴まれてしまう。そうなってしまったら、雪風は間違いなく握り潰されてしまうだろう。

 

 ならば、レ級の反応速度を超える力を、スピードを手に入れればいい。

 

 頭の中に艤装からの警告メッセージが流れるが、構わず実行した。

 

 

 

 

 

「リミッター、開放」

 

 

 

 

 

     ☆

 

 

 

 

 

 艤装と肉体を繋ぐ回路が、一切の抵抗を無くす。

 

 精神は艤装の制御系と溶け合うように混ざり合い、艤装が自分の身体になったかのように感じ始める。僅かな軋みや機関の声まで、手に取るようにわかる。

 

 肉体には艤装の生み出したエネルギーが一気に流れ込み、力が漲り感覚が研ぎ澄まされる。身体が軽くなり、景色がスローモーションのようにゆっくりと動く。

 

 

 

 リミッターを外すことにより、艦娘の身体能力及び艤装とのシンクロ率が飛躍的に上昇し、恐るべき戦闘能力を発揮する。

 

 

 

 だがその代償に、艤装が精神を取り込もうと浸食を始め、思考が光の無い漆黒の闇に飲み込まれていく。

 肉体は急激な過負荷に悲鳴を上げ、膨張する血管が赤い筋となり身体中に浮かび上がる。

 

 

 

 

 

 雪風が人から、怪物へと変貌していく。

 

 

 

 

 

     ☆

 

 

 

 

 

 __筈だったのに、何も起こらなかった。

 

「……え?」

 

 いや、僅かに艤装とのシンクロ率は上がり力も増した。

 だが、代償の精神汚染も、肉体の変貌も殆ど無く、いつもと同じような枷の外れたような力の上昇が得られない。

 

「嘘、なんで……」

 

 雪風は信じられず、硬直してしまった。

 リミッターを開放し力が向上するのは何度も経験していたのに、どうして__?




作者「……ガチの殺し合いになると晴風の皆の活躍がかけない……」
神谷「当然だろう、第一子供を戦いに参加させること自体おかしいんだ」
作者「……それを言っちゃあお終いだよ」

次回、対戦艦レ級flagship戦決着(本当です)、お楽しみに。
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