青い人魚と軍艦娘   作:下坂登

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作者「……まずい……戦闘回がどんどん遠のいていく!」
芽衣「早く撃たせろー!じゃないと撃っちゃうよ!」
作者「それは勘弁して」
鈴「私は戦いの無いお話の方が好きですよ」
作者「おおお……鈴ちゃんありがとう」
鈴「でも、早く進めないと嫌いになっちゃう……かもしれないですよ」
作者「はぁい……頑張ります」

追記:3/23誤字訂正を行いました。Kongmu様、誤字報告ありがとうございます。

それでは本文へどうぞ。


9話 駆逐艦陽炎を修復せよ

「不知火!」

 

バーン!!とドアが壊れそうな勢いで開けて医務室に飛び込んだ。

 

「そんなに慌てて、どうしたんですか?」

「ブルーマーメイドの人が深海棲艦と戦るって言ってんのよ!」

「既に聞きました」

「なんとかしてやめさせないと!」

「その必要はありません」

「え?」

 

今まで焦っていて気づかなかったが、不知火は滅茶苦茶怒っている。晴風と出会った戦いの時並みにキレている。背後に般若でも見えそうなほどだ。

 

「不知火のことを臆病者呼ばわりした奴は深海棲艦に喰われてしまえばいいのです」

「ちょっと落ち着こう、他の人もいるからね?なんとかして被害を無くさないとね?」

 

怒りのオーラに圧倒されてたじろぐ陽炎だが、なんとか不知火を諌める。

しかし、キレた不知火は何処かおかしい。

 

「わかっています。では出撃準備をしましょう」

「……は?」

「なんですかその腑抜けた声は。臆病者だと言った奴を見返すには、不知火自ら出撃しか無いでしょう」

「いやちょっと待て!あんた大破してるから!しかも脚折れてまともに航行できないでしょうが!」

「『大破出撃、ダメ、絶対』なんて無駄です!大破でも勝てます!」

「慢心すんなこのバカ!」

 

口で言っても聞かないので、ゴン、とギプスの上から右脚を叩いてやった。相当痛かったようで、不知火はベッドの上で「あ"あ"あ"あ"あ"」と本当に痛そうな悲鳴を上げてのたうち回った。

後ろで美波が眉をひそめていたが、気づかないふりをした。

 

「なっ、何するんですかっ!」

「また出撃するとか抜かしたら、もう一発やるわよ?」

「くっ……!」

 

流石の不知火も激痛には勝てないのか、ここは引き下がった。

 

「それで、どうする?一応データは貰えたけど」

「見せてください」

 

陽炎が端末を起動すると、無駄に作り込まれたメニュー画面が表示された。

 

 

 

White dolphin & Blue mermaid

4th Special force

 

 現戦力

  敵

オプション

  ㊙

 

 

 

「……『㊙』?」

「見ない方が身のためです」

「じゃあ『敵』から見よっか」

 

『敵』のパネルをタッチして開く。

全個体のデータが表示され、ばーっと画面を埋め尽くしていく。

 

「うわ〜」

「これは……多いですね」

「10、20、30、40、50……数えるの止めよ……」

「あ、種類別の一覧がありますね」

「なんだ、それ見ましょ」

 

種類別一覧のパネルをタップする。

だが、分類が鯨型と人型の2つなのはどういうことだ。

 

「……どゆこと?」

「深海棲艦を知らない人が作ったのだから、仕方がありません」

「なるほど。まずは識別からはじめよう」

「そうですね」

 

陽炎達は一体ずつを識別、要するにイ級だのロ級だのに分けていく。

 

「イロハ級はほとんどいるみたいね」

「鬼姫級は戦艦棲姫のみでしょうか?」

「そうかもね」

 

作業を繰り返しあと3割弱というところで、おかしな点に気がついた。

 

空母、軽空母、水上機母艦等、航空機を積んだ艦が一隻もいない。それだけでなく、航空巡洋艦や航空戦艦勢の格納庫やカタパルトが消えている。

まるで飛行機という物が消滅してしまったかのようだ。

 

「……航空戦力が0……?」

「まさか一隻もいない訳……?」

 

残りの3割も急いで調べたが、やはり航空戦力が全くない、これは異常だ。

 

説明する必要はないと思われるが、航空機というのは最も恐ろしい戦力である。時速500kmを超える機動力によって砲火の合間を縫い接近し、雷撃或いは爆撃を加えて艦を沈める。あの大和や武蔵も大量の航空機に襲われ海底に沈んだ。

艦娘と深海棲艦の戦いでも脅威だ。

爆撃で一撃大破なんて当たり前、下手すれば一艦隊が一瞬で消え去ることもある。出撃したら一航戦の2人だけで何十体もの深海棲艦を、本当に鎧袖一触で沈めてしまったことがあった。空母がいるかいないかで勝敗が大きく変わるのだ。

 

「全く航空戦力が無いなんて……」

「ただの偶然か、それともわざと航空戦力を入れなかったのか……いずれにしても不気味ですね」

「そうね……」

 

しかし、航空機を気にしなくてもいいのは助かる。航空戦力がいたら通常艦艇ではもう太刀打ちできなかった。奴らにはレーダーも反応せず、CIWSでも撃ち落とせないのだ。しかも陽炎も不知火も対空能力はあまり高く無いため、空母がいたら勝ち目は無かった。

 

だが、やはり引っかかる。

 

「……航空機がいない……」

 

陽炎は航空機の存在に疑問を抱いた。

 

武蔵にカタパルトは無かったし対空砲も少なかった、摩耶も対空砲の増設をしていなかった。そもそもどの艦もカタパルトを搭載していない。

 

「……なんで航空機がいないのかしら?」

 

陽炎は大きな謎にぶつかった。しかし、答えにたどり着くことなんてできなかった。

 

 

 

不知火は陽炎が熟考している間も情報に目を通していた。

 

北風、弁天、学生艦、搭載された無人飛行船、スキッパー。どれも目を見張るものばかりだった。

 

イージス艦もインディペンデンス級も、不知火の知っているものよりかなり強化されている。北風は主に機銃の増設、弁天は航行能力が大幅に高められていた。旧型艦は自動化の恩恵で、武蔵ですら30人で動かせるようになっていた。

無人飛行船はいわゆるハイブリッド飛行船であり、時速100kmでの飛行能力と、艦に比べると貧弱ではあるが装甲を有していた。

そしてスキッパーは、通常の中型スキッパーで時速100ノット、チューンナップされているであろう第4特殊部隊の武装スキッパーは150ノット以上を叩き出すモンスターマシン。

 

__これでなら、可能性はあるかもしれませんね……。……ですが……。

 

「……陽炎、1ついいですか?」

「ん?何?」

「出撃、して頂けませんか?」

「え!?」

 

陽炎は素っ頓狂な声を上げた。

あんたは私を殺す気か。

 

「な、何で私が出撃!?」

「一言で言えば監視のためです」

「監視?」

「はい。ブルーマーメイドは深海棲艦との戦闘経験は無いに等しいでしょう、それに戦闘中に空母や鬼姫級が突然現れるという可能性もあります。もし迂闊に突っ込めば被害を増大させるだけです。防ぐためにはどちらかが現場で状況を見定め、適切な指示をしなければなりません」

「それは……そうね」

 

不知火の説明に一応納得し頷く。

陽炎達も戦いの中で何度も危ない目に会った。雑魚しかいないと思って慢心していたら、突然空母部隊の猛攻を受けて命からがら逃げ出したり、主力を撃破し撤退しようとしていたら、前触れも無く防空棲姫や戦艦棲姫が現れボコボコにされたり。枚挙に暇がない。

 

だが、陽炎達は深海棲艦の知識を持つため、危険かどうかの見極めができる。だからどんな状況でも命を落とすこと無く帰ってこれたのだ。

 

もし無知な者が遭遇すれば……、どうなるかはわかるだろう。

 

それは避けねばならない。

 

「……わかった。でも私も大破した状態じゃ、まともに航行するのも難しいわよ。ここには高速修復剤もドックも無いけどどうするの?」

「……」

「……とりあえず、艤装点検しに行こっか」

「そうしましょう」

 

不知火が身体を回してベッドから降りようとすると、美波が松葉杖を持ってきた。

 

「これを使うといい」

「ありがとうございます」

「艤装は工作室にある。出て艦首の方にずっと行くと着く」

「わかりました」

 

不知火は松葉杖をついて歩き出した。陽炎はそれを心配に思い、一緒にペースを合わせて歩いた。

 

 

 

 

 

「お邪魔しまーす」

「あ、陽炎ちゃんに不知火ちゃんスね」

 

陽炎達が工作室に入ると、媛萌と百々がいた。

 

「もしかして艤装を動かしに来たの?」

「ええ、そうよ」

「おおー!ぜひ見てみたいっス!」

 

百々が艤装の様子を写そうとスケッチブックを取り出す。

 

「そんなキラキラした目で見られるのも恥ずかしいな」

「いーから早く早く」

 

媛萌もワクワクしているようだ。

 

なんか恥ずかしい。

 

陽炎は艤装を装着していく。

大きくてガッシリとした金属製の靴に足を入れ金具を止める。そして、大きな箱状の装置を背負った。

 

「装着完了、駆逐艦陽炎起動」

 

不知火が端末を見ながら経過を報告する。

 

「駆逐艦陽炎、起動。リンク開始」

 

陽炎の意識と艤装の制御が繋がっていく。

 

「艤装の起動は順調です」

「そうね…………っ!……」

 

ほんの一瞬視界がホワイトアウトするが、すぐに回復した。艤装をリンクさせる時よくあることだ、問題無い。

リンクし終わると却って気分がよくなってきた。

 

「リンク100%、駆逐艦陽炎、起動完了」

「機関始動」

 

缶に火を入れ機関を始動する。ゴウッと着火する音と、空気を吸い込む音が響いた。

 

だが、その音がパンパンと乾いた破裂音に変わり、艤装の砲弾で開けられた穴から黒い煙が吹き出した。

 

「ぐっ……!やばっ、缶が死んでる……っ!」

「第三缶の出力測定不能!」

「切り離す!」

 

缶の1つが被弾し、異常発熱を起こしていた。このままでは最悪爆発しかねないので燃料の供給を遮断し停止させた。

黒い煙が消え、破裂音も収まった。

 

「出力安定……。第一、正常。第二、出力73%。第三、使用不能」

「合計で57%ってところね。これじゃあ出せても20ノットか……」

「戦えるような状態ではありませんね」

「う〜ん、どうしよう……」

 

しばし考えを巡らす。

 

「直せ無いんスか?」

 

百々が超高速でスケッチしながら尋ねる。

 

「ここまで酷いと、缶を交換するしかありませんが……」

「そうだ!」

 

突然、陽炎は閃いた。

 

「不知火、あんたの缶頂戴」

「不知火の缶を……ですか?」

「同じ型の缶なんだから交換しても平気でしょ?」

「盲点でした」

 

不知火も機関部を装着し起動させる。

だが、陽炎よりも調子が悪く、ずっとプスプスと変な音を立てていた。

 

「……どうなの?」

「第一70%、第二0%、第三7%です」

「……25%しか出ないわけね。わかった、第一缶を頂戴」

 

陽炎の第三缶と不知火の第一缶を入れ替えれば、出力は80%まで回復する。万全とは言えないが、それで十分だと思った。

艤装の蓋を開き缶を引っ張り出し、陽炎の艤装へと差し込んだ。

 

「機関はなんとかなりそうね。次は武装だけど、こっちも不知火のもらうわよ」

「どうぞ」

 

不知火は艤装を降ろし、主砲のついたアームを外そうとした。

そこで今更気がついた。片足を骨折した自分では、重たい武装の交換作業が難しいことに。そして、陽炎も片腕が使えず、作業できそうにない。

諦めて媛萌と百々を呼ぶ。素人には任せたくないが、仕方がない。

 

「すみません。交換作業を手伝って貰えませんか?」

「いいよ!艤装の修理大歓迎!」

 

2人は快諾し、早速交換作業に取り掛かる。

 

「アームの根本にレバーがあるでしょう?」

「これスか?」

「それを強く押し込みながら引き抜いてください」

「わかったっス。せーのっ!」

「あ、かなり重いので気をつけてください」

 

ズゴッ!「ゴフッ!?」

 

注意も間に合わず、百々はアームを支え切れずに後ろにひっくり返った。

 

「モモー!?大丈夫!?」

「……も……もっと早く言ってほしかったっス……」

「すみません。不知火達は力が強くて重い等の認識がズレていました」

「どれだけ力持ちなんスか……」

 

媛萌が「よいしょっ」とアームを持ち上げ、机の上に置く。

確かに重い。十数kgはあるかもしれない。

 

「これと陽炎ちゃんの千切れたアームを付け替えるのね」

「ええ」

「サクッとやっちゃおう」

 

陽炎の艤装から千切れたアームが取り外され、不知火の主砲アームが取り付けられた。

 

「取り付け完了!」

「OK、動かすわよ」

 

アームがグイーンと伸び縮みを繰り返す。

媛萌と百々の視線が釘付けになっていた。

続いて旋回、主砲が右に360°左に360°回る。

 

「旋回OK、仰角」

 

2本の砲身が上下に可動する。その姿はさながら軍艦の主砲だ。

 

「凄いっスね、本物の主砲みたいっス」

「わざわざ駆逐艦の主砲に似せる意味はなんだろう?」

「……ロマンじゃないスか?」

「どうなの陽炎ちゃん?」

「……まあ、そんなとこ」

 

陽炎は適当に答えた。

両手持ち主砲は使えないため、不知火の片手持ち主砲を装備。そして主砲それぞれから弾倉を取り出した。

 

「残弾、第一12発、第二8発。心もとないわね」

「陽炎の砲弾を移しますか?」

「いや、そっち5発しか無いし、いいわよ」

「一発を笑う者は一発に泣く、と言いますよ。どうせ不知火は使わないのですから、持っていってください」

「はいはい、わかったわよ」

 

不知火が抜き取った砲弾を受け取り、弾倉に詰め込む。

 

「弾倉はオートマチック銃っぽいね」

 

媛萌が弾倉を見て率直に述べた。

 

「その銃弾って普通のと違うの?」

「銃弾じゃなくて砲弾よ。見てみる?」

 

陽炎は砲弾を1つ抜き取り、媛萌に手渡した。

 

「普通の銃弾みたいだけど……」

「銃弾とは比べ物にならない威力よ。喰らってみる?凄いわよ、当たった途端、パーン!って」

「死んぢゃうでしょーが!」

「まだ死にたくないっスよ!」

「あはは、冗談冗談」

 

ひょいっと砲弾を取り上げて、弾倉に戻した。

媛萌と百々は、冗談に聞こえねーよと陽炎を軽く睨む。

 

「主砲も使えるようになったけど、魚雷が無いのは辛いわね」

「仕方ありません。それより、ボロボロの装甲を直すべきでは?」

 

艤装の装甲には被弾した穴や亀裂が無数に残されていた。あれだけ無茶をしたのだから当然だが。

普段なら装甲を全てスペアに入れ替えるのだが、ここには無い。

 

「直したいんだけど、部品が無いしねぇ……。板金とかできないし」

「夕張さんなら朝飯前でしょうが……」

 

オレンジのつなぎを着た軽巡の姿を思い浮かべる。

 

「明石さんなら寝ながらでも……」

「できそうですね……」

 

ピンクの髪の工作艦を思い浮かべる。

 

「居ないしねぇ……」

「居ないですからね……」

 

どちらかを強引にでも連れてくるべきだった。

2人揃ってため息をついた。

 

「直せる人がいたらなぁ……」

 

 

 

 

 

「私達に任せなさい!」

「任せるっス!」

 

 

 

 

 

バーン!と効果音が付きそうな勢いで、媛萌と百々が胸を張って宣言する。いつの間にか溶接機や保護ゴーグルを準備していた。

 

「えっ……、貴女達が直すの?」

「そうに決まってるっスよ!」

「晴風の応急委員にできないことはないの!」

「塗装から板金、溶接、配管配線、ありとあらゆる種類の修理ができるっス!」

 

なんてハイスペックな高校生だ。と舌を巻いた。

こんな応急員がいるなら、晴風は沈まないだろうとも思う。

 

「じゃあ、お願いしてもいい?」

「もちろん!」

「私の指示通りにやって。まずは……」

 

媛萌と百々は陽炎の指示通りに艤装の修理を始めた。

おそらく完全な修復は不可能だが、少しはマシなんじゃないかと、不知火は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2時間程で装甲の修理は完了した。

継ぎ接ぎだらけになるかと思っていたが流石は晴風応急委員、見た目も綺麗に仕上げられた。

流石に純正の装甲板の強度は有していないが、多少の攻撃なら凌げるだろう。

 

「まさか塗装作業までやるとは思わなかったわ」

「急ごしらえのスけどね」

「十分よ、ありがとう。艤装の修理は終わりね、後は燃料だけど……」

 

媛萌が尋ねる。

 

「何?ガソリン?アルコール?」

「えっと……確か……」

「重油です」

 

答えられなかった陽炎の代わりに、不知火が答えた。

それを聞いて媛萌は意外そうな顔をした。

 

「重油?重油使ってるの?」

「ええ、蒸気タービン艦と同じです」

「小型機関に重油なんて珍しいなぁ。普通ならガソリンとかアルコール燃料なんだけど」

「そういうものなんです。……ありますか?」

 

その問に、媛萌と百々はニヤッと笑った。

 

「もちろん、いっぱいあるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

媛萌と百々は晴風の燃料タンクの中にホースを垂らして手動ポンプへと繋ぎ、そこから別のホースを陽炎の艤装の燃料タンクへと繋いだ。

百々が手動ポンプで燃料を汲み上げ、陽炎の艤装に給油する。

 

「今どのくらいスかー?」

「全然入ってない」

「了解っス。でも重油で動くってラッキーだったっスね、晴風にはまだ400トンもあるからちょっとくらい取っても問題無いっス」

 

不知火が意外そうに言った。

 

「まさかまだ艦が重油で動くとは、驚きです」

「知らなかったんスか?」

「てっきりディーゼルエンジンにでも替えているのかと思っていました」

「そんなことするわけ無いっス」

 

燃料はどんどん艤装に入っていくが、中々満タンにならない。

 

「まだスか?」

「今半分」

「艤装の容量超えてる気がするっスけど……」

「気のせい気のせい」

「ヒメ、腕疲れたから代わって欲しいっス」

「はーい」

 

媛萌に交代し給油を続ける。

 

「気になるんだけどさー、艤装ってどういう仕組みなの?」

「教えない」

「えー」

「ていうかよく知らない」

「知らないんかい」

 

とぼける陽炎に媛萌がツッコむ。

 

「原理も知らないのに使ってんの?」

「そーよ、艤装の開発担当がぺちゃくちゃぺちゃくちゃ意味不明な単語の羅列を喋ってくれるおかげで、さっぱりわからないわ」

「いるよねーそういう人」

 

媛萌は苦笑し相槌を打った。

陽炎はフフッと笑うと更に愚痴った。

 

「機械のことはなんでも解るのに、こっちの理解力をわかってないのよ」

 

脳裏に工廠コンビを浮かべながら、楽しそうに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ストップ。もう満タン」

 

しばらくして、燃料タンクがいっぱいになったので給油を止めた。

艤装が燃料の分ズッシリと重くなったのがわかる。

 

「修理も補給も済んだし、試験航行しよっか」

 

陽炎は立ち上がり、甲板への階段を上った。

 

「ちょっと待って!」

 

媛萌達は慌ててその後を追いかけ引き止めた。

 

「何?」

「その格好で海に出るんスか?」

 

陽炎と不知火は治療を受けてからずっと病衣のままだった。今まで気にしていなかったが、これで外に出るのは確かに気が引ける。

だが、陽炎達の制服はボロボロで着られる状態ではない。

 

「んー、でも服無いし……」

 

すると、媛萌がこんな提案をした。

 

横須賀女子海洋学校(うち)の制服着てく?」

「え?そのセーラー服を?」

 

陽炎は百々の着ているセーラー服を確認した。青と白が基調のシンプルなもので、艦娘の制服のどれとも違う。

個人的にはセーラー服はあまり好きではない、風がスースーと通って身体が寒くなる。

しかし、好意を無下にするわけにも行かない。

 

「等松さんに言えば予備出してくれると思うよ」

「ほんとに?ありがとう」

「さあ、行こっ」

 

媛萌に促され、陽炎達は購買へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

購買で制服を購入(経費で落とされた)し、袖を通した。サイズはピッタリだったが、どうにも違和感が拭えない。

あれだ、スパッツ履いてないからだ。股がスースーして仕方がない。

 

「スパッツは売ってないの?」

「残念だけど売ってないわ」

「そっかぁ……。ヒメ、それ頂戴」

「ええっ!?」

「陽炎ちゃん……まさか、そんな趣味があったんスか……」

「無いから」

 

何故か興味津々な百々の言葉をぶった切る。生憎、赤の他人の服で興奮するような性癖は持ち合わせていない。

結局、媛萌の予備のスパッツを借りた。

サイズについては黙秘しておく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それって……横須賀に帰港せずに戦うってこと……?」

「うん……たぶん、そうなる」

 

鈴の恐怖と驚きの混じった質問に、明乃は正直に頷いた。

 

あの後明乃は艦橋要員を集めて、赤羽から聞いたことを全て伝えた。

深海棲艦を本土に近づけてはならないこと、そのために敵を殲滅しようとしていること。

 

「あのモンスターとまた戦わなくちゃいけないの?」

「殲滅どころか、こっちが滅ぼされそうなんだが……」

 

やはり、鈴とましろは否定派だった。

 

まあ当然だ、前回の戦闘では危うく戦場のド真ん中で立ち往生し、死にかけたところを間一髪陽炎に救ってもらえて逃げ切ったというザマ。

他の艦も奮闘したが半数以上が中破以上の被害を受け、あの武蔵も戦闘に支障は無いようだが数百発の砲撃を受けて痛ましい姿になっていた。

それに対し深海棲艦はまだ数えきれない程残っている、おそらく7割は残っているかもしれない。

 

「弁天と北風が来たからって……、戦力はダウンしてるし……」

 

芽衣も乗り気では無い。深海棲艦が機銃座に飛び込んできた瞬間を思い出し、身体がブルッと震えた。

 

「……第四特殊部隊って……どんなの……?」

 

志摩がそう幸子に尋ねた。幸子は素早くタブレットを叩き情報を調べる。

 

「……テロ対策につい最近組織されたみたいです、隊員数は250名、北風及び武装スキッパー多数に無人飛行船3機を保有してます。

結成直後から様々な作戦に参加して……あ、パーシアス作戦にも参加していたようですね」

「パーシアス作戦にも?」

 

明乃が聞き返す。

 

「時津風の制圧を担当したそうです」

「へぇ〜」

「詳しい情報は載っていませんが、結構優秀な人達なんじゃないでしょうか」

「そうならいいが……」

 

ましろはどこか不安そうだった。

 

「どうしたのしろちゃん?何か気になるの?」

「ああいや……」

「副長さっき、赤羽って人にタブレットぶつけられたんだよ」

 

芽衣が教えると明乃は「ああ〜」と納得したようで、お決まりの一言をさらりと言う。

 

「しろちゃん、ついてないね」

「それで済ませるなよ……」

「あはは……」

 

他の面々は愛想笑いを浮かべた。

 

「ああいう人は苦手なんだ」

 

あの姉と似たタイプなのではないかとましろは思ってしまう。

やんちゃで周りを振り回すだけ振り回していく、迷惑な奴。

 

「う〜ん、別に気にしなくてもいいんじゃないでしょうか?それより見てくだいよこれ!」

 

幸子がずいっとタブレットを突き出して、明乃達に見せる。

 

「なになに?」

「特殊部隊の司令さんなんですけど、凄いイケメンじゃないですか?」

 

表示されていたのは神谷のプロフィール画面。

 

「……ほうほう」

「……うぃ」

「この人が司令さんなんだ。かっこいいね」

「……もっと怖い人かと思ってた」

「しかも、この若さで司令なんてかなりのエリートですよ」

「へぇ〜」

 

各々が感想を口にしていた時、伝声管から陽炎と不知火の声が聞こえた。

 

『あーあー、艦橋聞こえる?ちょっと外に出てくるわ。以上』

『陽炎いい加減すぎです。艦橋、陽炎はこれから試験航行のため海に出ます、30分ほどで戻る予定です』

 

不知火の報告がまだ終わらないうちに、陽炎が甲板左側に現れた。

横須賀女子海洋学校の制服を着て、その上から艤装を装着している。

 

「陽炎ちゃん!?」

 

明乃達は左ウイングから身を乗り出した。それに気づいた陽炎がこちらに連装砲を持った手を振ってから、海に飛び降りた。初めて会った時と同じように海面を軽やかに滑り進む。時折蛇行や加減速を加えるのは、艤装の動きを確かめているのに違いない。

 

「どうやったらあんなふうに動けるんだ?」

「全くの謎です!凄すぎます!」

 

幸子が鼻息荒くタブレットで動画を撮影し続ける。

 

「あれ楽しそうだなぁ」

 

芽衣がつぶやくと、鈴も同意し頷く。

 

「うん、なんかジェットスキーみたいだよね」

「わかるー、やったこと無いけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『陽炎、どうですか?』

「やっぱり速力が落ちてるわね、30ノットくらいしか出てないわ。舵は問題無いけど」

 

陽炎は不規則な動きを繰り返しながら艤装の状態を確かめていたが、予想通り速力がかなり落ちていた。

 

『電探とソナーはどうですか?』

「ちょっと待って」

 

陽炎は一旦停止し、意識を索敵に集中させる。

 

「電探起動」

 

電探が動き出し周囲の状況を読み取っていく。

深海棲艦の姿は無く、映し出されるのはブルーマーメイドの艦艇ばかり、くっきりと映し出された。

 

「電探異常無し。アクティブソナー(ピン)()っ」

 

アクティブソナーが放たれ、海中の様子を鮮明に映し出した。海中にも深海棲艦の影は無い。

 

「ソナーも異常なし」

『索敵は問題無し……と、少しは安心できますね』

「もっとも、私が索敵できたところで晴風とかの命中率が上がるわけじゃないんだけどね」

『居るか居ないかがわかるだけでもだいぶ違いますよ』

「そうね。……主砲の試し撃ちもする?」

『貴重な砲弾を使うわけにはいきません。主砲に損傷の無いことは確認済みですので、必要ありません』

 

陽炎に残された砲弾は25発。全門の試し撃ちをするなら4発も消費してしまう。

 

「そう?じゃあもう点検するところは無いわね。……ちょっと艦隊の周りを一周しようと思うんだけど」

 

陽炎の、微妙な声のトーンの変化を、不知火は感じ取った。

 

『……構いませんが、あまり遠くには行かないでください』

「りょーかい」

 

陽炎は艦隊の周りを大きく反時計回りするように舵を切った。

 

 

 

 

 

左手に多くの旧型艦が中央の武蔵を囲むように並んでいる。比叡、鳥海、五十鈴、名取、照月、磯風、浜風……(以下略)。いずれの艦も多かれ少なかれ、深海棲艦による被害を受けていた。

浸水した箇所から排水作業を続ける艦、主砲が吹き飛んだ艦、いくつもの穴が空いた艦、火災の痕が黒黒と残る艦……。

 

 

 

 

 

 

心苦しい。

 

 

 

 

 

 

自分が、守り通すべきだった。

 

この艦達がどこの艦で、誰の艦だとしても関係ない。

 

船が深海棲艦に襲われないよう海を守るのが艦娘の仕事。

 

絶対、傷つけさせてはいけなかった。

 

絶対、守らなければいけなかった。

 

 

 

例え自分しかいなくても守り抜いてみせる。

 

 

 

 

 

「私達が、守る」

 

 

 

 

 

陽炎は自分に強く言い聞かせて増速、彼女のちっぽけな航跡は、海に呑まれてあっという間に消えていった。

 

 

 




作者「『艦娘の修理について少しだけ書きます』って言ったのに、気がついたらほぼ1話まるまる使ってた」
不知火「相変わらず計画性の無い人ですね」
百々「でも私達にとってはありがたいっス」
媛萌「出番も増えたし、陽炎ちゃん達のことがちょこっとだけでもわかったからね」
作者「もし艦娘がドックも高速修復材も無い状況になったらどうするか書きたかったんだよ」
不知火「確かに、そういう状況はあまり考えたことありませんでしたね。いい勉強になりました」












☆おまけ

※変なテンションで暴走しまくった結果できたもの
※キャラ崩壊注意

艦娘のセリフって面白いなあ、って考えてたのと、赤面するぬいぬい書きたいなあ、という2つの欲望が混ざってできました。消すのも勿体無いので上げておきます。




『陽炎、どうですか?』
「やっぱり速力が落ちてるっぽい、30ノット出てないっぽい」
『「っぽい」は夕立だけで十分です』
「舵はよく効くでち、スピンターンも問題ないでち」
『「でち」は伊58の専売特許ですよ』
「そんなこと言わないでほしいかも、あの語尾なぜだか真似したくなるにゃしい。仕方が無しなのです」
『秋津洲さんに睦月に電ですか。面白く無いですね』
「じゃあ何ならいい?」
『(小声で)し……「不知火、バーニングラブ」……と言ってください』
「わかった!(無線外して大きな声で)不知火ー!バァァァァァニングラァァァァァァァァブ!!!」
『…………あ……ありがとうございます…………ヤバイです……めっちゃ嬉しくて……恥ずかしいです…………まさかあんなに……大きな声で叫ぶとは思っていませんでした……』
「私の不知火への愛はこんなのじゃ伝わらないわ!不知火ー!!愛してるわよーーー!!!!」

ボンッ!!

「ちょっ……!?不知火ちゃん!?」
「愛の告白でオーバーヒートっスか!?」



かげぬい末永く爆発しろ。



次回もお楽しみに。

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