無貌の王 作:朝が来ませんように
森の中を気配を消して、姿を消して、息を殺して移動している。そして、死角から敵を殺す。敵に自分は認識できず、自分は敵を認識できる。弓を弾いて、矢を放つ・・・簡単なことだ。俺の矢は、必ず標的を射抜いてみせるのだから。殺して、殺して、殺して、敵を狩り続ける。俺に誇りなど無く、騎士道など無く、正義などにこだわらない・・・。勝つためには手段を選ばず、敵を打つ。
だから・・・
「姿を見せろ、卑怯者。悪魔。臆病者め!!!」
最後の一人の男が、仲間の死体の周りで叫んでいるのが見える。
「何と言われようと、知ったことではないさ」
ピュン・・・・
毒矢が、男の胸に刺さりその場で崩れる。
「お仕事完了っと」
森の中の、いたるところに矢が刺さったままの死体が転がっていた。
「やあ、戻ったようだね。ルークス君」
「何で、ノックする前に気づくんすかね。ノック位させてくれたっていいじゃないすか」
「それは失礼した。推理してしまうのは癖なのだよ」
「オタクのそれは、推理なんて甘いもんじゃないでしょうに・・・条理予知・・・もうそれってただの未来予知じゃないすか」
シャーロック・ホームズ・・・俺をここに呼び出したこの男こそ【イ・ウー】のリーダーであり、
史上最高の探偵シャーロック・ホームズ1世本人であり、『緋弾』の持つ延命効果によって150年以上の時を生きており、20代に見える外見を持つ。最初に知ったときは驚いたものだ。
「それで何の用ですかね?見ての通り、仕事終わりで疲れているんだけど」
「君に依頼だよ。いや、君たちに依頼だ。後で、セーラ君にも頼むがある学校に通ってほしいんだ。そして、ある生徒を監視してほしい」
シャーロックは、すごくいい笑顔で言ってくる。
「ある生徒?」
「ああ、遠山キンジと神崎アリアの二人だ。長期になりそうだから負担をかけることになるだろうけどもね」
「今更学校か・・・まあ、いいですけど・・・報酬の方は?」
「三千ポンドでいいだろうかな?それとも、もっと上げたほうがいいかい?」
監視の任務にしては、高額だ。
「俺の方は、それでいいっすよ。その代り、セーラの方に少し足しといてください」
「そんなに、妹が心配ならいつも一緒にいてやればいいだろうに・・・」
「話が終わりなら、帰らせてもらうっすよ。俺は、寝不足なんで」
そう言って、部屋から出ていく。
「頼むよ・・・無貌の王」
そんな声が聞こえた。
「不器用な子だな・・・・・・義賊の一族セーラ・フッド。その兄でありながら妹とは違い、誇りを嫌って、それでも青臭い理想を捨て去れない兄。彼も、この任務で一歩前に進めればいいのだが」
「あら、帰ってきていたのね」
廊下をルークスが歩いていると壁に寄り掛かり、キセルを吸っている黒髪の少女が、ルークスに声を掛ける。
「ああ、久しぶりだな。夾竹桃。毒の調子はなかなかだったよ」
「そう、それはよかったわ。毒テングダケから作った新しい毒だったけれどもうまくいったようで何よりだわ」
壁に寄り掛かり、目を閉じてキセルをふかしながら、夾竹桃はそう漏らす。元が、美少女なため内面を知らなければかなりかわいく見えるのだろう・・・などと考えながらルークスは、話を切り出す。
「度々悪いんすけど、いい感じの麻痺毒ってないすかね?」
「あるわ。即効性のある強いやつ」
「いくらで?」
「近頃、私の仕事に付き合ってくれればいいわ」
「了解っと」
この二人、イ・ウーの中だとかなり気が合うほうなのだ。やはり、毒という共通点があるからだろうか・・・
「じゃあ、俺は部屋に戻って寝るんで・・・」
「天下の義賊も睡眠には勝てないのね」
「・・・みんな俺を英雄だの義賊だのと称えるが、俺は反骨心で動いていただけの殺人者でね。別に、先祖みたいに何かを救ったワケでもないんだよ」
「そういうことにしておきましょう・・・ええ、毒は明日までに用意するわ。いいから寝てきたら?」
余りの勝手さだが、もう慣れてしまったのか
ルークスは、手を挙げて返事をしながら自室に戻って行った。