青い人魚と軍艦娘   作:下坂登

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更新が遅くなり、申し訳ありません。
就職して自分の時間が減ったため、執筆が遅くなりました。
これからもできる限り書いて、最低でも月一で更新できるよう頑張りますので、よろしくお願いします。


ついに初感想を頂き、とても勇気づけられました。ありがとうございます。

ご意見、ご感想等励みになりますので、何かありましたら、ぜひお願いします。

追記:2020/7/7 誤字訂正を行いました、アドミラル1907様、誤字報告ありがとうございます。

それでは本文へどうぞ。


6話 束の間の休戦

晴風を含む横須賀艦隊は深海棲艦の包囲を脱したが、未だその近くに留まっていた。その理由は、被害が甚大で航行不能な艦がいたことと、深海棲艦の動きを見張らなければいけないからである。

 

 

 

明乃は被害の確認も兼ねて、各部署を回っている。

機関室の扉を開き、麻侖に尋ねた。

 

「麻侖ちゃん、機関部はどう?」

 

麻侖は手を止めて答えた。

 

「総点検が要るな。1回止まっちまったし、その後全開で回し続けたからあちこちで蒸気が漏れてる」

「新しい艦なんだから大丈夫だと思ったのにね」

 

そう皮肉ったのは空だ。

麗緒が相槌を打つ。

 

「ほんと、これじゃあ前と同じじゃん」

「一式整備し直してくれたらねー」

「いっそ普通の缶に変えて貰う?」

「あ、それいいかも」

「せめて空調(エアコン)欲しいよね」

「夏場はもう地獄だよー」

 

いつの間にか桜良と留奈も加わった愚痴祭りとなった。

その間を縫って、洋美が明乃の元へ来た。

 

「あんまり無茶させないでよね。見ての通り前と変わんないほど駄々っ子なんだから」

「ごめんねクロちゃん」

「と言っても、どうせ無理なんでしょうね。それより、あの子達は大丈夫なの?」

 

機関室の中がしんと静かになる。

あの子とは、陽炎と不知火のことだ。機関室の皆も、救出した彼女達が心配でたまらなかったのだ。

だが、まだ美波による治療中で、明乃も具合を知らない。

 

「あ、……えっと、まだ治療中で、私も会えてないんだ」

「そう……、終わったら教えて頂戴」

「うん」

 

明乃が頷いたちょうどその時、伝声管から美波の声が聞こえた。

 

『あーあー、こちら鏑木だ。救助者の手当は完了した。まず、命に別状は無い。意識も明瞭、と言うか実に元気そうだ』

 

その知らせに全員が安堵する。

 

「じゃあ私、様子見てくるね」

 

明乃は機関室を出て、医務室へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな包帯ぐるぐる巻きになったのって久しぶりね」

「そうですね、着任してすぐ以来です」

「あの頃かあ……懐かしいなあ」

「ドックが少なくて長い間待たされましたよね」

「空母や戦艦の人が入渠してた時は最悪よね」

「予定時間になっても出てこないので覗いてみれば、浸かったまま寝落ちしていた人もいました」

「えっ、それ誰?」

「それは言えません」

 

2人は昔話に花を咲かせていた。

晴風には怪我人が居なかったため、医務室は陽炎と不知火の貸切状態となっていた。

2人は包帯で身体中を巻かれ、更に陽炎は左手に、不知火は右足にギプスを付けられている。

 

普段ならドックに入っていれば1日もあれば回復するのだが、この艦隊には艦娘用のドックはないらしい。

こんなに大きな規模の艦隊に、艦娘母艦がいないのが不思議だ。

そこで、不知火はある疑問を呟いた。

 

「……そう言えば、他の艦娘は何故いないのでしょうか?」

「え……」

 

そうだ。海軍の艦隊には深海棲艦の襲撃を警戒して、少なからず2艦隊分__12隻は艦娘が同行しているはず。

 

陽炎も考えてはみるが、さっぱりわからない。

 

「逃げた?ないない。艦娘抜きで航海してた?いや……もう沈んじゃったとか?あ、でもそれだったら応急キットくらい艦に積んであるし、残骸が残るか……。不知火はどう思う?」

「おそらく艦娘無しなのでしょう。逃げるのも不自然ですし、沈んだというのも納得しかねます。

むしろ、初めから艦娘そのものが存在していないのでは無いかとすら思えるのですが……」

「……ごめん、何言ってるかさっぱりわからない」

 

突然何言い出すんだ。頭でも打ったか。本の読み過ぎで厨二病にでもなったのだろうか。

ああ、戦い過ぎてついに精神的におかしくなったか。

 

不知火は陽炎の考えを察して、眉をひそめた。

 

「……失礼なこと考えてませんか?」

 

すると、陽炎は悪びれもせず白状した。

 

「考えたわ」

「陽炎……」

 

不知火が文句を言おうとしたその時、扉が開かれた。

入ってきたのは艦長の明乃だ。陽炎にとってはここで初めてあった人であり、明乃からすれば陽炎は命の恩人であった。

 

「具合はどう?」

「肋骨にヒビ入ってるし、左腕は折れてるし最悪よ。でも元気だから心配ないわ」

「よかったぁ」

 

明乃は椅子を持ってきて、陽炎のベッドの横に腰掛けた。

 

「陽炎ちゃん、だよね」

「そうよ」

「そっちの貴女は?」

「不知火です。よろしく」

 

不知火が軽く会釈する。

明乃は自己紹介した。

 

「私はこの晴風の艦長、岬明乃です。よろしくね」

 

陽炎は驚いた。こんな小さな女の子が駆逐艦の艦長だなんて、まだ成人すらしてないように見えるのに。

 

「貴女が艦長なの?ずいぶん若いって言うか、幼い感じするんだけど」

「まだ高校生だもん、当然だよ」

「高校生!?」

 

驚愕する陽炎を見て、明乃はきょとんとした。

海洋学校のことを知らないのだろうかと。

 

「この艦は学生艦って言って、ブルーマーメイドになる子達を育てる為の艦なんだ」

「ブルー……マーメイド……?」

 

陽炎は初耳で何の事か全くわからない。

 

ブルーマーメイド……ブルー……マーメイド?青人魚?

 

「あれ?知らないの?」

「……ごめん、聞き覚えがない」

「えー、みんな知ってる筈なんだけどな」

 

明乃は意外そうに言った。ブルーマーメイドは日本人なら誰でも知っている職業だ。知らない人を初めて見た。

 

「ほんとに知らないの?」

「ほんとに知らないわ」

「ほんとのほんとに?」

「ほんとのほんとよ」

 

並行線を辿る陽炎と明乃の会話。ここで不知火が気を利かせ割り込んだ。

 

「すみませんが、陽炎は先程の戦闘の影響で記憶が混濁しているようです。聞けば思い出すと思いますので、説明していただけますか?」

「そうだったの?ごめんね、じゃあちょっと待って」

 

明乃は医務室に置いてあった端末を手に取り、艦長用のIDで起動した。そしてインターネットに接続し、ブルーマーメイドの紹介ページを開き陽炎に渡した。

 

「これならわかるかな?」

 

陽炎がタブレットのページをめくると、実際の活動の様子と簡単な説明が乗せてあった。

さらにめくると、組織の成り立ちについて解説があった。要約するとこうだ。

 

 

 

日露戦争後、日本はメタンハイドレードの採掘により地盤沈下を始めた。陸地の減少への対応策として巨大フロートを建造、フロートを陸地代わりに日本は発展を続けた。その結果、日本は世界一の海洋大国となった。

軍艦の一部が民間用に転用され二度と戦争には使わないという思いを込めて、艦長は女性が務めるようになった。

それがブルーマーメイドの始まり。

帝国海軍の軍艦もブルーマーメイドの所属となり、海の安全を守るために使われるようになった。

 

海洋学校では旧型艦を使用し、人員の育成に努めている。

 

 

 

「何これ……」

 

まるで漫画かアニメの世界だ。そうか、これは夢に違いない。

戦争が起きてない?日本が沈んだ?艦長は必ず女性?軍艦に女子高生が乗る?どこの萌ミリアニメだこれは。

こんなの聞いたことも無い。

 

「不知火、ほっぺつねってくれる?」

「夢では無いので無駄です」

 

不知火は冷たく断った。

 

「そんなのわからないじゃない」

「既に一度死にかけていますから、夢であればその時に目覚めています」

 

 

明乃は陽炎の反応を怪訝に感じた。

どうも記憶の混濁とは違う気がしたのだ。

 

「陽炎ちゃん、どうしたの?」

 

陽炎は正しい歴史を話そうとした。

 

「いや、だってこれ__」

 

その時、ましろが伝声管で明乃を呼んだ。

 

『艦長、至急艦橋にお戻りください』

「なんだろう?」

 

理由はわからないが、とりあえず戻る。何かトラブルでもあったのかもしれない。

 

「私艦橋に行くね」

 

不知火が頷く。

 

「わかりました。これ、しばらく借りてもいいですか?」

「いいよ」

 

明乃は医務室を後にした。

 

陽炎と不知火は顔を見合わせた。

 

「ねぇ、不知火、これおかしいよね?なんか日本が沈んだとか、ブルーマーメイドとかわけわかんないこと書いてあるんだけど」

「まるでアニメのようですが……、たぶん本当のことかと」

「……真面目に言ってる?」

「真面目ですよ?」

 

不知火は端末をひょいっと奪い、何やら調べ始めた。だが、顔がどんどん青くなっているのが見て取れた。

 

「……これを見てください」

 

端末には日本地図が表示されていた。

だが、見慣れたものではない。

 

「何よ……これ……」

 

平野のほとんどが海没し、浮島と思われる無数の四角い土地が存在している。

 

 

 

沈んだ日本の姿が載っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、弁天がようやく救援に駆けつけ、艦隊に合流した。

明乃は天神に移り、古庄とともに真冬を出迎えた。

互いに敬礼を交わした後、古庄が皮肉った。

 

「遅かったわね、真冬艦長」

「これでもすっ飛ばして来たんですけど。それより、聞いてたよりも酷い有様ですね」

 

真冬は天神の外装を見てそう言った。天神はあちこちに被弾し穴や亀裂が大量に残っている。よくこれで逃げ切れたものだと感心した。

 

「20発くらいは受けたわ。機関や武装もかなりやられているし、生き残れたのは幸運よ」

「ふーん」

 

真冬には、少し気になるところができた。

 

「なあ、ミケ」

「は、はい」

「晴風の損害はどのくらいだ?」

「機銃座1つが倒壊、それと天窓が壊されただけです」

「それだけか?」

「はい」

「化物の中に取り残されたにしちゃ少なくねえか?」

 

艦隊は大打撃を受けて、いずれの艦も大量の砲弾を浴びていた。だが、晴風だけは損害がほとんどなかったのだ。

どうしてなのだろう。

しかし、明乃の答えは予想の斜め上だった。

 

「その……女の子が助けてくれたんです」

「はぁ?」

 

真冬は耳を疑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天神の会議室に古庄と真冬、明乃、そしてもえかが集められた。武蔵が映像記録を取っていたため、それを見ることになったのだ。

 

「データ転送完了しました。再生します」

 

もえかが操作盤を叩く。

真っ暗だったモニターに、映像が映し出された。

 

 

 

海の上を進む人のようなものと、その周囲に立つ水柱が遠くに見える。

すぐにカメラはズームアップしてそれを大きく写し、不知火だと判明した。

不知火が海の上を滑り、化物を片っ端から砲撃し沈めているのがわかる。

 

 

 

真冬は目を丸くした。

 

「……おい、マジかよ……。こいつはなんで海の上に浮いてんだ……!?」

「それだけじゃなく、高速で移動している……。人が背負えるサイズの装置で、これだけの速度を出すなんて、凄いテクノロジーね」

 

古庄も驚きを隠せていない。

 

 

 

その時、不知火が突然至近距離での爆発に吹き飛ばされた。

 

 

 

「なんだ!?」

 

 

 

不知火はその場に横たわり、武蔵からどんどん距離が開いていく。

 

豆粒くらいにしか見えなくなった時、起き上がったかと思うといきなり暴れだし、化物の群れを無茶苦茶に壊していく。

 

 

 

「生きてた……つーか凄え暴れっぷりだな」

 

 

 

距離は開き続け、武蔵からは不知火がもう見えなくなった。

 

 

 

「止めて」

 

古庄が映像を止めさせた。

 

「岬さんの言う女の子はこの子なの?」

「いえ、この子ともう一人いるんです」

「もう一人……!?」

「はい。もかちゃん、この後の映像は?」

 

この後陽炎も撮影できているのかもしれないと思ったが、もえかは首を横に振った。

 

「ごめんなさい、カメラの死角で映ってない」

「そう……」

 

映像が残って無いのは残念だったが仕方がない。

 

「映像に映っているこの子は不知火って言うそうです」

「しらぬい……?」

「もう一人の子は、陽炎と言います」

「かげろう?不知火と陽炎……って、艦の名前じゃない」

「親の顔が見てみてえな」

 

真冬の言葉にみんな同感だ。

子供に艦の名前をつけるとは、変わった親だ。

 

 

古庄は何度も戦いの様子を思い返した。次々と化物を葬り去る不知火の姿は、あのような状況に慣れているとしか思えない。すなわち、あの化物との戦いを経験しているのでは無いか。

 

「……あれだけの化物の大群にたった2人で挑んで成果を上げている。彼女達は戦闘のプロなのかもしれないわ」

「戦闘のプロって……?」

「彼女達は、あの化物と何度も戦っているんじゃないかしら。そうでなければ、あんな風には戦え無いわ」

 

ふと、明乃は陽炎の言葉を思い出した。

 

 

 

(私が沈めて来るわ。あなた達はさっさとこの艦を動かして逃げなさい)

(あれを倒せるの!?)

(もちろん!私、あれを沈めるためにいるんだから)

 

 

 

「__陽炎ちゃんが、自分は化物を倒すためにいるんだ。って言ってました」

「本当なのそれ?」

 

古庄の問いに静かに首肯する。

真冬が腕を組んだ。

 

「つまり、あの怪物どもをぶっ潰すための兵士ってことか。だったらそいつらに話を聞かねえとな。あれが一体何で、どこから来たのか」

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの艦長ずいぶん不用心ね」

「全くです」

 

2人は端末でネットワークに接続し、艦隊情報を盗み見ていた。

艦長IDでログインされていたため、ある程度の情報は見れてしまった。

 

「武蔵、比叡、摩耶、鳥海、長良、名取、五十鈴……(以下略)。……凄い……沈んだ筈の艦がこんなに……」

「学校には山城、赤城、加賀、伊吹等もいるそうです」

「赤城に加賀も!?」

 

赤城と加賀は陽炎達の鎮守府にいた。最強の空母コンビとして君臨し、陽炎達もその圧倒的な航空戦力に何度も助けられた。

 

「この伊吹って何?」

「伊吹は改鈴谷型の軽空母です」

 

 

 

 

 

その時、扉が突然開いた。

不知火が反射的に端末を毛布の下に隠す。

 

「入るよ」

 

明乃が戻ってきた。後ろに真冬と古庄を連れている。

陽炎は、何事も無かったかのように尋ねた。

 

「あら、艦長お帰り。そっちの人は?」

 

明乃はそれに応え、2人を紹介した。

 

「こちらは横須賀海洋学校の古庄薫教務主任と、航洋艦弁天の宗谷真冬艦長」

「よろしく」

「よろしくな」

「私は陽炎って言います。こっちは不知火」

「よろしくです」

 

互いに軽く会釈を交わす。

 

「まずはお礼を言うわ。生徒達を助けてくれてありがとう」

「お礼なんていいですよ、当然のことをしただけですから」

 

頭を下げる古庄に遠慮する陽炎。こういうことにはあまり慣れていないから、なんだか照れくさかった。

 

「色々聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」

「お答えできる範囲でしたら」

 

不知火が先に断った。

 

「答えられる範囲って何?」

「私達の職場では機密事項があるので、それに抵触することはお答えできません」

「その職場はどこなの?」

「お答えできません」

「出身は?」

「お答えできません」

 

古庄は内心ため息をついた。ここまで突っぱねられると、情報を聞き出すのが難しい。ペラペラ喋ってくれるなら簡単なのに。

 

「じゃあ、質問に答えなくてもいいけど、もし言いたいことがあればすぐ言って頂戴」

「はい」

「はーい」

 

改めて質問を始める。

 

「貴女達は日本人なの?」

「……」

「年齢は?」

「……」

「住所は?」

「……」

「家族はいる?」

「「ここにいます」」

 

陽炎と不知火はお互いを指差した。

 

「姉妹なの?全然似てないけれど」

「まあ、そうなんです」

「ご両親は?」

「……」

 

参った。何も話してくれない。

仕事の話はともかくとして、住所や家族のことくらいは話してくれると思っていたのだが、実際に話してくれたのはお互いが姉妹だと言うことだけ。

名前も本名だという保証は無いし、手掛かりが1つも無い。

 

 

そんな聴取に、真冬は痺れを切らした。

あの化物に繋がるのはこの2人だけだ、こんなことをしている場合じゃない。さっさと事件の核心を聞き出すべきだ。

思い切って話を切り替えた。

 

「なあ、お前等はあの化物が何だか知ってるのか?」

 

 

 

陽炎と不知火は顔を見合せ、小声で相談した。

 

「ねえ、深海棲艦のこと知らないっぽいけど。どうする?」

「深海棲艦のことを話せば、我々の技術が知られてしまいます。何も言わないべきかと」

 

艦娘の技術は軍事機密の1つ。もしテロリストなどの手に渡れば、必ず悪用されてしまうと、危惧されている。

人が背負えるサイズで、軍艦をも沈める火力に、高速修復材(バケツ)ですぐに治る回復力、白兵戦では最強の兵器だ。

実際、国内に潜伏していたテロリストのアジトに、軍が艦娘を送り込み皆殺しにしたとの逸話もある。

 

「……でも、深海棲艦に襲われてる人を見て見ぬふりするの?」

「そんなことしません」

「じゃあ洗いざらい話す?」

「それは危険です。深海棲艦についての最低限の情報だけにしましょう」

「うん、了解」

 

相談を終えて、2人は真冬達と向き合った。

 

「本当に、あれが何か知らないんですか?」

「お前等は知ってるのか?」

「知ってます。ただ……信じてもらえないかも知れないので……」

「何でもいいから教えろ」

「わかりました」

 

陽炎は深海棲艦について話し始めた。

 

「あの怪物を私達は深海棲艦と呼んでます」

「しんかいせいかん?」

「『深海に棲む艦』と書きます。あいつらは突如生まれた生き物と機械のハイブリッドです。

人間を憎み、人間を滅ぼそうと砲や魚雷で攻撃してきます」

「何で人を憎んでるんだ?」

 

その質問にはすっとぼける。

本当の理由を教えても、信じてもらえそうにない。

 

「さあ?」

「さあ?って、知らないのかよ」

「聞いてもちんぷんかんぷんなんで。もし知りたいなら直接聞いてみたらいかがです?」

「犬死にするつもりはねえよ。その……深海棲艦ってのに対抗する方法はあるのか?」

「機銃やバルカン砲を満載して弾幕を張るか、小型艇で接近して銃撃するとかですね。でもそれでも、装甲の硬い奴相手じゃ厳しいですけど」

「あんな化物相手に近づけってか?」

「近づきたくないなら、爆撃とか砲撃とか、ミサイル攻撃するくらいですね。効果は薄いですけど」

 

「つまり、犠牲覚悟で接近戦に持ち込むか、近づけないように大量の弾薬を浪費するか。の2つってことね」

 

古庄が確認すると、陽炎は頷いた。

 

「そうです」

「貴女達の装備も接近戦用に作られたものなの?」

「まー……そうですね」

 

駆逐艦だから当然だ!と言いたかったが、グッとこらえる。

 

古庄は更に追及する。

 

「深海棲艦も貴女達も、どうやって海の上に立っているの?」

「艤装のおかげです」

「艤装?貴女達の背負っていた機械のこと?」

「はい。原理とかは言えませんけど」

 

古庄は明乃に振り返った。

 

「艤装は保管してある?」

「はい、工作室に保管しています」

「後で調査させてもらうわね」

「ダメです」

 

突然、不知火が艤装の調査を拒否した。

 

「艤装には、高出力の動力源と弾薬が搭載されています、もし傷つければ爆発しかねません」

「爆発!?」

 

明乃は慌てて、ひっくり返りそうになった。爆発したら一大事だ。

 

「そうすぐには爆発しないので、慌てないでください」

 

不知火が諌めた。

 

「しかし、専門のスタッフでなければ分解するのは危険です。もし万が一、艤装が使えなくなれば、戦うどころか海の上に立つことすらできません。艤装は私達の身体の一部なのです」

 

 

 

身体の一部、そう言ったのは比喩等では無い。

艦だった時の艤装が形を変え、人の形となった艦娘と共に生まれる。

 

艤装が朽ちれば艦娘としての力は無くなり、艦娘が死んだら艤装は力を失う。

 

艦娘は、艤装と共にあるのだ。

 

 

 

「……」

 

古庄は黙って熟考していた。

艤装を分解調査できれば、陽炎や深海棲艦の航行能力や武装に関して多くのことが解るだろう。

しかし、不知火の言う通りだとすれば、艤装の仕組みを知ることはできなくなり、陽炎達も力を失い協力を得られ無くなる。

 

どうしたものか。

 

 

 

その時、真冬に副長から無線が入った。

 

『艦長、応答願います』

「どうした?」

『北風が、第4特殊部隊が到着しました』

「特殊部隊が!?」

 

 

新たな増援、第4特殊部隊が到着。

 

心強い知らせなのだが、真冬達は妙な胸騒ぎを覚えるのであった。

 

 




艦船設定
北風 第4特殊部隊所属艦(モデル:あたご型護衛艦)

陽炎「次回はオリキャラが出るらしいわよ」
明乃「どんな人なのか楽しみだね」
陽炎「それにしても、特殊部隊かぁ」
明乃「作者さんは軍事知識ほとんど無いけど、大丈夫なのかな?」
陽炎「不安よね」
明乃「もう無茶苦茶になったりして」
陽炎「絶対なるわね」
作者「ならないよう頑張ります」

次回もお楽しみに。

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