イーグルジャンプサバゲー部 作:あはとあはと
「はぁ、はぁ、はぁ」
走る、その手には愛銃である俺の手でフルカスタムしたP90を抱え、森の中をひた駆け巡る。
頰を滴る汗、現在俺は敵陣地の裏どりのためにステージの外側を遠回りして走っていた。これから敵を一網打尽にできるかもと言う期待、敵陣地に突っ込んでいるという興奮。つまるところ、サイコーにハイってやつだった。
今回は、この広い森林ステージが売りのサバゲーフィールドに会社の同僚と来ていた。腕前に関してはお互いライバルであると認めているので、今回も敵同士となった。
ゲームの形式は殲滅戦。先に全滅した方が負け、全滅させた方が勝ちという一番シンプルなゲーム形式となっている。
(ついた)
ジャケットの袖で乱暴に汗を拭う。木の陰に身を隠し、敵陣地の背後を伺う。
どうやら、アタッカー(最前線で戦う人。目立つ代わりに当然リスクも高い)は全員出払っているらしい。
(スナイパーが2の4の……5人か)
少し体を乗り出し、銃を構え、いちばん手前の草むらで伏せているスナイパーに照準を合わせる。
ふぅ、と一呼吸してから引き金を引く。
一直線に飛んで行ったBB弾は
「ヒット!」
(ゲット!)
すかさずスナイパーが片手を上げて立ち上がる。どこから狙われたんだろう、と言い、周囲を伺いながらセーフティーゾーンへと向かう。
いわゆる、ゾンビプレイヤーと言われる当たったのにゲームを続けるというマナー知らずも居るのだが、ここのサバゲーフィールドにはそう行った人は居ない。ルールを守って楽しくサバゲー、お兄さんとの約束だぜ。
「ふぅ」
一息つく。いい調子だ。このまま敵陣地を喰い破ってやる。
草木に紛れながらどんどん敵陣地の中心へと距離を縮める。
このフィールドには各陣地に一つづつ中規模のやぐらがある。やぐらの上は、周囲を監視、狙撃するのに最適であり、戦闘において上を取れるというのは大きなアドバンテージとなる。
(突っ込もう)
特に小さいと有名のP90でも、この狭い空間では扱い辛くもなる。なので、メインアームのP90を肩にかけてしまうと、サイドアームであるハイキャパを引き抜く。中腰で構えながら、ソロリソロリとやぐらの足元まで近寄る。物陰から階段を除くが誰もいない。
つま先からゆっくりと足を下ろし、まるで忍者のように一歩づつ慎重に階段を登る。
顔を覗かせて中を伺う。中には二人。しかも、スナイパーライフルを構えたまま。
(行ける)
呼吸を整えてやぐらの上へと飛び込む。同時に二つの人影に向けて引き金を連続で引く。
「ヒット!」
「同じくー」
そして、見事球が命中したことを裏付けるように、スナイパー二人が手を挙げながら階段を降りて行った。
もしかしたら、これはゲーム内MVPもありなのでは?そう思い、上からフィールドを俯瞰しようとしたその時
「チェックメイト、ですね」
後ろから声をかけられる。なんとなく自分がどういった状況に置かれたのか分かってきた。
ハイキャパを傷つけないようにゆっくりと床に置くと、両手を挙げる。同時に中腰だった体も持ち上げて、後ろを向く。
「全く音しなかったぞ、うみこ」
目の前でハンドガンの銃口をこちらに向けていたのは、同じ会社に勤める同僚、いつもフラフラしている上司に振り回されている同盟でもある阿波根うみこ。小麦色の肌に茶髪のロングにスラっとしたスタイルの女性だ。
「今回も私の勝ちですね」
「嘘をつくな。前回は俺がスナイパーで当てたじゃねぇか」
「私の隣の人を狙った弾が、風で流されたのが当たっただけです」
「そういうことにしといてやるよ」
うみこの引き金が引かれた。
発射されたBB弾は俺の太ももに命中する。
「何しやがる!」
「いえ、倒しておかないと私の戦績になりませんしね。それに、約束覚えていますよね?」
「くっ、撃破された方が飯を奢るだったか」
「えぇ、そうです。なので今夜、早速ですが打ち上げで飲みに行きましょう、阿瀬さんの奢りで」
「わーったよ!」
俺も男だ、男に二言はない!
それじゃ、残りがんばれよー。そう声をかけて俺は財布の中身を思い出しながらセーフティーゾーンへと向かった。
「「かんぱーい」」
夕刻。俺とうみこはサラリーマンの人だったり、私服を着た人だったりがごった返すいわゆる居酒屋の隅っこの席に陣取って、周りの声に混じるように声を上げる。
お互い、帰りもあるので今日は酒はなしとなっていた。(うみこに酒を飲ませると確実に破産するという経験談からなんとか説得)
「お待たせしましたー、やきとりセットと冷やしトマトでーす」
ゴトンゴトンと大皿に盛られたやきとりと冷やしトマトが卓上へと並べられていく。
「ごゆっくりー」
店員が去っていくのと同時にやきとりに手を伸ばす。もも肉を二、三個まとめて口に放り込む。焼きたてというのもあり、パリッもした食感に溢れ出す肉汁。タマラねぇぜ。ビールを飲めないのが残念で仕方がない。
「やはりここのやきとりら美味しいですね」
すみません、カシラと皮下さいと容赦なく注文を重ねるうみこ。そんなうみこを若干睨みながら冷やしトマトに手を伸ばす。
うまい。
「あ、そういえば。今度新入社員来るっていってたな」
「もうそんな時期ですか。たしか、キャラデザでしたか?」
「女性?」
「たしかそうですね。葉月さんが持ってた書類を少し覗きましたから。たしか、涼風青葉さんだったか」
「もしかしたらあの空間からでられる!?」
わーい!と言いながら万歳をする。おいうみこ、そんな目で俺を見るな。
そう、何を隠そう我らが勤める会社、ゲーム開発を主に手がける『イーグルジャンプ』は何故か女性社員の比率がおかしいのだ。かくいう俺がいることから分かるように、男性もいるのだが、ごく僅かだ。
何故喜んだのか。
それは現在の俺のデスクの場所が原因だ。俺こと阿瀬宗次郎はキャラクターの動きを吹き込むモーション班のチーフを務めているのだが、何故かデスクが隣のキャラデザ班の所にあるのだ。しかも周りは俺以外全員女性なのだ。
これを機に俺のデスクが移動になればーーー
「無いと思います」
「へ?」
「だから無いと思いますよ、移動。だってデスク余ってましたから。たしか、飯島さんの隣だったか」
「ば、馬鹿な……」
そう言われてみれば確かにあそこの席は空いていた気がする。くそ、なんてことだ。
「そもそも、あなた葉月さんよお気に入りじゃないですか。多分、動けませんよ、あの人がいる限り」
holly sit!
なんてこった。俺があの人に気に入られている?そんな馬鹿な
「そもそも、あなたがイーグルジャンプに来たのも葉月さんが◯◯ゲーム開発からあなたを引き抜いてきたからじゃ無いですか。そこまで気にかけられてるんです、気に入られてるのは明白でしょう」
「ですよねー」
「そもそも、あそこの席になったって、モーション班から追い出されたからじゃないですか。何でしたっけ、『銃を扱うようなゲームを作っているわけでもないのに露骨なアピールがウザい』と。そこでモーション班の人の話を聞いた葉月さんがあなたをあそこへ連れていったと」
「そ、そういえばそうだったな……」
ドリンクをちびりと飲む。
「そもそも、あなたは実力もありますし、人としてもしっかりとしています。嫌われて追い出されたわけじゃないのですから、その性格さえ直せば戻れると思いますよ」
「お前は俺のこの性格が治ると思ってんのか?」
「無理ですね」
わぉ、返事早すぎ。少しは考えてくれてもいいのに。
そんなことを考えていたその時
「うちの班のデスクなら開けてあるというのに」
「なんか言ったか?」
「何でもないです!」
なにかいってた気がしたがかよく聞こえなかったので聞き返したら、一体どうしたって言うんだ。
うみこはグラスに入っていたソフトドリンクを一気に飲み干すと
「すみません!これとこれ、ロックで」
「かしこまりましたー」
メニューの酒の欄から二つほど少しお高いのを指差し、注文してしまった。
「おい待て待て!お前さっきの約束は!?」
「人の気持ちも理解できない人の言うことなど聞く耳を持ちません!」
「おま、それどういうーーー
「お待ちどー」
ーーぎゃぁぁあああー!?」
机に置かれたお酒の入ったグラスを乱暴に掴むと煽るように飲み始めた。
「おい待て待て待ってくれよ!誰がお前の面倒見ると思ってんだよ!」
「明日からまた仕事ですし!葉月さんはどうせまた仕様変更といって来るだろうし!今日くらいは呑みます!」
そう言うと、二つ目のグラスに手をかけた。
「ぎゃあああああ!ヤメロォオ!今月ちょっとやばいんだって、て聞いてようみこさぁん!?」
男性の鳴き声と雄叫びが夜の帳へと消えていった。
阿瀬 宗次郎
モーション班チーフ。人の動きを観察して