遂に長かった戦闘回が終わります。
果たして陽炎と不知火、そして晴風はどうなるのか。
それでは本編へどうぞ
不知火は中破し海面に横たわっていた。
水上艦ばかりに気を取られ、潜水カ級が潜んでいることをすっかり見逃していたために、魚雷を食らってしまった。
運悪く予備弾倉が誘爆し破片が艤装や身体に突き刺さり、炎が肉体を焼いた。
「潜水艦……ですか……」
プツリ、と理性がどこかへ吹き飛んだ。
こんな乱戦の中に隠れて奇襲してくるとか、ふざけるんじゃない。この卑怯者が。
ゆっくりと立ち上がると、身体に刺さっている大きな破片を抜き取り、海に捨てた。血が流れ出すが気にも留めない。
戦艦クラスの眼光で深海棲艦を睨みつけた。
「不知火を……怒らせたわね!!」
不知火は怒りに任せ、深海棲艦の群れに突っ込んだ。
とにかく撃つ、撃つ、撃つ。主砲を手とアームで持ち、ひたすら発砲する。
「沈め……沈め!!」
周囲にいる深海棲艦が次々と被弾し、炎が吹き上がる。
機関を全開に回し群れの中央を強行突破、深海棲艦が不知火を狙うがほとんどが外れ、向かい側にいた味方へ直撃、壮大な同士討ちを繰り広げた。
混戦の中、不知火は前方に潜望鏡を見つけた。
間違いない、不知火を雷撃したカ級だ。
「見つけた!」
不知火はブチ切れて後先考えず接近した。
絶対に沈めてやる。
カ級が魚雷を発射、雷跡が一直線に迫る。
だが、不知火は回避しない。
代わりに主砲を構え迎撃を試みる、何発も魚雷へ向け撃ちまくる。しかし当たらない、最後の手段として、太腿に装着されている連装機銃を水面に向け連射した。
結果、間一髪間に合い、魚雷は不知火の目前で爆発し水柱を上げた。その水柱の中を勢いを落とさず突き抜ける。
もう手が届きそうな場所まで近づいた、装備していた爆雷全てを潜望鏡に向けて叩き込んだ。
カ級は回避しようと深度を下げたが、もう遅い。
カ級の目の前で爆雷が爆発した。
次の瞬間にはカ級は爆圧でペシャンコに潰れ、海の底へ沈んでいった。
カ級を沈めてもなお、不知火の暴走は止まらない。近づいてくる奴を片っ端から潰していく。
食い殺そうと向かってきた駆逐艦の鼻っ面に主砲をぶち込み、16インチ砲を浴びせてくる戦艦タ級を雷撃で葬った。
「もっともっとかかってきなさいよ!」
機関や主砲が悲鳴を上げようが、砲弾が艤装を食い破ろうがお構いなし。
ただひたすらに戦い続ける。
新たに深海棲艦の大群が視界に入った。数は50くらいはいるだろうか。
普通なら撤退するしかないだろう。たが、その全てを狩ってやるとばかりに不知火は突撃していく。
「全員沈め!」
「ちょっと待てーー!!」
「!?」
いきなり横から陽炎にタックルされた。そのまま群れとは逆の方向に引きずられていく。
「陽炎!?何するんですか!」
「こっちのセリフよ!あんな大群に真正面から突っ込むとか、あんた死にたいの!?」
「そんな気はありません!」
「頭冷やせこのバカ!」
陽炎は不知火を引きずったまま、いつの間にか離れていた武蔵に追いつこうと速力を上げた。
「どうするつもりですか?」
「まずはあんたの頭を冷やして、どうすれば生き残れるか考える」
「全部殺せば生き残れます」
「海に浸ければ治るかしら」
陽炎はヒートアップした不知火の思考に呆れた。
普段は冷静なくせに、一度熱くなると止まらないのだから困る。
武蔵に追いつくと、巨大な航行波をなんとか乗り越え左舷後部にある梯子を登り、後部甲板の下にある格納庫に転がり込んだ。
深海棲艦の群れはかなり離れていて、すぐには追いついて来ないだろう。
不知火が暴れ回ったために被害は少なく無いので、立て直しに時間がかかっているようだ。
「不知火、傷見せて」
「手当するほどではありません」
「いいから見せなさい」
少し強引にシャツのボタンを外し、出血している箇所を確かめる。
右脇腹に大きな傷、破片が刺さっていたところで、破片を引き抜いたせいで出血が酷くなっていた。その周りには他にもたくさんの傷や火傷があった。
「うわ……酷いわね、どうしたの?」
「予備弾倉が誘爆しました」
「痛いでしょ?」
「……はい」
「こんな状態でなにやってんのよ、まずは傷口を塞がないと……」
陽炎は応急キットから、不知火は見たことの無いチューブを取り出した
「……それは何です?」
「瞬間接着剤(医療用)よ、染みるから我慢して」
傷から出てくる血をタオルで拭い周りを消毒した後に、瞬間接着剤を傷口に塗った。
「ーーっ!!」
凄く染みた。切った時よりも激しい、まるで焼かれるような痛みが走った。
歯を噛み締めてグッと堪える。
しかし、すぐに傷口は固まり、血が止まった。
「うん、止まったわ」
「け、結構染みますね」
「あんまり使う機会ないけどね」
陽炎は小さな傷も処置を施し、自分にできた傷にも接着剤を塗布した。
「他に傷ない?」
「ええ、もうありません」
「艤装の損傷は?」
不知火は黙って総合情報処理端末を差し出した。艤装の情報は全部表示されるからと言っても酷いと思う。一応見ておくが。
大破、機関出力50%に低下、主砲弾残り25発、魚雷残弾数2、電探使用不可。
「まずいわね……」
この状態では、不知火に戦力としての期待はできない。陽炎自身も中破しており、戦い続けるのは自殺行為だ。
短期決戦、一撃必殺で勝負を決めるしかない。
たが、痛手を負った駆逐艦2隻で大群相手にどうすれば勝てるのか。
陽炎は不知火に尋ねた。
「不知火、どうすればいいと思う?」
不知火は顎に手を当て、ほんの少しの間考えた。
「……ここまで大規模な発生の場合、奴等には旗艦がいるはずです。そいつを倒せば、指揮系統が乱れ規模は縮小するので、逃げ切ることはできるでしょう」
「なるほど!」
「ですが、旗艦まで辿り着くのは現状困難です」
「…………そうよねぇ…………」
後ろを見ると、深海棲艦の大群が海を覆い怒涛の追い上げをしてくる。もう数え切れないほどの大群で、見ているだけでゾッとする。
その時、急に艦が右に傾き2人は吹き飛ばされそうになった。
「何!?」
「急旋回……!?」
◇
「とーりかーじ!」
「主砲副砲榴弾装填、撃ち方よーい!」
航海長が舵を左へ回し、砲術長が射撃用意に入る。
武蔵の46cm主砲、15.5cm副砲が左舷に向けられる。武蔵は左に旋回し、化物の群れの頭を押さえる形になった。
好き勝手やってくれたが、もう許さない。武蔵についてくるのなら手荒く歓迎してやる、何度でも46cm砲を味わえ。
武蔵の乗員達は怒りに燃えていた。
砲口が化物の群れを捕捉する。
「射撃用意よし!」
もえかが叫ぶ。
「撃てーッ!!」
◇
もの凄い轟音と同時に艦が激しく揺れ、砲口から吹き出た火焔が視界を真っ赤に照らす。
「うっ……わっ!」
それは艦娘になって以来経験したことがない激しさだった。
吹き飛ばされてしまいそうな衝撃波、目の前を覆い尽くす巨大な火球。そして着弾し抉れる海面、炸薬によって上がる天まで届きそうな水柱。
とても現実のものとは思えなかった。
「これが……46cm砲……!」
本物の大和型戦艦の砲撃。艦娘のものとは比較にならない、一撃で島すら滅ぼせそうな威力だ。
どうしてこんな巨大砲が造れるんだ、どうしてこんな艦が沈むんだ。
陽炎は世界最強戦艦の実力を目の当たりにして、恐怖すら覚えた。
深海棲艦の群れが捻り潰される。群れはバラバラになり散開、各個で武蔵へと向かってくる。
2人はその中に確かに見た。
群れの中で唯一の姫鬼クラス、戦艦棲姫の姿を。
「__見つけた!」
あれが旗艦だ、間違いない。
武蔵の砲撃で群れが散開している今しかチャンスは無い。
「出るわ!」
「はい!」
2人は勢い良く床を蹴り、武蔵から飛び出した。
「__って、何一緒に来てんのよ!?」
陽炎は不知火に怒鳴った。
どうして大破しているのについてくるんだ、沈むぞ、と。
それに対し不知火はお決まりのセリフを返す。
「不知火に落ち度でも?」
「大破してるんだからじっとしてなきゃダメでしょ!」
「じっとしているのは性にあいません。それに、陽炎1人で行かせるわけには行きませんから」
「あんたが沈んだら元も子もないでしょうが!」
「その時は……
「不知火!!」
陽炎は語気を強めた。
だが、深海棲艦が2人に向けて砲撃を開始、回避行動のために離れ離れになった。
「不知火!あんた、沈んだら許さないわよ!」
「陽炎こそ!沈んだら許しませんよ!」
2人はそう言い放ち、それぞれ別々に戦艦棲姫へ向かった。
◇
別れて群れの中心へ向かっていく2人を、もえかは双眼鏡で確認した。
「砲術長!あの子達が見える!?」
「バッチシ見えてます!射撃中止しますか!?」
「いや!撃ち続けて!」
「正気ですか!?撃ったら巻き込みますよ!?」
「巻き込まないように撃つの!砲撃をやめたらモンスターに立て直す隙を与えるだけ!離れてもいいからとにかく撃ち続けて!」
「りょ、了解!射撃指揮所!あの少女を巻き込まないように撃って!」
もえかは2人に賭けた。きっとあの少女達なら、この窮地をひっくり返せるかもしれないと思ったのだ。
化物の砲弾が再び武蔵に降り注いた。装甲が激しい音を立てて砲弾を弾く。
「お願い、あれを倒して」
もえかは海を駆ける少女に祈った。
◇
武蔵の砲撃が続いたのは好都合だった。
多くの意識が武蔵へ向く上、砲撃に巻き込まれる深海棲艦もいたからだ。
陽炎は立ちはだかる深海棲艦の間をすり抜け、戦艦棲姫に向かっていた。
「……いた……」
正面に戦艦棲姫__黒髪、角の生えた女性の姿。それが操る超大型艤装__がたった1人で現れた、1人でこちらを待っていたようだ。
「ヨク来タナ、愚カナ艦娘メ」
戦艦棲姫が話しかけてきた。話し方から察するに、完全に舐められているようだ。
そりゃそうだ、向こうは深海棲艦の中でも最強クラスの戦艦、こっちはボロボロのただの駆逐艦。勝ち目がほぼ無いことは分かっている。
それでも、陽炎は強気に答える。
「待ってなくてもいいのに。あんた達どっか行ってくんない?」
「ソレハ無理ダナ」
「やっぱり?どうする?殺し合うの?」
「モチロンダ」
戦艦棲姫の艤装が動き、陽炎に向けて砲撃を始めた。
陽炎は横に飛び、紙一重で砲弾を躱した。
「この……っ!」
お返しに主砲を撃つが、強固な装甲によって弾かれてしまう。
だが、陽炎は元っから主砲は役に立たないと知っている。駆逐艦の本分は接近してからの雷撃戦だ。
残り4本の魚雷で、戦艦棲姫を水底に沈める。
「機関全開!」
主機がガタガタと悲鳴を上げ、缶も異常な発熱を始める。例え壊れてもあれを沈められるのなら構わない。
みるみる内に距離が詰まる。
戦艦棲姫の砲撃が身体を掠めて、アームについた主砲に命中、跡形も無く消し飛んだ。
陽炎は止まらない。奴の懐に飛び込み、魚雷を叩き込むまでは絶対止まらない。
連射される16インチ砲弾の雨を掻い潜り、手を伸ばせば届きそうな距離まで近づいた。
魚雷発射管を回し狙いをつける。
いよいよ決着をつける時。
「雷数2、発射!」
2本の魚雷が水中を突き進む。
戦艦棲姫が主砲で迎撃する。魚雷と砲弾が衝突し激しい爆発を起こした。
水柱と爆炎により視界が遮られる。
「ここ!」
その一瞬を突き、戦艦棲姫の右舷へと一気に回り込む。
「これで……」
この至近距離なら絶対に当たる。
「とどめよ!__っ!?」
魚雷を発射しょうとしたその時、こちらに向けられた16インチ砲が目に入った。
「愚カナ奴メ」
読まれていた。魚雷2本を犠牲にして死角に回り込み、とどめを刺す作戦が。
戦艦棲姫は視界が塞がれると素早く、陽炎が来ると思われる場所に砲を向けていたのだ。
もう避けられない。16インチ砲はこちらにロックオンしている。
「沈厶ノハ貴様ノ方ダ」
戦艦棲姫が不気味な笑みを浮かべた。
「沈メ!」
「殺らせない!!」
突然、戦艦棲姫の後ろから不知火が飛びかかり、艤装の上に飛び乗った。
それによって戦艦棲姫はバランスを崩して、砲弾は陽炎を外れて遠くに着弾した。
「クソッ!」
「陽炎!!」
不知火が叫ぶ。
撃て、早くこのデカブツを沈めろと。
迷っている暇は無い。
「発射!!」
最後の魚雷が戦艦棲姫に向けて放たれた。戦艦棲姫はどうすることもできず直撃。
激しい閃光と衝撃が陽炎を襲った。
「やった!?」
煙が立ち込め、視認できない。
しかし、あの距離での雷撃、仕留められた筈だ__。
__突如、煙の奥から不知火が吹っ飛んできた。
「ぎゃあっ!?」
陽炎は巻き込まれ、まるで自動車にでも轢かれたのかと思うほど強い衝撃を受けた。そのまま不知火と共に海面を転がり、仰向けにひっくり返った。
肋骨が折れたようで、胸が酷く痛んで起き上がれない。
左腕も動かない、折れたのか。
「痛たたた……、何なのよ……!?」
頭だけを動かし不知火が飛んできた方向を見る。
その途端、陽炎の顔が絶望に染まった。
戦艦棲姫が、まだ立っていた。
大破し艤装も肉体もボロボロだが、まだ沈んでいなかった。
「艦娘ドモガ……!!」
雷撃を受けたが、強固な装甲がかろうじて持ちこたえたのだ。
乾坤一擲の大博打。それが失敗に終わった。
もう倒せる手段は無い、逃げなければ。
陽炎は痛みを堪えて立ち上がり、不知火に呼びかける。が、
「不知火!逃げるわよ!」
「……行ってください」
不知火は弱々しく、そう言った。
「どうしたのよ!?」
「足が……動きません……」
不知火の右足がおかしな方向へ曲がっていた。
これでは航行はおろか、水上に立つことすらできない。
逃げられない。
「陽炎だけでも逃げてください……!」
だが、陽炎には不知火を見捨てることなんてできない。
ずっと一緒に戦ってきた相棒を、見捨てて自分だけ生き残れなんてふざけるな。
「バカ言ってんじゃないわよ!」
右手で主砲を支え、戦艦棲姫に向ける。
「仲間見捨てて逃げるなんて、死んでも嫌よ!」
主砲を撃つ。しかし、右手だけで保持しているので、反動でブレて軌道がずれ、戦艦棲姫にはかすりもしない。
「くっ!当たれ!当たれー!!」
何度も撃つが一発も当たらない。
どう足掻いても無駄だと言うかのように。
「サラバダ艦娘」
戦艦棲姫が主砲を2人に向ける。
もう砲撃を防ぐ方法は2人には無い。
「沈メ!!」
戦艦棲姫が引き金を引く直前、12.7cm砲の砲声が轟いた。
次の瞬間、戦艦棲姫は巨大な砲弾に貫かれ、文字通り爆発四散して原型すら残らなかった。
「……助かった……?」
腰の力が抜け、その場に座り込んだ。
今の砲撃は何なのだろう。
艦娘の砲撃では無い、より大型の砲。
「……もしかして」
振り返ると、1隻の駆逐艦がこちらに向かってくる。
「……晴風!」
晴風の第一主砲からは硝煙が立ち昇っていた。
陽炎は唖然とした。
まさか、あの主砲で、たった1発で仕留めたのか。
艦が主砲を深海棲艦に直撃されるなんて、聞いたこと見たこともない。
でも、おかげで助かった。自分達を助けてくれた。
「ありがとう、晴風」
立ち込めていた分厚い雲が切れ、光が差し込んだ。
2人は晴風に回収され、深海棲艦の群れから脱出した。
陽炎と不知火、そしてブルーマーメイドは辛くも勝利を収めた。
いかがでしたでしょうか。
これで一旦一区切りとなります。
戦闘描写を書くのはとても大変で、頭の中では思い通りに動く登場人物も、文章では動きがおかしくなったり流れが途切れたりしてしまいました。
まだまだ未熟だと反省してばかりです。
これからもお付き合いいただけるとありがたいです。
次回、窮地を脱した陽炎達と晴風、一体どう交わるのか。
お楽しみに。