Fate/Grand Order~荒寥魔星大陸 梁山泊~   作:源氏物語・葵尋人・物の怪

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 これにて燕青幕間完結。


エピローグandトレーラー

 灰色の大地に一人、盧俊義は空を見上げた。

 

「藤丸立香……か。厄介なモノを残したものだ」

 

 彼の言葉は盧俊義の中に恐怖を植え付けた。

 消えることに対する恐怖を。

 意識のあるものは須らく、死の恐怖というものが存在する。群としての生命体を存続していく上では非常に重大な要素である。

 そして、この死の恐怖は長い時間を生きるほどに肥大化していく。

 此れを前提に置けば、盧俊義に死の恐怖が薄いのも当たり前であった。

 何しろ発生してからそれほどの時間が立っていない。

 ――抱かなくても良い筈の感情であったのに。

 

「“また”会おうなどと口に出てしまったなぁ」

 

 次への希望は、逆説的に終わることに対する恐怖だ。

 盧俊義は震えていた。疾うに薄れてしまっている“盧俊義”の最期は溺死であった。それも記録にしか過ぎず、その時どんな感情であったかなど想像は出来ても所詮は想像だ。

 死に対する恐怖は盧俊義にとっては初めての感情だった。正直あまり良い物ではないというのが感想だった。

 

「知りたくは、無かったなぁ……」

 

 だが、そうは言っても審判の時はやって来る。

 後始末を済ませれば、盧俊義は消えるか、それとも座に上げられるかが決する。

 

「――出て来てくれ、いるのだろう?」

 

 先送りにしても良いことは無いと、盧俊義は自らの運命に呼び掛けた。

 ――荒野の彼方からそれは歩いてやって来た。

 弁柄色の武骨な鎧を纏った男だった。無造作に伸ばされた血のように赤い髪、この世にこれほど白いものはないと錯覚してしまうほど白い肌をしている。

 そしてそれ以上に目を惹いたのは、彼の双眸であった。患ってでもいるかのうに瞳孔が白く濁っていて、その癖、見つめられていると鏃を向けられているかのような威圧感を感じる。

 ともあれ、圧倒的な存在感を持つ異様な男であった。

 

「終わったか、燕雀?」

 

 現れるなり盧俊義に問いを投げかけた男はあまりにも無礼であった。

 燕雀――大したことがない者――という呼び方からしても、男の尊大さが窺えた。

 それでも盧俊義は笑っていたが。

 

「ええ、終わりました。私の負けで御座います」

「そうか。ならば寄越せ。そういう契約だった筈だ」

 

 盧俊義の戦いには何も興味がないのか、男は手を差し出した。

 

「その前に一つ、頼みがあります」

「頼み?」

「ええ。本来は私で解決したいことではありますが、何分私にはその力はない。否、天地を探しても屹度これを成せるのは、貴方を含めて極一握りでしょう」

 

 そう言って盧俊義は、空を指した。

 

「太陽を九つ落して欲しいのです」

 

 後始末とはこれのことだった。

 中原全土を地獄に変えた、己が生み出した太陽を消し去ること。

 

「嫦娥以外が俺に命ずるな――と言いてェ所だが。良いさ。お前が応と言わなければ俺の望むものは手に入らねェ。やってやろう」

 

 億劫そうに首を鳴らすと、男は魔力を編み、弓を形成した。

 痩躯乍らも長身な男の丈にも匹敵する真紅の大弓であった。

 更に男は一本、白い矢を作り出すと紅弓に番え、天に向かって放った。

 矢は、流星が逆さまに落ちているかのように、蒼穹を飛翔する。

 まるで空の青に呑み込まれたかのように矢はどんどんと小さくなっていき――そう思った時には太陽は一つになっていた。

 

「たった一射で九つの太陽を落とすとは……伝承以上の手前。御見事」

「当然だ。俺が落とした陽は天蓋よりも上にあったのだ。ならば一射で落して当然だろうよ」

 

 盧俊義は言葉を失う。

 男は英霊だった。それも凡百の英霊とは違う。

 神代に生きた中華きっての神秘殺しにして、日を穿つ勇士。人類史に名を残す弓兵の中でも屈指の存在である。

 彼は特異点成立に当たって盧俊義に呼び出されたサーヴァントであった。

 何のためかは言うまでもない。特異点を引き起こすに当たって避けられない現象である世界によるサーヴァントの召喚に因る邪魔立てを防ぐためだ。

 実際、この十二世紀の中国にあっても野良サーヴァントは発生し、関羽、白起、岳飛、光武帝など中国史に於いても指折りの英雄たちも召喚された。

 ――その悉くをこの英雄は一人で討ち取ったのだ。

 では何故、英雄は盧俊義に従ったのか。

 

「ともあれ、これで後始末は終えることが出来た。……約束の品です」

 

 無論、聖杯に因って呼び出されたサーヴァントの目的は一つしかない。

 聖杯である。

 シュレディンガーの猫の能力を使い、盧俊義はもう一つ聖杯を隠し持っていたのである。

 

「これだ。これを求めていた」

 

 自信に対する讃辞にも眉一つ動かさなかった英雄だったが、聖杯を手にすると、顔を悦に満たした。

 

「興味本意ではあるが、一つ訊ねたい」

「何だ?」

 

 そんな彼に盧俊義は問い掛ける。

 

「聖杯の多くは万能の願望器とは名ばかりの魔力塊に過ぎない。それも例に漏れず。一体何に使うつもりか?」

「“燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや”――小鳥に過ぎない手前ェに、鴻鵠たるこの俺を理解することが出来るか? 言った所で」

 

 英雄は嘲るような口調で答える。

 

「逆に聞くがよ、お前は如何して俺に陽を落させた? 意味は無かっただろう? お前が負けた時点で、あれは無かったことになるものじゃねぇか、なぁ?」

「気持ちの問題で御座いますよ」

「ハッ! 矢張り分からんなァ。燕雀の考えることというのは。それと同じように鴻鵠たる俺のこともお前は分からんだろう」

 

 盧俊義は苦笑交じりに同意した。

 ――その通りだ。小物に過ぎない私が真なる英雄を理解しようなどとはおこがましい。

 ――それにこれは私が知らなくても良いことだ。この方は私に最期を届けたあの男ではないのだから。

 そう思いながら、愈々彼女は思い残すことがなくなったのか、肉体が蛍のような光の粒になって散り散りになっていく。

 

「どのようなことになるかは分かりませんが、幸多からんことを。偉大なる后羿よ」

 

 そう言い残して、盧俊義は消えた。

 一人残された男は天に昇っていく灯を見つめた。

 そして、

 

「キィハハハハハハハハハハッ!」

 

 腹を抱え哄笑する。

 英霊の名は后羿。

 特異点に生まれた十の太陽の伝説の元になった逸話を持つ英霊である。

 中原を脅かす怪物を多く葬り、その射で以て星を穿つ、中華最大級の勇士。

 人々の為に戦った英雄だから屹度、持つ願いは清らかなものであろうと、盧俊義は思い込んでいた。

 先入観である。畢竟するに盧俊義は后羿という英霊を完全に見誤った。

 

「嗚呼、腹が痛ェ。ここまで簡単に聖杯が手に入るとは思っていなかった。あんまりに易いものだから、ツボに入っちまった」

 

 聖杯に懸ける願いに思い至りもしなかった。

 

「兎に角、俺が、この羿が聖杯を手にした。ならば、これより始まる」

 

 この英雄の持つ願いは人類にとっても最も分かりやすく、そして最も悪しき願いである。

 

「滅びが!」

 

 それは――世界の終わり。

 

            

               続く




 燕青幕間は終わりと言ったが、別の話に繋げないとは言っていない。
 だが、僕は書かない。
 じゃあ誰が書くのか?

 近日中に活動報告で発表致します。
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