イーグルジャンプサバゲー部 作:あはとあはと
『春』
桜が舞い、日本では色々なものの新たなスタートをきる季節。
例えば
学校に入学することだったり新学期を迎えることだったり。社会人として大人の仲間入りをすることだったり。
かくいう俺の立ち位置は新社員の先輩であり上司。新たな一歩を踏み出す社会人諸君を迎え入れる季節である。
しかし、ゲームの制作がスタートしているため、いつもと変わらない日程を送っている。ゲーム制作は、計画通りにやらないと全てが破綻する。それは企画の段階からそうだし、キャラクターデザイン、モーション制作、プログラミング、動作確認など一つでも滞ってしまうと全てがダメになってしまうのだ。
そう、なんら変わらない日常。
「宗次郎君、ここのモーションなんだけどさ。こう、こんな感じで動かした方がかっこいいと思わないかい?こういうかんじでさっ!」
なんら変わらない
「あと、ここの仕様なんだけど、キャラデザにデザインの設定変更を頼んでしまってね。手の動きをこの仕様書通りに変更してもらえないかい?」
なんら
「それと、ここのドアを開けるモーションなんだけど、もっと重厚感を出した方が良くないかい?」
…………
頭を真っ白にする。何も考えるな。今は
今もまだ俺の異変に気づかず、先ほどまで剣を振るうような動きをやめ、首をかしげる我が社のゲーム制作ディレクター。ディレクター、作品を作り上げて行く上での監督、これが、か……
幽霊のようにフラフラ立ち上がると椅子の後ろから覗き込むように俺の操作するディスプレイを見ていた葉月の方を向くと腰につけられたホルスターに手を伸ばす。
「ん?どうしたんだいーー
バスン!
ーーんんん!?」
何年も練習し続けたクィックドロウのスキルを余すことなく活かしてホルスターから愛銃である東京マルイ『ハイキャパ』を引き抜くと迷うことなく引き金を引いた。
もちろん、サバゲーマーのマナーとして銃口を人に向けることなどしない。葉月の足元、の少し前を狙って発射されたBB弾は跳弾し、葉月のおでこのど真ん中に直撃した。
「いった〜……」
若干涙目になりながら両手でおでこを抑えている目の前の
ビス、ビス
続けざまにもう二発発射。今度はおでこを抑える両方の手の甲に直撃した。
「〜〜〜〜〜っ!?」
「今の三発は葉月さんが俺に頼んできた仕様変更の数です。急な仕様変更はやめろくださいと散々言いましたよね?」
「しかしだね宗次郎君。より良いゲームを作るためには、あふん」
何か言っていたのだろうか。もう一発行っておく。静かに悶絶しながら心なしか口調までも変わってる気がうごごご、と呟く葉月を横目に見ながらため息をつく。
しかし、こんな感情が湧き上がってきてしまっているのも俺がこのゲームを愛しているからなのだろうか。
「はぁ、八神と遠山、あとうみことその他チーフには俺が掛け合っときます。会議をしましょう。仕様変更についての書類、持ってきてください。話し合いをして、できそうだったらやります。ただし、全部できるとは言えませんので。」
「さすが宗次郎君!やっぱり君はーーー
「ただし」
ーーーん?」
ハイキャパをホルスターに戻す。代わりに手を銃のような形にして、人差し指を葉月のこめかみに突き刺す。
「いだだだ」
「次こんなことしたら本気で、物理的に吊るし上げますので」
「よろしくお願いしますね」
「は、ひ」
なんだかここ最近で一番の笑顔を浮かべていた気がするが気のせいだろう。
ちなみに現在の状況を説明すると。
朝の10時。夜遅くまで朝遅くの勤務が主であるゲーム制作会社ではぼちぼち社員が出社してくる時間だ。
俺は昨日振り付けたモーションに納得がいかず、居残り組として会社で夜を明かした。2時くらいに完成したモーションや周辺データをディレクターである葉月に確認してもらおうと思い、葉月のデスクのパソコンで制作結果を見せていて。
冒頭に至る。
そろそろキャラデザ班も出社し始める頃だろう。であるならば
「そおい!」
「むぐ!?」
葉月の方にかけられた若草色のストールを首が閉まらないように顎から首にかけてぐるぐる巻きにする。それをとってがわりにむんずと引っ掴むとズルズルと引きずる。
「ぷはっ、一体何をするんだい宗次郎君!?」
「俺のデスクに戻るついでに葉月さん連れてってキャラデザ班にも謝りに行くんですよ。さっき話していた感じでは、キャラデザにも迷惑かけたんでしょう?ついでに仕様変更についてのお願い、俺も一緒にしますから」
「い、いやぁ。今じゃなくても、ほら!まだみんな準備もできてないだろうし」
「もう一発喰らいたいですか?」
その一言で静かになった葉月をズルズルとキャラデザ班の島へと引っ張っていく。
人に銃口を向けないでください。
危険ですので。
感想・評価ありがとうございます。
続き、頑張って書きます!
遅れてすみませんでした!