できるだけ時間を見つけては書いてます。
戦いは艦娘も巻き込み激しさを増していきます。
それでは本文へどうぞ。
三つ顎のうち、一つが明乃へ伸びてきた。おそるおそる逃げようと一歩ずつ下がると、それに合わせて巨大な顎が迫ってくる。
「ひっ……」
恐ろしさのあまり、足がすくむ。
顎はまるで、品定めをするかのように明乃をじろりと睨む。
そして突然開口、中から砲身がにょきっと出現し、明乃に突き付けられる。
間違い無い、撃つ気だ。
逃げなくちゃ、と思ったが金縛りに遭ったみたいに体が動かない。
「お願い……やめて……」
そう声を絞り出すのが精一杯だった。
ましろや幸子、鈴も震えながら去ってくれるのを願うだけしか出来ない。
だが、非情にもガチャリと装填音が響く。
もうダメなの……
死を悟ったその時。
「とおおおおおお!!」
上の方から女の子の絶叫が聞こえた。
グシャリという嫌な音と同時に化物が蹴り飛ばされ、第一主砲の上に叩きつけられた。
「何!?」
天窓を見上げると、女の子が屋根の上に立っていた。歳は明乃達と同じくらいに見える。明るい茶色の髪をツインテールにまとめ、学校の制服みたいなベストとスカートを着ている。それに加え、アームの伸びた大きな機械を背負っている。
「あんたの相手はこの私よ!!」
女の子はそう言い放ち、両手で駆逐艦の12.7cm連装主砲を模した物を化物へ向け構える。
「主砲発射!!」
掛け声の後、引き金が引かれた。
弾は狙いと一寸違わず砲身を突き出している顎の中に命中、格納されていた弾薬に引火し爆発、化物を木っ端微塵にした。
砲や装甲の破片が前甲板上に散らばった。
「よし!一発で仕留めた!」
女の子は誇らしげに、小さくガッツポーズを決めた。
明乃が呼び掛ける。
「ねぇ!あなた!」
「ん?私のこと?」
女の子は振り返り、こちらを見下ろす。
「そう!助けてくれてありがとう!」
「どういたしまして!ところで、一つ聞きたいんだけど、この艦ってなんて名前?」
「この艦?晴風だよ!」
「はれかぜ?……聞いたことないな……」
「それより、あなた誰なの?」
「私はね……」
答えようとした直後、マチコから緊急報告が来た。
『左舷距離20、目標接近!数10!このままだと乗り込まれます!!』
「まずい……迎撃して!」
「駄目です!機銃使用不能、主砲も間に合いません!!」
ましろの報告を受け、再び窮地に追い込まれたことを知る。
「そんな……どうすれば……」
「私が沈めて来るわ」
女の子がキッパリと宣言した。
「あなた達はさっさとこの艦を動かして逃げなさい」
「あれを倒せるの!?」
「もちろん!」
天窓から艦橋に飛び降りた。金属製の靴と大きな機械の重量で、ズゴンと鈍い音が響く。
女の子が明乃と向き合った。
「私、あれを沈めるためにいるんだから」
こうして向き合うと、自分達とほとんど変わらない、どこにでもいそうな子。訂正、かわいい女の子。ついさっき化物を撃ち殺したのが信じられなくたってきた。
しかし、化物を沈めるためにいるとはどういう意味なのだろう。
「さっさと終わらせなきゃ。いい?すぐに逃げてね!」
考え事をしているうちに、女の子は左舷へ飛び出そうとしていた。
「ちょっと待って!」
明乃が呼び止めた。
女の子は怪訝な顔で振り返った。
「何よ?」
「あなたの名前、まだ聞いてなかったよね」
「ああ、それ?」
女の子は、今更?と呆れた顔を見せた。
そして、胸を張って堂々と名乗った。
「私は陽炎、駆逐艦陽炎よ」
そう言うと、左ウイングから甲板へ一気に飛び降りた。
「駆逐艦……陽炎……?」
明乃には、彼女の言葉が信じられなかった。
それは、艦の名前の筈だから。
「艦長!あれ!あれ見てください!」
秀子が明乃を呼んだ。
何事かと左舷から身を乗り出して海を覗いて、目を丸くした。
「え……?海の上を、滑ってる……!?」
女の子__陽炎が、海面をまるでアイススケートのように滑って移動しているのだ。
◇
晴風を降りてすぐに電探を起動、敵の位置と数を確認する。
数は10、晴風から見て9時の方向。見張員の報告ピッタリだ。
中々優秀な目を持っている見張員だと感心した。
敵10体の内訳は駆逐艦5、軽巡2、重巡2、戦艦1
陽炎1人で相手にするのは無謀過ぎる。ここは一旦囮になって、晴風から遠ざけ時間を稼ぐべきか。
陽炎型の速力であれば、深海棲艦にそう簡単には追いつかれないだろう。再加速までのほんの少しの時間を稼ぐだけでいい。
「正面砲雷撃戦用意!」
背中の艤装についた魚雷発射管と主砲、そして手持ちタイプの主砲を動かし照準を定める。
まずは先行してくる駆逐艦と軽巡を叩く。
「目標捕捉、砲雷撃戦始め!」
陽炎の主砲が火を吹き、魚雷が海中を突き進む。
それらは寸分違わず敵艦に命中して、駆逐艦3隻と軽巡1隻が爆沈した。
仲間が殺られて怒った深海棲艦達が、陽炎へ目標を変えた。
「ほらこっちよ!捕まえてみなさい!」
陽炎は挑発して機関全開で逃げ出し、晴風からなるべく遠くへ深海棲艦を誘導していった。
相手がこちらから離れようとすれば接近し砲撃を加え、食いついてきたら全力で逃げる。
よくやる囮の戦法だ。
◇
「なんで私なんだよー!」
媛萌は声を荒げた。
機関が止まったから直してくれと言われて、何故か後部甲板に連れてこられて、スクリューに何か絡まったから取ってほしい、と告げられた。
冗談じゃない、化物の泳ぐ海に入るなんて御免だ。
美海が媛萌を急かす。
「応急長だから!早くしないと皆死んぢゃうわよ!」
美海は化物と戦う陽炎を指差した。砲弾が飛び交い、周囲に水柱が乱立している。
「あの子がもしやられたら100%こっちに来るんだから!」
「潜るの慣れた人いないの!?」
「いたら呼んでる!」
そこに百々がシュノーケルとワイヤーカッター、懐中電灯を持ってきた。
「道具持って来たっス!」
「ありがとうモモちゃん!ほらヒメちゃん早く!」
「うう……、えーい!行ったろーじゃない!」
媛萌はジャージを脱ぎ捨てシュノーケルを装着すると、海へ飛び込んだ。
「ヒメー!気をつけるっスよー!」
百々が声をかけると、親指をグッと上げて潜っていった。
海の中は暗く先が見えなかった。懐中電灯で艦を照らしながら潜り、スクリューシャフトへ辿り着くと、2基のプロペラ両方に太いワイヤーがガッチリ絡んでいた。
これでは動く訳がない。
ワイヤーカッターで何箇所かを切断し、プロペラから取り除いた。
これでよし。
浮上しようと振り返ったその時、
自分に向かってくる魚雷が見えた。
「!?」
びっくりして慌てて更に潜ると、それは媛萌の頭を掠めて通り過ぎた。
それはまるでミニチュアの模型のように小型だった。
目標を外した魚雷は、そのまま暗闇へ消えていった。
媛萌はふぅと一安心するとともに、あの魚雷は何だったのかと疑問を抱いた。
実はすぐ近くに化物__潜水カ級__が潜んでいたのだが、媛萌は気づいていなかった。
媛萌は梯子を伝い甲板に戻った。
「ヒメ!大丈夫っスか?」
「大丈夫、ワイヤーも取れた」
「よかったっス」
それを聞いて美海が艦橋へ無線を入れる。
「こちら等松、ワイヤー切除完了。発進できます!」
『わかった!麻侖ちゃん前進一杯!』
『がってんだ!』
すぐにスクリューが回り出し、晴風は航行し始めた。
◇
「やっと動いたんだ、さっさと逃げてよね」
陽炎は晴風を見送った。
これでもう囮を続ける必要はない、一気に引き離す。
「最大戦速!」
主機が唸りを上げ加速する。
足の遅い戦艦級は付いてこれず、みるみるうちに距離が開いていく。しかし駆逐、巡洋艦は引き離せない、速力が同等なためだ。深海棲艦から5インチ砲弾や6インチ砲弾が後ろから放たれ、周囲に水柱を立てる。
こんな時だけは島風が羨ましい。
「砲雷撃戦!斉射!」
主砲と魚雷発射管を真後ろに向け斉射、深海棲艦に砲弾が次々と命中、さらに相対速度90ノットで迫ってくる魚雷を躱せず被雷、激しい爆発を起こし沈没していく。
先頭集団が沈められ、後続の奴等は警戒し陽炎の追撃を一旦中止した。
「これでしばらくは来ないでしょ」
陽炎はひとまず深海棲艦の群れを引き離すことに成功して、一息ついた。
「ふぅ、やっぱり1人であんな大群相手にするのは辛いわ」
普段は戦艦や空母の随伴、あるいは駆逐隊の旗艦として戦っている。
近くにはいつも頼もしい仲間がいる。
だが、今は自分一人。
身体や艤装の負担も然ることながら、とても心細くて心が参ってしまいそうだ。
「せめて誰か一人でもいてくれたらな……」
そう呟いた直後、これまでノイズすら出さなかったインカムから、声が聞こえた。
『陽炎、聞こえますか?』
「不知火!」
無線から聞こえてきたのは、心強い、頼れる、最高の相棒の声。
「あんた何してたの?ていうか大丈夫?怪我してない?」
『小破もしていません。今武蔵周辺の深海棲艦を殲滅している最中です』
「武蔵?」
『陽炎からも見えているでしょう?』
「ああ、赤いストライプの大和型のこと?」
『そうです、艦尾に「むさし」と書いてありました』
会話の間にも砲撃の音がしている。
不知火のことだ、見つけた深海棲艦を片っ端から沈めているのだろう。
『陽炎、黒潮逹を知りませんか?』
「残念だけど知らないわ」
『やはり、そうでしたか』
落胆した様子を微塵も感じない声。仲間から完全にはぐれてしまったことを、素直に受けとめているようだ。
『念のために、総合情報処理端末も持っていたのですが、他の艦娘の反応が全くありません』
「それって旗艦用の装備でしょうが、なんで不知火が持ってんのよ?」
『司令に貸して欲しい、と請願したら貸していただけました』
「相変わらずいい加減ね、あの司令は」
『融通が効く、と言うべきでは?』
「そうかも」
陽炎は自分に近づく深海棲艦の群れを電探で捉えた。思えばこれも、頼んだら二つ返事でくれた物だ。本当に、頼めば何でもくれる「融通の効く」司令だ。
「こっちにまたお客さん来たわ」
『やれますか?』
「もちろん」
『では、合流するのは後にしましょう』
「りょーかい」
陽炎は群れへ向け加速、すぐに敵を目視した。20体以上の大群だ、戦艦までいらっしゃる。見た途端に、沈められる恐怖が頭をよぎった。だがそれをアドレナリンが、興奮へと書き換える。
「さーあ!まだまだ殺るわよ!砲撃戦始め!!」
陽炎は獰猛な笑みを見せ、深海棲艦の群れへ向けて引き金を引いた。
「うっとおしいです、早く全部沈めて陽炎と合流したいのですが」
振り向きもせず、背後に向けて主砲を撃つと、飛びかかってきたイ級後期型に命中、爆発四散した。
「しかし、GPSも使えないのは困りますね。端末の故障では無いようですし」
総合情報処理端末は、不知火と陽炎のデータしか表示せず、他の艦娘はLOSTと表示されている。おまけに現在位置不明、GPS情報が入ってこないのだ。
「まあ、画面ばかり見ていても仕方ありません。とにかく沈めましょう」
頭を切り替え、深海棲艦との戦いを再開する。
現在のノルマは武蔵周辺の深海棲艦を掃討することだ。
不知火の砲撃命中率は90%を誇り、射程に入った駆逐艦、軽巡を次々と確実に仕留め進撃していく。
重巡以上の深海棲艦も、魚雷1発であっという間に葬った。
「つまらないわね。もっと骨のある敵はいないの?」
◇
「艦長!あれ見てください!」
もえかは副長に促され、右舷の化物の群れを双眼鏡で見た。そして、驚愕した。
「何……あれ……」
1人の少女が、まるでスケートのように海面を滑り、片っ端から化物に攻撃を加え沈めている。横須賀艦隊が苦戦している化物を、赤子の手を捻るように撃破する。化物がお返しとばかりに砲撃するが、少女はそれを全て見切って回避している。
「凄い……モンスターがあっという間に沈んでく……」
「一体何者なんでしょう?」
副長の疑問を聞き、もえかは目を凝らし少女を注視した。
化物の中へ果敢に切り込み、連装主砲や魚雷のような物で次々と攻撃を加えていく。砲弾が度々掠めるが決して怯まない。ただひたすらに攻め続ける。
「……あの武器、陽炎型の武装に似てない?」
「言われてみれば……背負っている機械や武器は陽炎型航洋艦のパーツに似ていますね」
もえかはその姿が
「……おかしいと思うかも知れないけど……、あれは艦なんじゃないかって感じるの」
「艦、ですか?」
「そう。あれは人の形をしているけど、艦のように海を航行して戦う。そんなものだって」
「艦が人に?それか艦と人の融合体……?そんなまさか…」
副長は解からず首をひねった。
その時、少女が突然起きた爆発に吹き飛ばされた。
「ああっ!」
もえかには無事を祈ることしかできなかった。
不知火
「第4話をお読みいただきありがとうございます。不知火です。
何故かはいふりの世界に連れてこられました、一体どうしてなのでしょう?
不知火と陽炎であれば、なんとかなるとは思いますが……」
作者「最後吹っ飛ばされてるけどね(笑)」
不知火「……不知火に何か落ち度でも?(怒)」
作者「あっ……いや……、ないよ?」
不知火「ちょっと表に出ましょうか」
次回もお楽しみに。